アトラシアンには、働き方改革のエキスパートが多くいる。その一人が、ワーク フューチャリストのドム・プライス(Dom Price)だ。彼は企業組織のリーダーに向けて、変革のためのメッセージをコラム形式で発信し続けている。この連載では、そのエッセンスをお伝えしていく。

3. 自由でオープンな情報交換

組織内における情報の透明性は、戦略性を持ったイノベーションを推進するうえでの不可欠な要素だ。情報の透明性によって社員各人は「会社の最優先事項が何であるか」を正しくとらえることができるほか、会社やチーム、そして他の社員への信頼感を抱くことができる。

この信頼感は、会社やチームに対する社員たちの「エンゲージメント(能動的な貢献意欲)」と、社員同士の「個人的なつながり」も生み出す。これにより、戦略性をもったクリエイティブなアイデアが生まれやすくなるだけではなく、そのアイデアを社内の同僚たちと共有し、ともに実現していける自信を持てるようにもなる。

比較的規模の大きな企業では、同じ会社に勤めていながら、一度も面識のない社員が大勢いるはずである。通常では、面識のない社員がどのような人で、どのようなスキルや考え方を持っているのかをはじめ、その人のチームが何に取り組んでいるかを知ることは難しい。

それに対して、アトラシアンは現在、8,000人を優に超える社員を擁しているが、その各人がどのチームに所属し、どのような仕事に携わっているのか、どのようなアイデア、スキルを有しているのかを、入社初日からすべてつかむことができる。理由の一つは、それらの情報を、社員の全員がアトラシアンのデジタルワークスペース製品「Confluence」に記入・保存し、社内の誰もが閲覧したり、コメントしたりできるようにしてあるからだ。また、アトラシアンでは、チーム内外でのプロジェクト管理やタスク管理に「Jira Software」や「Trello」を用いているが、そこに記録されていくバックログについても全社的にオープンにされている。

このように、仕事に関するすべての情報をオープンにすることで、組織の規模が大きくなっても全社員の足並みをそろえることができ、重複した作業やプロジェクトの発生を避けることもできる。そして、すべての社員が優れた起業家になれる機会を押し広げるのである。

4. チーム・社員の自律性の確保

ナレッジワークはこれまで、工場での仕事と同じように、多くの規則的なプロセスによって構成されてきた。この働き方の良い点は、クリエイティブな仕事をするためのナレッジワーカーの頭脳をフリーの状態にしておけることだ。問題点は、チームのリーダーが、メンバーにクリエイティブな仕事をさせようとしないことである。結果として、チームのパフォーマンスを最大限に高めることが難しくなる。

「人間はコントロールされた状態で最高の仕事をすることはできません」
── ダニエル・ピンク(Daniel Pink)、書籍『Drive(ドライブ)』の著者

アトラシアンが行った調査では「自律性」「熟達度」「目的の明確さ」という3つの要素がチームパフォーマンスの高低と強く関係していることが明らかになった。もちろん、現場で働くチームに働き方の裁量権を与えるのは、すべてが計画済みでスケジュールされたタスクを処理させることよりも非効率だ。しかし、チームにおけるイノベーション文化やクリエイティブな思考力を育むうえでは効果的である。

そうした観点から、アトラシアンでは、リーダーシップのあり方として、規範型ではなく指導型により近いスタイルを採用している。つまり、個人の目標を設定し、それを達成するために何をすべきかの規範を示すのではなく、ビジネス現場に最も近いチームメンバーたちを信頼し、彼らが目標達成のための最善の方法を見つけ出すために一歩下がった位置からバックアップしたり、アドバイスしたりするのが、アトラシアンにおけるリーダーの役割であるということだ。

また、社会学者であるダニエル・ピンク氏の人気著書『Drive(ドライブ)』にも記されているとおり、人が本来持っている自律への欲求を満たすことで、社員のモチベーションとエンゲージメントを高めることができる。そして、会社のビジョンや目的の達成に貢献する強い意欲と意志を持った幸福な社員が、斬新なアイデアを生み出す可能性が最も高いというのは誰にでもわかることなのである。

5. 適度で構造的なイノベーション専用時間の設定

人の創造性を高めるうえでは、多少の制約を与えることも必要とされる。このように言うと「自由な着想を促すために制約を設けるというのは矛盾した行為ではないか」と思う人がいるかもしれない。ただし、私たち人間は一定の制約があるときに最も創造的になることが研究によってすでに証明されている。

アトラシアンではこの原理を取り入れたかたちで、会社の戦略との整合性、ないしは一致を、社員が何らかのアイデアを想起・提案するうえでの制約条件として活用している。

それに加えて、社員がイノベーションに取り組む時間にも一定の制約を設けるという方針をとっている。その結果として生まれた全社的なイベント(儀式)が「ShipIt」と「イノベーションウィーク」である。

前者のShipItは、四半期ごとに開催される24時間の全社的ハッカソンであり、一方のイノベーションウィークは、チーム内、あるいはチーム横断の小規模なグループによってアドホックに行われる取り組みである。

この2つのイベントはともにテーマと時間に制約があるがゆえに、荒唐無稽なアイデアも自由に着想でき、かつ、それを(限りある時間の中で)実現可能なアイデアへと収束させようとする緊張感・緊迫感も生まれている。

いずれにせよ、日々の業務の中に構造的に組み込まれたイノベーション文化は、企業が属する業界や、企業の歴史・地域・伝統・儀式、そして職場環境によって異なる効果を発揮する。また、アトラシアンのように複数の大陸にまたがる多国籍企業の場合、特定の地域にあるオフィスのイノベーション文化は、他の地域にあるオフィスのそれと多少異なるものになるのが通常だ。だからこそ、イノベーションの推進には全社的な価値観の共有が不可欠となる。共通の価値観は、(イノベーションの推進に限らず)国や地域、あるいは組織を跨いだコラボレーションを成功させるうえでの土台を成すのである。

イノベーション=認知的多様性+好奇心+自由+集中力

イノベーション文化の醸成に成功すると、社内のどのチームも不可能に思えるようなことに果敢に挑戦するようになる。つまり、実験を楽しみ、新しいアイデアを生み出し、周囲にフィードバックを求めながら、顧客を喜ばせ、競合他社を打ち負かすために自らを能動的に進化させるようになる。

もちろん、イノベーション文化の醸成は決して簡単なことではなく、アトラシアンにおいてもイノベーション文化が完全なかたちで築けているわけではない。ただし、少なくともアトラシアンは、イノベーション文化の醸成に取り組む過程で得られた教訓を広く他社と共有し、それぞれの組織変革に役立てていただけるレベルには到達している。

そこでアトラシアンでは、企業のリーダー層が組織の創造性を育むためのガイドブックとして「How to Invent the Future - A no-B.S. guide to building a culture of innovation」(英語版、PDF形式)を作成し、無償で提供している。

なお、本ガイドブックには以下の内容が含まれている。

  • 斬新なアイデアを生み出す環境づくりに関するエッセイ:アトラシアンがこれまでの試行錯誤から得た教訓やSlack、Amazon、Hubspot、ANZ Bankといった顧客企業から得た知見を複数のエッセイに集約
  • ハウツー記事:アトラシアンや他の企業がイノベーションを推進するために実施しているイベント(儀式)を紹介
  • イノベーターのためのツールキット:本ガイドブックに記載されているアイデアを実践に移す際に役立つ「思考演習」「テンプレート」「ワークシート」を提供(このツールキットを活用することで、適度な時間内でのクリエイティブシンキングの実践が可能になる)

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