日本の金融業界にあってデジタルトランスフォーメーション(DX)に先駆的に取り組むりそなホールディングス(以下、りそなHD)。同社では、既存事業の競争力強化を図りながら、データとデジタル技術(以下、デジタル)を活用した銀行のイノベーションを推し進めている。

まさに「両利きの経営」というべき同社の取り組みは、さまざまなハードルを乗り越えながら“次世代”のリテール(中小企業と個人)サービスの実現へと着実に歩を進めているという。

その全容について経営トップの南昌宏社長に話を聞いた。

南 昌宏(みなみ まさひろ)

りそなホールディングス 取締役兼代表執行役社長 事業開発・DX担当統括。1965年生まれ。1989年にりそなグループ入社。以降、りそなホールディングス グループ戦略部グループリーダー(2009年)、同グループ戦略部長(13年)、取締役兼執行役オムニチャネル戦略部担当兼コーポレートガバナンス事務局副担当(19年)などを歴任し、20年4月から現職

既存事業の強化と「脱・銀行」への挑戦を両輪で回す

りそなHDは、りそな銀行と埼玉りそな銀行、そして2021年4月に100%子会社化した関西みらいフィナンシャルグループなどを傘下に置くホールディングカンパニーだ。21年3月末時点における連結の従業員数は2万人を超え、地域密着型のリテールバンクとして100年の歴史(*1)を有する国内最大の信託併営商業銀行グループであり、個人1600万人・法人50万社の顧客基盤を形成している。

<注釈>(*1)りそなグループの中核銀行、りそな銀行(大和銀行)の前身、大阪野村銀行は1918年設立。

そうしたりそなHDが力を注いでいるのがDX──すなわち、データとデジタルの活用による事業変革であり、新たな価値の創出である。

18年2月に、これまでリーチできていなかった個人に向けて「銀行を持ち歩く」をコンセプトにしたスマートフォンアプリ(以下、スマホアプリ)「りそなグループアプリ」をリリースし、すでに410万ダウンロードの実績を上げている(21年8月時点)。そうした成果を背景に20年4月から始動させている3カ年の中期経営計画では、データとデジタルを活用しながら、従来の銀行の常識・枠組みにとらわれないお客さま起点の“次世代”のリテールサービスの実現を目指すとしている(図)。

画像: 図:りそなホールディングス 2020年4月- 22年3月「中期経営計画」の全体概要

図:りそなホールディングス 2020年4月- 22年3月「中期経営計画」の全体概要

上図にある通り、この中期経営計画では、“次世代”のリテールサービスの実現に向けて、伝統的な金融業務を徹底的に「差別化」していく「深掘」と、オープンイノベーションなどによる"脱・銀行”への「挑戦」、そしてリテールに内在する高コスト体質を打破するための「基盤の再構築」という3つの取り組みが並行して進められている。すでに20年9月、オープンイノベーションの創発・共創拠点「Resona Garage(りそなガレージ)」も開設されている。

このように、既存事業の維持・強化を図りながら、一方で事業の変革を推し進める、あるいは新規事業を立ち上げて成果を手にする「両利きの経営」は「一人で二兎を追い、二兎とも捕らえる」ような難度の高い取り組みとされる。そうした取り組みを、りそなHDではいかにして成功させ、それによってどのような銀行への転換を果たそうとしているのか――。以下、経営の当事者である南昌宏社長に一問一答形式で聞く。

画像: オープンイノベーションの創発・共創拠点「Resona Garage(りそなガレージ)」

オープンイノベーションの創発・共創拠点「Resona Garage(りそなガレージ)」

人財の力をテクノロジーで拡張する

――まずは、DXに乗り出した理由について確認させてください。背景には既存の事業に対するどのような問題意識、あるいは危機感があったのでしょうか。

私たちがDXに乗り出したきっかけは、既存事業に対する危機感というよりも、既存事業の成長・発展のために足りていない要素を獲得しようとしたことにあったと言えます。ここでいう「足りていない要素」とは、オンラインを介した、お客さまとのデジタルの接点であり、そこから得られるデータです。

当社のリテール・信託事業を支える顧客基盤は、各地域のお客さまとのフェース・トゥー・フェース(対面)のリレーションによって築かれ、維持されてきたものです。

対面方式は、お客さまとの密接なつながりを生み、維持するうえで極めて有効で重要な手法ですが、日々アプローチできるお客さまの数にはどうしても限界があります。そこで、対面での接点に加えて、非対面方式のデジタルの接点を拡充し、より多くのお客さまにアプローチしてリレーションを築き、そこから得られたデータを既存事業の変革に生かしていこうと考えたわけです。

――とすると、りそなグループのDXは、顧客との接点を全てデジタル化し、合理化する施策ではないということでしょうか。

まったく違います。むしろ、対面でのリレーションを強化することにDXの大きな目的の1つがあります。

もちろん、預金の出し入れや送金、公共料金・税金の支払いなど、お客さまによる日常的な銀行の活用については、可能な限りデジタルへとシフトしていただきたいと考えていますし、そうしたシフトを加速させることはDXの大きなテーマの1つです。なぜならば、銀行の日常的な利用のデジタル化が進展することで、店舗へ1時間かけて来ていただくといったこともなく、ご自宅の端末で手続きができるようになります。これはお客さまの時間を開放し、価値を創出することにつながると思います。

またわれわれとしては、バックヤード処理の省人化が進み、リテールサービスに内在している高コスト体質の変革へとつながります。

こうした取り組みは続けますが、融資・資産運用などのリテールサービスは、あくまでも対面での密接なリレーションによって成り立つものです。そのリレーションを一層強固にするための一手がDXであるということです。

――その点についてもう少し具体的にお話しいただけますか。

りそなグループコミュニケーションキャラクター「りそにゃ」のぬいぐるみ

対面を通じたお客さまとのつながりを強固にするには、お客さまへのより深い理解に基づく課題解決の提案力・コンサルテーション力を向上させることが大切です。そこにデジタルのパワーやデジタルの接点を通じて日々収集されるデータを生かそうというのが、私たちの考え方です。

また、対面でのコミュニケーションを通じて、お客さまのニーズや課題に関する詳細で深いデータが得られます。そのデータとデジタルで収集したデータを掛け合わせることで、デジタルの接点を強化して新しいお客さまの開拓に生かしたり、新規サービスの創出へとつなげていったりすることもできます。まとめれば、人財とデータ、あるいはテクノロジーの掛け合わせによって、人の能力とデジタルの能力をともに拡張していくことが、当社のDXの目指すところということです。

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