アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのカット・ブーガート(Kat Boogaard)が、コミュニケーション手法の1つ「アサーティブコミュニケーション」について説く。
本稿の要約を10秒で
- 「アサーティブコミュニケーション」とは、他者の視点や考え方を尊重しながら、自分の主張を明確に表現して相手に伝えるコミュニケーション手法を指している。
- アサーティブコミュニケーションは、個人やチームに数々のメリットをもたらす。ただし一方で、女性が職場でアサーティブコミュニケーションを実践すると、不当な反発を受けるリスクもある。
- アサーティブコミュニケーションは簡単そうだが難しく、実践には一定のリスクもある。そこで本稿では、アサーティブコミュニケーションを正しく実践するためのTIPSを示す。
「アサーティブコミュニケーション」とは何か
「アサーティブ(Assertive)」は「自己主張」の意味を持った言葉(形容詞)だ。そして「アサーティブコミュニケーション」とは、自分の主張や想いを明確に、かつ丁寧に表現して相手に伝えるコミュニケーション手法(ないしは、コミュニケーションスタイル)を指している。
アサーティブコミュニケーションでは、自分の主張を率直に、かつ明快に伝えるがゆえに、自分の考えに対する誤解を受けにくい。また、アサーティブコミュニケーションには、自分の考えを一方的に相手にぶつけるのではなく、相手に対する理解や気づかい、思いやり、敬意をもったうえでそれを行うことを基本とする。その点で、アサーティブコミュニケーションのスタイルは、相手に同調して自分の意見を述べようとしない「受動的(Passive)」なコミュニケーションスタイルと、相手の非を一方的に攻撃しようとする「攻撃的(Aggressive)」なスタイルとの中間に位置するものといえる。ちなみに下表は、コミュニケーションにおける「受動的な対応」と「アサーシブな対応」、そして「攻撃的な対応」の違いを簡単な例を使って示したものである。
状況:あなたのチームのメンバーが重要な報告書の提出を遅らせている
受動的な対応 | アサーティブな対応 | 攻撃的な対応 | |
---|---|---|---|
対応例 | 報告書を仕上げるために十分な時間はありましたか?なかったのならば、その文を私が補うので安心してください。 | あなたの報告書の提出が遅れていると考えます。今週中にその報告書を上層部に提出しなければならないので心配です。いつまでに仕上げられるかの日時を知っておきたいのですが、教えてもらえますか? | あなたは、報告書の提出を遅らせています。そのせいでプロジェクト全体が停滞しています。あなたは、いつも仕事を遅らせていますが、それは許容できるものではありません。 |
この表にあるアサーティブな対応の例を見れば、アサーティブコミュニケーションのスタイルが、受動的な対応のように「対立を単純に避けようとするもの」ではない点に気づくだろう。
この例が示すとおり、アサーティブコミュニケーションでは、相手の問題と、それに対する自分の感情、見解、主張を明確に示すことが基本となる。とはいえ、攻撃的な対応のように、相手に対して非難的になり過ぎることもない。
もちろん、すべての状況においてアサーティブな対応、ないしはアサーティブコミュニケーションがベストであるわけではない。また、コミュニケーションは微妙なニュアンスによって成り立つものであり、言葉の受け取り方には個人差もある(参考文書(英語))。ゆえに、状況や相手によって、コミュニケーションのアプローチを変化させなければならないことも多い。
アサーティブコミュニケーションの「3つのC」
アサーティブコミュニケーションは、簡単そうに思えるが、現実の世界で実践するのはなかなか難しい。そこで大切になるのは、アサーティブコミュニケーションを成り立たせる要素とは何かを知っておくことだ。結論を言えば、以下に示す「3つのC」(参考文書(英語))が、アサーティブコミュニケーションの必須要素となる。
①明確(Clear)さ:言葉の曖昧ささやごまかしを排除し、自分の考えや気持ちを直接的に表現する。
②自信(Confident):自分の言葉や行動に自信と信念を持ってメッセージを伝える。
③自己抑制(Controlled):感情をコントロールし、冷静さを保ち、落ち着きを失わない。
アサーティブコミュニケーションがもたらすメリット
アサーティブコミュニケーションに力を注ぐことは、これまで「他者の話を聞き流し、意見があっても何も言わないでいた人」にとって、大きな変化に感じられるだろう。ただし、アサーティブコミュニケーションの推進には、そうした変化を乗り越えるのに値するメリットを、個人やチームにもたらしてくれる可能性がある。そのメリットとは以下のようなものだ。
- チームでのオープンな対話を促し、心理的安全性(参考文書)を高める:チームでアサーティブコミュニケーションを推進し、自分の気持ちや意見を堂々と相手に伝える文化を築くことで、誰もが安心して自分の主張を他者と共有し、健全で生産的なコミュニケーションに参加できるようになる。
- 問題解決のプロセスを改善する:アサーティブコミュニケーションを推進し、対話における「自己主張」を強めることは、チーム内の対立を増やすように思えるかもしれない。ただし、実際にはそうではない。アサーティブコミュニケーションによってチーム内の対話から曖昧さを排除されるようになり、共同で問題原因を突き止めて解決することが容易になる。
- 自信を深める:米国の医療機関メイヨー・クリニック(Mayo Clinic/参考文書(英語))によると、アサーティブコミュニケーションには自己主張力を高め、自信と自尊心が育む効果が期待できるという。
- 誤解を減らす:アサーティブコミュニケーションでは主張に明確さが必要とされるがゆえに、自分の主張に対する周囲の誤解や認識の相違が起こりにくくなる。結果として、誤解に起因した不要な争いも未然に回避される。
- 「イエス/ノー」の境界線を強化し期待を明確にする:心理学系のある調査(参考文書(英語))によれば、私たちの過半数(58%)は「人に“ノー”と言うのは難しい」と感じているという(参考文書(英語))。理由は「人から嫌われたくない」「気に入られたい」という思いが根深くあるからだ。アサーティブコミュニケーションを推進することで、こうした人の本能的な感情に基づいた気づかいや敬意を大切にしながら、一方で、各人の「イエス/ノー」の境界線を強化して、それぞれの期待を明確にすることが可能になる。
以上のメリットをまとめると、アサーティブコミュニケーションを推進することで、個人もチームも、より優れたコミュニケーションスキル(参考文書(英語))を身につけることができ、チーム内のコラボレーションも円滑になるということだ。
悪しき「ジェンダーバイアス」がコミュニケーションに与える影響
アサーティブコミュニケーションの取り組みは、女性にとって厳しい戦いになるリスクがある。といのも、職場では依然として悪しき「ジェンダーバイアス」(参考文書(英語))が蔓延しており、コミュニケーションにおける女性のアサーティブな対応が、男性とは異なる受け止められ方をする可能性が高いからだ。以下は、その可能性を示唆する研究結果である。
- 職場における女性の「攻撃的」なコミュニケーションは、男性の2.5倍量のフィードバックを受ける
- 女性が職場で「アサーティブな行動」を取ると、男性よりもはるかに高い確率で処罰される(参考文書(英語))
こうしたことから女性たちは、自分の攻撃的な言動やアサーティブなコミュニケーションによって自身の評判が傷つけられ、キャリアアップの機会を失うことを男性以上に恐れている。ある調査(参考文書(英語))において「女性は(職場で)ソフトなコミュニケーションを男性よりも多く用いる傾向にある」との結果が出ている理由も、そこにあるといえる。
したがってもし、あなたが組織・チームのリーダーとしてアサーティブコミュニケーションを実践したいと望む(参考文書(英語))のであれば、自分自身でそれを採用するだけではなく、男女を問わず、すべのメンバーにアサーティブコミュニケーションの価値を認めさせ、実践させるようにすべきである。
アサーティブコミュニケーションを正しく実践するための6つのTIPS
本稿の最後として、アサーティブコミュニケーションを正しく実践するためのTIPSを6つ紹介しておきたい。
TIPS① 自分の主張を理解する
繰り返すようだが、アサーティブコミュニケーションとは、自分の主張を明確に伝えることを指す。したがって、自分の主張を正しく理解し、表現できるようにしておくことが必須だ。これは、当たり前のことのように思えるが、意外と見過ごされやすいポイントでもある。
科学ジャーナリストのイングリッド・ウィッケルグレン(Ingrid Wickelgren)氏は、科学情報メディア「Scientific American」の記事(参考文書(英語))の中で、こう述べている。
「人は往々にして自分の考えを明確にできません。自分の考えに重要な背景や文脈を付け加えるのを忘れがちで、それによって言葉の意味が劇的に変わってしまうこともあります。ゆえに、たとえ相手の脳が、あなたの話を聞く準備ができていたとしても、あなたが必要な情報をすべて提供できているとは限らないのです」
アサーティブコミュニケーションは、相手の言葉に反射的に反応して自分の考えを一方的に述べるアプローチではない。自分の主張を展開する前に、必要であれば、時間をかけて主張をまとめることができる。 その際には、以下を自問すると良い。
- 私はいま、何を思っているのか?
- なぜそう感じるのか?
- どうなれば良いと願っているのか?
このシンプルな自己認識(参考文書(英語))によって、自分の考えを深く掘り下げ、明確で率直な主張を導き出すことが可能になる。
TIPS②「私」を主語にする
ここで再度、先に触れた「攻撃的な対応」の文例に目を転じていただきたい。
【攻撃的な対応の例(再掲)】
あなたは、報告書の提出を遅らせています。そのせいでプロジェクト全体が停滞しています。あなたは、いつも仕事を遅らせていますが、それは許容できるものではありません。
この一文を読むと、ほぼすべての文言の主語が「あなた」になっていることに気づくはずである。例えば、以下のような具合だ。
- あなたは、レポート提出を遅らせている。
- あなたは、プロジェクト全体を停滞させている。
- あなたは、いつも仕事を遅らせている。
このように、「あなた」を主語にした文を、相手の発言や行動への「返答」、ないしは「フィードバック」に多く盛り込むと、相手は自分が攻撃されているように強く感じることになる。
それに対し、「私」を主語にした文には、自分の考えや感情に責任を持つことを示しつつ、相手に対し「自分とは異なる視点、意見を持つ人がいる」という事実を認識させる効果がある。言い換えれば、文言の主語を「あなた」から「私」へと切り替えることで、メッセージのトーンを大きく変えることが可能になるというわけだ。以下は、そのことを示す例文である。
攻撃的フィードバック:あなたは、一部のユーザーから苦情が寄せられたことを理由に、このプロダクトの機能全体を変更すべきとお考えですか?だとすれば、あなたは明らかに、私たちのプロダクトの方向性に自信を失っていて、それがチームの足を引っ張っています。
アサーティブなフィードバック:私は、一部のユーザーから苦情が寄せられたという理由だけで、プロダクトの機能全体を変更することに懸念を抱いています。私は、プロダクトの現在の方向性に強い自信を持っています。ゆえに、ここで大きな変更を加えることは、結果としてチームの足を引っ張ることになるのではないかと心配しています。
TIPS③ ボディランゲージに気を配る
リアルな場での対面であれ、ビデオ会議であれ、あなたがアサーティブコミュニケーションを取っている中で、他者から姿を見られている場合には、ボディランゲージなど非言語コミュニケーションに細心の注意を払う必要がある。
実際、ある研究(参考文書(英語))によると、人は相手が何を考え、どう感じているかを把握するための情報として「非言語的なサイン」を頻繁に利用しているという。したがって、アサーティブコミュニケーシ
- 相手へのアイコンタクトを維持する。相手から目をそらす前に3秒程度のアイコンタクトを維持するのが理想的とされる(参考文書(英語))。
- 背筋を伸ばして座る。直立姿勢は、自信や自己認識の向上にもつながるという研究結果がある。
このように一見些細な行動が、主張の明快さや自信を支えるのに役立つのである。
TIPS④「エモーショナルインテリジェンス」を発揮する
アサーティブコミュニケーションは、相手に対する気づかいなく自分の主張を一方的に展開するアプローチではない。そこには常に他者への思いやりや敬意がなくてはならず、それが攻撃的なコミュニケーションとの大きな違いでもある。
では、どうすれば、相手を怒らせたり、傷つけたりすることなく、自分の主張を明確に伝えることができるのだろうか。
実のところ、このレベルのエモーショナルインテリジェンス(感情知性/参考文書(英語))を働かせるのは、それほど難しいことではない。以下のようなことを実践すれば、それで良いのである。
- 難しい話題について、いつどこでコミュニケーションを取るかを意識する:例えば、相手のアイデアに異議を唱えたり、耳の痛いフィードバックを伝えたりする場合には、チームミーティングといった公の場ではなく、1 on 1ミーティングの場でそれを行うようにする。
- 相手の感情の状態をチェックする:コミュニケーションは対話であり、相手がメッセージを受け止めようとする気がない(ないしは、その精神状態にない)場合には、メッセージの送り手が何をしようと、何事も正しく伝えられないことがある。実際、ある研究(参考文書(英語))によれば、感情の揺らぎは知覚を偏らせるという。
- 異なる考え方やアプローチを理解する:仕事に対する人の考え方や見方、アプローチのし方はそれぞれ異なり、それは良いことでもある。ゆえに、人それぞれの違いを理解したうえでコミュニケーションを図ることが重要となる。そうした人への理解を促進するうえで役に立つのが、アトラシアン「Team Playbook」にあるような自分自身の「ユーザーマニュアル(自分の取り扱い説明書)」だ。これをチームのメンバー各人に作成してもらい共有することで、メンバー各人は、お互いのコミュニケーションスタイル(参考文書(英語))や好みを理解し、それを念頭に置きながら仕事上の良好な関係を築くことが容易になる。
TIPS⑤「聞く」ことを忘れない
他者がどう考え、どう感じているかを考慮せずに自分の意見を一方的にまくし立てるのはアサーティブなコミュニケーションではなく、攻撃的なコミュニケーションとなる。結局のところ、アサーティブコミュニケーションとは、自分の考えやアイデアを相手とわかちあうことで成り立つものなのである。
したがってマイクを握り、自分の主張を展開するのも大切だが、あなたの考えに誰かが異論を唱えた場合には、防御的になったり、相手を否定する態度を取ったりせずに「アクティブリスニング」(参考文書)に徹していただきたい。
TIPS⑥ スモールスタートで始める
コミュニケーションは複雑であり、あらゆる状況や人に対応できる「正しいコミュニケーションスタイル」があるわけではない。とはいえ、多くの場合、アサーティブコミュニケーションは有効であり、それによってチーム内の人間関係を良好に保ちながら、自分の主張を明確に伝えることが可能になる。
もちろん、アサーティブコミュニケーションへの切り替えが、チーム文化の大幅な変更を強いることもある。そのような場合には、比較的リスクの低い事柄に焦点を絞ったかたちで、チームのメンバー各人に自分の意見を、自信を持って、かつ冷静に発言させるようにするのが良いだろう。こうしたスモールスタートによって、チームの各人は、アサーティブコミュニケーションのスキルを抵抗感なく身につけ、他者の「反発」ではなく「協力」を引き出すような発言のし方を学んでいけるはずである。