本稿の要約を10秒で
- チームによる共同での問題解決は、より良い結果につながるという研究結果がある。
- チームのサポートがあると、個人はイノベーションにつながる計算されたリスクを取りやすくなり、イノベーションを引き起こす可能性を高めることができる。
- チームワークには、個人の成長を促し、仕事の満足度を高め、ストレスを軽減する効果が期待できる。
高まり続けるチームワークの重要性
新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の感染拡大を境に、従業員がリモートに分散して働く「分散ワーク」が企業の間に広く浸透した。
こうしたリモートワークの普及、あるいはコロナ後のハイブリッドワークの一般化によって「チームワークの意義は薄れていく」と見ていた人もいる。ただし、そうした人も今では自分の間違いに気づいているはずだ。というのも、どのような働き方を採用しているにせよ、企業の発展・成長には良質なチームワークが必要であることに変わりはなく、その重要性は高まり続けているからだ。
実際、米国を代表する組織開発のコンサルティングファーム、The Group for Organizational Effectiveness社の代表であり、リサーチャーのスコット・タネンバウム(Scott Tannenbaum)博士は、次のように語っている。
企業の間では、チームのパワーとコラボレーションに対する期待が一貫して高まっています。それは、チームの形態が、物理オフィスにメンバーの全員が集まって仕事をする『集中型』か、それとも全員がリモートで働く『バーチャル型(分散型)』かとは関係のない話です。
また、書籍「Pulling Together:10 Rules for High-Performance Teamwork」の著者であるジョン・J・マーフィー(John J. Murphy)氏もチームワークの重要性についてこう述べている。
個人にはユニークな才能とスキルがあります。それらを持ち寄り、共通の目的のために共有することで企業は真の競争優位を確立できるのです。
加えて言えば、チームを正しくワークさせることで、企業の収益を押し上げるだけでなく、それ以上のベネフィットが組織と個人にもたらされることになる。
なお、チームワークの強化につながる標準的なモデルについては、本サイトの以下の記事を参照されたい。
良質なチームワークがもたらす10のベネフィット
では、良質なチームワークは個人・組織に対してどのようなベネフィットをもたらしてくれるのだろうか。以下、チームワークがもたらす10のベネフィットを紹介したい。
1. チームワークはより優れた課題解決につながる
世界の誰もが知る天才アルバート・アインシュタインは相対性理論を発見したことで高く評価されている。ただし、彼の偉業は独力で成し遂げられたものではない。友人や同僚たちとの対話を通じて概念を洗練させたことが相対性理論の確立へとつながった。そして、相対性理論に類する歴史的な偉業の大多数は、1人の天才の力ではなく、チームの力によって成し遂げられたといえる。
天才による偉業の背後には必ずチームがあります。言い換えれば、人々が互いの技術や知識を出し合うことで、1人の天才の頭脳では想起できないような実用的で有用なソリューションが生まれるのです。(マーフィー氏)
また、科学的な数々の研究も「複数の頭脳は単一の頭脳よりも優れる」という考え方を補強している。この点について、米国イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の研究者パトリック・ラフリン(Patrick Laughlin)博士は、次のような説明を加える(参考文書 (英語))。
人々は互いに協力し合いながら情報を効果的に処理する能力を備えており、その能力によって物事に対する正しいレスポンスを共同で作り上げ、採用し、誤ったレスポンスを拒否することができます。1人の人間よりも、複数人によるチームのほうが、より優れた成果をもたらすというのは科学的に当然のことといえます。
チームワークのTIPS
誰もが同じように情報を処理するわけではない。すぐに問題解決モードに飛び込みたい人もいれば、考えをまとめて複数の選択肢を検討してから意思決定を下そうとする人もいる。ゆえに、チャットツールなどを使い、非同期でチームメンバーから意見を求めることで、メンバー全員が自分にとって最適な方法とタイミングで意思決定に参加できる機会を設けることができる
2. イノベーションの可能性を引き上げる
書籍「The Medici Effect」の著者であるフランズ・ヨハンソン(Frans Johansson)氏によると、最も革新的なアイデアは異なる業界や文化のアイデアが交じり合う「交差点」で生まれることが多いという。
多くの人は、自分と同じような人たちに囲まれた居心地の良い場所で成功が生まれると考えがちです。ただし、真の成功やイノベーションは、自分とはまったく異なる視点や経験、文化的背景を持った人たちと交わることで生まれるものです。それには一定の不快感を伴いますが、その不快感は自己の成長も促してくれます。要するに、ダイバーシティを確保することが、新たな機会を切り開き、新たな課題を乗り越え、新たな洞察を得るための正しい道筋であり、その正しさは歴史が証明してもいるのです。
ダイバーシティについては、コンサルティングファームであるマッキンゼー・アンド・カンパニーによる最近のレポートも、その有効性を裏づけている。
同レポートによれば、多様なバックグラウンド(性別、年齢、民族性など)を持つメンバーで構成されたチームは、同質的なメンバーで構成されたチームと比べて創造性が高く、パフォーマンスが最大35%高いという。要するに、個人の画一的な視点で物事をとらえるのではなく、チームとしてあらゆる角度から物事をとらえることで、アイデアが飛躍的に増える可能性があるということだ。
また、米国タフツ大学の研究によれば、人はダイバーシティを少し経験しただけで考え方を変える可能性があるという。同大学による「ダイバーシティを利かせた模擬陪審員」の研究によると、異なるバックグラウンドを持った人々と交流することで、人はよりオープンマインドになり、かつ、合意に達するまでに相応の努力が必要であることを受け入れるようになるという。
3. 従業員を幸せにする
アトラシアンでは先ごろ、チームワークに関する継続的な研究の一環として、さまざまな業界で働く1,000人以上の会社員を対象に調査を行った。その結果から、チームにおいて「率直なフィードバック」や「メンバー間の相互尊重」「チームメイトに対するオープンマインド」が奨励されている場合、メンバーが「幸福」と感じている割合が他よりも1.8倍高いことが明らかにされている。
従業員が幸せであることは、それ自体価値のあることだが、会社にとってもメリットがある。英国ウォーリック大学の研究によれば、幸福な従業員は不幸な従業員よりも生産性が最大20%高いという。
4. 個人の成長を促す
チームの一員として働くことは個人の成長を促し、成長を加速させる効果もある。
「チームにおいて他者と情報を共有し、相互に学び合い、トレーニングし合うことで、メンバー各人は自らを成長させられます」とマーフィー氏は言う。
また、自分とは異なる経験を持つ同僚と意見を交わすことで、新しいコンセプトを発見できる可能性が高くなる。さらに、チーム内でメンバー各人の失敗をオープンに共有し、そこから学ぶ文化を醸成すれば、それぞれの失敗を回避する能力を向上させることもできる。
米国ロチェスター大学メディカルセンターの心理学者で、米国の心理学系学術誌「American Psychologist」の特別号「チームワークの科学(The Science of Teamwork)」の編集にも携わったスーザン・マクダニエル博士は、チームが個人の成長を促す効果について次のように語っている。
私たちは皆、自分の長所・短所についてすべてを知っているわけではなく、自分では気づいていない点が必ずあります。チームで働くことは、自分では気づけなかった長所・短所の発見につながります。そして、発見した短所の克服に努力を払えば、より良いチームメンバーになれるだけでなく、より良い人間になることもできます。例えば、チームで働くことで、もっと『聞き上手』になれるかもしれません。そのスキルは、ビジネスパーソンとして成長するうえで欠かせないものであると同時に、家族との交流を改善するうえでも有効なのです。