アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのダニエル・ケニッツ(Daniel Kenitz)が、職場における非生産的な対立を排除する方策について説く。

本稿の要約を10秒で

  • 大抵のビジネスパーソンは同僚と仲が良いものの、職場での対立は頻繁に発生する
  • すべての対立が「悪」ではなく、建設的で生産的な対立はアイデアの価値を高める
  • 人間関係の対立を乗り越えるうえでは、人へのエンパシー(共感、思いやり)がカギとなる

頻発する職場における対立

ある調査によれば、企業の社員は、職場での対立に対処するために週平均2.8時間も費やしているという(参考文書 (英語))。また、社員の29%は、職場での対立が「絶え間なく起きている」と感じているようだ(参考文書 (英語))。

こうした対立を回避するうえでの良策は、対立を抑止する、ないしは対立を健全で生産的な意見交換のプロセスへと転換するための土台、あるいは習慣を確立することだ。その土台・習慣によって、対立が抑制されるだけではなく、対立が発生した際に迅速、かつ苦痛なくそれに対処するためのロードマップも組織・チームにもたらされる。そして、そのロードマップがあれば、エンパシー(共感、思いやり)をもって、あらゆる対立を解決することが可能になるのである。

では、不要な対立を抑止したり、健全なものへと転換したりするための土台はどのようにして築けば良いのだろうか。以下、そのための方策を見ていくことにしたい。

価値を高める生産的な対立

言うまでもなく、すべての対立が悪ではない。ハーバードビジネスレビューの記事(英語)でも指摘されているとおり、職場での緊張、意見の不一致、衝突はアイデアの価値を高め、ビジネスプランに内在するリスクを明らかにし、プランの関係者からの信頼を高めることにつながる。

言い換えれば、健全な対立、あるいは意見交換 ──例えば、プッシュバックやスパーリング、ディベート、拡散的思考など── は改善の原動力となる。対立が問題になるのは、その対立が単なる「敵対心」に根ざしたものであったり、対立する両者が共通の目標を見失っていたり、対立が感情的なもつれにつながる場合である。

職場における対立の4タイプ

ハーバードビジネスレビューの白書「Guide to Dealing with Conflict(対立に対処するためのガイド)」によれば、職場における対立が発生する要因は「利益の競合」「性格の不一致」「限られた時間、リソース」「人間のエゴ」などとさまざまであるという。ゆえに、たとえビジネスのすべてがうまくいっているときでも、職場における人と人との対立は発生し、複雑化してしまうことがあるとしている。

その複雑な対立をシンプルにとらえるうえで有効なのは、対立を類型化することである。実際、職場における対立は以下の4タイプに分類することができる。

  1. プロセスコンフリクト
    この対立は、プロジェクトやイニシアチブの最適な進め方に関する意見の相違から生じるものだ。チームのメンバーがタスクの基本的な目標に同意している場合、プロセスコンフリクトは起こりにくく、発生したとしても比較的穏やかな対立となる。
  2. タスクコンフリクト
    この対立は、プロジェクトの目的や、タスクを実行するそもそもの理由に対する認識のズレが引き起こすものだ。根本的な認識のズレに起因する対立であることから、タスクコンフリクトは、プロセスコンフリクトよりも激しいものとなることが多い。
  3. 地位のコンフリクト
    このコンフリクトは、誰が仕事の責任者かを巡る対立である。米国の犯罪映画でよく、連邦捜査官(FBI捜査官)と地元警察が管轄権を巡って言い争う場面が登場する。仮に、そうした場面を自分ごととして感じられるなら、あなたは、地位のコンフリクトをすでに経験しているか、目の当たりしたことがあるはずである。
  4. 人間関係のコンフリクト
    人間関係のコンフリクトは、個人的な感情や性格に起因した対立である。それゆえに、上記3タイプのコンフリクトよりも解決の難しい厄介な問題といえる。言い換えれば、プロジェクトやタスクの目的を明確にするだけでは、人間関係のコンフリクトは解決できないというわけだ。しかも、この種の対立は、人に対する蔑み(さげすみ)やいじめ、さらには、特定の人間のチーム内での孤立といった問題に発展する場合もある。

非生産的な対立を排除する土台を築く

先に触れたとおり、上記のような対立を回避したり、対立を健全で生産的なものへと転換したりするうえでは、そのための土台づくり、習慣づくりが重要となる。そうすることで、組織・チームは、自分たちのためにならない非生産的な争いごとを避け、かつ、人と人との結束を強めることが可能になる。以下は、そのための土台づくり、習慣づくりにつながる取り組みを紹介する。

取り組み1:目標や目標達成の方法についてチームの足並みをそろえる

組織・チーム内のメンバー間で、タスクに関する責任の所在やコミュニケーションのとり方、会議の目的・頻度など、基本的な事柄に関して意見が食い違うと、組織・チーム内の和が乱れ、コラボレーションに支障をきたす。

それを避けるうえでの有効な一手は「ワーキングアグリーメント」を作成することだ。これにより、仕事に関するメンバー間の認識のズレを洗い出し、非生産的な対立が始まる前に解消することができる。また、ワーキングアグリーメントの作成を通じて、組織・チーム内のメンバーが「どのように協力し合うのか」「お互いに何を期待するのか」「タスクの境界線をどこに置くのか」といった事柄も明確にできる。

組織・チームのワークスペースを「街」とすれば、タスク合意書は、その街の「憲章」である。ゆえに、ワークスペースの住人は、全員がそのあり方に意見を出す権利と、自分たちが合意したルールに従って行動する責任を持つことになる。

取り組み2:心理的安全性を育む

「心理的安全性」という言葉は、1990年代後半にハーバード大学の研究者であるエイミー・エドモンソン氏が生み出したものだ。(参考文書 (英語))それは「チームにおいては、対人的なリスクをとっても安全であるという、チームのメンバーが共通して持つ信念」と定義されている。エドモンド氏は、最高のチームはまったく失敗のないチームではなく、心理的安全性のもとでメンバーの失敗をオープンに共有し、失敗を成長の糧にできるチームであるとしている。

言うまでもなく、心理的安全性を育む取り組みは、組織・チームのメンバー全員に自由奔放に行動できる権利を与えることではない。努力の結果が失敗であっても、組織・チーム内での地位や立場に負の影響が及ぶ心配がないようにするというである。

例えば、TVアニメシリーズの「ザ・シンプソンズ」の脚本ルームでは、誰もが自由にジョークのアイデアを出すことができるという。その点について、同アニメの脚本家であるジョエル・コーエン氏はかつてこう語っていた(参考文書 (英語))。

ザ・シンプソンズの脚本には毎回50個のジョークを入れていますが、それに至るまでに1,000個のジョークのアイデアが出されます。ですので、一日の終わりに脚本ルームを出る際には、誰がどのジョークをひねり出したかを思い出そうとするのですが、思い出せないことがあるんです。

50個のジョークのために、1,000個のジョークのアイデアが出て、試される──。信じられないような膨大な試行錯誤だが、これこそが心理的安全性の威力である。つまり、ザ・シンプソンズの脚本ルームでは、すべての脚本家が、最高のジョークを探し当てるために失敗することを望んでいるということだ。

心理的安全性を育むことは、組織・チームのメンバーのあらゆる行動に対するエンパシー(共感、思いやり)を育むことにもつながる。その結果として、組織・チームのメンバー全員が、自分のアイデア・意見を安心して他者と共有できるようになり、自分の発言によって自身の地位や立場が悪くなることを恐れなくなる。と同時に、不要な争いごとも減っていくのである。

取り組み3:適切なコミュニケーション手法を取り入れる

不要な対立を防ぐうえでは、コミュニケーションのとり方にも細心の注意を払う必要がある。以下、コミュニケーションの健全性を保つうえで留意すべき点をいくつか紹介する。

■自分の意見を正直に言う
仕事上の適切なコミュニケーションとは、自分の意見をないがしろにしないことである。ただし、対立を避けるために、あるいは発言によって何らかのペナルティを課されるのを恐れるあまり、完全に受け身になるのも避けなければならない。要するに、仕事上のコミュニケーションにおいては、自分の意見を正直に言うことが大切なのである。実際、人事コミュニティサイトのグラスドア社の調査によると、オープンで正直なコミュニケーションは、社員の昇進につながる可能性が高いという。

■正直なフィードバックをする
人のアイデア、意見に対する批判的なフィードバックを、相手を不快にさせずに行う秘訣は、最初にエンパシーを示すことである。そのうえで自分の正直な意見を述べるのが適切だ。

ここで、デール・カーネギー氏が記した「How to Win Friends and Influence People(友人をつくり、人々に影響を与える方法)」の中に登場するアンナ・マゾンという女性のエピソードを紹介しておきたい。この女性は新しい職場で大きなプロジェクトを任され、大失敗をしたという。それに対して上司は「経験不足だから仕方ない」とし、彼女を責めることはしなかったようだ。このフィードバックにより彼女は、素晴らしい仕事をしようという意欲を以前にも増して膨らませたという。

■「アクティブリスニング」を実践する
「相手の話に耳を傾けていない」という態度は、対立を不必要にエスカレートさせるものだ。ゆえに、平穏なときも、混乱しているときも、相手の話に全神経を集中させて理解しようと努力し、かつ、わからない点については率直に質問を投じることが重要である。こうすることで相手は、自分のアイデア、意見を大事にしてくれていると感じることができる。

■適切なコミュニケーションチャネルを使う
チャットツールを使ったテキストベースのコミュニケーションは便利ではあるが、ときとして誤解を生み、意見の対立を感情的なもつれへと発展させてしまうことがある。ゆえに、どのような場面、目的のもとでチャットツールをどのように使うかなど、組織・チーム内で各コミュニケーションチャネルの使い方に関するルールを定め、先に触れたワーキングアグリーメントの中で明文化しておくことが必要とされる。ちなみに、本サイトのコラム「職場でのコミュニケーション改善に効く9つの方策」では、コミュニケーションチャネルの適切な使い分けについて触れているので、参考にされたい。

■非言語コミュニケーションを軽視しない
「ボディランゲージ」や「姿勢」「表情」「アイコンタクト」などの非言語コミュニケーションは、あなたの主張や感情を強調したり、弱めたりするうえできわめて有用な手段である。特に、相手の姿が常時見えているわけではないリモートワークやハイブリッドワークの環境では、非言語コミュニケーションの威力が強まり、非言語コミュニケーションの代替となる「絵文字」が、自分の感情を伝える便利な道具として機能する。一方で、ビデオ会議の場で、相手へのエンパシーを伝えたい、あるいは相手からのエンパシーを得たいと考えるのであれば、相手がしゃべっているときに画面から目をそらしたりするのは厳禁といえる。

■終わりの見えない対立をエスカレーションする計画を立てておく
真剣に仕事に取り組んでいれば、人との意見の食い違いや対立は起こりうる。そして場合によっては、意見の対立が平行線をたどり、当事者間では解決が困難になることもある。そうした事態に備え、対立の解決を上司などの適切な第三者にエスカレーションする計画を立てておくことが賢明である。その際に必要とされる作業は以下のとおりとなる。

  • 問題を認識し、明確にする:何が問題なのかの基本的な定義がなければ、エスカレーションされた側がどう解決すれば良いのかがわからない。したがって、対立の根本原因を明確にしておく。
  • 事実を収集する:対立の最終的な裁断に役立ちそうな、あらゆる関連データを収集しておく。
  • 選択肢を明確にする:DACI(Driver、Approver、Contributors、Informed:推進者、承認者、貢献者、報告先)のような意思決定フレームワークの採用を検討し、問題解決に向けた青写真を描く。
  • 適切な人物にエスカレーションする:対立の最終的な裁断を仰ぐ適切な人物を選んでおく。また、エスカレーション先を決める前に、対立相手がその人物に対するエスカレーションを想定しているかどうかを確認する。

エンパシーによって問題解決をリードする

対立が長引き、激化すると、それに心を支配されがちになる。「なぜ、相手に自分の真意が伝わらないのか」「なぜ、相手はいつも自分の邪魔をするのか」「なぜ、あの人と仲良くなれないのか」──。そんなことばかりを考えるようになる。

こうしたネガティブな精神状態から抜け出すうえでは、相手へのエンパシーを軸に問題解決を図ることが必要とされる。そこで本稿の最後として、エンパシーによって職場における対立の問題を乗り越えた組織の例を付記しておきたい。

1935年は、ホワイトモーター社にとって厳しい年だった。売上げは落ち続け、会社はスタッドベーカー社による買収でどうにか存在することになった。ただし、それに不満を感じた社員たちはストライキを起こした。

そんな中で新社長に就任したロバート・フェイガー・ブラック氏にとって、すべてが厳しい状況といえた。だが彼は、こぶしを振り上げストライキ中の社員たちと真っ向から対決しようとはしなかった。それどころか、ストライキ中の社員たちを見舞うために会社の外に出ると「何もしていないのなら退屈だろう。会社の空き地で野球をしても構わないよ」と伝えてその場を立ち去ったという。のちにブラック社長は、新聞に広告を出し、ストライキ中の社員たちがいかに平和的に行動しているかを褒めたたえた。その対応に感銘を受けた社員たちは、ストライキを数週間足らずで中止にしたのである。1950年代に引退したブラック社長は、引退まで社員たちに愛され続けていたと伝えられている。

このエピソードは、敵対する相手へのエンパシーが問題解決にいかに有効かを示すものだ。したがって、もしあなたが誰かと対立しているならば、相手に対する自身のエンパシーが十分かどうかを確認していただきたい。また、あなたのエンパシーによって、相手が自分に対する心理的安全性を感じたら、事態がどのように変化するかを想像していただきたい。おそらく、エンパシーをもって問題解決をリードすれば、事態は好転し、対立の解消へと向かうはずである。

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