本稿の要約を10秒で
- より良いコミュニケーションは、チーム内での相互理解を深め、信頼を育み、パフォーマンスを高めるために欠かせない要素である。
- コミュニケーションの改善にどう取り組むかによって、チーム各人のひととなり、アイデア、メッセージの相互理解のレベルに大きな違いが生まれる。
- コミュニケーション改善に有効な9つの方策を紹介する。
より良いコミュニケーションを実現するために
メンバー同士の相互理解と信頼は、チームが一丸となって物事を成し遂げていくうえで欠かせない要素だ。その相互理解と信頼を醸成するためのカギは、良質なコミュニケーションの実現にあるといえる。
ただし、仕事上のコミュニケーションを良質化する取り組みは簡単ではなく、方法を間違えると、チームにおけるメンバー各人の人となりやアイデア、メッセージが正しくやり取りされず、相互の理解・信頼がなかなか醸成されない事態に陥ってしまう。
では、どうすればチーム内のコミュニケーションをより良くできるのか。その答えとして、職場でのコミュニケーション改善に有効な9つの方策について紹介する。
方策①コミュニケーションチャネルの特性を理解する
今日、ともに働くチームメイトとコミュニケートするためのチャネルは多岐にわたる。主たるチャネルだけでも、対面での対話(以下、対面コミュニケーション)にはじまり、チャット、Eメール、ビデオ会議などと多彩だ。
コミュニケーションチャネルの選択肢が多いというのは、必要に応じて適切なチャネルが選べることを意味し、基本的に良いことである。問題は、チーム内の全員が、各チャネルの長所と短所をしっかりと理解し、それぞれの長所を最大限に活かすための方法を知っているわけではない点にある。
例えば、チャットは、リモートに分散したチーム(分散型リーム)のメンバー同士が共同作業に必要な情報やメッセージをやり取りするのに適したチャネルだ。分散型チームのコミュニケーションとコラボレーションを円滑にするうえでは非常に有効なコミュニケーション手段といえる。
ただし、チャットでやりとりされる短文のメッセージは、書き手の意図が不明瞭で読み手の誤解を生んでしまうことが間々ある。また、チャットの場合、メッセージの送り手が、受け手の状況を考えずにメッセージを送出してしまうのが通常だ。ゆえに、メッセージの送受や対応のルールをしっかりと決め手おかないと、勤務時間外でのメッセージへの対応が当たり前のように行われ、それがメンバーのストレスや疲弊につながるリスクがある。
一方、対面コミュニケーションは、意思疎通を図るための伝統的で最良の方法といえる。面と向かって対話をすることで、言葉だけではなくボディランゲージからも相手の意図をつかむことができる。
ただし、対面コミュニケーションには、対話する当事者たちが物理的に同じ場所にいなければならず、コミュニケーションを成立させるためには、事前のスケジュール調整が必要とされる。なお、分散型チームやハイブリッドワークを採用しているチームの場合、対面コミュニケーションの場としてビデオ会議を使うのが有効だが、ビデオ会議を成立させるうえでも参加者のスケジュールを事前に調整しておくことが必要になる。
このように、コミュニケーションチャネルにはチャネルごとに一長一短があり、それをチームの全員が理解したうえで、どのようなときに、どのチャネルを、どのように使うかのルールを取り決めておくことが、チーム内のコミュニケーションをより円滑に、かつ効果的にすることにつながる。ちなみに、本サイトのコラム『ご存知ですか?コミュニケーションチャネルの正しい使い方』では、各チャネルの長所を最大限に活かすためのハウツーが記されている。参考にされたい。
方策②各メンバーの「ユーザーマニュアル(取扱説明書)」を用意する
アトラシアンでは、チームメンバー同士の相互理解とコミュニケーションを円滑にする目的のもと、メンバー各人が自分の「取扱説明書」である「マイユーザーマニュアル」を公開し、みなで共有するという取り組みを実践し、成果を上げている。また、この効果を広く社外にも享受してもらうべく、アトラシアンではこの「ユーザーマニュアル」の作り方や使い方も紹介している。
いずれにせよ、マイユーザーマニュアルは、メンバー同士が互いを知り、絆を深めるうえで非常に有効なツールだ。同時にそれは、メンバーがともに仕事を進める際の「アイスブレーカー」の役割も担える。
マイユーザーマニュアルを使うことで、チーム内のメンバー各人は「自分と一緒にスムーズに仕事を進めるための方法」を正確に、かつ詳細に、ときにはユーモアを交えながら、相手に不快感を与えることなく伝えることができる。
また、人によって、あるいは生まれ育った国や地域の違いによって、ボディランゲージなどの「非言語的な合図」の意味が異なる場合があり、その違い誤解を生み、対人関係を悪化させてしまうことが間々ある。そこで、マイユーザーマニュアルにメンバー各人の「非言語的な合図が意味するところ」も含ませるようにする。そうすることで、ボディランゲージなどを通じた意思疎通も円滑になる。
なお、マイユーザーマニュアルは、相手に自分を理解してもらうことから対人関係の構築やコミュニケーションをスタートさせる試みでもある。つまり、自分はどのような人物かの仮説を周囲が立てる前に、自分のひととなりをオープンにして周囲に学んでもらうということだ。
このように、自分のことや自分の仕事の状況を包み隠さすオープンにすることは、周囲とのコミュニケーションの効率性や効果を高めることに直結する。チームのメンバー各人が、自身に関するより多くの情報をオープンにし、かつ、他者の情報を受け入れ、理解しようとする意欲を常に持つことが大切であり、それによって良好な協力関係を築いていくことができる。
方策③オープンなコミュニケーションを追求する
オープンなコミュニケーションは、チームにおける自由で思慮深い情報の流れをかたち作るための有効な手法だ。アトラシアンでは、チームのメンバーがそれぞれの仕事の透明性を確保することで、すべてのチームが素晴らしい成果を上げることができると考えている。
実際、例えば、チームの全員が、それぞれの仕事の内容や状況、働き方を相互に開示することで、各人の仕事、働き方の継続的な改善が図りやすくなる。また、チーム全体の(変化への)適応力や革新力、成長力、さらにはメンバーのエンゲージメント(チームに対する能動的な貢献意欲)なども高められる。
もちろん、オープンなコミュニケーションを維持するのは簡単ではなく、相応の努力が必要とされる。とりわけ、メンバー間の意思疎通に齟齬(そご)があったり、緊張や迷いがあったりするときには、何事もオープンに共有しようという意欲が減退する。
ただし、チーム内のコミュニケーションが問題に直面したときこそ、優れたコミュニケーションスキルが輝くときといえる。問題から逃げて自分の殻に閉じこもろうとせず、あいて困難と立ち向かい、オープンなコミュニケーションの維持に力を尽くすべきだ。
ここで「オープンなコミュニケーションの重要性は理解できたが、具体的に何をどうすればそれが実現・維持できるかがわからない」といった人もいるだろう。そうした方々に向けて、アトラシアンでは、「Team Playbook」を通じてオープンなコミュニケーションを実践する方法を紹介している。参考にしていただきたい。
方策④理解することから始める
チーム内のコミュニケーションをより良いものにするうえでは「思い込み」や「決めつけ」を排除することも大切だ。
人はよく、相手の発言の意図を「こうであろう」と思い込んだり、決めてつけたりする。こうした思い込みや決めつけは、自分の視点で人との対話に臨もうとする意識の現れでもある。このような意識が強くあると、相手の立場に立って物事をとらえるのが難しくなる。そのため、例えば、チーム内で意見の対立や衝突、コミュニケーションの混乱が起きた際に事態を収拾することが困難になるのである。
そうした状況を避けるためにも、まずは相手の発言の意図や、なぜそのような発言に至ったのかの背景理由を正しく理解することから、対話を始めるのが重要となる。
それゆえにアトラシアンでは、社員の行動規範ともいえる5つのコーポレートバリュー以外に、正式には明文化されていないものの、「まずは理解することから始める(Seek first to understand)」という規範を掲げている。
チーム内のコミュニケーションにおいて、この規範に則った行動をとり続けるのは簡単なことではない。そこでまずは、チーム内でのミーティングの際に、以下の3つの行動を意識的にとるようにしてみていただきたい。
- 自由に質問をする:これによって、相手の意見がどこから来たものなのか、あるいは何を言いたいかを正しく理解できるようになる。
- すべての情報を持っているかどうかを確認する:これは、自ら意見を述べたり、相手のアイデア、意見に対するフィードバックを行ったり、何らかの提案やアドバイスを行ったりする際に、それを行うのに必要な情報を自分が得ているかどうかを事前に確認することを指す。
- 相手は自分に対して肯定的であると想定する:こうすることで、相手の批判から自分を守ろうとすることで生じるネガティブな感情を抑制することができる。
なお、これら3つの行動はあくまでも、相手の意図を理解してから自分の考えを述べるようにするための訓練に過ぎない。ただし、これらの行動は仕事上でのコミュニケーションをより良くするための基本的なスタンスといえる。