2022年11月17日に催されたアトラシアンのイベント「Atlassian TEAM TOUR Tokyo 2022」では「今リーダーに求められる“エンパシー”の正体 - リーダーがメンバーの“感情”に向き合う意味と効果」と題し、組織開発、人材育成、経営のコンサルタントでプロノイア・グループ代表取締役のピョートル・フェリクス・グジバチ氏への公開インタビューが行われた。そもそも「エンパシー」と何であり、それによって組織・チームの何がどう変わるのか。ピョートル氏が疑問に答える。

エンパシーを身につけるための方策

── ところで組織・チームのマネージャーが、エンパシーを身につけるにはどうすれば良いのでしょうか。

ピョートル:最低限のエンパシーであれば、身につけるのは簡単です。目の前にいる人に興味・関心を抱き、好奇心を持って接し、相手のことを理解してあげれば良いだけです。

ただし、人は必ず「アンコンシャスバイアス(無意識の偏ったモノの見方)」を通じて、他者を見てしまうという習性があります。ですので、アンコンシャスバイアスについてしっかりと学んでおくことも大切です。そうすれば、人に対する自分の見方や考え方の偏りに気づき、その偏りが相手にどのような影響を与えているかを気づくことができます。ちなみに、私が以前勤めていたGoogleでは、社員に対してアンコンシャスバイアスに関するトレーニングを展開しています。

── アンコンシャスバイアスについて学んだとしても、自分とはまったく価値観の異なる人にエンパシーを抱くのは難しいのではないですか。そのような場合はどうすれば良いのでしょうか。

ピョートル:確かに、自分と価値観が真逆の人にエンパシーを抱くのはかなり難度の高い試みです。価値観が真逆の人と付き合わなければならないとすれば、時間をかけてお互いを理解するしか手はありません。また、その場合には、人に対して「無条件で肯定的な関心を持つ」ための訓練をしたほうが良いかもしれません。この訓練は、心理カウンセラーが受けるトレーニングで、要は、人と接するときに自分の価値観を持ち込まずに、無条件で人に肯定的な関心を抱くためのものです。

── やはり、価値観が真逆の人に対しても、エンパシーを抱かなければならないということですね。

ピョートル:そういえます。ただし、価値観が真逆の人の考え方をすべて受け入れる必要はなく、受け止めて、ともに仕事ができる程度の関係性を築けば良いといえます。

加えて言えば、仕事上での衝突は、建設的にお互いの価値観を共有できる良い機会でもあります。その意味でも、価値観がまったく違う人と向き合うことも必要で、その際には「無条件の肯定的な関心」をもって相手と話し、「相手は何を大切にしたいのだろう」と考えるようにします。そうすれば一定のエンパシーは抱けるはずです。

── エンパシーを抱く術(すべ)は理解できましたが、その実践には忍耐力や我慢強さが要求されるようにも感じます。

ピョートル:ですから、自分自身に余裕がなかったり、心身ともに疲れていたりするとエンパシーを示すのは困難になります。人へのエンパシーを維持したいのであれば、自分の働き過ぎにも注意を払う必要がありますね。

画像: ピョートル氏は、人への関心、好奇心を持つことが、エンパシーを身につけるための初めの一歩と説く

ピョートル氏は、人への関心、好奇心を持つことが、エンパシーを身につけるための初めの一歩と説く

イノベーティブな組織を望むなら

── 最後にエンパシーの必要性について確認させてください。エンパシーは、あらゆるタイプの組織に必要とされるものなのでしょうか。

「軍隊式のマネジメントにはエンパシーは不要ですが、私はそのようなマネジメントのもとで働きたいとは思いません。皆さんもそうではないですか」と話すピョートル氏

ピョートル:結論から先にいえば、世の中にあるすべの組織にエンパシーが必要なわけではありません。なかには、エンパシーが無意味なところがあり、私は、そのような組織にエンパシーを押し付けるつもりもありません。

例えば、ビジョンや社会的なミッションを特に持たないまま、売上目標やノルマの達成だけを社員に強要するような組織です。そういった組織は、社員を人としてとらえる必要はありませんし、その組織づくりやマネジメントにおいては、エンパシーや心理的安全性の確保は無意味で、かえって邪魔になるだけです。

私は、そのような組織で働きたいとは絶対に思いませんが、世の中には、上位下達の、軍隊式の管理を好む人もいます。そうした人たちには、エンパシーは意味のないものといえるでしょう。

── 改めて、エンパシーが必要とされる組織とはどのような組織でしょうか。

ピョートル:それは、新しいものを生み出すこと、イノベーションを巻き起こすことを重視している組織です。そうした組織には、エンパシーは不可欠ですし、エンパシーを評価するべきです。

例えば、プロダクトマネージャーは、プロダクトの利用者に対するエンパシーがなければ、良いものは作れません。プロダクトチームのメンバーも、それぞれのバイアスを破って、プロダクトの利用者に対する理解を深め、かつ、メンバー同士で互いに自由なアイデアを出し合いながら、一致協力してプロダクトを作っていかなければなりません。そうした組織文化の醸成にはエンパシーが必要で、だからこそ、米国のテクノロジーカンパニーは、社員によるエンパシーの獲得や、エモーショナルインテリジェンスの向上に熱心に取り組んでいるといえるのです。

言い方を変えれば、イノベーティブな何かを生み出し、市場での競争力を高めたいのでれば、さまざまな価値観や視点をもった社員たちが、それぞれの自由な着想をフルに活かせる環境づくりが必要とされ、その環境は社員たちが互いを理解し、尊重し合うことで形成されるものです。そして、社員同士が互いを信頼し、尊重し合う組織文化は、エンパシーを土台にした対話によって醸成されていくというわけです。

── なるほど、勉強になります。本日は、エンパシーについて貴重なお話を聞けて、大変参考になりました。ありがとうございました。

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