売上目標よりも100年続く経営を目指す

ワークマンの18年3月期の売上高は797億円、純利益は78億円だった。それが21年3月期は売上高が1466億5300万円と倍近くに伸び、純利益は170億円と倍増した。店舗数は17年に800店を突破し、それから120店舗あまり増えているが、店舗数の伸びよりも売り上げと利益の伸びがはるかに大きい。エクセル経営と自動発注システムの効果が出ていると考えられる。

ところが、これほど売り上げを伸ばしているのに、ワークマンは売上目標や経営計画を特段作っていない。土屋専務は、新業態も具体的なプランを持っていたわけではなかったと明かす。

「当社は数字の目標がありません。自然体でいいという会社です。売り上げはあまり意識せずに、お客さまの数を増やすことを考えています。新業態の店舗も出そうとは思っていましたが、どういう業態かは直前まで決めていませんでした。

もしかしたら靴屋になったかもしれないし、雨具屋になったかもしれない。結果的にアウトドアのニーズが高まったので、アウトドアウェアを展開しました。新業態でも分析によって最適な品ぞろえをすればお客さまが増えて、遅れて売り上げも上がっていくと考えています」(土屋専務)

自動発注システムには訪れる客に喜んでもらうと同時に、もう一つ大きな目的がある。それは加盟店の負担を減らすことだ。前述の通り、土屋専務は入社後最初の2年間で、品ぞろえと加盟店の膨大な発注作業を課題と捉えた。発注の負担をなくすことも、自動発注の大きな効果だと説明する。

「それまで発注は店を閉めてからやっていましたが、店を閉めたら一括発注ボタンを押して、5分後には帰ってもらっています。自動発注システムを導入したのは、加盟店のためでもあります。店舗業務では品出しとレジ打ちだけが価値を生みます。接客はレジを打ちながらお客さまと会話するだけで十分で、商品がどこにあるか分かりやすい店をつくればいいのです。

自動発注が実現したこともあって、加盟店の契約更新率は現在99%です。また、店長が子どもに店舗を引き継ぐ率も50%になっています。子どもに引き継ぐためには、親が残業する姿を見せてはいけません。店長が残業しなくて済むように、自動発注システムの精度を森池や石原が高めているのです」(土屋専務)

ただ、自動発注といっても、発注した商品は加盟店の店長が買い取る。自動発注1回で購入する金額は50万円から100万円に及び、抱える在庫は3000万円から4000万円分にもなる。自動発注システムを信頼していなければとてもボタンは押せない。それでも導入店舗の9割以上が自動発注をしているという。土屋専務は、本部と加盟店の間で信頼がなければ自動発注は成り立たないと話す。

「当社も、加盟店も、取引先も100年以上経営を続けられることが目標です」と土屋専務は話す

「加盟店の店長は独立した店舗の経営者ですから、いいものでなければ自動発注は使わないですよね。私たちもしっかりしたシステムを作らなければならないし、一括発注ボタンを9割以上使ってもらっているのは信頼感があるからではないでしょうか。一括発注以外に自分で発注を付け加える店長もいて、それはそれでいいことだと思っています。

この信頼感を作るためには人間性も重要です。私たちは社員の採用では、親切心があるかどうかを見ています。加盟店の店長を決めるときも、人柄を見ています。人柄が良ければ、お子さんも息子さんも人柄がいいかもしれない。そうすると加盟店がずっと続く可能性があります。

メーカーさんも1度決めたら変えません。国内のメーカーさんとは40年以上のお付き合いをしていて、常に当社のことを考えていただいています。データで理詰めの話をするのも大事ですが、親切心や人柄、長期のお付き合いによる信頼感の方が大事です。当社も、加盟店も、取引先も100年以上経営を続けられることが目標です」(土屋専務)

自律分散型組織で実現する「凡人経営」

ワークマンを100年以上続く企業にするために、土屋専務は誰でも経営できる状態をつくる「凡人経営」を目指しているという。

「経営や商品開発についてトップがあれこれ指摘すると偏りますし、属人的になります。1人の優秀な指導者が周りの人を指導しても、その指導者を超えることはありません。

それよりも、現場にいる社員の能力を引き上げることができれば、経営者や指導者に能力がなくても会社は成長できます。目指しているのは、凡人でも経営者になれる状態ですね。

データ分析ができる社員を育てているのはそのためです。企業の成長の限界は、社員の能力の限界でいい。だからこそ社員を伸ばす必要があると思っています」(土屋専務)

凡人経営は、言い換えれば社員一人ひとりが自分の頭で考えて、現場で実験をしてデータで検証して、自律分散型で結果を出していくこと。この組織づくりを進める上で土屋専務が心掛けていることがある。それは、社員にストレスを与えないことだ。

「あまりストレスは与えない方がいいと思っています。社員はストレスをかけない方が、それぞれ自分が好きな方向に動きます。社員が育つのを待つ感じですね。自分で走っている社員を後ろから押したり、時間の制限を作ったりしてはいけないと思っています。

上司から部下にプレッシャーを与えないことは、フラットな議論ができる環境づくりにもつながっている。データ分析チームを率いる森池さんは、チーム内での議論は活発だと話す。

「全員で提案し合って、最適なシステムのパラメーターを決めていくような組織ですね。上司でも部下でも関係なく、意見し合う文化はあると思います。部下の方が強い意見を出しているかもしれないですね(笑)」(森池さん)

石原さんは、チーム内で議論する上で最も大事なのは、店舗のためになっているかどうかだと感じている。

「自分たちが設定している発注システムが100点満点なのかどうかは全く分かりません。どんどん変わっていく状況に合わせられるように監視していく感じなので、誰かの意見が正しいからどうしようという決め方はしないですね。店舗のためにはどのように設定するのがいいのかを常に考えています」(石原さん)

画像: WORKMAN Plus 南砂町SCスナモ店

WORKMAN Plus 南砂町SCスナモ店

自律分散型組織だからできる店舗展開

土屋専務の「凡人経営」の成果が顕著に現れているのが、新業態の店舗だ。アウトドアとスポーツ、レインウェア専門店のWORKMAN Plusは、18年9月に1号店をオープンすると、既存店からの転換も含めわずか3年で300店舗以上を展開している。

「私の役割は新業態の1号店をショッピングモールに出しただけです。WORKMAN Plusのときは1カ月後にもう2号店を路面に出店しました。私としては早すぎて、そんなに残業をしてまで出店をしなくていいと言ったんですけど、みんなであっという間に200店舗、300店舗と出しました」(土屋専務)

ワークマンは長年作業服の専門として業界トップシェアを誇ってきた。にもかかわらずこれだけのスピードで新業態を展開できているのは、ワークマンが持っていた強みが自律分散型組織によって生かされたからだと土屋専務は説明する。

「入社して最初の2年間に店長や社員の話を聞いて分かったのは、ワークマンは愚直に作業服だけを売ってきたこともあり、超深掘り型の会社だということです。標準化レベルは小売業のトップで、オペレーション能力も非常に高い。だから、1店舗新業態を作れば横展開は容易で、WORKMAN Plusも#ワークマン女子もすぐに複製できます。

その際に必要なのは、データで検証しながらマニュアルを改定し続けて、完成度を常に保つことですね。標準化はしたいのですが、現場が変化する時代なので、固定化したマニュアルでは現状に合わないことがよくあります。また、お客さまが多様なので、地域によっては求められる商品が違います。本部でコントロールしながら、地域の特徴や多様性を踏まえて、品ぞろえを変えていくことが必要だと思っています」(土屋専務)

自律分散型組織にすることで、役員は以前の6人から3人に減らした。現在の役員は全員データを分析して活用する力と改革マインドを持っているという。

「自分で走って、分析ができて、検証ができる人は登用します。部長クラスまで全員そうなると経営者はいらないですよね。経営者は超凡人でいいのではないでしょうか」(土屋専務)

残業はしない。ノルマは作らない。社員にストレスを与えず、加盟店にも売上のプレッシャーをかけない。自律分散型のチームづくりによって爆発的な成長を遂げているワークマンの進化はまだまだ続く。

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