アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』から新着コラム。メインライターのサラ・ゴフ・デュポン(Sarah Goff-Dupont)が、新しいソフトウェアを開発するうえでの留意点について説く。

ソフトウェアは1日にして成る!?

アトラシアンのITサービス管理ソリューションである「Jira Service Management(通称JSM)」は1日で構築されたプロダクトではない。だが、その前身となるプロダクト「Jira Service Desk」は24時間で構築された。その開発のストーリーは次のとおりである。

アトラシアンでは四半期に1回の頻度で24時間のハッカソン「ShipIt」が行われる。このハッカソンの場で、エンジニアとデザイナーから成る小さなチームが、Jiraの課題チケットは、ITチーム向けの「ヘルプデスクチケット」として使うにはフィールドが多くなりがちであることに着目し、「詳細な情報を保持したまま、一部のユーザーにとって課題がよりシンプルに見えるようにする」という改良に取り組み、「Viewport」という呼称のJiraのアドオンを作り上げた。そのアドオンは、当該のハッカソンで最優秀賞を受賞しただけでなく、Jira Service Deskとして製品化され、JSMへと成長を遂げた。言い換えれば、ごく小さなハッカソンプロジェクトが、年間数百万ドル規模のビジネスにつながったというわけだ。

ソフトウェアを内製する意義

今日、数多くの企業がJSMのような成功を手にすべく、自社のプロダクトやビジネスモデルに変革を引き起こすためのR&D組織やイノベーションを推進するためのラボ(以下、これらの組織を総称して「イノベーションラボ」と呼ぶ)を社内に設置している。

ところが、イノベーションラボのほとんどが、これといった成果を上げられずにいる。なぜ、そうなのかの本当の理由はわらかないが、原因として考えられる1つは、ラボの戦略と既存事業の戦略との不一致・不整合が激しいことである。また、ラボの要員として既存事業を担ってきた熟練の人材ばかりを集めて、イノベーティブな発想のできる人材を配置していないことも、ラボが成果を上げられない原因として考えられる。

いずれにせよ、イノベーションラボによってアイデアを形にすることは大切だが、アイデアを形にすることと、それを市場に投入し、成功させることは別の話である。アイデアを練り上げることばかりに力を注いでも、アイデアをプロダクトとして実装して市場に投入し、普及させる戦略がしっかりと描けなければ、イノベーションラボの取り組みが実質的な成果に結びつくことはないと言える。

一方、新市場を開拓する一手として、M&Aによって自社製品のポートフォリオを拡大するという方法がよくとられる。言うまでもなく、M&Aは新市場を開拓するための有効で、かつ手早い方法であり、アトラシアンも過去に数回この戦略を採用してきた。

とはいえ、M&Aによって新しいプロダクト、あるいは新市場を手に入れる手法は、相当の体力のある企業でない限り、そう頻繁に使えるものではない。しかも、M&Aによって新しいプロダクトと新しい市場を手に入れた時点で、そのプロダクトと市場は自社にとって既存のものとなる。ゆえに、さらなる成長・発展を遂げるためには、新規プロダクトの開発によってイノベーションを引き起こす力を社内に保ち続けることが必要とされる。要するに、国家におけるエネルギー政策と同じように、民間企業も、自社を成長・発展させる力を自ら生み出さなければならないというわけだ。

加えて今日、あらゆる市場で企業間競争が激化しており、顧客ニーズが変化するスピードも非常に速い。ゆえに投資家は、新しい何かを創造する力が不十分と見なした企業の先行きを、かなりネガティブにとらえるようになっている。

また、企業の創造力は、独創性に富んだ人材によって支えられるものだが、そうした人材を確保するうえでのカギは、組織がイノベーティブであること──言い換えれば、新しい何かに挑戦できる機会が適切なリズムで巡ってくることにあるとも言える。

では、新しいプロダクトを生む内なる力を確保するには、具体的に何をどうすれば良いのだろうか。秘訣の1つは、新しいプロダクトを「コンセプト」の段階から「市場投入」の段階へと合理的、かつスムーズに移行させるための「反復的なプロセス」を確立することにある。この考え方に基づいてアトラシアンが作り上げ、自らも活用している次世代ツールの開発支援プログラムが「Point A」である。

アトラシアンでは現在、Point Aプログラムの下で35件の新規プロダクトのプロジェクトを並行して走らせており、そのうち4つが公開を控えている。おそらく、Point Aプログラムの内容は、あらゆる企業がビジネスアイデアをプロダクトへと転換し、顧客に届ける(市場に投入)うえで大いに役立つはずである。以下ではPoint Aプログラムについて少し詳しくご紹介したい。

現場のアイデアを製品化するために

企業がこの先50年、あるいは100年先を生き抜こうとした場合、新規プロダクトの開発に投資をしなければならないのは明らかである。理由はシンプルで、ビジネスの持続的な成長を維持し、従業員に対して適切なキャリアパスを提供し続けるには、新しい収入源を獲得し続けることが必要不可欠だからだ。

また、顧客のニーズや働き方も絶えず変化し、進化している。ゆえに、世の中の変化・進化に合わせた新規プロダクトを提供し続けない限り、企業はすぐに時代から取り残され、“過去の存在”と化してしまうことになる。

こうした観点から、アトラシアンでは前述したShipItをかねてから実施してきたのに加えて、個々のチームに対して「イノベーションウィーク」をアドホックに展開させ、結果として、社内には新規プロダクトのアイデアやプロトタイプが豊富に蓄積されてきた。その中で問題になったのが、それらのアイデアやプロトタイプを、どのようにして「販売可能なプロダクト」へと転換し、市場に投入するかであった。その検討を重ねたすえに生まれたプログラムがPoint Aとなる。

「Point Aの最大の価値は、その採用によって新規プロダクトを市場に投入するプロセスが合理化されることです」と、アトラシアンのプロダクト・マネジメントをリードするスティーブ・ゴールドスミス(Steve Goldsmith)は語る。

その合理化に向けてPoint Aでは次の3点が指針として定められている。

  • 指針1: 100%社内で育てる
    プロダクトの買収や起業家の育成はともに新市場の開拓に有効だが、それがすべてではない。
  • 指針2: 新規プロダクトに焦点を絞る
    アドオン開発や機能追加はPoint Aの対象とはせず、より大きなアイデアに基づく新規プロダクトだけを対象とする。
  • 指針3: 失敗を許容する
    新規プロダクトのプロジェクトは、その半数が開発フェーズのどこかで必ず躓(つまず)く、あるいは失敗すると予想しておく。

上記のうち「指針2」は、プロダクトポートフォリオのバランスを再調整したいというニーズに基づくものだ。アトラシアンにおける以前のプロダクトポートフォリオは、80%が「すでに販売されている製品(=既存製品)」で占められ、残りの20%が「発売間近の製品」で占められていた。つまり、より長期的な視野とビジョンに基づくプロダクトは、ポートフォリオに含まれていなかったわけだ。それが今日では、ポートフォリオの比率が既存製品70%、発売間近の製品20%、長期的なビジョンに基づく製品10%という、理想的なかたちへと移行しつつある。

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