アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』から新着コラム。アトラシアンのテクニカルアカウントマネージャーのランジャン・ラオ(Ranjan Rao)が、アジャイル開発をスケールするうえで役立つ7つの教訓を紹介する。紹介する教訓は、ラオが銀行でのアジャイル開発の体験を通じて獲得したものだ。

危機的状況が変革を加速する

外科医で作家のマクスウェル・マルツ(Maxwell Maltz)氏はかつてこう述べていた。

「危機的状況というものを詳しく調べていくと、それが組織の『前進』、あるいは『現状維持』の好機であることが分かる」──。

私は個人的な経験から、この分析が真実であると断言できる。なぜ、そう言い切れるのか。根拠について少し説明させていただきたい。

周知のとおり、2008年に起きたリーマンショックの影響から、2009年から2016年にかけての8年間、金融業界にはさまざまな規制がかけられた。これにより、銀行の多くが規制への対応に追われ、文字どおり危機的状況に追い込まれるところも珍しくなかった。当時の私の顧客である某銀行(以下、「A銀行」と呼ぶ)も、そんな銀行の一つだった。

彼らは、新しい規制の施行が3カ月後に迫っていたにもかかわらず、当該規制に対応するための多くの作業が未完の状況にあった。もちろん、規制対応の締め切りは動かしようがなく、また、彼らの市場での評判は新規制に期日どおりに対応できるかどうかで大きく左右されることも明白だった(加えて、期日までに規制に準拠でなかった場合には、相当額の罰金も支払う義務があった)。そこでA銀行は、未完の作業を猛スピードで完了させるべく、緊急のマネジメントチームとして10名から成る「アクションフォース」を結成した。チームは、A銀行のスタッフとコンサルタント、およびITベンダーの代表者で構成され、私はコンサルタントとしてメンバーに選ばれた。

アクションフォースの仕事の一つは、サイロ化されていた複数チームの作業を統合して規制報告ソリューションを構築し、組織全体に展開することだった。

当時、周囲の人たちは、私たちの取り組みを単に「危機管理」と呼んでいた。ただし、10人の共同作業は危機管理以上の成果を生み、未完の作業の完遂という大仕事を成し遂げたのである。私はこの経験により、コンサルタントのキャリアを通じて初めて日本で言う「ゲンバ(現場)」(*1)を体験し、組織のアジリティを大規模にスケーリングするためのさまざまな教訓を得ることができた。

*1 「ゲンバ」とは、日本のビジネスパーソンなら誰もが知っている「実際の作業が行われる場所」を表す言葉である。例えば、工場の製造現場、レストランのキッチン、あるいはオフィスワークにおける業務端末(PC・ワークステーション)などがゲンバに当たる。リーン方法論では、ゲンバは価値が生み出される場所と定義されている。

今日では、アジャイル開発のプロセスをスケーリングするための優れたフレームワークがいくつか存在し、私もそこからさまざまなことを学んでいる。また、A銀行以外の案件も数多くこなしてきた。ただし、A銀行での経験が過去最高の学習体験だったと言い切れる。

そこで以下では、A銀行での体験で私が学んだ教訓を7つ紹介したい。

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