トレンド 1:数多くの「トランスフォーメーション」イニシアチブが終了する
過去数年来、数多くの企業で「デジタルトランスフォーメーション」や「アジャイルトランスフォーメーション」、あるいは「カルチュラルトランスフォーメーション」のイニシアチブが立ち上がり、さまざまなトランスフォーメーションの取り組みが推進されてきた。ただし2020年には、それらのイニシアチブの多くが終了することになるはずである。
そうなる理由は単純で、世界は毎日のように変化しており、トランスフォーメーションの取り組みに終わりがないからである。つまり、トランスフォーメーションは、イニシアチブを立ち上げ、期限を切って推進するような取り組みではなく、そのことに多くの企業が気づき始めているというわけだ。
また、トランスフォーメーションに先駆的に取り組んできた組織は、短期間のうちに大規模な変革を実現しようとすることに限界を感じ始めてもいる。実際、働き方改革にしても、大きな変化をあまりにも急ぎすぎると、働き手の多くが変化についていけなくなり、慣れ親しんだ旧来型のやり方に戻ろうとするらしい。そのため、大多数の企業が、改革の進め方を改めて、段階的で継続的、かつ長期的で緩やかな変化を指向し始めている。よって、これから働き方改革に着手する企業も、改革は“長期戦”になるという認識を持ち、小さな変更からことを始めたほうが賢明と言える。
トレンド 2:アウトプット重視から成果重視へのシフトが加速する
メーカーによる新製品発表会の場では、「我々の長期にわたる開発努力の積み重ねによって……」といった、お決まりのフレーズをよく聞かされる。ただし、製品の購入を検討する顧客にとっては、製品の背後にあるメーカー側の努力などは知らなくてもいい、どうでもいい話である。顧客が知りたいのは、その製品がどのようなメリットをもたらしてくれるか、あるいは、自分のニーズをどの程度まで満たしてくれるかである。
このように、ナレッジワーカーは今後、労働によるアウトプットの量ではなく、成果によって評価されるようになる。そして2020年は、そうした大きな変化がいたるところで見られる1年になると予想される。
トレンド 3:「インクルージョン&ビロンギング」が差異化の源泉に
今日のナレッジワーカーは、職場においても、ありのままの自分でいたいという欲求を強めている。これは人として自然な感情であり、私たちナレッジワーカーの全員が、本来の自分をいつわることなく安心して働けて、組織への帰属意識が保てる場所を求めていると言える。
もっとも、そうした職場環境を実現するダイバーシティ、インクルージョン、ビロンギングを組織の文化として定着させている企業はそれほど多くない。ゆえに、職を求めるナレッジワーカーは、会社の文化やオフィスの雰囲気を考慮して、どのオファーを受け入れるか、さらには、どこに応募するかを決めざるをえない状況にある。これは、女性や有色人種、あるいは、その他の疎外されたグループにとって、決して心地のよい環境とは言えない。
そうした中で、才能の獲得競争は激化し、優秀なナレッジワーカーの報酬は、極限に近い水準にまで高まっている。結果として、競争の中心は、サラリーの高さから、ダイバーシティ、インクルージョン、ビロンギングをどう実現するかに移行しつつあり、その方法を熟知している企業、あるいは、それを文化として定着させている企業が、2020年における才能の獲得競争で優位に立つ可能性が大きくなっている。
トレンド 4:集中力が成功のカギに
21世紀の職場には、肩をポンと叩かれるショルダータップにはじまり、携帯への電話、メール、チャットなど、集中力を阻害する“敵”がさまざまに存在する。さらに悪いことに、オフィスを離れてもメールやチャットの集中砲火が止むことはなく、それによって常に思考が妨げられてしまう。
ある研究によると、創造的思考には集中できる時間を十分に確保することが必須であるという。したがってメールやチャットの扱いに工夫を凝らし、より深い仕事をするための時間とスペースを作ることが重要となる。また、それができるか否かで、成功するかしないかが大きく左右されると言っても過言ではない。
トレンド 5:柔軟な働き方が標準に
今日、いわゆる「9時5時」の働き方は過去の標準となりつつある。ナレッジワーカーの多くがフレックスタイムで働き、働く場所についても、かなり自由度が高まっている。おそらく2020年では、働く場所と時間が自由に選べるというのが、米国におけるナレッジワーカーの標準的な働き方になるはずである。
トレンド 6:チームレベルの業績評価が進展する
私たちはすでに個人や会社の業績を評価し、祝すことに慣れているが、おそらく今後は、チームの業績を評価して祝す制度を採用する企業が増えていくはずである。
ある調査によれば、企業・組織の90%が、チームの働きに頼らなければ、複雑化する今日の課題には対応できないとしているという。ところが、そうしたチームの働きを表彰する制度を持っている企業は少ないのが現実だった。
いかなる“天才”でも、一人では何も成し遂げられず、トーマス・エジソンですら、電球の開発をともに進めるチームを擁し、そのチームの働きによって偉業を成し遂げてきたと言える。それと同様に、会社における個人の業績も、その人を取り巻くチームのサポートがあって初めて成しえることである。ゆえに、本来的には、個人を表彰するよりも、チームを表彰することを優先させるべきとも言えるのである。
また今日では、組織横断でクロスファンクショナルチームを組織し、複雑な課題の解決に当たらせる企業も増えている。その流れの中で、チーム表彰を制度化する動きも活発化するに違いない。そうなれば、2020年は「チームの年」になる可能性も高い。
トレンド 7:共感を育む手段としてAR/VR技術の使用が活発化する
AR(拡張現実)/VR(仮想現実)の技術はこれまで、電車・船舶・航空機の操縦訓練やゲームなどに広く使われてきたが、一部の先進的な企業の間では、無意識のうちに働く人のバイアス(偏見)を抑制するためのテクノロジーとしてAR/VR技術が使われ始めている。その使い方は、女性だけの会議、あるいは有色人種だけの会議の場を仮想的に作り上げ、従業員にそれを体感させるというものだ。また、AR/VRを活用することで、他者の視点で物事をとらえる体験を従業員にさせることも可能になる。
このように、AR/VR技術を他者に対する共感を育む目的で使う試みは、まだ一般化していない。ただし、この活用法は有効であり、ダイバーシティを競争力の源泉にしようとする企業の間で、AR/VR技術の活用が一気に進む可能性は十分にある。
トレンド 8:家族思いの制度がさらに充実する
企業のリーダーの大多数は家族を大切にしている。それは、従業員の家族に対する配慮へとつながり、最近では、企業における「家族休暇」の制度も充実し始めている。
実のところ、性別による賃金格差は、現実問題としていまだに存在する。その理由の一つは、子供のいる女性や妊娠中の女性が、能力があるにもかかわらず、時間的に融通の利かない高給のポストに就こうとしないことだ。さらに、その背景にある問題を突き詰めていくと、父親である男性が、“親としての役割”を女性と均等に分担できていないことに気づかされる。
こうした問題を抜本的に解決すべく、現在、多くの米国企業が、育児休暇(数週間から数カ月)の制度を男性社員にも適用し始めている。これにより、母親である女性は、より早く仕事に復帰することができ、父親である男性は、子供との絆を強めることが可能になる。
例えば、ゴールドマン サックス社では、男女を問わず20週間の育児休暇(有給休暇)を社員に提供すると発表している。また、企業によっては、子供と一緒に自宅で長年過ごした社員がキャリアを復活させるのを支援する「リターンプログラム」を展開しているところもある。2020年は、こうした“女性思い”“家族思い”の制度が、さらに充実する一年になりそうである。
トレンド 9:顧客による共感の獲得がメインの課題に
「ネット プロモーター スコア(Net Promoter Score:NPS)」は、商品ブランドに対する顧客のロイヤルティを測るための合理的な指標と言える。ただし、NPSで計測できるのはすでに市場に投入した商品(製品やサービス)に対する、顧客のロイヤルティのみである。
したがって、商品の企画・開発のために顧客のニーズをとらえるには、直接顧客と対話する以外に方法はなく、またそれが最も確実で、有効な手段と言える。しかも、顧客は、大抵の場合、商品を提供する側に、自分のニーズを正しく理解して欲しいと願っている。そのため、顧客にヒアリングをかけるという取り組みには、あなたの会社に対する顧客の好感度をアップさせるという副次的な効果も期待できる。
なお、あなたやあなたのチームが、顧客にヒアリングをかけて、共感を得る仕事に慣れていない場合には、「Atlassian Team Playbook」をぜひ、参考にされたい。Atlassian Team Playbookには、顧客インタビューの進め方はもとより、インタビューを通じた顧客の状況の確認方法や質問内容など、さまざまなハウツー情報が入門書として用意されている(2020年1月現在、英語のみ)。