薄れていく経験という価値
かつて、『20年の業務経験』が人材の能力を測る一つの指標にされていた時代がある。それは、ビジネスの行方が予測可能で、フォーチュン500社のリストが30年間ほとんど変わらないような古き時代の話だ。しかし今日では、30年どころか、20年の間に、フォーチュン500社の顔ぶれが変化しないようなことはありえない。しかも、ネットフリックス(Netflix)やエアービーアンドビー(Airbnb)、ウーバー(Uber)といった破壊的なイノベーターによって、特定の企業が業界のリーダーでいられる期間はますます短くなっている。このような時代では、一つの業務に関する「長年の経験」が、人材の大きな価値とはなりえなくなっている。
大切なのは経験の多様性
筆者は先ごろ、ネットフリックスの元人材管理責任者(チーフタレントオフィサー)と、人材採用について意見を交わす機会を得た。彼によれば、プログラミング言語からマーケティングのベストプラクティスに至るまで、すべてが目まぐるしく変化している今日では、特定の業務に関する「20年以上の経験」にはほとんど意味はなく、また、5年~10年の業務経験が採用の是非に影響を及ぼした記憶もないという。
もちろん、業務経験の一切を否定するつもりはなく、ビジネスの世界で長年の経験を積み上げてきたことは評価に値するものだ。とはいえ、肝心なのは、変化への適応能力である。筆者は以前、18年にわたり、同じ企業で働いてきたビジネスパーソンにインタビューしたことがある。そのビジネスパーソンは、18年間同じ会社に勤めていたが、仕事の内容は毎年のように変化させてきたという。これこそが、変化の時代に求められる「業務経験」ではないだろうか。
完成された“大人”とは
人はときとして、“大人”と“年齢”とを混同してしまうことがある。この両者は必ずしも同期しておらず、本当の大人とは、弾力性に富み、謙虚で、一生涯学び続ける人を指している。そうした大人を雇い、人材のダイバーシティを確保すれば、よりスマートな方法で市場に対してサービスを提供することが可能になるはずだ。また、彼らに自らの判断で意思決定を下させ、計算されたリスクを取らせるようにする。そうすることで、彼らは能動的に動き、問題に対する革新的な解決策を見出すようになる。
組織のヒエラルキーはすでに崩壊している
特定の業務について経験を積み、キャリアップの階段を上るという伝統的な考え方は、もはや時代遅れだ。今日のキャリアは、上方向での経験の積み上げではなく、横方向に絶えず動き、さまざまなスキルを獲得することで開発されると考えたほうがいい。それゆえに、人材には深い専門知識よりも、自身を新たな環境に適合させ、成果を出せる能力が強く求められている。
実際、多くの企業の組織は、いまだに縦割りで階層的だが、ネットフリックスやエアービーアンドビーのような優秀なイノベーターたちは、顧客を中心に据えたフラットな組織構造の下でビジネスを回している。彼らは、顧客により良質なサービスを提供するうえで、チームのフラットなネットワークがすばらしい成果を生むことを理解しているのである。そんな時代にありながら、あなたの会社の人事部では、例えば「6つの職務を3年ずつ経験した人」を「業務経験が浅い」と見て、すぐに採用の候補からはずしたりしていないだろうか。その人は、適応能力に優れた、今の時代に組織にふさわしい人材かもしれないのである。業務経験の長さではなく、適応能力の高さで人材を選ぶ。今はそうした時代である。