アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。アトラシアンのコミュニティ、チームワークラボ(Teamwork Lab)のヘッドであるモーリー・サンズ(Molly Sands)博士が、不明瞭なコミュニケーションが職場にもたらす「精神的オーバーヘッド」を低減させる方策について説く。
本稿の要約を10秒で
- 「精神的オーバーヘッド」とは、メッセージ内容の不明瞭さが引き起こす無駄な時間や混乱を指している。
- テキストベースのコミュニケーションはメッセージ内容が不明瞭で曖昧になることが多く、結果として精神的オーバーヘッドを生みやすい。
- 精神的オーバーヘッドを減らすには、メッセージ内容を明快にし、かつ感情表現を付与する必要がある。
不明瞭・曖昧なメッセージがもたらす「精神的オーバーヘッド」
「至急話し合いたい」──。このようなメッセージを上司からメールで受け取った場合、大抵の人は凍りつく。そして「自分は何かしでかしたのだろうか」「降格か?それともクビか?」と最悪の事態を想像し始める。
現代における職場のコミュニケーションは、対面での対話よりもテキストベースで行われることのほうが圧倒的に多い。にもかかわらず、我々は常にフルスピードで動いており、組織内、あるいはチーム内の上司・同僚・部下に向けたメッセージ文の作成に多くの時間を割くことができない。結果として、メッセージの文面が不明瞭で曖昧なものとなり、相手の混乱や誤解、あるいは理解不能とった事態を招きやすくなる。
不明瞭で曖昧なメッセージは、無駄なコストを多く発生させる。実際、アトラシアンのチームワークラボ(Teamwork Lab)が、オンライン調査会社ユーゴブ(YouGov)と共同で実施した調査(以下、「チームワーク調査」と呼ぶ/調査対象:米国、フランス、ドイツ、インド、オーストラリアで働く1万人のナレッジワーカー)によると、ナレッジワーカーの3分の1以上が、テキストメッセージの不明瞭さ、曖昧さのために年間40時間以上を無駄に費やしているという。

【上図内文言の邦訳】ナレッジワーカーの3分の1以上が、同僚からのメッセージの内容を理解するために年間40時間以上の時間を浪費している。資料:アトラシアン
つまり、かなりの数のナレッジワーカーが、不明瞭で曖昧な内容のメッセージを解釈したり、メッセージ内容の解釈ミスにより始めてしまった間違った行動、あるいは作業を正したりするために1週間分の労働時間を浪費させられているわけだ。こうした無駄なコスト(負担)を、職場での「精神的オーバーヘッド」と考えていただきたい。

【図版内翻訳】精神的オーバーヘッドとは、不明瞭で曖昧なコミュニケーションが生む無駄な時間や精神的な混乱を指す。
テキストコミュニケーションが混乱のリスクを高める
ナレッジワーカーは、仕事で大量の文章を作成する。前出のチームワーク調査によれば、ナレッジワーカーの93%が、テキストベースのコミュニケーション(以下、テキストコミュニケーション)を定期的に行っており、44%がそれを主要なコミュニケーション手段としているという(ちなみに、テキストコミュニケーションのためのツールとして最も広く使われているのはメールである)。そして回答者の62%が、テキストコミュニケーションを他者との間違いのない意思疎通を図るうえで最も有効な手段であると見ているようだ。
ただし、そこに落とし穴がある。テキストコミュニケーションは確実な意思疎通を約束するものではない。むしろ、コミュニケーションの齟齬(そご)や混乱といったトラブルの温床となりうるものといえる。
実際、今回のチームワーク調査でも、ナレッジワーカーの64%が同僚からのテキストベースのメッセージやフィードバックコメントを正しく解釈するのに苦労し、多くの時間を浪費していると回答している。しかも、そうしたトラブルが発生する頻度は月に数回以上(場合によっては毎日)に及ぶという。
まとめれば、テキストコミュニケーションはきわめて重要であると同時に、適切に行うのが非常に難しい意思疎通の手段なのである。この手段は、自分の言いたいこと、伝えたいことを的確に表現できるスキルがなければ適切に扱うことができず、何が重要で、どれほど緊急性が高いかを伝えることも困難となる。しかも、自分のテキストメッセージを受け取った相手がどう感じるかを推測するのも難しい。ゆえに、チームリーダーが30秒で書いた一文が、メンバー全員を何時間も混乱させるようなことがよく起こるのである。
明確な感情表現が意思疎通の確実性・効率性を上げる
先に触れたとおり、ナレッジワークにおけるコミュニケーションの主流は、メールやチャットなどを介したものへとシフトしている。そのため「ボディランゲージ」や「口調(声の抑揚)」によって自分の感情(喜びや怒り、興味・関心、苛立ち、など)を表現する非言語コミュニケーションの手法は過去の遺物と思われがちだ。
ただし、コミュニケーションの中で自分の感情を明確に示すことには意思疎通の確実性・効率性、ひいてはチームの生産性をアップさせる効果が期待できる。
実際、今回のチームワーク調査でも、職場でのやり取りにおいて、自分の感情を常に他者と共有するよう奨励するだけで、チームの生産性が3倍に高められるという結果が出ている。

【図版内邦訳】感情の共有を奨励することで、チームの生産性を3倍に高められる 資料:アトラシアン
こうした観点を踏まえつつ、テキストコミュニケーションによる精神的オーバーヘッドを低減させるテクニックを紹介したい。
テクニック①「絵文字」を有効に活用する
ナレッジワーカーは、メールやチャットなどを通じて日々膨大な数のメッセージを受け取っている。これにより、注意は四散しがちとなり、重要なメッセージを見過ごさないようにするだけでも相応の負担がかかっている。
こうした負担を低減させる有効な一手が「絵文字」の使用だ。
絵文字はすでに多くの職場に浸透しており、チーム内コミュニケーションでの使用が一般化しつつある。実際、今回のチームワーク調査でも、ナレッジワーカーのほぼ半数がチームでの日常的なコミュニケーションに絵文字を使っていると回答している。また、絵文字の使用が文化として定着している組織の場合、ナレッジワーカーの78%が「絵文字つきのチャットメッセージは読む可能性が高い」「メールの件名に絵文字があると、それを開封する可能性が高い」と認めている。
いうまでもなく、絵文字は、自分の感情を相手に伝える優れた手段でもある。
例えば、上司に対して「四半期報告書の草案」をメールで送ったとする。それに対する上司の返答が「これで良い」という一文だけでは、上司が本当に良いと評価しているのか、それとも、内容には不満だが時間がないので仕方なく「まあ、これでいいか」と了承しているかがわからない。このとき、上司が「これで良い」という文言に、自分の感情を表現する絵文字を1つ加えるだけでメッセージの曖昧さは大幅に減らせるのである。
今回のチームワーク調査の結果を見ると、ナレッジワーカーの65%は、メッセージのトーン(口調)や雰囲気を視覚的に表現する目的で絵文字を使用しているようだ。

【図版内翻訳】ナレッジワーカーの65%は、メッセージの口調や雰囲気を視覚的に表現する目的で絵文字を使用している。資料:アトラシアン
当然のことながら、絵文字に対する評価は、世代間で相応の違いがある。チームワーク調査によると、Z世代(1990年代半ば~2010年代初頭生まれ)のナレッジワーカーは、88%が同僚とのコミュニケーションで絵文字が役立つとしているが、それに同意するベビーブーマー世代(1946年~1964年生まれ)、ならびにX世代(1965年~1980年生まれ)は全体の49%にすぎない。
また、絵文字の中には多義的なものもあり、2つの相反する意味を持つ絵文字を職場で使うのには一定のリスクがある*1。ゆえに、自分の周囲が絵文字文化に慣れるまでは「顔文字」や「親指のアップ/ダウン」から使用を始めるのが無難だ。
テクニック② メッセージを明快にする
以上のとおり、絵文字は自分の感情を表現したり、メッセージを目立たせたりするうえで非常に便利なツールだ。ただし、テキストコミュニケーションにおいて、自分の伝えたいこと、伝えるべきことを意図どおりに伝えるうえでは言葉の使用が必須となる。ゆえに、文章を使って情報を的確、かつ明快に伝えなければならない。それを行ううえでの重要なポイントは以下の3つだ。
【1】伝える情報量と相手のことを考慮する:例えば、コミュニケーションのスタートポイントでは、プロジェクトにおけるマイルストーン達成だけを伝えれば良いにもかかわらず、達成の背景までを詳細に語ろうとしてはならない。
【2】コンテキストを提供する:「きみに話がある」という誤解を受けやすい文言も「何を話題にしたいか」のコンテキストを明示するだけで大きく改善される。仮に、話し合いたい内容がシビアな場合でも、例えば「直近四半期の業績の低調さについて話し合いたい」といったかたちでコンテキストを明確にすれば、相手は不安を感じつつも、少なくとも議論に備えることが可能になる(結果として、議論もより生産的になる)。
【3】自分の心境、あるいは感情を明確に伝える:繰り返すようだが、文面は誤解や混乱を生みやすい。ゆえに、文面の中で、自分の感情をうまく表現することが大切である。例えば、「あなたのこの修正案には、本当に感心した」といったかたちだ。こうすることで、相手の精神的オーバーヘッドを低減させることができる。
テクニック③ 適切なコミュニケーションツールを選ぶ
先にも触れたとおり、テキストコミュニケーションの手段として最も一般的に活用されているのはメールだ。だが、メールを使うのが常に正しい選択であるわけではない。例えば、チーム内での議論にメールを使うのは不適切であり、その場合には、チャットなどを選ぶべきである。
一方で、複雑な問題やプロセスを説明したいのであれば、チャットを使うのは適切ではない。このような場合には、図版や画像、あるいは動画などを埋め込んだ文書を作成し、共有するようにしたほうが良いだろう。
さらに良い方法としては、アトラシアンの「Loom」*2のように、非同期型の動画コミュニケーションを実現するツールを使用したり、会議(Web会議やリアルな場での会議)を催したりするといった手段が挙げられる。ただし、会議は時間の浪費につながるリスクが大いにあるので注意が必要である*3。
ちなみに、アトラシアンの社内調査*4によると、Loomを使って動画メッセージを発信・更新していくことは、マネージャーと従業員とのつながりを強めたり、認識を共有したりするうえで、テキストメッセージの発信・更新よりも効果的であるという。というのも、動画メッセージでは、ボディランゲージなどを通じて自分の立場や感情を的確に表現できるからだ。これは、難しい知らせを伝える際に特に有効である。
ハイパフォーマンスチームに学ぶ
精神的オーバーヘッドを賢く避ける方策
本稿の最後として、ハイパフォーマンスチームがどのようにしてテキストコミュニケーションを行い、精神的オーバーヘッドを回避しているかについて触れておきたい。今回のチームワーク調査を分析したところ、ハイパフォーマンスチームには以下のような共通点が見られている。
- メールをデフォルトのコミュニケーション手段としていない傾向が強い
- メッセージに明確さ、詳細さが求められる場合には、テキストコミュニケーションを好んで使う傾向がある
- 職場では感情を表現することが奨励され、メンバー全員が互いのつながりを強く感じている
- 絵文字の活用が企業文化の一部となっていることが多い
以上の特性から、ハイパフォーマンスチームのメンバーは、メッセージの解釈やマネージャーの意図の把握に費やす時間が少ない。つまり精神的オーバーヘッドが極めて低いのである。
このように、テキストコミュニケーションを適切に行うことは、あなたと同僚、上司のストレスを低減させ、それぞれの生産性を高めることにつながる。結果として、あなたは「一緒に働きたい人」として高い評価も獲得できるだろう。ゆえに、「笑顔」の絵文字を遠慮なく使い、良い雰囲気を保つようにしていただきたい。

