アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのケリー・マリア・コルダッキー(Kelli María Korducki)が、職場に継続的に学習する文化を築く方法について説く。
本稿の要約を10秒で
- 「適応力」は、変化の激しい不確実な時代に組織・チームが勝ち残るための必須の能力である。
- 組織・チームの適応力を高めるためには継続的に学習する精神を組織・チームの文化として根づかせる必要がある。
- リサーチにより、従業員の継続的な学習(=スキルアップ)に投資する企業は他よりも利益率や従業員の定着率が高いことが判明している。
- 本稿では、継続的に学習する文化を築くための方策を識者の見解をベースに紹介する。
組織・チームの「適応力」を育むために
変化の激しい今日のビジネス環境においては、会社組織で働くチームの「適応力」を育み、高めることがきわめて重要だ。 とはいえ、適応力のあるチームは自然に生まれるものではない。継続的に学習すること、すなわち学び続けることをチームのバリュー(価値観)、ないしは文化とすることが適応力の獲得、強化につながるのである。
ここで改めて確認しておくが、適応力とは「変化に対応して方向転換する能力」、あるいは「困難に柔軟に対応し、新たな課題に正面から取り組む能力」を指している。言い換えれば、適応力とは「不確実性を受け入れ、俊敏に学び、プレッシャーの下でイノベーションを引き起こせる能力」であるということだ。そして、この能力を持ったチームは「レジリエンス(=困難や脅威に柔軟に対応し、回復する力)」という、変化の激しい市場で競争優位を確保するのに不可欠な能力を自ら育むことができるのである。
ちなみに、オンラインメディア「International Journal of Information Management」が発行した、あるリサーチレポート(参考文書(英語))によると、昨今の複雑で不確実な経済状況においては、イノベーションとレジリエンスの2つが組織の継続的な繁栄もたらす重要な要素であり、両者は密接に関連しているという。
このリサーチは、スペインに居を構える343社のサービス事業者を対象にしたものだ。同リサーチへの回答を分析したところ「変化する顧客ニーズに対応するために戦略を調整する柔軟性」と「市場の激しい変動を乗り越える能力」との間に直接的なつながり(=正の相関関係)があることが判明したという。また、これら2つの能力が高い組織は、新型コロナウイルス感染症の流行を境にしたデジタル化の急速な流れに適応する能力も高かったようだ。
以上をまとめると、適応力のあるチーム、あるいはそのメンバーは、予期せぬ問題への対処・対応をはじめ、新技術の取り込みなどを適切に行い、会社組織全体の成長・発展に寄与できるということになる。
このように組織の成長・発展に貢献できる人材を育成するうえでは、まずは、組織・チームとして何を最も優先すべきかを示す明確なビジョンと価値観、指針(参考文書(英語))を持つことが重要となる。
そのうえで組織・チームのリーダーは、自分たちが掲げる指針のもとで、あらゆる変化を受け入れ、それをチャンスに変えようとする「柔軟なマインドセット」(参考文書(英語))の模範を、自らの行動で示す必要がある。そして忘れてはならないのは、真の「ゲームチェンジャー」とは何かを理解しておくことだ。それは、組織・チーム、あるいは会社における組織文化のコアとして継続的学習のスピリットを浸透させ、従業員各人の適応力を強化することなのである。
継続的学習が適応力とイノベーションを促進するメカニズム
■継続的学習とモチベーション■
ギャラップ(Gallup)社のレポート(参考文書(英語))によると、従業員のスキル開発(=継続的な学習)に投資する企業は、そうしない企業によりも利益率が11%高く、従業員の定着率が2倍高いという。
こうした継続的学習の効果、意義について、社員教育コンサルティング会社To Eleven (参考文書(英語))の共同創設者であるジュリア・フェラン(Julia Phelan)氏は次のように述べている。
「従業員のスキルアップ(継続的学習)に時間と資金を割くことは、従業員たちに『自分たちには価値があり、成長の可能性がある』ということを明確に伝えるメッセージになります。そして、自分の価値と成長の可能性への理解は、従業員各人がリーダーシップを発揮し、成長の機会を探求しようとする意欲を向上させます」
以上のように、継続的学習への投資には、従業員の生産性や業務効率、あるいは所属組織に対する貢献意欲(エンゲージメント)を高めたり、自己肯定感を持たせたりする効果がある。
従業員に自己肯定感を持たせることのメリットについて、AIベースの学習支援プラットフォーム「StudyX」(参考文書(英語))の創設者であるアレックス・リー(Alex Li)氏は次のように指摘する。
「学習による自己肯定感によって、従業員たちは変化や挑戦に果敢に取り組むようになります。それは従業員自身に利益をもたらすだけでなく、企業が市場の変化に適応するための重要な原動力になります」
■学習とリーダーシップ開発■
従業員の継続的な学習、あるいはスキルアップに努める組織は、次代を担うリーダーを育成する能力も高い。
この点について、eラーニングプラットフォーム「Intellek」(参考文書(英語))のマーケティングマネージャー、リッチ・マセロ(Ricci Masero)氏は「従業員のスキルアップに熱心な組織は、従業員の定着率が高く、より革新的なリーダーを生み出す可能性が高いといえます。組織内で育成したリーダーは、組織の文化や業務を深く理解しており、その成長は周囲にプラスの刺激を与えます」と語る。
また、オンラインゲームズ(Online Games/参考文書(英語))社CEOのマリン・クリスチャンオビデュ(Marin Cristian-Ovidiu)氏は、継続的学習の文化はリーダーシップ開発を促進し、組織に優位性をもたらすとしている。同氏は「継続的な学習を通じて、組織の文化、価値観、課題について深く理解している人がリーダーへと昇進・昇格することは、組織の適応力を高めることにつながります」と説明し、そのうえで「組織における真の適応力は、既存の人材に投資することで築かれるのです」と続ける。
加えて、AI機能を備えたセールスプラットフォーム「Salesforge」(参考文書(英語))の創設者であるVフランク・ソンドア(V. Frank Sondors)氏は、組織的な基盤を強化するためにも、組織内部でリーダーを育成することが重要であると説く。
同氏は「継続的な学習を通じた従業員の昇進は、会社の価値観やプロセスに対する深い理解をもたらし、オンボーディングの時間を短縮するほか、従業員の定着率を高めるという効果があります」と語り、続けて「実際、私のチームの中にも、ジュニアセールスという役職からスタートし、リーダーシップ研修のプログラムを経てトップマネージャーになった人間がいます」と明かす。
さらに、非営利のコンサルティング会社ロス・コレクティブ(The Ross Collective/参考文書(英語))の創設者であるレニー・ルービン・ロス氏は「人材の開発と教育のイニシアチブは人員の獲得と定着に不可欠な要素です。人材の獲得と定着率の面で優れた組織は、人材の開発・教育・成長に熱心な『働きやすい職場』として認識されることを望んでいます」と述べている。
継続的な学習の文化を築く方策
前出のマセロ氏によれば、継続的な学習を通じて従業員たちが新しいアイデアやスキルに定期的に触れることで、各人の「学びの俊敏性(ラーニングアジリティ)」を高めることができるという。同氏は「学びの俊敏性とは、新しい概念をスピーディに理解して自身の業務やビジネスに適用する能力を指していて、それはきわめて重要な能力です。なぜならば、テクノロジーの進化・発展・変化が激しい今日では、組織における自身の役割をこなすのに必要なスキルが予兆なく変化する可能性が高いからです」との説明を加える。
いうまでもなく、こうした学びの俊敏性を育むためには、継続的な学習の文化を築くことが必須となる。では、どうすればその文化を築くことができるのだろうか──。
以下では、組織・チームのリーダーに向けた識者によるアドバイスをもとに、継続的学習の文化を築くための方策を紹介する。
●キャリアアップへの道筋を明確にする
・「従業員たちは、自身のキャリアアップや成長の道筋を明確にしたいと望んでいます。ゆえにリーダーは、従業員各人と、それぞれのキャリアアップに必要とされるスキルについて話し合い、それらを向上させる取り組みと、組織・チームの目標とを一致させることが大切です。併せて、従業員各人が学習の機会を有効に活用する方法を知っているかどうかも確認しておくと良いでしょう」(フェラン氏)
・「リーダーは、従業員各人の昇進・昇格につながる学習のパスを明確に示さなければなりません。学習が昇進・昇格につながることを理解すれば、従業員たちは、より積極的に学びに取り組むようになります」(マセロ氏)
●リスクテイクを定常化させる
・「That VideoGame Blog」(参考文書(英語 ))の創設者であるデーン・NK(Dane Nk)氏は、リスクをとって何かに挑むことを奨励し、定常化することが、従業員の継続的な学習と成長につながると説き、組織・チームのリーダーに向けて次のようにアドバイスする。
「会社組織における学習は、『座学』だけとは限らず、何らかの新しいことに挑み、失敗し、そこから多くを学ぶことも重要な学習です。ゆえに組織・チームのリーダーは、従業員たちが『実験』とその失敗に対する『反省、振り返り』を安心して行える環境を整えて、それぞれの創造性と長期的な問題解決スキルを育むことが大切です」
・「継続的学習の文化を築きたいと願うなら、組織・チームのリーダーは、リスクを冒し、新しいアプローチを試みる人を、成功しなくても認めるべきです」(マセロ氏)
●知識の共有を促進する
・学習支援のサービスを提供しているアカデマイズド(Academized)社の人事マネージャー、サラ・スパロウ(Sara Sparrow)氏は「従業員による継続的な学習を促進するうえでは、学習のエコシステムやメンターシップ、クロスファンクショナルプロジェクトといった、新しいことを学べる場、あるいは知識共有の機会を積極的に提供することが大切です」と説いている。
・「メンターシッププログラムを提供し、定期的な知識共有セッションを開催することで、従業員による継続的な学習が促進されます」(ソンドア氏)
・カスタムコーチングのサービスを提供しているクリフトン(CLIFTON/参考文書(英語))社の創設者兼オペレーションディレクターであるサイモン・エリオット(Simon Elliott)氏は「継続的な学習を定着させたいのであれば、部門横断的なプロジェクトやジョブシャドウイングを促進し、従業員に新しい視点、アイデアに触れる機会を提供することが大切です」と述べている。
いずれにせよ、従業員による継続的な学習、すなわち人材の開発に投資する組織は、変化や問題に対する高い適応力とレジリエンスが獲得できる。またそればかりではなく、未来に自信を持って臨むことのできる人材を数多く育むことも可能だ。ぜひ、本稿の内容を参考にしながら、継続的な学習の文化を築いていっていただきたい。