アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのカット・ブーガード(Kat Boogaard)が、過去の事例をもとにしながら、最高のチームワークを実現する10の方策について説く。
本稿の要約を10秒で
- 最高レベルのチームワークには、どのような困難も乗り越えてしまう「魔法のような力」がある。
- チームワークのレベルを高めるためには、相応のスキルと努力の積み重ねが必要とされる。
- 本稿では、チームワークの成功例や失敗例にもとづきながら、最高レベルのチームワークを実現するための10の方策を紹介する。
最高のチームワークは日常的に生み出せるのか?
チームワークが最高レベルの状態にあるとき、チームは「魔法のような力」を発揮する。また、メンバー同士の息がピタリと合い、何の努力をしなくても一緒に進歩していけるようにも感じられる。
そうしたメンバー同士の相乗効果を意図的に生み出すのは簡単ではないが、不可能ではない。チームワークを強化するのに必要なスキル、ないしは方策を理解することで効果的なコラボレーションの基礎を形成し、「夢のようなチームワーク」(参考文書(英語))を日常的なものへと変えることができるのである。
以下、そのための10の方策を紹介する。
方策① チームの足並みをそろえる
ある研究結果(参考文書(英語))によると、「組織的なアラインメント」のレベルが高ければ高いほど、業績が良く、市場での競争優位を確立できる可能性が大きくなるという。
ここでいう「組織的なアラインメント」とは「組織(チーム)の足並みがそろっていること」を意味し、チームを構成するすべてのメンバーが、以下の事項を理解し、同意している状態(参考文書(英語))を指している。
- 目標:チームの目標は何か。
- 役割:目標を達成するためにチーム内の誰が何を担うのか。
- 成功の基準:何をもって目標が達成されたかどうかを判断するのか。
- スケジュール:目標を達成する期限はいつか。
これらの事項に対する理解と合意が、最高のチームワークを生む原動力になることは、米国のNASA(National Aeronautics and Space Administration:アメリカ航空宇宙局)がすでに証明している。
NASAは1969年、人類初の月面着陸を成功させたが、そのプロジェクトには40万人を超える技術者や科学者が関わっていた(参考文書(英語))。その全員が「どの国よりも早く人類を月面に降り立たせ、地球に無事帰還させる」という大目標に向けて、それぞれが担うべき役割に集中して取り組んだのである。
方策② チーム目標の具体化
1969年におけるNASAの偉業(=月面着陸)を少し調べると、すべての始まりはジョン・F・ケネディ元大統領による具体的な目標の提示(以下参照)にあったことがわかる(参考文書(英語))。
「この国(アメリカ合衆国)は、今世紀(20世紀)が終わる前に、この大胆な目標を達成することを誓わなければならない。それは、人を月に着陸させ、地球に無事帰還させることだ」
おそらくチームリーダーの大多数は「自分のチームのメンバーは、全員が自分たちの目標や自分の成すべきことをしっかりと理解している」と考えているだろう。
ところが現実はそうではない。チームで働く多くの従業員は「自分のチームが何を目指しているのか」「チーム目標の達成に向けて自分は何をすべきか」を明確に理解していないのだ。Gallup社の調査によれば「自分は仕事で何を期待されているか」について深く理解している従業員は全体の半数以下(=47%)に過ぎないという(参考文書(英語))。
このような状況を打開するには、チームレベルと個人レベルの目標を明確にすることが大切である。また、いくつかの調査によれば、チームとメンバー各人の目標の明確化は「チーム全体のパフォーマンス向上」(参考文書(英語))や「自分はチームとつながっている」というメンバーの意識を強める効果(参考文書(英語))が期待できるという。
【チームでの実践方法】
- Team Playbookにある「OKR(Objectives and Key Results :目標と主な成果)」プレイ(参考文書(英語))や、目標設定フレームワーク(ゴールフレームワーク)「SMART」を使用して明確で具体的な目標を設定する。
- Team Playbookにある「Team Goals, Signals, and Measures(チームの目標、シグナル、測定)」プレイ(参考文書(英語))を実行し、目標と成功指標をチーム全員で定義する。ある調査によると、目標設定のプロセスにチームの全員を関与させることで、目標を達成しようとする意欲が高まり、取り組みが強化されるという(参考文書(英語))。
- 目標達成に向けたマイルストーンとチェックポイントを設定し、進捗の状況をモニタリングしながら、必要に応じて軌道修正を行う。
方策③ コミュニケーションを良好に保つ
優れたコミュニケーション能力は、チームワークの効力を上げるうえで不可欠な要素だ。その逆に、メンバー同士の意思疎通に難があれば、チームワークを良好に保つことは難しくなる。
ところが残念なことに、メンバー各人の「偏見」や「コミュニケーションスタイルの差異」、さらには「語彙の違い」など、チーム内のコミュニケーションを狂わせ、コラボレーションを妨げる要因はさまざまに存在する。ゆえに、チーム内のコミュニケーションを良好に保つには相応の努力を払ったり、工夫を凝らしたりすることが必要になる。
コミュニケーションの重要性を示すチームワークの代表例は「Mars Climate Orbiter(火星気候探査機)」(参考文書(英語))のケースだ。
この探査機は、航法エラーによって火星の大気圏で燃え尽きてしまったが、そのエラーの原因は、米国における縮尺の単位をメートル法に変換しなかったことにあった。このような誤りは、チームのメンバー同士がより効果的にコミュニケーションを取っていれば起こりえないものである。そして、そのミスがなければ、ミッションの結果はまったく異なるものになっていたはずである。
【チームでの実践方法】
- 自分の意見を述べる前に、コミュニケーションのテーマを相手が本当に理解しているかどうかを確認するために「アクティブリスニング」を心がける。
- リーダーとして、自身のコミュニケーションスキルを向上させるために時間と労力を費やす。ある調査によると、リモートワーク、ないしはハイブリッドワークで働く従業員のおよそ3人に1人(30%)が、上司の不明瞭なコミュニケーションに苛立ちを感じているという(参考文書(英語))。
- 特定のコミュニケーションチャネルを使用すべきタイミングを明確に定めるなど、チーム内のコミュニケーションをより効率的で有効なものにするルール、規範を設定する。
アクティブリスニングとは何か?
アクティブリスニングとは、相手の話に全神経を集中させながら耳を傾けることを指している。その目的は、相手の話を徹底して理解し、内容を記憶することにある。
「アクティブ(能動的)」というワードからもわかるとおり、この行動には自発的な努力が必要とされるが、相手への理解が深まり、自分に対する相手の信頼感を増し、より良い人間関係が築けるというメリットがある。
方策④「エモーショナルインテリジェンス(感情知性)」を育む
ある研究(参考文書(英語))によると「前向きで進歩的、かつ効果的な職場環境を築くには、チームのメンバーが技術的知識と高度なエモーショナルインテリジェンス(感情知性)を兼ね備えている必要がある」という。
ここでいう「エモーショナルインテリジェンス」とは、以下のような要素(能力)によって形成される知性を指し、その高低を測る指標は「心の知能指数(Emotional intelligence Quotient)」と呼ばれている。
- 自己認識:自分の気分を正確に把握し、それが他者にどのような影響を与えるかを理解できる能力
- 自己制御:相手の言動に反応する前に、一呼吸おいて自分の感情をコントロールできる能力
- 動機づけ:仕事における自分の原動力(給与以外のもの)を理解できる能力
- 共感:他者の感情を認識して理解、共感できる能力
- 社交性: 相手に対する感情的理解を生かして、より強固な人間関係を築くことができる能力
上記の能力を土台にしたエモーショナルインテリジェンスをより簡単にいえば「他者の感情的な本質を理解し、その理解を他者との関わりの中で有効に活用できる知性」となる。
この能力が、最高レベルのチームワークを実現するうえでいかに重要かを示す好例として「USエアウェイズ1549便」のケース(参考文書(英語))が挙げられる。
2009年1月、155人の乗員・乗客を乗せた同機は、機体にトラブルを発生させ、空港への着陸が不可能となった。それでも同機はハドソン川に無事着水し、乗員・乗客全員の生還を果たしたのである。この成功の大きな要因は、チェルシー・B・サレンバーガー三世(Chesley B. Sullenberger III)機長(通称「サリー(Sully)機長」)と副操縦士、客室乗務員、航空管制官が、極度の緊張を強いられる中でも、それぞれの知見と技術力、そしてエモーショナルインテリジェンスをフルに活用して冷静さを保ち、乗客を落ち着かせて安全を確保したことにあった。
【チームでの実践方法】
- チームの全員に「自分自身の扱い方」を示した「パーソナルユーザーマニュアル」を作成し、全員と共有するよう促す。このマニュアルに「自分のワークスタイル」「好みのコミュニケーションスタイル」といった情報を記しておくことで、チーム内の他者が自分を理解する手間と時間を低減させることが可能になる。
- チームの全員に対して、自己分析のための手法である「ジョハリの窓(Johari Window)」(参考文書(英語))を実践するよう促す。これは、自分がチーム内の他者からどう見られているかを理解するうえで有効な手法だ。
- 自分自身と自分の仕事をより深く、より総合的に理解するために「360度フィードバック」(参考文書(英語))を周囲に求める。
- チームミーティングを始める際に、その日の出来事を一言で表現してもらったり、その日の気分を表すGIFや絵文字を共有してもらったりして、感情のチェックを実施する(参考文書(英語))。
方策⑤ 心理的安全性を確保する
チームの「心理的安全性」が高い場合、メンバー各人は型破りなアイデアを提示したり、リスクを取ったり、失敗したりしても、批判や叱責を恐れる必要がないと感じる。これにより、前向きで協調性の高いチーム文化が醸成されるほか、チームにおけるイノベーションのスピードや変化に適応するスピードが増すことになる(参考文書(英語))。
例えばGoogleでは、最高レベルのパフォーマンスを発揮するチームの特性を突き止めるべく、膨大、かつ詳細な調査(参考文書(英語))を行った。その結果として彼らは、ハイパフォーマンスチームを支える最も重要な要素として心理的安全性をリストアップした。要するに、お互いに弱みを見せ合えるチームは、他のチームよりも優れた成果を上げていたというわけだ。
そのため、Googleのいくつかのチームは現在、毎回のチームミーティングの冒頭で、メンバー各人が前週に冒したリスクを(それが成功したか否かは問わずに)共有するようにしている。これは、チーム内の誰もが自分の失敗や成功について気軽に話せるようにする有効で簡単な方法といえる。
方策⑥ 意思決定能力を高める
チームメンバーがうまく連携していても、常に順風満帆というわけではない。チームが一丸となって乗り換えなければならないような想定外の事態やトラブルはいつでも起こりえる。そのような事態やトラブルが発生したときに必要とされるのが、速やかで適切な意思決定を下せる能力だ。
この能力がすばらしい成果につながった好例として、2010年にチリの鉱山で展開された労働者の救出劇がある(参考文書(英語))。
ご記憶の方も多くいるだろうが、この鉱山では崩落によって33名の労働者が地下に閉じ込められた。そのとき、チリ政府と救助チームは、さまざまな救助方法を評価して迅速な意思決定を下すために、エンジニア、地質学者、医療スタッフ、救助隊員から成る統合司令センターを設置した。これにより、33人の鉱山労働者全員が無事救出されたのである。
この救出劇は、問題解決能力と意思決定能力の重要性を端的に物語るものだろう。また、 チームのメンバーが「クリティカルシンキング(批判的思考)」のスキルを身につけていれば、チームは状況を理解したうえで、状況の変化に適応し、迅速な意思決定を行うことが可能になる。
方策⑦ 計画づくりを入念に行う
2016年の「MLB(メジャーリーグ ベースボール)におけるシカゴ・カブスのワールドシリーズ優勝」(参考文書(英語))や2009年に見られた「スターバックスの素晴らしい回復劇」(参考文書(英語))など、チームワークの成功の多くは、入念な計画によってもたらされている。要するに、チームをA地点から最終的な目的地であるZ地点へと導くためには、思慮深い、綿密な計画が必要とされるということだ。こうした計画は、以下のような作業によって形づくられる。
- チームでの対話を軌道に乗せるために、すべてのミーティングにおいて議題を設定する。
- キャパシティプランニングを行い、メンバー全員がお互いのキャパシティを理解できるようにする。
- プロジェクトの計画とスケジュールを立案し、全員が次のステップを把握できるようにする。
- 新しいメンバーに対するトレーニングのプロセスを確立する。
- プロセスとワークフローを特定して標準化する。
これらの作業は、チームの先見性に磨きをかけ、かつ、アラインメントのレベルを高めることにもつながる。そしてリーダーは、チームの全員にすべてを任せてしまうよりも良いが結果が得られる可能性が高められるのである。
【チームでの実践方法】
- 新しいプロジェクトやイニシアティブを始める前に「プロジェクトキックオフ」を催し、目標、マイルストーン、役割を調整する。
- 「プロジェクトポスター」を作成して、問題とプロジェクトの範囲を定義し、その情報をチーム内の誰もが見られる場所に保管するようにする。
方策⑧ 「健全な対立」を受け入れる
強固で効果的なチームワークは「ハイタッチ」や「ハッピーアワー」だけでもたらされるものではない。また、チームのアラインメントレベルを高め、エモーショナルインテリジェンスを働かせていても、チーム内でのメンバー同士の対立を100%回避することはできないといえる。
とはいえ、チームにとって対立は絶対的な悪ではない。対立する両者が相手に対し敬意をもって接しようとしている場合(参考文書)、意見の衝突は建設的でクリエイティブなものとなりえる。
例えば、1787年、米国では政府システムが急速に悪化し、各州から聡明な議員たちが集まり、新しい政府システムをどう構築するかの会議が催された。この会議では激しい口論が続いたとされるが、その対立は徐々に「妥協によって個人的なエゴや各州の利益を捨て、集合体であるアメリカ合衆国を築き上げなければならない」という意識へと変容していった。そして最終的に重要な成果をもたらした。それは「アメリカ合衆国憲法」である。
このように、チームにおけるメンバー間の意見の相違は、メンバー各人に「困難な状況への対処方法」や「お互いの意見に集中して耳を傾ける機会」を与え、これまでとは異なる視点から物事をとらえるよう促す。
その結果として、物事に対するメンバー各人の理解度と関与度が高まり、かつ、コミットメントの意志とチームの結束が強まることがよくあるのだ。
方策⑨「インクルージョン」を実践する
これまで、人材のダイバーシティ(多様性)によってチームのパフォーマンスを向上させる方法について数々の研究が行われてきた(参考文書(英語))。
ただし、ダイバーシティによる恩恵を真に享受したいのであれば「インクルージョン(包括・包摂)」の努力を払うことが必須となる。要するに、ダイバーシティのコンサルタントであるバーナ・マイヤーズ(Vernā Myers)氏が指摘するように「多様な人をダンスパーティーに招待するだけではなく、ともにダンスする必要がある」というわけだ(参考文書(英語))。
ここでいうインクルージョンとは、例えば、チームの全員が、それぞれの人種、性別、文化的背景、視点、アイデアとは関係なく、歓迎され、サポートされ、大切にされていると感じられることを意味する。
こうしたことは、多様な人をチームに配置するだけで自動的に実現されるものではない。インクルージョンの実現に向けては、チームのメンバー各人が常に敬意をもって同僚と接し、自分とは異なる考えや視点を積極的に取り込み、生かそうとする努力を払わなければならない。その中で、多様な人材がチームへの「帰属意識」を強めていけば、結果としてチームワークのパフォーマンスと人材の定着率がともに向上していくことになる。
方策⑩「儀式」「習慣」を大切にする
チームにおける「儀式」(参考文書(英語))や固有の「習慣」は、一見すると軽薄で無意味なもののように思えるかもしれない。だが実際には、驚くほど重要なものであり、数万年前の太古の時代より人類が連綿と受け継いできたものでもある(参考文書(英語))。
なぜ、儀式・習慣がそれほど重要なのかといえば、それはチームの団結を強めるからだ。その効果について、ある研究ではこう述べている。
「グループ内で行われる儀式は、個人がグループの仲間との親交を深め、グループ内における自分の立場を再確認し、重要な社会的慣習と文化的知識を身につけて、社会に完全に溶け込むことを可能にする」
こうした儀式・習慣の大切さを示す一例として、NHL(ナショナル ホッケー リーグ)における「プレーオフの髭」(参考文書(英語))がある。
1980年代初頭、NHLのチームの1つニューヨーク アイランダースの選手たちは、プレーオフの期間中、無精ひげを剃らずに4連覇を成し遂げた。以来、この習慣が受け継がれ、今日ではNHLの全チームがプレーオフシーズン中はひげを剃らないでいる。
チームワークはスキル:実現には努力が欠かせない
強力で効果的なチームワークには「魔法のような力」がある。ただし、その力は自動的に発揮されるものではなく、それにはメンバー各人の努力が欠かせない。ここで幸いなのはチームワークがスキルであり、個人もチームも、そのスキルを身につけ、向上させられるという点だ。上に示した10の方策が、読者によるチームワークのスキルアップの一助になれば幸甚である。