アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。アトラシアン シニアインシデントプロセスオーナーのティム・アーヴィング(Tim Irving)が、他者への非難のない健全な組織文化を育む方法について説く。

本稿の要約を10秒で

  • 仕事上での「他者への非難」は、職場の心理的安全性を損なわせ、組織・チームのパフォーマンスに負の影響を与える。
  • 「非難の無い組織文化」は、組織・チームの成功に不可欠な要素であり、リーダーは率先してその構築に取り組むべきである。
  • 本稿では、アトラシアンの原則やベストプラクティスに基づきながら、非難の無い組織文化を醸成するための方法について紹介する。

他者を非難することの罪悪

私は以前の職場で、あるITシステムで起きたインシデントの事後分析会議に参加し、その会議においてステークホルダーの1人がエンジニアリングマネージャーを名指しで責め立てる場面に遭遇した。

そのインシデントは、エンジニアリングマネージャーによるコントロールの及ばないものだった。にもかかわらず、彼を責めたてるステークホルダーのせいで、会議が相当に紛糾したことを鮮明に記憶している。

ITシステムは、サービスの停止といったインシデントの発生を100%回避することがきわめて困難な仕組みだ。ゆえに、エンジニアリングチームの中にあって、インシデントへの対応に当たるチーム(以下、インシデント担当チームと呼ぶ)は、顧客を含むステークホルダー全員とコミュニケーションを取りながら、可能な限り速やかにシステムを復旧するよう訓練されている。ゆえに、社内のリーダーたちは、エンジニアリングチームに信頼を寄せていた。

ただし、上で触れた事後分析の会議に関しては、エンジニアリングチームとステークホルダーとの信頼関係にひびが入った。本来、インシデントは学習の機会にすべきものだ。だが、その会議では皆がそのことを忘れ、単なる責任のなすり合いに終始することになった。このとき、インシデント担当チームにいた私は、エンジニアリングマネージャーを擁護すべきだった。ただ、彼を責め立てるステークホルダーが会社の幹部であったことから、それができなかったのだ。

こうした出来事は「非難の無い組織文化」の大切さを端的に物語るものだ。心理的安全性が担保された、非難の無い組織文化のもとでは、個人やチームは、情報の透明性を確保しながらインシデントへの対応を図ることができる。たとえ、間違ったコマンドを実行して何らかの問題を引き起こしてしまったとしても、非難の無い組織文化があれば、恐怖心から問題を隠蔽(いんぺい)して事態を悪化させてしまうようなことは避けられるのである。

非難が無いことの重要性

私は現在、アトラシアンのエンジニアリングチームでシニアインシデントプロセスオーナーを務めいる。日々の作業としてインシデントによる負のインパクトを最小限に抑えたり、「インシデントの事後レビュー(Post Incident Review:PIR)」を行ったりしている。

このような仕事において「他者の失敗、ミスを非難しないこと」は「正しい行動」であると同時に、チームの成功に不可欠な要素でもある。また、「他者を非難しない姿勢」と情報の透明性、そして心理的安全性の確保は、私たちのようなエンジニアリングチームだけでなく、あらゆる組織・チームに恩恵をもたらすものである。逆に、それらの確保を大切にしない組織・チームは、相当の代償を支払うことになる可能性が高い。

この点について、アトラシアンのモダンワークエバンジェリストであるマーク・クルス(MarkCruth)は「ハイパフォーマンスのチームに共通する資質は心理的安全性です」と指摘している。

実際、アトラシアンではこれまで、膨大な時間をかけて「ハイフォーマンスで健全なチームを生み出す力の源(みなもと)」に関する調査・研究を重ねてきた。その結果においても常に上位にランクされてたきたのも心理的安全性である。

このように考えると他者への非難は、非難した瞬間に負のインパクトを組織・チームに与えるだけでなく、組織・チームの心理的安全性を低下させて進歩を妨げ、文化に大きなダメージを与える可能性が大きいといえる。そして、KPIの達成率など、データ上の指標やシグナルに反映されないかたち(つまりは、目に見えないかたち)で組織・チームを蝕(むしば)んでいくのである。

実際、エンジニアリングチームがインシデントを発生させたことへの非難を強く受けると、インシデントの中身に対する正確な理解や分析が難しくなる。というのも、誰もが非難を恐れて詳細を隠蔽するようになるからだ。この隠蔽によって、インシデントの時系列が曖昧になり、事態の因果関係が分からなくなる。結果として、因果関係の「仮説」を立てざるをえなくなり、PIRが正しく行われなくなるのだ。

こうした負の連鎖についてマークは次のように述べる。

「組織・チームのメンバーが(周囲からの非難を恐れて)自身の意見やアイデア、懸念を口外しようとしなくなると、最高のアイデアが隠されたままとなります。これにより、最高の成果を手にできなくなる可能性が大きくなるのです」

非難の無い組織文化を育むために必要なこと

私はいま、アトラシアンにおける行動規範やベストプラクティスを活用しながら、非難の無い組織文化の醸成と維持に努めている。というのも、アトラシアンの行動規範やベストプラクティスは、健全な組織文化を醸成するうえで非常に有用であるからだ。以下では、そのいくつかを紹介したい。

企業価値観に「非難の排除」を組み込む

アトラシアンにおけるすべての企業活動は、以下に示す5つの「コアバリュー(価値観)」に基づいて行われている。

  • オープンな企業文化、デタラメは無し(Open company, no bullshit)
  • 心を込めてバランスを創る(Build with heart and balance)
  • 顧客をないがしろにしない(Don’t #@!% the customer)
  • チームとして動く(Play, as a team)
  • 自分自身が変化の原動力になる(Be the change you seek)

これらの価値観はビジネス、製品開発、ブランド、組織運営のすべてに適用され、その運用のあり方は会社の成長とともに成熟度を増している。

もちろん、日々の業務の中で、これらの価値観を常に実践するのは簡単ではない。ただし、私たちはそれが簡単だから遂行しているのではなく、正しいから行っているのである。

アトラシアンにおけるビジネス、あるいは業務の現場では、働く各人が会社の価値観を体現すべく「ありのままの自分」を仕事に持ち込むよう努めている。

そして「失敗やミスは人間の常(つね)である」という共通認識のもと、失敗、ミスを学習プロセスの一部に組み込んでいる。つまり、アトラシアンの社員たちは、全員が「人間とともに働く以上、顧客に素晴らしい製品や体験を提供する過程で、相応の障害に直面するのが当たり前である」と認識しているわけだ。そして、他者の失敗・ミスを非難することよりも、そこから学ぶことを優先しているのである。

このように他者を非難しない姿勢が、アトラシアンの5つの価値観にどのように組み込まれているかを以下に示す。

  • オープンな企業文化、デタラメは無し
    オープンであることは、アトラシアンの根源にある価値観だ。それを体現すべく、アトラシアンのチームでは、すべてのメンバーが建設的に、かつ客観的に物事を学べるよう、メンバー各人のポジティブな面もネガティブな面も思いやりを持って受け入れている。
  • 心を込めてバランスを創る
    アトラシアンのチームでは、メンバー各人が「真の成功とは何か」について、非難への恐れなく、思慮深く、そして長期的な視点のもとでとらえようとしている。こうした長期的な視点で物事をとらえることで、万が一、自社のITシステムでセキュリティ侵害のインシデントが発生しても、インシデント担当チームが、脅威の所在を早期にとらえ、被害の拡大を速やかに防げるようになる。結果として、自社のITシステムがより強靭になり、IT人材の育成も進むのである。
  • 顧客をないがしろにしない
    自社の製品に関して、問題が起こる前にその発生を回避することは、顧客に最高のサービスを提供する方法の1つだ。アトラシアンのエンジニアリング部門では、他者を非難しない組織文化と情報の透明性によって、製品における問題発生の兆候を逃さずとらえ、問題へのプロアクティブな対応を可能にしている。
  • チームとして動く
    他者を非難しない姿勢や心理的安全性は、メンバー各人の働きやすさを増すだけでなく、チームの結束力を増す原動力としても機能する。
  • 自分自身が変化の原動力になる
    チームリーダーには、非難の無い健全な組織文化をチーム内で育む権限と責任がある。アトラシアンのチームリーダーには、そのことを認識し、非難の無い組織文化の醸成に率先して取り組むことが求められている。

透明性の確保を優先させる

組織・チームにおける透明性の確保は、インシデントへの対応を担ううえで非常に重要だ。また、それ以外の、いかなる業務を担うチームにとっても情報の透明性は大切であり、それがチームの成長につながっていく。

例えば、失敗やミスについて、すべてを包み隠さずオープンにすれば、誰もがその失敗・ミスがなぜ起きたかを知り、理解できるようになる。

その理解は、失敗・ミスをどう回避すれば良いかの知見へと転換される。そして、透明性の高い職場では、そうした知見がどんどん蓄積されていき、結果として、組織の規模が拡大して提供する製品が増えたとしても、起こりうる失敗・ミスを防ぐための準備が適切に行えるようになる。実際、アトラシアンでは、組織の規模がハイペースで拡大し、製品の数も増え続けてきたが、その中で、新たに獲得した知見を生かしながら、起こりうる問題への適切な備えができるようになっている。

このような成果を手にするためにも、他者への非難の無い組織・チームを築き、以下のような透明性を徹底的に追求すべきである。

  • 個人から経営陣に至るまで、あらゆるレベルで透明性を確保する。
  • データやレポート、人事決定(採用や解雇)を社内で広く共有する。
  • 組織・チームの活動のすべてを文書化する。
  • 建設的な反対意見を積極的に受け入れる。
  • 困難に直面した場合でも透明性を優先させる。
  • 組織・チームのメンバーから優れたアイデアを引き出し、共有するためのプラクティスを実践する。前出のマークは、そのプラクティスとして、アトラシアンの「Team Playbook」にある 「破壊的ブレーンストーミング」プレイの活用を推奨している。
  • 定期的に振り返りを行い、チーム内の心理的安全性レベルを評価する。その評価を行う際には、Team Playbookの「チームヘルスモニター」が重宝する。

透明性の強要を避ける

アトラシアンでは、チームの情報をデフォルトで社内公開し、全社での共有を可能にすることが第一原則になっている。ただし、透明性を確保するという価値観は、リーダーが情報の供出をメンバーに強要し「嫌な人間」になってしまうリスクを内包している。

そのリスクを回避しながら透明性を確保するには、リーダーの「頭脳(何を言うのか)」「思慮深さ(いつ、それを話すか)」、そして「思いやり(どのように話すか)」が必要とされる。

加えてリーダーは、チーム固有の規範や人間関係を考慮することも忘れてはならない。そこで重要になるのが、チームのメンバー各人が互いに敬意を払いながら、効果的に協働(コラボレート)するためのルールを定めることだ。そのための一手として、Team Playbookの「作業合意」プレイを試されることをお勧めしたい。

「いまの課題に対応すること」よりも「正しいこと」を優先させる

企業で働くチームは、自身に対して、以下のような問いかけを定期的に行うことが大切である。

─「将来への備え」という意味において、自分たちはいま、本当に正しいことを行っているのか?
─ 日々の仕事が「喫緊の課題」への対応に終始していないか?
─ 課題への対応のすべてが、傷口に絆創膏(ばんそうこう)を貼るだけの応急措置的なものになっていないか?

こうした問いかけを起点にした組織・チームでの対話を、どのように始めて、どういった結論を導き出すべきかを決めるのはなかなか難しい。

そこでお勧めしたいのがTeam Playbookにある「プレモーテム(事前分析プロジェクト管理戦略)」プレイ(英語)の活用だ。このプラクティスを実践することで、心理的安全性が確保された環境の中で、自分たちの将来を自由に展望し、かつ、発生の可能性のあるリスクに備えることが可能になる。

アトラシアンのエンジニアリング部門では、各チームが報告したITシステムの潜在的な問題(=潜在リスク)を吟味して社内のオフィシャルな記録として登録し、誰もが追跡できるようにしている。この仕組みは、各チームの独力では簡単に発見、解決できないような潜在リスクを提起するためのソリューションとして有効に機能している。

つまり、アトラシアンのエンジニアリング部門では、深刻な潜在リスクを誰もが提起でき、組織全体で共有できるわけだ。また、提起された問題をどう扱うかの意思決定は、適切なレベルの権限を持つ人間が下せるようになっている。

このリスク管理のやり方は、問題を隠蔽するのとは真逆のプロセスといえるだろう。

今日の時点で優先事項ではない問題も、翌日には緊急事態へと発展しかねない。ゆえに、重大なインシデントに発展する可能性のある、あらゆる問題(たとえそれが些細な問題に思えても)をオープンにし、関係者全員と共有することが大切である。

なかには、それを不快に感じる人もいるだろう。また、自分のチーム・組織に波風を立てたくないなら、些細なことに思える問題はすべて無視してしまったほうが簡単で楽である。ただ、そのような安易な道を選ぶことで、のちに取り返しのつかないような事態に見舞われるリスクが膨らむ。したがって、常に長期的な視点を持ってすべての物事をとらえ、対応に当たることが、正しい選択といえるのである。

非難の撤廃という難題との向き合い方

実のところ、他者を非難しない組織文化を維持するのはかなり難しい。

というのも、人間は誰でも、他者への非難につながるバイアスを有しているからだ。このバイアス(あるいは、そのバイアスが引き起こす現象は)「根本的な帰属の誤り(Fundamental Attribution Error)」(参考文書(英語))として知られている。

◾️ 根本的な帰属の誤り(Fundamental Attribution Error):

他者のとった行動の要因を、その人の性格や人格のせいにする(=他者の行動の要因を性格・人格に帰属させる)一方で、自身の行動の要因を、自身のコントロールの及ばない状況のせいしようとする現象(=自身の行動の要因を状況に帰属させようとする現象)。

他者を非難しない組織文化を維持するためには、こうした本能的な現象を強制的に抑え込まなければならない。それはなかなか困難な取り組みだ。

それゆえに、企業の価値観に対する社員の共感、献身を土台にしながら、他者への非難の無い組織文化と徹底した透明性を維持しようとするのは、複雑な事業の運営を担う人間の集団の現実を考えると、少し楽観的な目標設定に思えるかもしれない。

しかしながら、非難無しの目標が100%クリアできないとしても「成績の『Aマイナス』と『Bプラス』とでは雲泥の差がある」とされる(参考文書(英語))。しがって、非難の無い組織文化の醸成に最大限の努力を払いつつ、一方で、完璧さを追い求めるあまり、良い慣習までも排除してしまうようなことは避けたほうが良いといえる。

その点も踏まえて、前出のマークは、非難の無い文化を築く方法についてこう話をまとめる。

「非難の無い文化は、心理的安全性の上に築かれます。そして心理的安全性は、組織・チームのリーダーが、オープンな対話と建設的な反対意見の供出を後押しし、かつ、自らの弱点を率先して公にすることによってのみ確保されます。そして何をするにしても、決して他者を責めてはいけません。重要なのは、何に注意を向けるかです」

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