アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのカット・ブーガード(Kat Boogaard)が、集団的思考を回避するための方法を指南する。

集団思考の「症状」を知る

実のところ、グループによる意思決定の場において、自分たちが集団思考に陥っているかどうかを見極めるのは難しい。また、その場の勢いでグループの全員が何らかの決定に同意したとしても、リアルタイムにはその危うさに気づけず、むしろそれに心地良さを感じたりもする。

とはいえ、集団思考は基本的には害悪である。ゆえに、チームの意思決定が集団思考によって下されたかどうかをしっかりと認識できるようでなければならない。

それを認識するうえで有効なのは、集団思考の“症状”を知っておくことだ。幸いなことに、1972年に集団思考という言葉を造(つく)った心理学者アーヴィング・ジャニス(Irving Janis)氏(参考文書 (英語))は、集団思考の8つの症状を概説してくれている(参考文書 (英語))。以下にその症状を簡単に紹介しておきたい。

  1. 無敵感を抱く:
    自分たちの決定は「無敵」であり、反対意見に侵されたり、傷つけられたりすることはないという幻想を抱く。
  2. 満場一致の幻想を抱く:
    他の意見や見解を聞くことなく、自分たちのあらゆる決定には全員が合意していると思い込む。
  3. マインドガードを張る:
    自分たちの決定に対して、反対意見や否定的な見解を寄せつけようとしなくなる。
  4. 反対意見に圧力をかける(同調圧力をかける):
    自分たちの決定に対して懸念や疑念を口にする人に圧力をかけ、反対意見を封じ込め、同調を促すようになる。
  5. 自分たちの決定を正当化する:
    自分たちの決定に対する否定的な見解を避けようとしたり、無視したり、完全に排除したり、自分たちの決定の合理性を強調して正当化しようとする。
  6. 自己の言動に検閲・規制をかける:
    グループの意思決定に対する自身の貢献よりも、グループの結束を守ることのほうを重視している場合、決定に対する批判的な見解や別のアイデアがあるとしても、それを口にしようとはしなくなる。
  7. 外集団をステレオタイプ化する:
    自分たちの決定に反対する人たちに対して、例えば、「何事にも批判的な見解を示す一群」というレッテルを貼り、その人たちが反対する理由について深く考えることなく、反対者に対する批判的な見方のみをグループで共有しようとする。
  8. 自分たちの道義性に疑念を抱かない:
    集団思考に陥っているグループは、自分たちが疑いようもなく高潔で、原則的で、常に正しいと感じようになる。

集団思考を回避するための3つの方策

繰り返すようだが、あらゆるグループが集団思考に陥る可能性がある。そこで以下では、グループ内での対立を生まずに集団思考を回避するための方策を紹介したい。

まず、方策のベースとして重要なポイントとなるのは「同意(コンセント)」と「合意(コンセンサス)」との違いを理解しておくことだ。その違いについて、アトラシアンでModern Work Coachを務めるマーク・クルス(Mark Cruth)は次のように述べている。

合意は、グループの全員がアイデアに同調することを意味しますが、同意はそうではありません。言い換えれば、同意という概念は、グループ内の誰かが特定のアイデアに対して反対の立場をとることを許容するものであり、特定のアイデアに対してグループ全員の支持をとりつける必要がないことも意味しているわけです。この考え方は、グループが自分たちの仕事に関する実験的な思考法を確立するうえで有効といえます。

こうした観点を踏まえつつ、集団思考を回避するための方策を見ていくことにする。

方策①心理的安全を確保する

心理的安全性とは、グループのメンバー各人が、周囲からの批判や反発を恐れることなく、安心して自分の意見を述べたり、リスクをとったり、大胆な提案をしたりできる心理状態を指している。この状態がグループ内で確保されていると、人は自分の意見を発言しやすくなり、また、積極的に発言するようにもなる。

このような心理的な安心感をグループ内に醸成するための方法としては、以下のようなものがある。

  • グループのリーダーが「民主的リーダーシップ」のアプローチをとり、メンバーたちを意思決定に積極的に参加させる
  • アイデアに対するメンバーからのフィードバックや意見を積極的に募集する
  • グループのリーダーが、自らの失敗や不手際を率先してオープンに共有し、グループのメンバーに自分のミスをオープンにしても責められる心配はないことを示す。また、失敗や問題を脅威ではなく学習の機会として扱うようにする

このほか「匿名で自分の意見や提案を提出できるようにする」というのも、自分の考えを述べることへの心理的なハードルを下げる効果がある。

ただし、この施策を展開するうえでは「匿名でしか自分の意見を発言しようとしない人」を出さないようにすることが大切だ。そのような人が出ることは、グループ内で心理的安全性が十分に確保されていないことの証明であるからだ。

また、クルスは、心理的安全性の確保はそう簡単に成しえるものではないとも指摘し、次のような説明を加えている。

心理的安全性の高い職場を作るうえでは、グループのリーダーによる一貫した行動と注意深さ、慎重さが必要とされます。そのうえで、フィードバックの伝え方や情報共有のあり方などを明確にすることが、グループ内における心理的安全性の醸成、向上につながっていきます。

方策②意思決定のストレスとプレッシャーを最小限にする

ある研究によれば、集団思考は、グループがストレスを感じているときに、より多く発生するらしい(参考文書 (英語))。

実際、グループのメンバーは何らかの決断を下し、前進しなければならないときに相当のプレッシャーにさらされる。そうした状況下では、自分の主張を展開するよりも大勢に従ったほうがはるかに楽であり、そうすることで、より早くプレッシャーから逃れることもできる。結果として、集団思考に流れるというわけだ。特に、グループの全員が問題を早期に解決するソリューションを切望している場合、意思決定のプロセスを長引かせるよりも、集団思考によって速やかに結論を出すほうが(メンバーにとっては)望ましいかたちとなる。

もっとも、グループのリーダーが意思決定のストレスやプレッシャーを和らげる努力を払えば、議論を尽くす時間と心のゆとりがメンバーたちの間に生まれる。そのための方法としては、以下のようなものが考えられる。

  • ブレインストーミングや問題解決、意思決定のための十分な時間をプロジェクトのタイムラインに組み込む
  • グループの全員に、管理が可能で妥当な仕事量を割り当てる
  • 緊急の、あるいは一刻を争う決断の数を減らす
  • どの意思決定が重要かを明確にし、グループのメンバーが意思決定ごとの重要度に応じて自身がどう対応するかを決められるようにする

もちろん、上記のような施策を講じても、意思決定のストレスやプレッシャーが“ゼロ”になることはない。ただし、グループのメンバーが、ストレスやプレッシャーの量を自らマネージできるようになればなるほど、集団思考に陥るリスクは低くなるのである。

方策③独自の考えを持つよう奨励する

グループから集団思考を遠ざけるうえでは、メンバーの全員に自らの頭を使って物事を考えてもらうようにすることが最善の方策といえる。以下に示したのは、メンバーによる自発的な思考を促進するうえで有効と思われる手法である。

ブレインライティング
ブレインライティングは、ブレインストーミングを円滑に進めるための手法の1つだ。ブレインストーミングの参加者が、一定の持ち時間の中で、それぞれのアイデアをライティングし(書き記し)ながら共有し、互いの発想を広げていく手法を指している。通常のブレインストーミングでは対話を通じてアイデアがやり取りされるが、ブレインライティングでは対話ではなく記述によってアイデアの交換が行われる。

ある研究によれば、ほとんどの人は、1人で作業をしているときが最も創造的であるという。ブレインライティングは、そうした人の特性をブレインストーミングの有効性や効率性の向上に生かすための手法であるともいえる。

実際、ブレインライティングに関するある研究によって、人がアイデアを記述しているときに生まれる静かな時間は、より良いアイデアの創出につながることが科学的に証明されている(参考文書 (英語))。

シックスハット法(6つの帽子思考法)
この手法は、色の異なる帽子を使いながら、物事を「事実(情報)」「直感・感情」「創造性」によってとらえたり、「リスク」「ベネフィット」の側面からとらえたりして、思考を押し広げていく手法である。ブレインストーミングに参加するメンバーが、かぶる帽子の色を同時に切り替えながら(=視点を切り替えながら)、思考を広げていく。

全員が同時に同じ色の帽子をかぶるので、集団思考を助長しがちに思われるかもしれない。ただし、シックスハット法の場合、他者のアイデアは自分のアイデアを広げるためのツールに過ぎない。また、シックスハット法では、多様な角度から決定について検討する機会を提供し、さまざまなアイデアを探求することを奨励している。

■反対者の指名
この手法はグループにおける議論の中で、あえて意見の対立を引き起こし、それによって新しい考え方やアイデアを生み出す手法である。

例えば、ブレインストーミングにおける議論中に、参加者の誰かを「反対者」として任命する。任命された人は、他者の意見に質問をしたり、主張の問題点を突いたり、建設的な批判を展開したりする役割が与えられる。

その役割を担うのはなかなか難しく、心地の良いものでもない。ただ、こうして意見の対立を意図的に生むことで、グループによるブレインストーミングやミーティングの場は常に緊張感が保たれ、かつ、メンバーの間で相手への敬意に満ちた異議を唱えたり、建設的な批判を行ったりする文化が育まれる。結果として、新しい着想やアイデアが生まれる可能性も高められるのである。

さらにクルスは、アトラシアンの「Team Playbook」にある「破壊的ブレインストーミング」のプレイを実践することを推奨している。このアイデアの目的は、ブレインストーミングのプロセスに多様性と予測不可能性を付与し、集団思考の発生を未然に防ぐことにある。

方策④間違った結束力の強め方でグループの創造性を阻害しないようにする

グループ内に多様な視点、経験、アイデアを持つことには多くの価値がある。ただし、そうしたダイバーシティの恩恵を享受できるか否かは、既成概念にとらわれない意見や提案、アイデアをオープンに共有できる環境が整えられているかどうかにかかっている。そして、その環境は、グループにおけるメンバー同士の強い信頼関係、ないしは結束力の上で成り立つものといえる。

非常に多くの人が、グループにおける『結束力』を『メンバー全員が同じ考えを持ち、お互いにとって良い人であること』と誤解しています。ただし、職場のグループにおけるメンバー同士の結束力とは、親しい友人や家族に感じる絆(きずな)と同様のもので、たとえ意見の相違があっても、それで他者に対する信頼が揺るがないことを意味します。だからこそ、結束力のあるグループでは、他のメンバーとの意見の相違があるときに、それを抵抗なく相手に伝えられるわけです。言い換えれば、グループにおける結束力とは、メンバー同士の相互理解と思いやりの上で育まれるもので、自分の考えが相手に支持されずとも、理解はしてもらえる、あるいは受け入れてもらえるという信頼のもとで、自分の気持ちを隠さないでいられることを指しているのです。(マーク・クルス)

一方、間違った方向でグループの結束力を強めようとすると、メンバー全員に同じ視点、同じ考え、似たような言動を求めがちになり、それが同調圧力となってメンバーにのしかかるようになる。

結果として、グループのメンバーは、自分の意見やアイデア、懸念、建設的な批判を口にするよりも、大勢に従っていたほうが楽で安全だと感じるよりになる。そして、あらゆる意思決定が集団思考によって行われるようになるのである。

果たして、あなたのグループはどうだろうか。このような集団思考は絶対に起こりえないといい切れるだろうか。ぜひ、いますぐに過去の意思決定プロセスを振り返り、そこに集団思考が働いていたかどうかを点検していただきたい。

This article is a sponsored article by
''.