アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのシャイナ・ローゼン(Shaina Rozen)が「発散的思考」によって斬新のアイデアを生むための方法について説く。

発散的思考の6つの実践手法

以上の要件を満たしたら、次なるステップは発散的思考によるブレインストーミングの実践となる。このとき、発散的思考の実践手法を使用すると、ブレインストーミングをより効率的に、かつ効果的にすることができる。ということで、以下では、下記の例題をもとにしながら発散的思考の実践手法を6つ紹介することにする。

例題:
新しい食料品販売アプリのユーザー登録数が頭打ちになっている。1年以内に登録者数を25%増やしたい。

実践手法①フリーライティング

「フリーライティング」は究極的な自由連想法である。「単語」「短文(フレーズ)」「文章」「図」「落書き」など何でも良いので自分のアイデアを書き記し、また、アイデアを書くときには「スペルミス」「システムをどうするか」「画力」「アイデアの実現可能性」といったことを気にする必要もない。単純に自分の思いついたことを書き記すだけで良いのだ。

さらに、フリーライティングには「正解」もなければ「誤答」もない。要するに、時間的な制約以外の制約は何もないといえる(時間的な制約をかける必要がない場合もあるが、それはごく稀である)。

【実践例】
仕組み化されたフリーライティングに「6-3-5ブレインライティング」と呼ばれる手法がある。

この手法は「6人」がそれぞれ「3つのアイデア」を1枚の紙に順番に書き記していくというものだ。1人の持ち時間は「5分間」。その時間内であればアイデアを何度でも書き直すことができる。そして、アイデアを書き終えたら、そのシートを次の順番のメンバーに渡す。シートを受け取ったメンバーは自分のアイデアを5分の持ち時間を使ってシートに追記する。

以下の表は、先に示した例題をもとに6-3-5ブレインライティングを使ってフリーライティングを行った例である。メンバー各人は「サインアップ(登録)」という言葉を出発点に、自分の思いついたことを記している。

サインアップ(登録)幸せ笑顔
兆候驚き報酬
見上げる楽しみインセンティブ
楽観喜びポジティブ
フリーライティングの実践例

このようにアイデアを記していくことで、アプリへのユーザー登録のプロセスに「幸せ」や「喜び」をどう付加するか、登録に対して提供しうる「報酬」「インセンティブ」とは何かなど、より具体的な解決策に関するアイデア、テーマを押し広げていくことが可能になる。

実践手法②マインドマップ

マインドマップは、1つの中心的なコンセプト、ないしはテーマから新しいアイデアを想起していく手法だ。ブレインストーミングのメンバーは、中心となるテーマを書き出したのちに、それに紐づくアイデアやタスク、疑問などを議論し、まとめ上げる。また、この作業を2次的なテーマ、3次的なテーマなどについても繰り返していく。結果として、数多くの新しいアイデアと、それらがどのように結びついているかを表す整理されたマップ(図)が出来上がることになる。

【実践例】
以下の図は、先に示した例題をもとに描き出したマインドマップの例である。

マインドマッピングの実践例

このようにしてアイデアをすべてマップ化しておけば、あとは収束的思考などを使用して、各アイデアの実施が登録に与える影響や実施コストなどを勘案しながら、どれを優先して実行に移すかを決めていけば良い。

実践手法③破壊的ブレインストーミング

「破壊的(ディスラプティブ)ブレインストーミング」とは、仮定にもとづいて新しい解決策を発見していく手法である。ブレインストーミングのメンバーは、特定の問題について1セットのアイデアを想起する。次に「ディスラプトカード」を使用して、同じ問題を別の角度から見つめ直し、新しいアイデアを想起していく。

こうして発散的思考を巡らしたのちは、最も実現可能で、サポートしうるアイデア(と関連アイデア)を選び、それぞれのアイデアを実現する方法を調査するオーナーを決めることになる。

【実践例】
先に示した例題をテーマにして破壊的ブレインストーミングを行う場合、まずは、アプリ登録者を増やすための1セットのアイデアを想起する。それを終えたら、次に「希少性」のディスラプトカードを選び、希少性をどのように実装し、アプリ登録者数を増やしていくかを検討して1セットのアイデアを想起する。例えば「登録者数を1日100人に制限して、登録ボタンの横に現時点での登録可能数をリアルタイムで表示させる」といったかたちである。

このようにして破壊的ブレインストーミングのセッションを終えたあとは“収束”のモードに移る。例えば、想起したアイデアの中から、実行不可能なアイデアや自社のプロダクト戦略にそぐわないものを除外し、残りのアイデアに対してオーナーを割り当て、プランニングのプロセスを始動させるといった具合である。

実践手法④オルタナティブユーステスト

「オルタナティブユーステスト」(代替活用テスト)とは、1960年代にJ.P.ギルフォード(J.P. Guilford)氏によって考案されたものだ。1つのコンセプト、ないしは情報から創造的なアイデアや解決策を生み出すための方法である。このアプローチは、見慣れた物事を新しい視点からとらえるための有効な手法だ。

【実践例】
先に示した例題に対して、オルタナティブユーステストのアプローチを適用した場合、以下の質問がブレインストーミングの出発点となる。

  • 質問:
    食料品販売アプリについて、登録者を増やす、これまでとは異なる方法は何かないか? 奇抜なアイデアも大歓迎である。
  • 回答例:
    • 食料品販売アプリについて、登録者を増やす、これまでとは異なる方法は何かないか? 奇抜なアイデアも大歓迎である。
    • アプリを試すためのプロモコード付きのウェルカムキットを新生児のいる人たちに郵送する
    • アプリのマスコットが大学の近くでチラシを配る
    • 食料品店のドアに「私たちなら、ここでの買い物をもっとお安くできるかも」と書いたステッカーを貼る
    • 「試合を実施している屋外競技場の上空で、プロのスカイダイバーがアプリ名をスペルアウトする」といったゲリラマーケティングを展開する

このようなアイデアを出し切ったのちは、有望なアイデアを2~3つ選り抜き、その実現方法を練り上げたり、あるいは、いくつかのコンセプにフィルターをかけ、実現可能性のより高い粒度のプランに仕上げたりすることが可能になる。

実践手法⑤協働描画と協働ストーリーテリング

「協働描画」と「協働ストーリーテリング」は、ともに他者のアイデアを自発的に広げていく手法を指している。

例えば、ブレインストーミングに参加しているメンバーの1人が、特定のテーマ、ないしは課題に対して思いついたことを簡単な言葉や絵にして、誰かに引き継がせる。それを引き継いだ人は、最初に思いついた言葉や絵を書き加える。そして、このプロセスを、実行可能性のあるアイデアが十分に集まるまで繰り返し、のちに最高のコンセプトを絞り込んで、次のステップを計画するのである。

【実践例(協働ストーリーテリング)】
以下の表は、先に示した例題をもとに協働ストーリーテリングを行った例だ。

1人目の答えシェア
2人目の答え3D
3人目の答えビデオ
4人目の答え来店
5人目の答えオン
6人目の答えTikTok
表3:協働ストーリーテリングの実践例「食料品通販アプリの登録者数を増やすには?」

たとえ、ブレインストーミングの参加者たちが、より小さなコンセプトや代替案を推進することになったとしても、協働ストーリーテリングや協働描画の手法を実践することは、既成概念にとらわれないアイデアを発見するうえで非常に有効な手だてとなる。

実践手法⑥「Yes, and...(イエス・アンド)」手法

「Yes, and...(イエス・アンド)」手法は、即興劇的な思考法である。他者から提示されたシナリオを受け入れ、それに即興で自分のアイデアを追加する。これにより、オープンマインドと探究心が育まれることになる。

【実践例】
「Yes, and...(イエス・アンド)」の手法は、1人がアイデアを述べ、次の1人が即座にそれを受け入れて、アイデアのレベルに引き上げる何かを加えるというものだ。以下は、先に示した例題に対して、この手法を適用した例である。

  • 1人目:アプリの最初の画面で、全プロセスに要する平均時間を表示することで、ユーザーはそれが高速であることがわかります。
  • 2人目:そうです、そして、各登録画面の上部に完了までの割合を表示することで、ユーザーがプロセスのどの段階にいるのかがわかるようにします。
  • 3人目:そう、そして各画面から不要なステップを削除して、プロセスをさらに速くします

以上、発散的思考の実践手法について少し駆け足で見てきた。

繰り返しになるかもしれないが、発散的思考は職場で新しいアイデアや解決策を考えなければならないとき、私たちの創造性を刺激し、新しい可能性の発見へとつなげてくれる強力な術(すべ)である。

発散的思考によるブレインストーミングに初めて取り組む際には、何をどのように行えば良いかが見えず、少し不安になるかもしれない。そのようなときに、参考になり、また便利に使えるのが上述した6つの実践手法となる。

これらの手法を見て、なかには「発散的思考は、自由発想の方法なのだから、定型的な手法や決まり事に頼る必要はないのでは」と思う人がいるかもしれない。ただし、発散的思考が自由形式の思考法だからといって、すべてについて自由奔放を許してしまえば、ブレインストーミングが無軌道になり、何の成果も得られずに終わることは目に見えている。ゆえに、発散的思考には多少の準備と人のアイデア出しに相応の勢いと流れをつける定形的な手法が必要とされるのである。実際、本稿で紹介したような発散的思考の実践手法を使うことで、まったく構造化されていない思考のプロセスに適切な構造を加えることができる。それによってチームはブレインストーミングを有効で生産的なものにできるのである。

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