流通小売事業や流通小売業向けAI事業を中核に年間6,530億円強(2023年6月期実績)を売り上げるトライアルグループ。同グループの一員として、リテールAIプロダクトやソリューション(AI技術を活用した流通小売業向けの製品やソリューション)の開発・外販を手がけるRetail AI X社では、開発チームのパフォーマンスを高めるべく「チームトポロジー」を使った組織改革に取り組んでいる。その組織づくりの全容について、Retail AI X社 開発部 部長である辻氏に話を伺う。

タスク管理とバックログリファインメントに「Jira Software」を有効活用

上で触れたとおり、Retail AI X社では、チームトポロジーを採用した開発組織の中でJira Softwareを活用している。

「Jira Softwareは、当社の開発業務に欠かせないツールの1つです。主としてプロジェクトのタスク管理にJira Softwareの『ボード』を使用しているほか、各バリューストームチーム(スクラムチーム)におけるスプリントのプランニング時に、Jira Softwareのバックログ機能を使い『バックログリファインメント』(=バックログのユーザーストーリーと、その重要度を見直す作業)を行っています」と、辻氏は説明する。

また、辻氏によれば、見直したユーザーストーリーに対して、スクラムチーム(バリューストームチーム)にタスクを出してもらい、それらのタスクをもとにチーム内で「ストーリーポイント」(=ユーザーストーリーを実装するタスクの難易度や労力などを表す値)を設定しているという。そして、そのストーリーポイントを実際にかかった工数(作業時間)で割って「ベロシティ」(=チーム、ないしは個人が開発作業をこなす「速度」、または「量」を表す数値)を算定している。

「当社では、チームと個人のベロシティをスプリントごとに算定して、チームの開発能力がどう変化しているかを確認してもらうようにしていますが、一方で、絶対に他チームのベロシティと自分たちのそれとを比較してはならないと説いています。ベロシティはあくまでも過去の自分たちと現在の自分たちを見比べて、自分たちがどの程度成長しているのか、あるいは自分たちの健全性はしっかりと確保されているのかを点検するための指標です。その数値は業績評価とは関係なく、各チーム内で参考にすべき事柄といえます」(辻氏)

画像2: 小売DXの先進企業、Retail AI X社が挑む開発の組織変革:「チームトポロジー」とJira Softwareの活用でリテールAI開発のパフォーマンス向上に取り組む

また、「アトラシアンのツールJira Software以外にも、ITサービス管理ソリューションである『Jira Service Management』をインシデント管理や問い合わせ管理に使っていたり、コラボレーションツールの『Confluence』を各チームがドキュメント管理に使っていたりします。Jira Softwareと同様に、どのツールも使いやすくいので現場では重宝しているようです」と話す。

チームトポロジーが開発組織に与えた影響とは

Retail AI X社がチームトポロジーによる開発組織の変革に着手したのは2019年のこと。以来、具体的にどのような効果、ないしは変化が組織にもたらされているのだろうか。この点について、辻氏は「チームトポロジーの採用によって明らかに改善された点もあれば、そうではない部分もある」とし、次のような説明を加える。

「チームトポロジーを採用した当初の狙いは、開発組織における『空洞化』を防ぐことと、新しいカルチャーが入ってきたときの負の衝撃を和らげることにありました。これら2点については、狙いどおりの効果が得られていると言えます。その一方で、新人の育成という点では、チームトポロジーの体制が有効に機能しているとは言いがたい状況にあります。ですので、その状況に大きな変化が見られなければ、組織づくりを一から見直さざるをえなくなるかもしれません。そうならないよう、各バリューストームチームで働く若手の技術者たちには、一日でも早くイネーブリングチームの技術者たちに追いつき、あるいは追い越して自律的に価値あるプロダクトを生み出せるようになってもらいたいと願っています」

画像: 「チームトポロジーによる組織改革の取り組みは“一進一退”という現状です。チームトポロジーを取り入れた現体制が正解かどうかの判定は、若手の技術者が今後、どの程度のスピードで成長してくれるかにかかっています」(辻氏)

「チームトポロジーによる組織改革の取り組みは“一進一退”という現状です。チームトポロジーを取り入れた現体制が正解かどうかの判定は、若手の技術者が今後、どの程度のスピードで成長してくれるかにかかっています」(辻氏)

加えて言えば、AI技術をはじめとするデジタルテクノロジーが進化するスピードは猛烈に速い。しかも、これからのリテールテックには単純に店舗の無人化や合理化を実現するのではなく、eコマースでは成しえないような顧客体験を提供し、リアル店舗ならではの価値を増幅させるような働きが必要とされる。その点も踏まえながら、辻氏は人材育成の今後について次のように語り、話を締めくくる。

例えば、AIを活用した米国の無人店舗は一般消費者から倦厭され苦戦を強いられています。そのことからも、デジタルテクノロジーによる店舗の単純な合理化、無人化が“正解”ではないことは明らかで、私たちもAI活用、デジタル活用の新たなスタイルを確立していかなければなりません。そのためにも、人材を育成し、組織・チームのパフォーマンスを一層向上してかなければならず、その取り組みにチームトポロジーが有効に機能してくれることを望んでいます。また、たとえチームトポロジーが機能せずとも、現場力・チーム力を高める組織づくりに力を傾けていきたいと考えています。

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