本稿の要約を10秒で
- コーチングのスタイルを採用するリーダーは、チームメンバー各人の才能を認めて育てるのと同時に、共通の目標に向かってメンバー各人を導くために個別的なアプローチをとる
- このアプローチが正しく行われれば、チームのリーダーとメンバーとの間に強い信頼関係が築かれる
- コーチングリーダーシップを採用するリーダーのチームのパフォーマンスは、他のチームに比べて高い
「リーダー」は「権力者」にあらず
多くのビジネスパーソンは「リーダーシップ」を「確固たる指示を部下に与え、報酬と叱責によって部下の行動をコントロールすることである」と考えている。
ただし、少なくとも私が出会った優れたリーダーたちの中には、そうした強権的なリーダーは一人もいなかった。また、もし「あなたにとって最高のリーダーとはどのような人物か」と問われたとすれば、大多数の人が「部下たちの立場に立って物事を考え、励ましながら適切な指導・支援を行い、部下の成長と発展に真摯に取り組んでくれる人」を思い浮かべるのではないだろうか。
実は、こうしたリーダーシップのあり方は「コーチングリーダーシップ」と呼ばれるスタイルなのである。
「コーチングリーダーシップ」の定義
コーチングリーダーシップはリーダーシップの一形態であり、文字どおりリーダーがコーチとして行動することを指している。スポーツ界におけるコーチと同じく、企業における組織・チームのコーチとして機能するリーダーは、メンバーの才能を伸ばすために自分の時間を費やす。
また、ハーミニア・イバーラ(Herminia Ibarra)氏とアン・スクーラー(Anne Scoular)氏が「ハーバードビジネスレビュー誌」に寄稿した記事(英語)によれば、ビジネスシーンにおけるコーチングはすでに「ベテラン社員が経験の浅い若手に自らの経験と知識を伝授する」といったものではなくなり、代わりに「相手の洞察を呼び起こすような質問のテクニックを駆使するもの」になっているという。
いずれにせよ、コーチングリーダーシップのスタイルをとるリーダーは、以下のような行動や事柄を優先する。
これらをまとめれば、コーチングリーダーシップを指向するリーダーは、自分が最高のリーダーになろうとはあまり考えず、自身が率いるチームのメンバーが自身の能力を最大限に発揮できるよう支援することに力を注ぐのである。
コーチングリーダーシップが効力を発揮するケースとは
実のところ、コーチングリーダーシップは万能ではなく、あらゆるケースで有効なものではない。コーチングリーダーシップが大きな効力を発揮するのは、以下のようなケースである。
- 潜在的な意欲は旺盛だがエンゲージメントやモチベーションが低いチームを率いる場合
- 良質ではない文化やリーダーへの不信感があるチームを引き継ぐ場合
- 会社と個人の目標が食い違っていることに気づいているチームを率いる場合
- チームのメンバーが部門や情報のサイロが多いと感じている場合
上述したようなケースでは、先見の明があり、意欲的で、共感力のあるコーチタイプのリーダーが必要とされる。つまり、コーチタイプのリーダーが「さあ、自分たちを奮い立たせてホコリを払い、新たな旅に出よう!」といった姿勢でマネジメントに臨むことで、チームの再建、ないしは再出発を手助けすることができるのである。
コーチングリーダーシップの成功者とは?
コーチングリーダーシップに対する理解を深めるうえでは、その実例を知ることが有効だ。ということで、以下にコーチングリーダーシップで名をはせた幾人かの例を紹介する。
フィル・ジャクソン(Phil Jackson)氏
言うまでもなくスポーツ界ではコーチングリーダーシップで成功を収めた著名人が数多くいる。その1人が、1990年代前半に圧倒的な強さを示した米国NBAのプロバスケットボールチーム、シカゴ・ブルズの元ヘッドコーチ、フィル・ジャクソン氏だ。同氏は選手を個人として理解し、各人に適したコーチングを行っていたと、ミッチ・ミッチェル(Mitch Mitchell)氏はフォーブス誌の記事(英語)の中で指摘している。
ジャクソン氏は個々の選手の人間的側面を理解していたことで有名だ。例えば、マイケル・ジョーダン(Michael Jordan)選手らに試合前のストレス解消のためにゴルフをさせたり、デニス・ロッドマン(Dennis Rodman)選手にラスベガスへの緊急旅行を許可したりと、彼は選手たちを単なるバスケットボールプレイヤー以上の存在として認識していた。
デール・カーネギー(Dale Carnegie)氏
デール・カーネギー氏は、米国の作家であり、自己啓発やビジネススピーチ、対人スキルアップの各種トレーニングの開発者だ。トレーニングに関する彼の哲学とテクニックを教える業界が成立するほど、カーネギー氏のリーダーシップスキルは崇拝されている。
そして彼の2つの信条は、コーチングリーダーシップをそのまま体現している。その信条とは「従業員の育成のために柔軟なアプローチをとること」と「従業員をスキルのある人間としてではなく、価値ある人間として扱うこと」である(参考文書 (英語))。
サラ・ブレイクリー(Sara Blakely)氏
米国のシェイプウェア(補正下着)ブランド、スパンクスのカリスマ的な創業者サラ・ブレイクリー氏は、自身の成功は「成長型マインドセット」と「ビギナーズマインドセット」の両方によるものだと考えている。
同氏は、そのビギナーズマインドセットについて、情報サイトの「BetterUp」に次のように説明している(参考文書 (英語))。
ビギナーズマインドセットというのは、あらゆる物事をビギナーのように考えることを意味します。例えば、未経験の仕事のやり方について誰も教えてくれないとすれば、あなたならどうするでしょうか。おそらく途方に暮れるかもしれませんが、チャンスというのは、何かにアプローチする際のより優れた方法やよりスピーディなプロセス、よりスマートな手法など、過去の常識にとらわれない新しいやり方によって生まれるものなんです。
そして彼女は、社員が自分自身の道を切り開くのを助けることに全力を注ぐ一方で、社員に対する期待と社員の能力とのバランスを、ユーモアを駆使しながら絶妙にとることで、社員が安心して働き、サポートされていると感じられるようにしている。