アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのカット・ブーガード(Kat Boogaard)が「コーチングリーダーシップ」について説く。

コーチングリーダーシップと他との違いを知る

リーダーシップにはさまざまなスタイルがある。そして、優れたリーダーは、チームのモチベーションを高め、正しい方向に導くために、いくつかのリーダーシップスタイルを組み合わせて使っている。これは状況対応型リーダーシップとして知られている手法だ。

では、コーチングリーダーシップは、他のアプローチと具体的に何がどう異なるのだろうか。学術的な見地から言えば、コーチングリーダーシップは以下のようなリーダーシップのスタイルと共通性がある。

  • 思いやり型リーダーシップスタイル:思いやりのあるチームのリーダーは、メンバー各人に共感し、その共感をもとに、個人とチーム全体にとって有益な選択をする。
  • 民主的リーダーシップスタイル:このスタイルを採用するリーダーは、チームメンバーの意見や提案を重視する。また、チーム内でのコラボレーションを優先し、その点はコーチングリーダーシップも同様である。
  • マインドフルリーダーシップスタイル:マインドフルとは「十分な気配りをする」ことを意味している。このスタイルを採用するリーダーは、何らかの事象が起きたときに対応することをデフォルトとせず、常にメンバーの状態に気を配り、何が起きているかをすぐに察知することができる。こうした気配りにより、コーチングリー ダーシップと同じように、メンバー各人に対する自分のアプローチを調整し、パーソナライズすることができる。
  • サーバントリーダーシップスタイル:このスタイルをとるチームリーダーは、自分が栄光を手にするのではなく、チームのメンバーに仕え、メンバーを成功させたいと考える。コーチングリーダーシップと同様に、サーバントリーダーシップもメンバーの成長と育成を重視する。

一方、リーダーシップスタイルの中には、コーチングリーダーシップとは一線を画すものもある。特に、独裁型のリーダーシップや官僚型のリーダーシップ、さらにはトランザクション型のリーダーシップは、コーチングリーダーシップとはまったく異なるもので、真逆のものと言えるかもしれない。独裁型や完了型、トランザクショナル(取引型)のリーダーシップはいずれも硬直的で、かつ伝統的なパワーダイナミクスに基づくものである。その意味で、コーチングリーダーシップのスタイルを採用するリーダーは、多くの人が「伝統的」と見なすリーダーとはまったく異なるタイプと言える。

コーチングリーダーシップの長所と短所

コーチングリーダーシップも完璧なリーダーシップではなく、他のリーダーシップスタイルと同じように良い点もあれば、悪い点もある。以下、その長所と短所を示しておく。

【コーチングリーダーシップの長所】

  • コーチングリーダーシップをとるリーダーのチームは、目標を達成し、成果を上げることが多い。ある研究(参考文書(英語))によれば、コーチングリーダーシップに必要とされる「思いやり」と「賢明さ」を兼ね備えたリーダーのチームは、パフォーマンスが他に比べて20%高かったという。
  • チームのリーダーとメンバーとの間に強い信頼関係が築かれる。組織・チームのリーダーに対する信頼感は、従業員のコミットメントや満足度、定着率を高めるものだ(参考文書(英語))。一方で、ある調査によれば、会社のリーダーを強く信頼している従業員は全体の21%でしかないという(参考文書(英語))。
  • コーチングリーダーシップのもとでは、チームのメンバー各人が自分たちの成長の糧となるフィードバック、あるいはパフォーマンスアップのエネルギーとなりうるフィードバック(参考文書(英語))を頻繁にリーダーから得ることができる。言い換えれば、メンバー各人は、自分たちが信頼し尊敬する人からのサポートや励ましを受けることができるのである。
  • コーチングリーダーシップのもとでは、チームが結束と協力の感覚を感じることができる。

【コーチング型リーダーシップの短所】

  • コーチングリーダーシップは、すぐに勝利や成果が得られるとは限らない。実際、前出のジャクソン氏がブルズのヘッドコーチに就任したのは1989年のことで初めて優勝したのは1991年である。つまり、コーチングリーダーシップで成功を収めた伝説の人ですら、目標とする勝利をつかむまでに2年もの歳月を費やしたことになる。この例が示すように、コーチングリーダーシップで一定の成果を上げるまでには、相応の時間を要するのが一般的だ。
  • コーチングで成果を上げるためには、チームのメンバー各人と密接な協力関係を築かねばならない。それにも多くの時間とエネルギーが必要とされる。
  • コーチングに対するチームメンバーによる協力やコミットメントは、メンバー自身が成長と発展を望んでいなければ得られない。

コーチングリーダーシップのスタイルをチームに適用するには

コーチングリーダーシップを自分のチームで実践するには、以下に示す3つのステップを踏む必要がある。

ステップ①メンバー各人の成長目標を理解する

コーチングリーダーシップでは、会社全体のビジョンだけでなく、個々の従業員のビジョンの達成にもフォーカスを当てなければならない。ゆえにチームのリーダーは、メンバー各人の目標や希望について理解を深めることが必須となる。

そのためには、メンバー各人との1 on 1ミーティングを行い、それぞれの目標や正直な希望を聞き出さなければならない。そのディスカッションを有意義で生産的なものにするうえでは、メンバーに質問を投じる際に以下のようなテクニックを使うのが有効である。

  • テクニック①:「オープンクエスチョン」を通じて正直な回答を得る
    ある研究によると、人は回答する内容が任意に決められる「オープンクエスチョン」形式で質問されると、回答の幅に制約がある「クローズドクエスチョン」形式で質問を投じられるよりも正直になるという(参考文書 (英語))。したがって、例えば、キャリアに関する真の希望を聞き出したいのであれば「昇進を望んでいますか」ではなく「今後1年間におけるキャリア目標を1つ教えてください」と尋ねるようにする。
  • テクニック②:一問一答形式を心がける
    チームのメンバーに不要な負担をかけないよう、質問は一度に1つずつにする。つまり、例えば「どのような目標があるのか」「その目標を達成するために、どのようなスキルを身につける必要があるか」「将来はどうなっていたいか」といった質問を1度にまとめて聞かないようにすることが大切である。代わりに「現在直面している課題は何ですか」と尋ねれば、上の3つの質問に対する答えを一挙に聞き出せるかもしれない。

ステップ②フィードバックを優先させる

コーチングリーダーシップでは、チームのメンバーがしていることの善し悪しをしっかりと伝え、成長を促すことが重要となる。そのため、メンバーへのフィードバックには優先的に取り組む必要がある。また、フィードバックは次のようなものでなければならない:

  • 頻繁である:業績評価のときだけではなく定期的にフィードバックを行う。
  • 明解である:データや実例に裏打ちされたフィードバックを行う。
  • 実行可能である:フィードバックの内容は、それを受け取ったメンバーが実行可能であり、かつ、メンバーが取り組むべき仕事上の具体的な課題の解決につながるものでなければならない。

もちろん、あらゆるタイプのフィードバックが有効なわけではない。したがって、チームメンバー各人との関係性や、それぞれがフィードバックをどのように受け取ることを好むかを考慮することが大切だ。例えば、あるメンバーは、公の場でリーダーと話すのを好むかもしれないし、他のメンバーは閉ざされた空間の中でリーダーと話すほうが心地良いと感じるかもしれない。

また、フィードバックを出す際には、建設的な批判と賞賛、承認のバランスをとることを忘れないでいただきたい。コーチングリーダーシップの主眼は、メンバーのスキルを形成し、パフォーマンスを向上させることにある。その過程では、メンバー各人に自信をつけることも必要なのである。

ステップ③自身のエモーショナルインテリジェンスを高める

コーチングリーダーシップにおけるチームメンバーへのアプローチは、かなり個別的だ。だからこそ、リーダーはメンバー各人に対して、それぞれが最も共感でき、意味のある方法でコーチングを行うことができると言える。

こうしたリーダーシップを追求するうえで、重要なピースとなるのがエモーショナルインテリジェンス ── すなわち、自身の感情と他者の感情を知覚し、コントロールできる能力である。この知性を高めるうえでは、次のような方法が有効と言える。

  • 他者(自分のチームのメンバーや直属の上司など)に対し、自分の行動に対するフィードバックを求める。
  • 何らかの感情が生まれたときに、それに名前をつける(「ストレス君」といったシンプルな名前も良い)。
  • マインドフルネス(自分の周囲で起きていることに全神経を集中させること)を実践し、自分の感情と真につながれるようにする。

また、チームメンバーに対する人としての理解を深めることで、コーチングリーダーシップで成功を収めるためにミステリアスな「第六感」を養う必要が特にないことに気づき、安心感を得られるはずである。そして、アクティブリスニングを実践し、チームメンバーの目標や課題、願望に積極的に耳を傾け、それを念頭に置きながらコーチングの調整を行っていくことが、コーチングリーダーシップの道筋と言えるのである。

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