本稿の要約を10秒で
- アクティブリスニングとは、相手の話を聞くことに全神経を集中させるコミュニケーション手法である
- アクティブリスニングには数々のベネフィットがあるが、修得には相応の努力が必要とされる
- いくつかのトレーニング手法を使うことでアクティブリスニングのスキルを高めることができる
「アクティブリスニング」とは?
近年、能動的に人の話に耳を傾ける「アクティブリスニング」という手法に注目が集まっている。アクティブリスニングとは「相手の話に意識的・意図的に耳を傾け、相手が何を言いたいのかを深く理解するコミュニケーション手法を指している。要するに、相手の話に熱心に耳を傾けること、あるいは「話を聞く」ことに全神経を集中させるのがアクティブリスニングであるというわけだ。
アクティブリスニングは最近生まれた言葉、ないしは手法のように思われがちだが、実は1950年代から使われている(参考文書 (英語))。その起源は、心理学者のカール・ロジャース(Carl Rogers)博士とリチャード・ファーソン(Richard Farson)博士が1957年に発表した論文(参考文書 (英語))となる。この論文では、アクティブリスニングについて以下のように説明している。
(アクティブリスニングに)必要とされるのは、話し手の内面に入り込み、その人の視点に立って、その人が伝えたい物事を把握することです。また、相手の視点に立って物事をとらえている事実を相手に伝えることも重要です。
「受動的(パッシブ)リスニング」との違い
では、アクティブリスニングは具体的にどのようなものなのだろうか。以下では、この手法の対極にある「受動的リスニング」と比較しながら、職場におけるアクティブリスニングの例を示す。
【受動的リスニングとアクティブリスニングの例①】
- 場面:あなたの直属の部下が、あなたのデスクに立ち寄り、チーム内での人間関係の葛藤を吐露している
- 受動的リスニング:デスクのPCで古いメールを整理しながら、相手の言い分を聞き、ときおりアドバイスをして、自分が注意を払っていることを証明する。
- アクティブリスニング:PCのキーボードから手を離し、スマートフォンをマナーモードにしてから部下と向き合う。そして、相手が話し終えるのを待ってから、話の要点を自分の言葉で言い直して伝える(=「パラフレージング」の作業を行う)。それによって、自分の理解が間違っていないかどうかを細かく確認し、フォローアップの質問をしたりする。
【受動的リスニングとアクティブリスニングの例②】
- 場面:同僚が、あなたが引き継ぐことになったプロセスの手順を説明している
- 受動的リスニング:その日の「To-Doリスト」を作りながら、静かに、礼儀正しく、同僚の話を聞いている。その中で、いくつかの手順に不明点が出てきたが、のちに解決しようと考えている。
- アクティブリスニング:同僚の説明の中で、分かりにくい点が出てきたら適時質問をして、その場で疑問を解消する。また、同僚が説明を終えたら、説明を受けた仕事の要点と次に何をすべきかを即座にまとめ上げて、同僚の確認をとる。
アクティブリスニングがなぜ重要なのか
私たちの大多数は普段、受動的リスニングの手法を使って人とコミュニケートしている。ゆえに、アクティブリスニングに慣れておらず、このコミュニケーションには意識的、意図的に取り組まなければならない。また、相応の努力が求められる。
では、アクティブリスニングには、そうした努力に見合う価値はあるのだろうか。その答えはもちろん「Yes(はい)」だ。このコミュニケーション手法には次に示すようなベネフィットがある。
- 相手への理解を深められる
アクティブリスニングを正しく行うことで、相手への理解を深めることができる。ゆえに、話し手と聞き手の双方がアクティブリスニングを実践することで、相互理解の機会が増えることになる。 - 人間関係を良好にする
人は皆、自分のことを見て欲しい、認めて欲しい、理解して欲しいと願っている。にもかかわらず、話し相手が、自分の話にあまり注意を払わないとすれば、相手に対して決して良い感情は抱かないはずである。その意味で、アクティブリスニングには話し相手の欲求を満たし、自分に対する良好な感情を生む効果が期待できる。実際、ある調査によれば、アクティブリスニングを構成する人の話への集中力や感受性は、チーム内、あるいは人同時の信頼関係や結束を強める効果があるという(参考文書 (英語))。 - 偏見、思い込みの影響度を低減できる
私たちは固有の「レンズ」、あるいは「バイアス(偏見)」「思い込み」を介してインプットされた情報を処理しようとし、それが人の特性でもある。アクティブリスニングは、そんな自分から一歩外に出て、他者の視点で物事をとらえるよう自身を強制的に仕向ける手法でもある。その実践によって、インプットされた情報の処理に自分のバイアスや思い込みが影響する度合いを低減することが可能になる。