アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』から新着コラム。WORK LIFEのライターのケイティ・テイラー(Katie Taylor)が、職場の「心理的安全性」を確保し、高めることの大切さと、そのための手法について説く。

本稿の要約を10秒で

  • 心理的安全性が確保された職場では、働く全員が、誰からも非難されることなく、想定されたリスクを取ることができる。
  • 心理的安全性が低い職場では、働く全員が、自分のミスや知識不足、抱える問題についてオープンにしようとしなくなり、チームから学習の機会が奪われる。
  • リモートワーク中心の分散型チームでは、リーダーとメンバーとの1 on 1ミーティングを頻繁に行ったり、リーダーが自由回答形式でメンバーの悩みごとを聞き出したり、メンバーのプライベートライフを重視したり、ビデオ会議での行動規範を定めることで心理的安全性を高めることができる。

チーム成功のカギ

チームの成功に向けては、メンバーが職場環境についてどう感じているかが、スキル向上と同じくらい重要になる。実際、例えば、アトラシアンで働く心理学者でリサーチャーのマリーン・カーン(Mahreen Khan)博士が本サイトへの最近の投稿で指摘しているように、心理的な安全性が確保されている職場では、メンバー各人がチームの成功のために自分の能力を最大限に引き出そうとするらしい。

その一方で、職場における心理的安全性の欠如は、チームによるイノベーションの妨げになるリスクがあるようだ。その点について、“心理的安全性(Psychological Safety)”という用語の生みの親である米国ハーバード大学の研究者エイミー・エドモンドソン(Amy Edmondson)氏は次のように述べている。

仮に、職場に対して、自分は『無知・無能である』、あるいは『出しゃばり』である、ないしは『ネガティブ』であるといった印象を周囲に抱かせる恐れがあると常に感じていたら、毎朝、ベッドから飛び起きて職場に向かおうとは誰も考えなくなります。それが、心理的安全性が足りていないことの負の効果です

では、どのようにすれば心理的安全性を育むことができるのだろうか。とりわけ今日では、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の影響から、チームの全員が別々の場所で分散して働き、ビデオ会議やチャットなどのコミュニケーションツールを通じて意思疎通を図るのが一般的になりつつある。ゆえに、こうした分散型チームでいかにして心理的安全性を高めていくかも重要なテーマとなっている。

以下、そうした課題を解決するすべについて検討していく。

心理的安全性とはそもそも何か

上で触れたとおり、心理的安全性という用語を生み出したのはエドモンドソン氏だ。同氏は1999年に『Administrative Science Quarterly』で発表した研究論文において、心理的安全性のことを次のように表現している。

チームのメンバーが共通して持つ「自分たちは対人関係のリスクテイクに対して安全である」という心理状態

エドモンドソン氏は1990年代後半に病院での投薬ミスについて調査した。その結果として、同氏は以下のような事実を突き止め、そのことが心理的安全性という用語の創出につながったという。

── 最もミスの少ないチームは、最も経験豊かなチームでもなければ、最も厳格な行動規範を持つチームでもない。それは、メンバー各人が自分のミスについて(責められることを恐れることなく)包み隠さず自発的に報告し、チームの全員でミスを減らす新しい方法を見つけるために協力し合えているチームである。

このように、心理的に安全な職場環境では、単純な過失や犯罪でないかぎり、ミスは誰からも責められない。また、どのような質問をしても侮辱されたり、軽蔑されたりする心配はなく、さらに、上司のアイデアに反対したり、新しいアイデアを提案してうまくいかなかったりしても、周囲から責められたり、罰せられたりすることはなく、逆に、そうした失敗やミスから多くを学ぼうとする姿勢が組織の風土として根づいてもいるのである。

心理的安全性を支える行動特性

エドモンドソン氏によると、心理的安全性が高いチームには、共通して以下に示す5つの行動特性が見られるという。言い換えれば、これら5つの行動を取るようにすることで、チームの心理的安全性が高められるというわけだ。

行動1: フィードバックを常に求める/与える
チームリーダーによる行動例:何をどうすれば良いかがわからないメンバーに対して「何か自分に手伝えることがあったら、いつでも言ってほしい」とフィードバックする。

行動2: 変更・改善を継続する
チームメンバーによる行動例:四半期に1回の頻度で情報の入手方法について見直し、より良い方法へと改善、ないしは変更を加えていく。

行動3: 周囲の支援や専門知識を得る/提供する
財務チームメンバーの行動例:プロダクトマーケティングに関し、どのような情報とプロセスにもとづいて意思決定を下すのかを、マーケティング部門から学ぼうとする。

行動4: 実験を繰り返す
チームメンバーの行動例:仮説を検証するために、失敗を恐れずに幾度も実験を反復して行う。この行動は、より風味豊かなソースを作り上げるために、より複雑な食材を使いつつ、最終的にはよりシンプルなものにする試みと似ている。つまり、実験という挑戦を継続して行い、本質を突き詰めていくことで、ソリューション(ないしは、プロダクト)をよりシンプルに、かつ、使い勝手の良いものにするということである。

行動5: 建設的な衝突や対立を受け入れる
チームメンバーによる行動例:チーム内での建設的な意見の衝突や対立を意図的に、かつ直接的に生み出し、衝突・対立を長引かせることなく、より優れたアイデアを生もうとする。

これら5つの行動はすべてチームのメンバーが安心して発言したり、率直な意見を述べたりできる環境を担保するものと言える。また、これらの行動の根底には、1人の人間のエゴや思考に執着するよりも、チームによる目標の共有と達成を重視すべきという考え方が流れている。

心理的安全性がなぜ大切なのか

エドモンドソン氏は2019年に展開した心理的安全性に関するTEDxでの講演において次のように述べている。

私たちは、自分の意見やミスの開示をためらうたびに、自分自身と周囲から学びの機会を奪っています。また、一人の発想や努力ではイノベーションは起こせず、新しいアイデアを生むこともできません。ゆえに、周囲に与える自分の印象をマネージすることに執着していては、より良い組織作りに貢献できないと認識すべきです

とはいえ現実には、多くのビジネスパーソンが、自分は無知でネガティブで、欠点があり、能力もないと周囲から見なされてしまうことを恐れるあまり、口を閉ざそうとしがちになる。そして最悪の場合、飛行機エンジンの設計ミスや投薬ミスなどのように、人の生死にかかわるような重大なミスですら隠蔽しようとしてしまうのである。

もちろん、一般的なビジネスの世界では、人の生死にかかわるようなミスはあまりない。とはいえ、心理的安全性が確保されていない組織では、小さなミスの隠蔽が日々積み重ねられ、結果として重大な事態へと発展してしまうリスクがある。

また、心理的安全性の欠如によって、組織のパフォーマンスが停滞を余儀なくされる可能性も高い。

例えば、従業員の知識不足を冷笑するような組織では、従業員の誰もが、自分の知識のなさを明らかにするのを恐れて、自分のわからないことを周囲に聞こうとしなくなる。仮にそうなれば、従業員による知識獲得の効率性が低いままとなる。加えて、曖昧な知識のまま仕事をこなそうとする従業員の行動も増え、結果的に顧客の不興を買うリスクも膨らんでいくことになる。

また、医師が看護師の能力を認めず、悪口を言うような病院では、看護師が医師の処方に対して疑問を持ったり、意見を言ったりすることがなくなる。結果として、医師の新たな気づきや成長の機会が減ることになる。

さらに、新しい発想やチャレンジに否定的な反応を示す組織では、新任のプロジェクトマネージャーが製品展開について懸念を示そうとしなくなり、変革・革新が起こりにくくなるのである。

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