本稿の要約を10秒で
- アトラシアンの最近の調査によって、多くの従業員が柔軟な働き方を望む一方で、多くの企業がそうした従業員ニーズに対応できていないことが判明した。
- 同じ調査の結果として、自分の会社に対する従業員の帰属意識やチームの結束力は2020年から2021年にかけて大幅に低下していることも明らかにされた。
- 人材の採用時に価値観のすり合わせを優先し、リモートでのオンボーディングを最適化することで、企業は今日の厳しい労働市場を乗り切ることが可能になる。
世界6カ国6,000人強のナレッジワーカーを対象に調査を実施
アトラシアンでは2021年、世界6カ国のさまざまな業界で働く従業者(ナレッジワーカー)6,000人強を対象に調査を実施した。調査名は「Reworking Work調査」。調査の目的は、ナレッジワーカー(ホワイトカラーの労働者)たちが自分たちの職場に対してどのような感情を抱き、また、自分の仕事の将来に対して何を期待しているかを明らかにすることだ。また、アトラシアンでは2020年にもReworking Work調査を実施している(実施期間:2020年4月〜6月)。その結果と今回の結果とを比較し、ナレッジワーカーの意識の変化をとらえることも、調査の目的の1つと言える。
ということで、まずは今回の調査(以下、Reworking Work調査2021と呼ぶ)で明らかにされたポイントについて見ていきたい。
従業員の最優先事項は働き方の柔軟性
古くから、従業員が求めることと雇用者が提供するものとの間にはミスマッチがあった。賃金はその際たる例と言えるが、今日のナレッジワーカーには賃金以上に大切なテーマがある。それは働く場所と時間に柔軟性が与えられるかどうかである。
実際、Reworking Work調査2021に回答を寄せたナレッジワーカーの74%が「(コロナ禍の下で)これまで享受してきた柔軟な勤務スタイルを維持したい」と答えている。
これと同様の結果は、アトラシアンが2021年初めにPwC Australiaと共同で行った調査でも得られている。PwC Australiaとの共同調査では、米国とオーストラリアのナレッジワーカーの40%以上が「転職先で在宅勤務が認められるなら、そこで働きたい」としていた。
一方、Reworking Work調査2021の回答者の60%が「働く場所はすべて雇用主が決定している」と答え、ナレッジワーカーのニーズに対応し、働く場所を従業員に決めさせている雇用主は全体の40%でしかなかった(図1)。
そして、この40%の雇用主は、ナレッジワーカーが柔軟な働き方を求めて転職し始めた場合、人材の雇用で他の60%の企業よりも有利な立場になる。先進的な雇用主たちは、すでにそのことに気づいており、彼らは従業員に対し、オフィスで働くか、自宅で働くか、あるいはその両方を組み合わせて働くかという選択肢をほぼ無条件で提供している。この点について、IBMのCEOは次のように述べている。
「従業員が生産性を高く保てるならば、彼らの働く場所や時間がどうあろうと雇用主には関係のない話であって、気にかける必要のない問題です」
価値観を共有できる社員を採用する
ナレッジワーカーが重視しているのは、働き方の柔軟性だけではない。例えば、Reworking Work調査2021に回答した米国のナレッジワーカーの49%が「雇用主の価値観が自分の価値観と合わないと感じたら仕事を辞める」と答えている。
今日における米国の労働市場は売り手市場だ。その市場にあって「価値観の不一致」を理由に優秀な従業員に離職されてしまうのは避けたいところだろう。
このような事態を招かないようにする有効な手だては、人材の採用時に、候補者の価値観が自社の価値観と一致しているかどうかを確認することだ。その観点から、アトラシアンでも「価値観の確認作業(=バリューインタビュー)」を採用プロセスに組み込んでいる。バリューインタビューは、候補者の考え方がアトラシアンの5つのコアバリュー(図2)に合致しているかどうかを評価するプロセスであり、候補者の行動規範を点検するための構造化された質問が投じられる。
また、バリューインタビューは、人材を採用する部署以外の社員が行うことを原則としている。人材を採用する部署の人間がバリューインタビューを行うと、どうしても候補者のスキルセットのほうに意識が向けられ、マインドセットが正しく評価できない可能性があるからである。なお、アトラシアンのバリューインタビューに興味のある方は、その実践方法を記したガイド(英語版)を参照されたい。
文化への適合性 vs. 価値観への適合性
人材採用の面接時には候補者が自分たちの組織文化に適合できるかどうかの確認もよく行われる。ただし、「文化への適合性」を評価するためのインタビューは多くの場合、「仕事のあとに、その候補者と一緒に一杯飲みたいかどうか」を確認するだけの作業になる。それにどのようなリスクが潜在しているかと言えば、面接の担当者が自分と同じような考え方や視点を持った候補者を選びがちになり、組織のダイバーシティが失われていくことである。対するバリューインタビューは、採用の候補者が自分たちと価値観を共有できるかどうかを確認するためのものであり、考え方や視点の違いは問われない。ゆえに組織のダイバーシティが失われる心配もないのである。
求められる オンボーディング プロセスの強化
Reworking Work調査2021の結果には、もう1つ気になる点がある。それは自分の会社やチームに対する帰属意識を持つナレッジワーカーが全体の54%にとどまり、前回調査比で9ポイントも減少していることだ。同様に、自分の所属するチームについて「一体感/結束力がある」と答えたナレッジワーカーの割合も前回調査比7ポイント減の59%となっている(図3)。
これらの数値の低下には、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の影響によるフルリモートワークの長期化が多分に影響している。とりわけ、コロナ期間中に新しい職場に転職し(ないしは、新卒で入社し)、フルリモートで働いているナレッジワーカーは、多くが自分の会社やチームに対する帰属意識や一体感を持てずにいるようである。
ゆえに、コロナ禍の終息後もリモートワークを中心にした働き方、ないしはハイブリッドワークを続行したいのであれば、雇用主は自社のオンボーディング プロセス(新人が入社してから配属先で働き始めるまでのプロセス)を高度化させる必要があるかしれない。そしてアトラシアンは、そうすることの必要性と重要性を、身を持って知る一社でもある。
信じられない話かもしれないが、アトラシアンで働く7,000人超の社員の約半数はコロナ期間中に入社した人たちであり、彼らはアトラシアンのオフィスに来たこともなければ、チームのメンバーと直接会った経験も有していない。それでも、アトラシアンの一員として帰属意識や一体感を保てている理由は、アトラシアンのオンボーディング プロセスが分散型チーム(=チームのメンバーが各所に分散して働いているチーム)に向けて最適化されているからにほかならない。
アトラシアンのオンボーディング プロセスでは、新入社員がアトラシアンで働き始めるために必要な情報がすべてオンラインで入手できるのはもとより、配属先のチームで同僚たちやマネージャーと人と人とのつながりを築いたり、組織文化への理解を深めたりすることに多くの時間が割かれる。ゆえに、オンボーディングのプロセスは1日では終わらない。例えば、新人が所属チームで長期的に活躍できるよう、入社から90日間のときをかけて、所属チームや関係各部署の同僚たちと1対1のバーチャルセッションを行い、お互いの役割を話し合う制度がある。また、日々の業務を遂行するために必要なすべてのSlackチャンネルが紹介されるほか、アトラシアンの同僚たちと趣味や興味を共有するためのチャンネルにも招待される。
さらに、こうしたオンボーディングのプロセスが計画どおりに遂行され、想定どおりの成果を上げているかどうかを確認するためのマイルストーンも、入社後30日、60日、90日にそれぞれ設定されている。入社から30日目までは、チームでの仕事と文化に慣れるための期間であり、のちの30日間は仕事に着手する実践モードの期間、そして入社後90日目においては、会社の目標を理解し、それにどう貢献し始めたかの確認が行われることになる。
なお、こうしたアトラシアンのオンボーディング(バーチャルオンボーディング)プロセスの詳細を記した資料(英語版)や、オンボーディングの90日間のタスク、情報を管理・共有するうえで役に立つ「Trello(英語)」や「Confluence」のテンプレートも無償で提供しているので興味のある方はご参照、ご活用いただきたい。
「実験」「学び」「改善」を繰り返す
以上のとおり、分散型チームを適切に運用していくのは簡単なことではない。だが、今日のナレッジワーカーの多くは、時間と場所を選ばない自由な働き方を望んでおり、ゆえに、企業のリーダー層は、働き方を進化させながらナレッジワーカーのニーズを満たし、彼らのエンゲージメント(=組織に対する自発的な貢献意欲)を向上させ、組織のサステナビリティを高めていく必要がある。
また、働く場所と時間に柔軟性を持たせるということは、ナレッジワーカーの個別的な要求を受け入れ、対応することでもある。それを行いながら、組織・チームのパフォーマンスを高いレベルで確保するうえでは、ナレッジワーカーの自己管理能力とアカウンタビリティ(=自分の約束したことに対して責任を果たす能力)を向上させることがカギとなる。なぜならば、「働き方の自由」を謳いながら、一方で、ナレッジワーカーの日々の働き方を細かく監視して、組織・チームの統制を取ろうとするのでは、組織・チームに対する働き手のエンゲージメントを向上させるどころか、離反を招きかねないからである。
このような観点から、アトラシアンでは「実験」「学び」「改善」のサイクルを継続的に回しながら、分散型チームの能力を最大限に引き出すための演習と従業員体験(CX)の開発を推し進めてきた。また、そうした取り組みによる成果をすべての企業と共有し、働き方の変革に貢献することにも尽力している。
アトラシアンは、コロナ禍に苦しめられながらも何とか生きながらえてきた。これからは、コロナ禍が今後どのように転じようとも、より高い目標に向けて歩を進めなければならない。
もちろん、アトラシアンが、分散型チームを成功に導くためのあらゆる答えを持っているわけではない。ただし、これまでの経験を通じて言えることがいくつかある。その一つは、変化する時代の中で分散型チームを正しい方向へと導くためには、タスクを管理することよりも、人を適切にマネージすることに力を注ぐべきであるということだ。そのためには、チームメンバーの話に耳を傾ける回数を増やし、彼らのメンタルヘルスとウェルビーイングの確保に力を注ぐことが大切である。また、そのようにして現場で働く従業員の成功を支援することが、結果として、チームの成功、ひいては組織全体の成功へとつながっていくのである。