アトラシアンには、働き方改革のエキスパートが多くいる。その一人が、ワーク フューチャリストのドム・プライス(Dom Price)だ。彼は企業組織のリーダーに向けて、変革のためのメッセージをコラム形式で発信し続けている。この連載では、そのエッセンスをお伝えしていく。

生産性の追求は創造性を阻害する

今日は、経済情勢の先行きが不透明とされている。ゆえに、「退屈」を勧める本稿を読むナレッジワーカーの中には「どうしてこんなときに、仕事のアクセルから足を放さなければならないのか。そんなことをすれば大変なことになる」と思う方も少なくないだろう。ただし、経済の先行きが見通せない今だからこそ、ナレッジワーカーには本来的な役割である創造的思考がより強く求められていると言える。ところが「トーランステスト(Torrance Tests)」で計測されるナレッジワーカーの創造性は1990年代初頭から低迷し続けているという。

しかも今日では、ITの急速な進化によってオフィスワークに関係する反復作業(ルーチンワーク)のほとんどが自動化されている。その意味でも、人間ならではの好奇心や創造性を発揮することがナレッジワーカーの主たる仕事になっていると見なせる。

加えて言えば、ナレッジワーカーの間では上述した燃え尽き症候群や離職が横行し始めている。一方で、神経学上の研究によって脳を休ませることでストレスが減り、仕事に対するエンゲージメントと品質がともに向上することが証明されており、会議と会議との間に5分間の息抜きをするだけで、ストレスに関連する脳の活動が低下することも明らかにされている。さらに、従業員たちに探求の場を与えることで、「自分は大切にされている」というと印象を彼らに与え、信頼と能力を高める意欲を喚起することもできるという。

時間は私たちにとって最も貴重な資源であり、かつ、有限である。ゆえに、使い方の優先順位を賢くつけていかなければならない。にもかかわらず、生産性に執着し、一定の時間内により多くのモノを生産するようナレッジワーカーに強く求めるリーダーはいまだに多い。しかしながら、そのような生産性の追求は、ナレッジワーカーの創造性を阻害する行為でしかない。自分のチームや会社のためを思うなら、ナレッジワーカーたちの「ただ、ぼんやりとしている時間」を優先的に確保すべきなのである。

「アンチパワーアワー」導入のススメ

上述したとおり、ナレッジワーカーの創造性を高めるためには、適度の「退屈」を彼らに与えることが大切となる。そこでチームリーダーの方々にお勧めしたいのが「アンチパワーアワー」の導入となる。

具体的には、例えば、毎週1時間、チームのメンバーが何も生産しない時間を作るようにする。また、1日のうちに1時間以上、メンバーをすべての仕事からブロックしてしまうのも一手である。加えて、メールで済むような週1回のミーティングをすべて廃止にしたり、仕事の締め切りを1〜2日遅らせたり、チーム内で最も価値の低い反復作業を特定して自動化したり、排除したりするのも有効である。

このような取り組みを始めると、チームの周囲に不安を与えるかもしれない。ただし、そのようなことを気にしていては何事も起こせない。

また、自分の行動を少し変えるだけで、自分の脳に休息を与える時間を増やすこともできる。例えば、以下のような具合である。

・空港や駅の本屋で「ビジネス書」を購入する習慣を捨て去り、「小説」を買って読むようにする。小説を読むときには情報を詰め込もうとせず、物語に没頭する。

・自販機でコーヒーを購入する、あるいは人気の店舗でランチを食べようと列に並んでいるときに、スマートフォンで仕事のメールをチェックしたりしない。数分間、ないしは10数分間、心を解き放つようにする。

・散歩の際にはヘッドフォンでポッドキャストや音楽を聴いたりせず、周囲の景色や音、匂いを感じながら、脳を受動的に働かせるようにする。

・スマートフォンの管理者は自分であることを常に念頭に置く。そのうえで自分が「オフ」のときには仕事上の連絡は受け付けないようにし、仕事、ソーシャルメディア、ニュースなどのアプリもすべてオフにする。

・精神的なリセットを目的に30分の会議を25分に、60分の会議を50分に設定するようにする。ただし、それによって会議を早く終わらせようとすると大抵の場合、失敗する。したがって、会議の終了時間ではなく開始時間のほうを、これまでの設定から5分、ないしは10分遅らせてセットするようにする。

なお、上記のような行動の変革をチーム全体に浸透させるうえでは、リーダーが自ら率先して規範を示し、それによってどのようなメリットを得ているかをメンバーに理解してもらうことが重要となる。したがって、自分が日々の時間をどのように過ごしているかをチーム全員で共有することが不可欠となる。ただし、自分と同じ時間の使い方をメンバーに強要したり、自分の時間の使い方がいかに有効かを声高に唱えたりするのは避けるべきである。

なお、本稿の締めくくりとして、組織心理学者でベストセラー作家であるアダム・グラント(Adam Grant)の名言を以下に紹介しておく。

休息は時間の浪費ではなく“ウェルビーイング”への投資である。
リラックスは怠慢の現れではなく、エネルギーの源である。
タイムブレークは“遮(さえぎ)り”ではなく、集中を取り戻すための機会である。
そして遊びは、軽薄な行為ではなく創造性への道筋である

さあ、外出しよう。何もしないために。

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