画像: 「audiobook.jp」は会員数が200万人を突破(以下オトバンク提供)

「audiobook.jp」は会員数が200万人を突破(以下オトバンク提供)

コロナ禍で音声コンテンツ市場が急成長している。多様なサービスが誕生する中、日本での草分け的な存在が、オトバンクによるオーディオブック配信サービスの「audiobook.jp」だ。2018年に聴き放題のサブスクリプションを導入したことで利用者が急増し、21年6月には会員数が200万人を突破した。オトバンク代表取締役の久保田裕也氏は現状を「まだ200万人」と表現し、もっとユーザーは増えると期待する。

オトバンクの成長の背景には、コンテンツ制作に対する強いこだわりと、それを支えるチームづくりがある。久保田氏に「耳のスキマ時間」争奪戦の勝算を聞いた。

画像: 久保田裕也(くぼた・ゆうや) 東京大学経済学部経済学科卒業。オトバンクに立ち上げ当初から参加し、2006年に新卒入社。 オーディオブック配信サービスの立ち上げや制作インフラの開発、事業責任者を経験し、2011年3月より代表取締役副社長、2012年3月より現職

久保田裕也(くぼた・ゆうや)

東京大学経済学部経済学科卒業。オトバンクに立ち上げ当初から参加し、2006年に新卒入社。 オーディオブック配信サービスの立ち上げや制作インフラの開発、事業責任者を経験し、2011年3月より代表取締役副社長、2012年3月より現職

audiobook.jpの会員数が200万人突破

オトバンクが運営するaudiobook.jpはオーディオブック配信サービスだ。07年にFeBeの名称でサービスを開始し、年々会員数を増やしてきた。18年に現在の名称に変えてサービスをリニューアル。1冊ごとに購入する仕組みに加えて、月額750円で聴き放題になるサブスクリプションを導入したことで会員数が急増している。19年10月に100万人を超えると、21年6月には200万人を突破。1年8カ月で倍増した。

コロナ禍では、スマートフォンのアプリやネット上でラジオを聴くradikoの会員数が増加しているほか、stand.fm、Voicy、RadioTalkなどの音声配信サービスが続々誕生。21年に入ってからはClubhouseやTwitter Spaceなどの音声SNSも利用者が拡大している。久保田氏は現状を追い風と捉えて歓迎する。

画像: さまざまなサービスが次々と立ち上がり、“耳のスキマ時間”争奪戦が繰り広げられている

さまざまなサービスが次々と立ち上がり、“耳のスキマ時間”争奪戦が繰り広げられている

「われわれにとってもありがたい動きだと思っています。文字でも、漫画でも、映像でも同じで、コンテンツは利用者が増えれば増えるほど発展します。日本では聴いて学ぶ習慣が英語くらいしかないので、他の国に比べてなかなかマーケットが広がりませんでした。それが今、聴く体験をする人が増えています。市場を育てていくことは1社ではできないので、音声サービスはもっと広がってほしいですね」

一方で、audiobook.jpの会員数が200万人を突破したことについては、まだまだ満足をしていないという。

「個人的にはまだ200万人という感じです。聴くことに慣れている人がもっと増えてくれば、ユーザーは何千万人の規模になるはずだと考えています」

視覚障害がある人向けの対面朗読の検討からスタート

オーディオブックというコンテンツがまだ日本で知られていなかった頃、日本で最初に提供するサービスがオトバンクだった。04年12月、代表取締役会長の上田渉氏が東京大学在学中に創業。久保田氏は上田氏と同じゼミの後輩だった。久保田氏は3年生だった05年3月には就職活動を終え、外資系企業から内定をもらっていたが、上田氏に誘われて手伝い始める。

「オトバンクは読書家だった上田の祖父が、緑内障によって失明して本を読むことができなくなったという上田自身の体験から生まれた事業です。飲み会で私の前の席に座った上田が、『俺、会社を作ったんだよね』と聞いてもいないのに話し始めたんですね(笑)。話半分で聞いていたのですが、勝手に手伝うことが決まっていました。

ある日、経営会議に出てほしいといわれて、予定していた飲み会が中止になったのでたまたま会議に参加すると、その場に創業メンバーがいました。当時エンジェル投資家を始められていた瀧本哲史さんもいました。それで気づいたら、本格的に手伝うことになってしまったのです」

オトバンクは視覚障害がある人向けに、対面朗読をするNPOを運営することの検討から始まった。しかし、いきなり大きな課題に直面する。書籍を朗読に使うことの許可が、出版社から出なかったのだ。

「朗読で読みたかったのは有名な作品でしたが、出版社にとって作品は大きなビジネスの源です。著作権の許可を得るのが大変だということを、全く知りませんでした。出版社の方からは、NPOの取り組みとして素晴らしいかもしれないけど、お金にならないボランティアで著作権の許可を取るのは難しいですよと言われました。私たちも『ビジネスとして成立するのであれば実現するのでしょうか』と聞くと、『可能性はゼロではない』と言われたので、本格的に検討を開始しました」

画像: 【成長し続けるためのチームづくり】
会員200万人突破のオトバンクが切り開く「新たな出版市場」
久保田社長に聞く“耳のスキマ時間”争奪戦の勝算

ビジネスとして成立させるために、市場を俯瞰して分析したことで、海外ではすでにオーディオブックの市場が広がっていることが分かった。オーディオブックは05年頃、海外で1000億円のマーケットがあると見られていた。その一方、日本の市場については具体的な言及はなく、調べていくと日本特有の難しさがあることも見えてきた。そこで、オトバンクは出版社との交渉を続けながら、オーディオブックを日本で最初に提供するサービスの立ち上げに向けて株式会社化し、進み始める。その過程で久保田氏は、外資系企業の内定を断って、オトバンクへの入社を決意した。

「今でもそうですけど、そもそも自分の世代で75歳とか80歳まで自分の実力で食っていける自信がなかったんです。そんな中で海外を放浪した時に、多言語を扱う優秀な人たちと出会って、競争しても勝てないなと感じました。どうすればいいのだろうと考えた時に、目の前にオトバンクがあることに気付きました。オトバンクは当時1円の収入もなく、誰からも相手にされていなかった会社でした。でも、この会社を大きくすることができれば、その体験は単なるスキルとは異なり、他のところでは得られないものになると思い、入社を決めました」

3年間収益がなくてもコンテンツ作りに注力

しかし、全く収益がない状態が数年間続いた。07年1月にaudiobook.jpの前身のサービスであるFeBeをリリースするが、許可を得て自社で制作したコンテンツは10本にも満たず、大半が他社が制作した音声コンテンツだった。

「あらゆる出版社と交渉していましたが、サービスを開始した時点でもまだ、ほぼ全ての出版社から許諾がいただけていない状態でした。そのため、08年頃までは全く利益がありませんでした。しかも、この頃は現在とは違って、スタートアップにお金が流れる時代ではありません。サービスは立ち上げたけれども、コンテンツもお金もないし、これからどうすればいいのか分からない状況でした」

収益が上がらない時期に地道に取り組んでいたのが、音声コンテンツの制作力向上だった。創業から1年あまりで自社のスタジオを作り、どのような音源を作れば人は長く聴き続けられるのかを研究。プロトタイプを作っては、日比谷公園で休憩しているサラリーマンに聴いてもらいダメ出しをしてもらっていた。また、研究以外にもコンテンツの向上に寄与したのが、声優志望者に手伝ってもらうことだった。

「声優の卵のみなさんは、自分のサンプルボイスを録音したCDを関係者に渡して売り込みをします。われわれはスタジオを持っていたので、格安か無料でCDを作ることができます。なのでオーディオブックの制作を手伝ってほしいと言えば、人が集まってくると考えました。実際に声優の養成所や事務所に声をかけると、口コミで人が集まるようになりました。

声優のみなさんにとっては他のメリットもあります。ディレクターがいる環境下でナレーションをすることで、声優としてのスキルも上がります。制作に興味を持っている人も多いので、制作も含めた仕事も提供できました。

画像: 制作スタッフはほぼ全員が声優か元声優だという

制作スタッフはほぼ全員が声優か元声優だという

声優のオーディションは実施の直前に連絡が入ることが多く、シフト制のバイトがやりづらいと言われました。であれば、時間がある時に自由に会社に来てもらって、仕事ができる環境をつくれれば、人材を確保できると考えました。現在でも制作スタッフは業務委託を含めて20人以上いて、1人を除いて全員が声優か元声優です。創業当時からコンテンツ制作を支えてきたのが声優のみなさんですね」

地道にコンテンツを作りながら会員数を増やすことで、徐々に出版社の理解も得られていった。09年に単月で黒字化し、10年に初めて通期で黒字化を達成。12年にリリースした朗読アプリ「朗読少女」がヒットすると、15年頃にはオーディオブックも日本で利用者が増えるようになる。コンテンツの数も充実し、着実に会員数を伸ばしていった。

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