アトラシアンには、働き方改革のエキスパートが多くいる。その一人であるワークフューチャリストのドム・プライス(Dominic Price)と、アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』でメインライターを務めるサラ・ゴフデュポンが、リモートワーク(在宅勤務)とオフィスワークの混成モデル「ハイブリッドワークモデル」を“失敗”に導く7つの道筋について解説する。

失敗の道筋 1:オフィスワーカー優先でコミュニケーションを設計してしまう

アトラシアンもそうだったが、米国企業の多くがコロナ以前から在宅勤務を制度として取り入れていた。ただし、働き方の標準はあくまでもオフィスに集まって仕事をすることであり、チームの大多数がオフィスにいて仕事をし、数名が在宅で仕事をしているという状況が間々見受けられていた。これと同じ状況がハイブリッドワークモデルを採用した企業で生まれる可能性は高い。

そのような状況でよく犯しやすい過ちが、オフィスにいるメンバーを優先するかたちでチームにおけるコミュニケーションのあり方を設計してしまうことだ。代表的な一例が、チームミーティングの際にオフィスにいる多数派が会議室に集まり、自宅にいる1~2名にWeb会議ツールなりを通じてリモートから参加させることである。このようなコミュニケーション設計では、会議室にいるメンバーたちにミーティングが支配され、リモート参加のメンバーたちはミーティングの内容についていけなくなったり、発言したり、自分の考えをデジタルのホワイトボートで表現するのも困難になる。最悪の場合、疎外感すら感じかねないのである。

失敗回避のアイデア1
上述したような状況を生まないようにするには、チーム内で常にリアルタイムで情報やアイデアを共有するのではなく、非同期型のコミュニケーションを標準として採用することである。例えば、アトラシアンのコラボレーションツール「Confluence」を使えば、チーム内の非同期型コミュニケーション(あるいはコラボレーション)を通じて、互いにアイデアを共有し、熟考し、改善していく機会がメンバーの全員に均等に与えられる。

失敗の道筋 2:働く場所に柔軟性を持たせる一方で、就業時間を固定的にする

ハイブリッドワークモデルで働く場所が自由に選べるようになったとしても、仕事とプライベートのスケジューリングが魔法のように簡単になるわけではない。

例えば、年配の親を自宅で介護しながら、子どもたちの面倒を見ている人は、コロナの完全終息後も親のための食事を用意しながら、子どもたちの学校への送り迎えをしければならない。同様にメンタルヘルスや慢性的な身体的問題に苦しんでいる人たちも、定期的なヘルスケアのサービスを受け続ける必要がある。さらに、コロナ禍による在宅勤務中に犬を飼い始めた人たち(特に一人暮らしの人たち)は、自ら“パンデミックパピー(パンデミックの子犬)問題”の加害者にならぬよう、コロナ後も散歩などの犬の世話をしっかりとこなしていくことが必要である。

こうした人たちにとって、通勤して「9時5時」のタイムフレームの中で働くこと自体が困難であり、在宅勤務制度は元来、こうした人たちに会社のチームの一員として機能してもらうためのものでもあった。とはいえ、在宅勤務を許可するだけですべての問題が解決されるわけではない。実際、2020年6月にアトラシアンが、在宅勤務中の5,000人のナレッジワーカーを対象に行った調査の結果を見ても、自宅介護を行っている人の多くが、仕事と介護の双方に完璧さを追い求めようとすると、双方がガタガタになると指摘していたのである。

失敗回避のアイデア2
ハイブリッドワークモデルによって働く場所に柔軟性を持たせるのであれば、働く時間帯にも柔軟性を持たせることが大切だ。そもそも、コロナ終息後も在宅勤務を選択する就業者の中には「9時5時」などの固定的なタイムフレームの中で仕事をするのが困難な向きが多くいるはずである。したがって、ハイブリッドワークモデルを採用しながら、就業時間を固定的にしてしまうのは、ある意味でナンセンスと言わざるをえない。

もちろん、就業時間に柔軟性を持たせることによって、チーム全体の仕事のスケジューリングはマネージしにくくなる。そこで、チーム全体の仕事の進捗・遂行を最終確認するための“アンカーポイント”を設定して、ミーティングなどの同期的なコミュニケーションをとるようにする。そのうえで、チームのメンバー各人の自由裁量で働く時間とスケジューリングが行えるようにすることが大切となる。

ちなみに、アトラシアンの場合、チームのメンバーが互いの仕事の進捗や成果を確認するためのアンカーポイントを特定の就業日に設定し、そこで4時間のオーバーラップミーティングを行っている。

失敗の道筋 3:個人の要望だけですべてを決める

働く場所としてどこを選ぶかの判断は、就業者各人の好みや性格、事情と密接にリンクしている。例えば、オフィスワークを選択する人は「自宅では気が散る」「1人で仕事をするのは寂しい」「キッチンのテーブルに設(しつら)えた仕事場がお粗末すぎる」といった事情を抱えているかもしれない。反対に「自宅のほうが集中できる」「とにかく通勤したくない」といった理由から、在宅勤務の継続を希望する向きもいるはずである。

ハイブリッドワークモデルは、こうした個々人の事情・ニーズを柔軟に吸収できるというメリットがある。ただし、個人の要求を満たすことだけを優先させてメンバーの働く時間・場所を決めるのでは、チームとしてのパフォーマンスに悪い影響を及ぼす可能性がある。

失敗回避のアイデア3
コロナ禍対策として在宅勤務を行っていたときとは異なり、コロナ後のハイブリットワークでは働く場所を選ぶ理由がチームのメンバー各人で異なってくる。したがって、メンバーの働く場所、あるいは働き方についてチーム内で十分に協議しながら、それぞれが当該の働く場所を選択した理由についての相互理解を深め、メンバー同士がわだかまりなくサポートし合えるようにすることが大切である。

失敗の道筋 4:人間関係の価値を軽視する

企業のチームには陣容の変更がつきものであり、メンバーの構成が1年前とは大きく違っていることがよくある。また今日では、オフィスへの出勤経験をほとんど持たない人や同僚と直接会った経験のない新人がチームのメンバーであることも多いはずである。ゆえに、チーム内での人間関係の構築に力を注がないと、チームの共同作業は無味乾燥な流れ作業的になり、チームの士気と生産性の低下へとつながっていくことになる。

失敗回避のアイデア4
在宅勤務一辺倒からハイブリッドワークモデルへと切り替わり、オフィスワークが再開されたときに、チームの人間関係がコロナ以前の状態に自動で戻ると考えずに、一から関係を再構築することが大切である。例えば、チームの全員がオフィスに集まる日を選び、ディナーやアクティビティなどを催すのも良いかもしれない。

失敗の道筋 5:既存のプラクティスが新しい環境でも有効であると思い込む

コロナ禍対策として在宅勤務の体制へと移行した際、私たちは1つのミスをした。それは、オフィススペースで行っていたチームの慣行が、在宅勤務体制の下でも同じように有効であると想定してしまったことだ。これと同様に、チームの全員が自宅で働いていたときの慣行を、そのままハイブリッドワークモデルに適用してもうまく機能しない可能性が大きい。

失敗回避のアイデア5
チームにおけるミーティング、ワークフロー、メンバー各人の責任の持ち方、作業の進捗確認、働きぶりの点検、評価のあり方など、すべてについてハイブリッドワークモデルに適合するように調整することが大切である。調整ののちには定期的に問題点を洗い出し、継続的に最適化を図っていくことも忘れないでいただきたい。

失敗の道筋 6:2重構造のパフォーマンス評価を行ってしまう

従業員に対する伝統的な業績評価は、「成果」と目視で確認される「働きぶり」をベースにしていた。こうした2重構造の評価をハイブリッドワークのチームに持ち込むのは不公平を生む原因となる。

例えば、チームの一人(仮にメンバーAと呼ぶ)は、リーダーとともにオフィスで働いており、その真面目な働きぶりによって献身的な従業員としての印象をリーダーに与えることができるとしよう。それに対して、もう一人のメンバー(メンバーB)は、在宅勤務を中心にした働き方を選択しており、リーダーは日々の働きぶりを目視で確認することがほとんどできないとする。そのような状況において、2重構造の評価スキームでメンバーAとメンバーBの業績評価を行った場合、たとえ2人の成果が同レベルであっても、メンバーAの評価のほうが高くなるのが通常である。というのも、人は目視で確認できるものを好む認知バイアスを持っているからである。

コロナ禍の下でチーム全員が自宅で働いているときには、2重構造の評価スキーム自体が機能せず、上述した認知バイアスが評価に影響を与えるようなことはなかったはずである。しかし、ハイブリッドワークの体制下では、認知バイアスによって不公平な評価が行われてしまうおそれが強まるのである。

失敗回避のアイデア6
ハイブリッドワークにおいて上述したような評価の不公平を生まないようにするには、純粋な成果だけを評価指標とすることが大切である。要するに、成果に至るまでの個々人の努力については考慮せず、「会社の大目標の達成にどの程度貢献したのか」「会社のコアバリューに則った行動によって、チームをどの程度効果的にしたのか」といった成果だけを根拠に個々人の業績を評価するということだ。そうすることで、チームのメンバーがどこで、いつ働いているかとは関係なく、公平・公正な評価を下すことが可能になる。

失敗の道筋 7:片方向のコミュニケーションで満足する

コロナ禍による在宅勤務体制の下、企業の経営幹部がメールやチャット、ビデオ会議を通じて自分の状況や会社の状況、さらにはメッセージをブロードキャストするスタイルが世界的に定着した。こうした片方向型のコミュニケーションで犯しやすい間違いは、自分の送ったメッセージが相手にアクセスされたかどうかだけを計測の対象とすることである。

そもそもコミュニケーションにおける大切なポイントは、自分のメッセージが相手にしっかりと伝わったかどうか、あるいは、相手が自分の話を理解したかどうかである。それを確認せずにメールやチャットメッセージ、ビデオメッセージへのアクセス数だけをカウントしても、ほとんど意味を成さないのである。

失敗回避のアイデア7
従業員に対して同報でメッセージを送るにしても、それを一方通行のコミュニケーションで終わらせないようにすることが大切である。すなわち、従業員にメッセージを送ったのちには、望んだ効果がしっかりと発揮されているかどうかを確認する必要があるということだ。それを確認するために全従業員対象のアンケート調査を行うのは一手だが、そこまでの手間をかける必要は実のところない、時宜に応じて、数名をランダムで選び、スポットでチェックを行うだけで十分と言える。

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