年商500万円から年間7,000億円の売り上げに成長

本書の著者はアイリスオーヤマの会長の大山健太郎氏だ。アイリスオ-ヤマと言えば、かつては園芸用品あるいはペット用品のメーカーというイメージがあったが、現在は液晶テレビや白物家電までも作っている。圧倒的な価格戦略で中国メーカーに席巻された白物家電市場に、日本の小メーカーが挑んで、しかも大きな利益を出しているというのだから、その秘密を知りたくなるのも当然だろう。

本書は、1964年に、5人の従業員、年商500万円のプラスチック加工の下請け町工場を19歳で継いだ著者が、2020年には国内外の従業員19,400人、年間7,000億円の売り上げの会社にまで成長させたノウハウを余すところなく開陳したものだ。コロナ禍によって企業経営も難しい状況となっているが、「危機のときに必ず業績が飛躍的に伸びる」ヒントが散りばめられている。

稼働率を7割でビジネスチャンスには即座に対応

では、著者が明かす企業成長のノウハウの一端を見ていこう。まずは、「効率よりもビジネスチャンス優先の経営を行う」だ。

具体的には工場の稼働率を7割にして、ビジネスチャンスには即座に対応できるようにしておく。単純に効率を考えるなら、稼働率は10割に近いほど良いが、コロナ禍でのマスクのように、突然需要が増大することもある。稼働率10割ではすぐに増産はできないが、稼働率7割なら、一挙に稼働率を10割にすることですぐに増産ができる。コロナ禍のようなピンチでもそれをチャンスに変えて利益を上げることが可能になる。

また、コロナショックの例を見ても、製品が急に売れなくなることがあるので、すぐに別の製品の製造に変更できるようにしておけばリスクヘッジになる。アイリスオーヤマでは機械メーカーから購入するのは基本的な加工ができる汎用機であり、それを社内のエンジニアがアレンジし、作りたい製品に合った機械に仕上げている。そのため、すぐに別の製品の製造ラインに変更することができる。

さらに、製品開発に関しても「ユーザーイン」という独自の戦略を持っている。自社の強みを生かした「プロダクトアウト」でも、業界や市場の要望に応える「マーケットイン」でもなく、ユーザーのニーズを素直に捉えた「ユーザーイン」で市場を創造するという。

ビス1本まですべて内製の「メーカーベンダー」

従来型の問屋を通した販売では、ユーザーニーズにぴったり合った製品販売が困難なので、自身がメーカーと問屋(ベンダー)の機能を持つ「メーカーベンダー」になることで、問屋を通さず、直接小売店に製品を提供する仕組みを作った。ホームセンターとの取引で始まったメーカーベンダーは、現在ドラッグストア、家電量販店、スーパー、コンビニエンスストアとも取引するようになっており。その数は約10万店に上る。

ベンダー機能を持つためには、小売店から求められる多彩な製品種類を提供しなければならない。そのために、外部企業から部品の提供を受けたり、下請けに発注したりせず、ビス1本まですべて内製することにした。「経常利益の50%を毎年投資に回す」ことで、それが可能になったという。

ホームセンターの求めに応じて、スタッフを店舗に派遣し、接客と販売支援を行うことで、ユーザーニーズを的確に把握し、製品にフィードバックできる仕組みも作った。

全国の小売店に製品を届けるためには、全国的な配送網が必要になる。そのために、各地に工場を新設した。工場は生産拠点であると同時に物流拠点でもある。単にメーカーとしてなら工場を各地に分散させるのは効率が悪いが、メーカーベンダーとしては、製造した製品をすぐに納入できる生産・配送拠点が各地にあることが有利となる。また東日本大震災のような災害で1つの工場が稼働できなくなっても、すぐに他の工場が代替生産できる。ここでも普段の稼働率7割が生きる。

秀逸な情報共有の仕組みはぜひとも見習いたい

このようにアイリスオーヤマの経営戦略は、ある意味で経営常識と真逆のことを行って成功している。1973年の第一次オイルショックで会社をつぶしかけた経験から、どんな環境でも利益の出せる仕組みを試行錯誤しながら確立してきたノウハウだ。

「稼働率7割」「メーカーベンダー」「工場の分散」「ビス1本まで内製化」といった常識にとらわれない戦略はことごとく成功しているが、その成功のカギは独自の企業カルチャーにある。それを形成するために重要なのが毎週行われる「プレゼン会議」と従業員が毎日記入する「ICジャーナル」だ。

プレゼン会議では、平社員から社長まで会議に参加して徹底した討論がなされ、その場で社長が決定を行う。迅速に社内での情報共有や意思決定が実行できるというわけだが、このスピード感は大企業にはまねのできないところだろう。会議に直接参加できない遠隔地の社員はテレビ会議システムを使ってリモートで参加する。

ICジャーナルは、現場作業員を除く全社員がパソコンまたはスマホで知り得た情報や課題などを毎日入力するものだ。日々の“新鮮な情報”がすぐに共有できるだけでなく、書き込まれたデータはデータベース化されているので、いつでも検索・参照が可能となっている。

このように、情報共有こそがアイリスオーヤマの強さのエッセンスと言えるだろう。本書で明らかにされた経営ノウハウを取り入れることは難しいかもしれないが、アイリスオーヤマの情報共有の仕組みは、どんな企業においても参考にすべきものだ。社内の改革などについて問題意識のある方などは、お読みいただくことを強くお勧めする。

著者   :大山健太郎
出版社  :日経BP
出版年月日:2020/9/17

This article is a sponsored article by
''.