アトラシアン主催のイベント「Atlassian Team Tour Tokyo」(開催:2020年2月6日)では、アトラシアンのワークフューチャリスト、ドム・プライス(Dominic Price)が登場した。世界各地を飛び回り、働き方に関する講演や顧客に向けたコンサルティングを展開するプライス。今回は、働き方を巡る5つの常識を見直すことを唱えた。

ドム・プライス
アトラシアン
ワークフューチャリスト

働き方の未来は予測できない

ドム・プライスによる講演の演題は、『働き方の未来を今生きる ~5つの常識をアップデートせよ〜」。この演題の下、プライスは働き方のあるべき方向性を提示した。

ワークフィーチャリストのプライスは、「働き方の未来を今生きる」と題し、働き方のあるべき方向性について唱えた。

ワーク フューチャリストとして働くプライスは、世界7拠点のグローバルR&Dセンターを統括し、社内の問題を解決する「チームドクター」として顧客企業の成長を支援している。アトラシアンへの入社前は、世界的なゲーム会社のプログラムマネジャーやコンサルティング会社デロイトのコンサルタントを歴任してきた。

そうした過去の職場に比べて、アトラシアンは次の5つの点で優れているとする。

  1. すべてがオープンでデタラメ(嘘や隠し事)がない
  2. 世界各国の多様な人材がチームとしてプレイできている
  3. バランスをとりながら、何事にも真摯に取り組む
  4. 自分の望む変革を自ら起こす風土がある
  5. 顧客を絶対にないがしろにしない

「会社組織のリーダーならば、誰もがこうした価値を顧客に提供したいと考えるはずです。ただし、それは簡単なことではありません。例えば、私が最近読んだ書籍の中に、『個人の機能不全は、知識と行動とのギャップによって引き起こされる』との記述がありました。そう、今を生きるビジネスパーソンとして、私たちはさまざまなことを知っています。ところが、そのほとんどを実践できていません。そのギャップが機能不全を引き起こしているというわけです」

プライスによれば、ビジネスリーダーが知識を実践できない要因の一つは、未来を予測することの難しさにあるという。

「私たちは今、Industry 4.0(第4次産業革命)のただなかにいます。その革命に関する主張のなかには、『これからは、ナレッジワーカー(ホワイトカラー)の労働時間も1日8時間で済むようになる』といった予測があります。仮に、そのような予測を知識として持っていたとしても、大多数のナレッジワーカーが実践できないはずです。ナレッジワークは、常に1日8時間以内で完了できるような仕事ではないからです。確かにAI(人工知能)などのテクノロジーによって、ナレッジワーカーの仕事が効率化されるかもしれませんし、それ自体はよいことです。ただし、だからといって、ナレッジワーカーの仕事が1日8時間以内で完了できるようになる保証はどこにもありません。逆にAIでは解決できない複雑な課題に対応しなければならなくなり、労働時間が増える可能性すらあります。それほど、働き方の未来を予測するのは困難で、知識を実践に移すのは容易なことではないのです」

5つの常識を見直す

働き方の未来が予測できない以上、それを予測しようとする行為は無意味となる。その中で、これからの働き方を考えるうえでのポイントとなるのは、現在抱えている課題やテーマを見直すことであると、プライスは説く。

「世界がIndustry 4.0の時代に突入したことで、ビジネスの境界線がなくなりつつあります。例えば、Amazonは、B2Cのeコマース企業であると同時に、クラウドサービスを展開するテクノロジーカンパニーです。銀行にしても、旧来からの金融事業だけでは組織を支え切れなくなり、テクノロジーカンパニーへの転換を求められています。そうした変化に伴い、社員の働き方もまた大きく変化しています。チームメンバーの分散化が進み、異業種のパートナーや自分たちとは異なるスペシャリティを持ったチームとの協業がより重要になっています。さらに言えば、顧客の期待により迅速にこたえ、新手の競争相手に打ち勝つためのイノベーションが必要とされています」

プライスは、働き方のコンサルテーションやチームドクターとしての業務をこなす中で、世界50カ国以上の組織/チームを見てきた。その経験を通じて、多くの組織が働き方に関して共通する5つの課題を抱えていることがわかったという。それは、「成長(Growing)」「変革(Transformation)」「在職期間(Tenure)」「破壊(Disruption)」「アウトプット(Outputs)」の5つである。

「この5つの課題は、働き方を考えるうえでのポイントとされてきたものです。ただし実は、これらの課題に対する旧来の考え方、言い換えれば、組織の課題に関する5つの常識を見直すことで、働き方改革のあるべき方向性が見えてくるのです」と、プライスは言う。

プライスは、「成長(GROWING)」「変革(TRANSFORMATION)」「在職期間(TENURE)」「破壊(DISRUPTION)」「アウトプット(OUTPUTS)」に対する組織の常識を見直すべきと訴える。

「成長(Growing)」から「スケール(Scaling)」へ

まず、1つ目の「成長(Growing)」とは、組織の“量的拡大”を示すものである。これまでは、この「組織の成長」と「組織が良くなること」は同義と見なされてきた。「ただし、組織の成長によって、必ずしも働き方が改善され、組織が良くなるとは限りません」と、プライスは語り、次のように続ける。「例えば、拠点を追加し、人が増えただけでは、個々人の働き方は良くならないはずです。したがって『成長』ではなく、『スケール (Scaling)』を目指すべきです」

スケールするとは、組織における仕事の内容を変化させ、それによって組織のキャパシティを拡大させることを意味しているという。

「例えば、ある会社のIT部門のヘルプデスク担当チームは、サポートしなければならない従業員数がいきなり倍増するという事態に直面しました。このとき、このチームが選んだのは、チームの人員を倍にするのではなく、従業員のITリテラシー向上に注力することと従業員による自己解決率を高める仕組みを導入することです。つまり、このチームは、『ITのことで煩わされたくない』という、従業員たちが本当に望んでいることを起点に、自分たちの仕事の中身を変えて、チームのキャパシティを増大させたわけです。これが、組織をスケールさせたということです。それを実現するためには、自分たちの顧客が本当に求めていることは何かを徹底的に追求し、自分たち、あるいは自分たちの仕事の存在理由を突き詰めて考えることが大切です」

2つ目の「変革(Transformation)」とは、多くの組織が、デジタル領域を中心に熱心に取り組んでいることだ。ただし、チームにおける変革では、体制面でのかたちを変えればそれでよいのではなく、働き方を「進化(Evolving)」させることが重要であるとプライスは説く。

「チームの働き方を進化させるうえでは、『4つのL』を考えることが有効です。例えば、過去2週間にわたるチームリーダーの言動について、『Loved(愛されていたか)』『Longed for(憧れられていたか)』『Loathed(嫌われていなかったか)』『Learnt(教訓を得られたか)』を見るのです。これは、アジャイル開発において成功や失敗の原因を探ることと同じです」

在職期間を重視せず、破壊者になり、成果にこだわる

3つ目の「在職期間(Tenure)」とは、指揮系統が体系化され、従業者の役割が明確化された組織に潜在する問題である。これはつまり、在職期間の長短で組織における権威や発言力が決定づけられ、個人の自由な着想に基づくコミュニケーションやコラボレーションが生まれにくくなる問題を指している。

「この問題を解決する手だては、在職期間の長短や職位の上下とは無関係に、気兼ねなく意見が言い合えて、多様なアイデアを共有していく組織風土を醸成していくことです。そもそも、組織の中で、モノゴトをリードする主導権(Initiative)は、固定的な誰かに帰属させる必要はありません。ですから、人の在職期間や立場ではなく、主導権を持つ意志と能力のほうを常に重視し、職位を超越した柔軟で多様性の高い組織を設計していくことが大切です」(プライス)。

4つ目の「破壊(Disruption)」は、自組織のビジネスモデルが誰かに破壊されるのを恐れるのではなく、自ら破壊する側に立つことの重要性を意味していると、プライスは言う。

「例えば、ビデオ配信サービスのNetflix(ネットフリックス)社によって、全米最大のビデオレンタル店だったBlockbuster(ブロックバスター)社は破綻に追い込まれました。この事例が語られるとき、Blockbuster社の先見性のなさがよく指摘されますが、実は、オンデマンドのビデオ配信システムの開発では、Blockbuster社がNetflix社をリードしていました。ゆえに、かつてNetflix社から身売り話を持ちかられたとき、Blockbuster社の幹部はNetflix社を買わなかったわけです。では、なぜBlockbuster社はビデオ配信サービスを始めなかったのか─。理由は、自ら自社のビジネスモデルを破壊することを拒んだからです。つまり、Blockbuster社が破綻したのは、彼らがテクノロジーにうとく、技術力がなかったせいではなく、自ら破壊者になる決断が下せなかったためです。私たちが、Blockbuster社の失敗に学ぶべきことはその一点にあります」

さらに、5つ目の「アウトプット(Outputs)」は、従来、組織や個人のパフォーマンスを測る指標として使われてきた。ただし、プライスは、「アウトプットにこだわるのはそろそろやめにして、成果(Outcomes)重視に切り替えるべき」と訴える。

「アウトプットとは、例えば、製品の出荷数量を表す言葉です。かつての大量生産・大量消費時代のように、製品を作れば、作った分だけ売れていた時代なら、アウトプットにこだわるのも1つの選択です。しかし今日は、そのような時代ではありません。ましてや、ナレッジワーカーの仕事は、生産したモノの数で評価できるようなものではなく、生産したモノが、どのような成果につながったかで評価されるべきです。最近では、アトラシアンを含めて、成果評価のフレームワーク『OKRs(Objective and Key Results)』を取り入れる会社が増えています。こうしたフレームワークを活用してアウトプット重視から成果重視への切り替えを急ぐべきです」

チームとしての効率性、有効性を高める

以上のように、5つの常識に関する話を終えたプライスは、働き方改革で究極的に目指すべき方向性について語り始めた。それは、個々のワーカーの生産性向上ではなく、チームとしての効率性や有効性を向上させることである。

「いかに優れた人材でも、今日の複雑な課題を独力で解決するのはまず不可能です。ですので、大切なのは、個人ではなくチームの効率性や有効性をいかにして高めるかです。そのための手法としては、クラウドソーシングの活用や、オープンな情報共有、ダイバーシティの活用、現場への権限移譲、小規模で機敏なチームの編成、クロスファンクショナルチームの編成、さらにはチームの熱量管理などが挙げられます。もちろん、アトラシアンが提供しているコラボレーションツールである『Confluence』やプロジェクト管理ソフトウェアの『Jira Software』、さらには、チームビルディングガイドの『Team Playbook』などを活用することも、チームパフォーマンスをさらに高める一手です」と、プライスは語る。

さらに、プライスは来場者に次のようなアドバイスを贈り、講演を締めくくった。

「会社からの指示を待つのではなく、自分の望む変革は自ら主導権を握り、自ら引き起こすのが、これからのビジネスパーソンの生き方です。そのためにも、今回お話しした5つの常識について、皆さんの会社ではどうか、自分のチームではどうかを点検し、そこに問題をみつけたら、毎日、少しずつ、改革の取り組みを実践してください。新しい挑戦は、成功しても失敗してもチームの糧になりますが、何もせず、同じ過ちを続けるのは最悪の事態を招きます。破壊を恐れているのも、妨げているのも、自分たち自身です。顧客のためにより勇敢に、大胆に計画し、リスクをとりましょう。それによって、顧客もチームメイトも幸せになるはずです」

「あなたの変革の邪魔をしているのは、あなた自身」と、大胆さと勇気を持つことの大切さを唱えるプライス。

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