アトラシアン主催のイベント「Atlassian Team Tour 2020 Tokyo」(開催2020年2月6日)では、特定非営利活動法人CeFIL デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)共同設立者で副代表の西野 弘氏が特別講演の演壇に立ち、DXを巡る日本企業の危機的状況に警鐘を鳴らした。同氏によれば、このまま日本企業が変われなければ、極めて厳しい未来が待ち受けているという。

決定的に足りていない日本の組織のアジリティ

「日本企業は、DX変革のジレンマを乗り越えられるか」──。
この演題の下、デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)の西野 弘氏は、デジタルトランスフォーメーション(DX)を巡る日本企業の問題点を舌鋒鋭く突きながら、ビジネスパーソン一人ひとりの意識変革の必要性を強く訴えた。

画像: 西野 弘氏 特定非営利活動法人CeFIL理事 デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC) 共同設立者 副代表

西野 弘氏
特定非営利活動法人CeFIL理事
デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)
共同設立者 副代表

西野氏が副代表を務めるDBICは、同氏がCeFIL理事長の横塚 裕志氏と共同で2016年5月に立ち上げた組織だ。メンバー企業として日本を代表する大企業34法人が名を連ね、組織変革とデジタル技術によるビジネスイノベーション、つまりは、DXを引き起こすための啓発活動やイノベーター育成プログラムなどを展開している。

このDBIC創設の背景には、日本企業のIT活用レベルの低さやマネジメント能力の低さ、さらには経営幹部の学習不足に対する危機感があったと西野氏は明かす。

「ITのようにインパクトの強いテクノロジーの出現は、過去にも世の中を大きく変えてきました。例えば、500年ほど前の発明である。グーテンベルクの印刷機がなければ、医学、芸術、音楽などが勃興してルネッサンスは起こることはなく、その後、世界に大きな影響を与えることはなかったでしょう。宗教革命も起こらなかったはずです。それと同じ世の中の大変革がデジタル技術で引き起こされているにもかかわらず、日本企業は長らくITを軽視し、学ぼうとせず、経営戦略に取り込もうとしてきませんでした。結果として、投資した金額は大きいものの、効率性や俊敏性(アジリティ)が決定的に足りない組織が出来上がっています。変化の激しい今日のデジタル時代は、アジリティが勝負のカギです。となれば、動きの鈍い日本企業に未来はないという危機感から、DBICを立ち上げたのです」

DXを巡る大きな勘違い

上述したようなIT、あるいはデジタルテクノロジーに対する日本企業の感性や理解度の低さは、DXの領域でも顕著に見られているという。

「あるシンクタンクの2019年調査によれば、売上高1,000億円以上の企業の8割近くがDXに取り組んでいるといいます。ところが、その“DXの中身”を見ると『業務処理の効率化・省力化』が大多数。こんなことでは日本企業に未来はないと断言できます」と、西野氏は言い切ると、語気を強めて次のように続ける。

「既存業務の効率化・省力化を本気でDXだと考えているなら、それはとんでもない勘違いです。DXは、企業競争力を高めるための取り組みで、ここで言う競争力とは、未来を生き抜く力のことです。既存の業務やビジネスを効率化・省力化しただけでは、未来の力は絶対に獲得できません。そもそも、ITによる業務処理の効率化・省力化なら、日本の大手企業は数十年前から取り組んできたはずです。そこにイノベーションはなく、自宅の掃除機を新品に交換するレベルの話です」

DXとデジタル化との混同

西野氏によれば、DXに対する日本企業の理解不足の背景には、「デジタライゼーション(デジタル化)」と「DX」との混同があるという。その点について、同氏は、Amazonによる“レジなし実店舗”Amazon Goの展開を引き合いに出しながら、こう説明する。

「Amazonが過去に行ってきたことは実店舗のデジタル化で、それはDXではありません。eコマース専業だったAmazonが、Amazon Goという実店舗のビジネスに乗り出したことが、まさしくDXです。彼らは、データ分析によって顧客のことを徹底的に理解したうえで、ビジネスのあり方や顧客との関係を根本的に変容させ、自分たちの新しい未来を切り開こうとしています。このように、DXとは、デジタルテクノロジーとデータによって自社のビジネス全体をトランスフォームすることであって、単なるデジタル化とは別次元の話です。ところが、それを正しく認識できていないのが日本企業です。そんなことではDXはままならず、未来を生き抜く力の獲得も望み薄です」

西野氏によれば、日本企業は、デジタル化とDXとの本質的な違いを理解していないという。

ちなみに、西野氏は今回、AmazonのようなDXの取り組みを推進するうえの要点として、以下のような図を提示した。

画像: 図:データ活用でデジタル時代にふさわしいビジネススピードを確保する

図:データ活用でデジタル時代にふさわしいビジネススピードを確保する

この図にあるとおり、デジタル時代では、ビジネススピードを加速させることが不可欠であり、そのためには、通常のビジネスプロセスの中に顧客データの収集・分析・活用のサイクルを組み込み、ビジネス現場がリアルタイムに顧客の状況を把握して、自らの判断で動けるような環境を築くことが必須であるという。ゆえに、意思決定の権限は徹底的に現場に委譲し、かつ、開発・運用のアジリティを向上させ、データ分析から得られた結果を基に、ビジネス現場に新しい付加価値サービスをスピーディに提供していくことが重要であるとしている。

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