アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』から新着コラム。今回はアトラシアンが新たに採用した「人事評価」のフレームワークについて、人事部ヘッド(Head of Talent)のベック・チーが語ります。

人事の年次評価は必要悪!?

従業員のパフォーマンスに対する年次の評価──つまりは、年次の「人事評価」は本来、従業員の一人一人が、会社の成功に対する自分の貢献度を把握し、次の1年における自分の成長のために、何をどうすればよいかをつかむ大切なプロセスである。

ところが、米国における年次の人事評価は会社の中の「必要悪」とされ、とかく嫌われている。私の前の会社の同僚たちも、年次の人事評価を「待ち伏せ攻撃」と揶揄し、怖れていた。要するに、彼らにとっての年次の人事評価は1年に1回の頻度で、どこからともなく上司が現れて、自分の仕事ぶりに対する批判をまくし立て、さっさと消えていくだけの儀式に見えていたのである。

確かに、米国企業の人事評価(米国以外の企業もそうかもしれないが)には、さまざまな問題が内包している。なかでも大きな問題の一つは、社会心理学で言うところの「認知バイアス」(例えば、先入観や偏見、誤解など)が、私たちの想像以上に人事評価に負の影響を与えていることだ。

このバイアスは、多くのビジネスパーソンに対する過小評価や不公正な評価を生んできた。また、そうした評価を受けた経験が怒りや欲求不満、自己不信、モチベーションの低下など、さまざまな悪感情をビジネスパーソンに抱かせ、「自分への評価は不公正で、何らかの偏見が根底にある」といった疑念を増幅させてきたと言える。

実際、女性やマイノリティのビジネスパーソンは、認知バイアスによる過小評価やステレオタイプの過小評価を受けやすい。

例えば、女性従業員がリーダーシップを発揮しようとした場合、その従業員は「親分風を吹かせたがる性格」と判断されることが多い。一方で、同じ立場の男性従業員が同様の態度を取ると「リーダーの資質がある」と評価され、昇進したりする。また、女性リーダーの失敗は男性リーダーのそれよりも厳しい目でとらえられ、組織の中で長く記憶されることが珍しくない。加えて、黒人従業員は何の根拠もないステレオタイプの見方によって、白人従業員に比べて“攻撃的な性格”と見なされることが多い。さらに言えば、従業員の評価において業績だけを必要以上に強調し、チームの健全性や組織文化への貢献を無視する姿勢も、多数の企業に共通して見られるバイアスと言える。

一方、人事評価は評価する側にも相当のプレッシャーを与える。例えば、アトラシアンが自社のマネージャーたちに調査をかけたところ、彼らは一様に「直属の部下に対する評価の方法や部下に対するフィードバックのあり方について、具体的な指示がもっと欲しい」と述べていたのである。

そこで人事を担当する私たちは、新しい人事評価のフレームワークを開発した。このフレームワークは、従業員のパフォーマンスの継続的な改善と評価の公正性、そしてバイアス排除にフォーカスを当てたものである。以下、アトラシアンの新しい人事評価フレームワークについてご紹介し、ポイントを明らかにする。

ポイント:バイアスの排除

効果的な優れたチームを作り上げるには、メンバー個々人のパフォーマンスを高めるよりもチーム全体のパフォーマンスを上げることを優先させなければならない。

例えば、アトラシアンの調査を見ると、自分たちの仕事と会社の構想との関係に対する理解度が深ければ深いほど、また、メンバー同士のつながりが強ければ強いほど、チームのパフォーマンスが高く、より効果的な仕事が行えていることが分かる。

そうした点を勘案しながら、従業員のパフォーマンスを全体的にとらえるための見方を確立するために、私たちは従業員のパフォーマンスを以下の3つに分けて評価することにした。

  1. 期待された役割の遂行度
  2. チームへの貢献度
  3. カンパニーバリューの体現度

この評価システムでは、マネージャーによる評価の公正性を保つべく、認知バイアスを可能な限り排除するための設計も施されている。

アトラシアンの調べたところによれば、非構造的、あるいは仕様化されていない評価基準は、認知バイアス評価を誘発しやすいという。そこで私たちは、パフォーマンスレベルに関係する従業員の“振る舞い”や“行動”を細かく定義してある。

また、私たちは過去の経験から、人材の「価値」「役割」「チーム貢献」の3つを分けて評価することが、特定領域の評価が他の領域の評価に必要以上に影響を与えてしまう「ハロー効果」を回避するうえで有効であることも分かっていた。

加えて、私たちが細心の注意を払ったのは、いわゆる「ブリリアント・ジャーク」(=仕事をこなす能力は高いが、他者を蔑む態度を平気で取るような人物)が、高く評価されてしまうようなフレームワークにしないことである。そのうえで、認知バイアスを可能な限り排除するための仕組みとして、評価補正のプロセスに点検と調整のプロセスを組み入れたのである。

この新しい人事評価フレームワークは、全体的に、業績に与えた個々人のインパクトよりも、チームへの貢献のほうを高く評価する仕組みになっている。

従来の私たちのゴールは、あまり表に出てこない従業員たちの働きをしっかりと評価することにあった。この評価の方向性は、伝統的に過小評価されがちだった従業員の一群に光をあてるという点で正しいものだったと言える。

例えば、従業員の中には、自分の業務時間の多くを(自発的か、強制的かにかかわらず)チームビルディングに関係したボランティア的な仕事に費やしている人たちがいる。例えば、社外でのチームレクリエーションの計画を立てたり、社内の有色人種コミュニティのランチをリードしたり、といった具合である。

このようなチーム貢献も人事評価に組み込むことで、すべての従業員が「自分たちは会社から公正に評価されている」「自分たちの働きは、きちんと認知されている」という意識を強く持てるようになる。

いずれにせよ、従業員たちの働きを包括的に評価することによって、各人は仕事に対して全力で取り組むようになる。つまり、自分のスキルだけではなく、企業文化への貢献や、多忙を極める同僚を手助けしようとする意志など、会社での自分のすべてが評価されていることを知れば、従業員たちは、会社への能動的な貢献意欲を自ずと高めていくのである。

以下、私たちの新しい人事評価フレームワークが、どのようなかたちで個々人のパフォーマンスを計測しているかについて、改めてまとめておく。ご興味のある方は、ぜひ、参考にされたい。

期待された役割の遂行度

これは、伝統的で標準的な人事評価指標と言える。

ここでは、従業員たちが自分に与えられた役割を期待通りに遂行できたどうかが評価される。具体的には、チームや会社の戦略に対して「どの程度正しい業務が遂行できたか」や「顧客にとって意義/インパクトのある業務品質の維持・向上に、どの程度貢献できたか」といった点が評価(計測の)対象となる。

また、私たちはこの評価の枠組みを拡張し、「計画上のギャップを特定し、軌道修正に貢献したか」「部下のスキルセットの拡張に貢献したか」「他者に刺激を与え、パフォーマンス向上に貢献したか」といった評価項目も加えている。その際に意識したのは、「個人のパフォーマンス」の定義の中に、他者の仕事力を増幅させることを含ませ、その重みを多目にすることである。

チームへの貢献度

評価の2つ目の柱であるチームへの貢献度については、それを計測する指標として以下のような項目を設定している。

  • チームメイトの能力アップの機会を探求しているか。
  • チームパフォーマンス向上の機会を探求しているか。
  • チーム視点で問題解決に当たっているか。
  • チームメイトの相互信頼とチームへの帰属意識を高める環境づくりに貢献しているか。

この評価指標は、チームの集合的な成功を祝う方法を見つけたり、能動的にチームの統制や透明性の確保に動いたり、アトラシアンのチーム文化/プラクティスを継続的に改善したりする意欲を発揚するためのものとも言える。

アトラシアンがこうした取り組みに意欲的なのは、チームにおける最高レベルのパフォーマンスは、チームにプラスのインパクトをもたらそうとする従業員たちの能動的貢献によってもたらされるとの確信があるからである。

カンパニーバリューの体現度

アトラシアンの5つのカンパニーバリューは、従業員全員の行動規範と言えるものだ。すべての従業員が、これらのバリューに従って日々のビジネス活動を展開し、意思決定を下し、顧客と対話し、従業員同士で交流しなければならない。となれば、カンパニーバリューの体現度を従業員の評価指標に組み込まないわけにはいかない。しかも、この指標は、カンパニーバリューのどれか1つにフォーカスを絞ったものではなく、すべてのバリューに則って動くことを求めているのである。

下記は、従業員たちがコーポレートバリューに則って行動しているかどうかを評価する際の基準の例である。

Open company, no bullshit
(オープンカンパニー、デタラメは無し)
  • 透明性の高い建設的なコミュニケーションを行い、自分たちのミスに対する責任を全員が持つ。
  • 役割の違いや組織の地位とは関係なく、相互に信頼関係を築き、すべての人のアイデアに真摯に耳を傾ける。
  • 相手にはポジティブな意志があると見なし、話のコンテキストを集める。
Build with heart and balance
(心を込めてバランス
を考えて作る)
  • 情熱と純粋な感心をもって仕事に取り組み、自分の仕事を他者の成功にどうつなげるかを考える。
  • より大きなビジョンを描き、実行に移す前に他への影響の大きさを検討する。
  • やるべきことを終わらせる。ただし効果を下げている原因は突き止め、完璧を追求しすぎない。
Don’t #@!%the customer
(顧客をないがしろにしない)
  • 顧客からのフィードバックは共感をもって聞き、対応する。
  • 顧客のニーズを先読みし、意思決定時には顧客への影響を必ず考慮に入れる。
  • ソリューションの一部になる意志を見せる。
Play, as a team
(チームとして動く)
  • 最適なインプットを追求し、他者からフィードバックを受け入れる。
  • 他者が意見を述べる機会を創出し、チームメイトたちが、チーム内で評価され、組織への帰属を強く感じられるようにする。
  • たとえ、それが自分の仕事とは無関係であっても、他者を助けられる機会を能動的に探す。
Be the change you seek
(自分自身が変化の原動力になる)
  • 建設的に挑戦を続ける。
  • プロセス改善のアプローチを採用し、他者を巻き込み、他の代替施策も提案する。
  • 変革を主導するうえでは、忍耐強く困難な課題に立ち向かい、結果へと導く。

アトラシアンの新・人事評価フレームワークの現在地

私たちはすでに新しい人事評価フレームワークのテストサイクルを終えている。このテストに参加した従業員やマネージャーのフィードバックから、新しい人事評価フレームワークが、公正で現実に即した評価であることが確認できた。なかでも、私たちにとって特に嬉しかったのは、新しい評価構造においては、不要なバイアスが入り込む余地のないことが明確に示されたことである。

また、新しい人事評価フレームによって、自己のパフォーマンスをどう改善すべきかを理解した従業員の比率が従来よりも10%アップし、自分への評価が自己のパフォーマンス改善に有効だったとする従業員も従来比で9%増えている。今後も、私たちは人事評価制度を改変し、年次の人事評価のみならず、1年間を通じた継続的な評価/フィードバックも促進していく予定である。

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