今回は懺悔(ざんげ)から
私は6フィート4インチの白人男性である。かの有名な“マイヤーズ&ブリッグス”の類型に従うと、“外交的”であるらしい。今回はそんな私の懺悔(ざんげ)から話を始めたい。
初めにお断りしておくが、この懺悔に対して皆さんの許しを請おうとか、同情を引こうとか、そういった気持ちはない。本稿の目的は、純粋に私の過去の過ちを皆さんと共有し、そこから私が何を学び、どんなふうに自己改革を推進してきたのかを知っていただくことにある。
それでは、改めて懺悔から。
実は、私はかつて同じようなマインドセットを持ち、すべての物事に対して、激しく同意をするような人たちで周囲を固めていた。そのため、会議やワークショップの場において、私の意見に異を唱えようとする人は一人もいなかった。これは至極当然のことだったのだが、当時の私は、そんな状態に満足していて、「よし、今回の会議もうまくいった! 自分のアイデアに誰も反対しなかったぞ」と悦に入っていたのである。
実のところ、何年もの間それで万事が良好に回っているように思えていた。ただし、実際はそうではなかった。
言うまでもなく、同じようマインドセットを持った人たちは、モノゴトの見方や考え方が似ている(というか、ほぼ同じである)。そのような人たちだけでチームを組んだ場合、自分のアイデアのすべてが肯定されるので居心地はよい。また、全員の考えが“シームレス”に見えてくる。
ところが一方で、考え方がマンネリ化し、平凡なアイデアしか生まれなくなる。そして、“意思統一と行動だけは早いが、どこにもたどりつけない”といったチーム状態に陥ってしまうのである。
このようなチームのマンネリズムを打ち破るために、私は次の2つのフレーズを常に念頭に置くようにしている。
2. ナレッジワーカーの機能不全は、知識と行動とのギャップによってもたらされる
例えば、私の場合、“コグニティブダイバーシティ(モノゴトに対するとらえ方・視点・考え方の多様性)”を確保することの価値を以前から知っていた。
にもかかわらず、現実の自分は、その知識とは真逆の行動をとり、上で明かしたように似たような考えを持つ人間だけで周囲を固めていた。そして、“他者とは違う考えを、ストレスや恐怖、重圧を一切感じずに発言できる環境づくり(つまりは、心理的な安全性が担保された環境づくり)”も怠っていたのである。
ちなみに、そうした過去の自分に対する反省の意味も込めて、私は2019年における目標の一つとして、以下のゴールを定めている。
「会議に出席したら、その部屋を退出するまでに、必ず何かしら新しい知識を身につける」
自己改革の5つの施策
もちろん、私の“自己改革”の取り組みは、上に示した2019年目標の達成がすべてではない。これまでにもいくつかの施策を講じてきた。以下に、私が講じた5つの施策と、それぞれの意義についてまとめておきたい。
1. 自分とは異なる見解・価値観を持った人間たちを会議に招く
解決したい問題が何であれ、解決のアイデアを自分とは異なるマインドセットを持った人から収集することは大切だ。またそれが、自分(ないしは、自分のチーム)のアイデアを洗練させる一助になる。
テクニックはシンプルで、まずは自分とは考え方や視点・価値観が明らかに違う2~3人を探し、会議に招く。ただし、単に考え方や視点・価値観の異なる人を会議に招くだけでは、何も起こらない。そこで重要になるのは、そうした人たちが自分の意見を自由に言えるチャンスを意図的に作り上げることである。
要するに、「ダイバーシティ」を確保するだけではなく、「インクルージョン」の施策を実行することが大切なのである。ちなみに、ここで言うダイバーシティとは「自分とは異なる視点や価値観を持った人をパーティに招待すること」を指しており、インクルージョンとは、「そうした人が自由に、気持ちよくダンスができる場を設けること」を指していると考えれば、理解が早いかもしれない。
2. 他者による発言のチャンスをより多くつくる
私のように、すぐに持論を展開したくなる“外交的”な人間がチームを率いていたりすると、チーム会議の場で“沈黙”を守り続けるのは努力がいる。
だが、沈黙はときとしてパワフルで有効だ。実際、私が会議中に沈黙を守るようにしたことで、チームメイトたちは、それぞれの殻を破り、ユニークな視点を会議に持ち込もうとし始めたのである。
もちろん、「リーダーは、会議中に自分の意見を一切述べてはならない」と言っているわけではない。ただし、リーダーとして会議で意見を述べるときには、次のような前置きを忘れないでいただきたい。
「参考として聞いて欲しいのだが、例えばこんなふうに考えるのはどうだろうか……」
このようにして自分の意見を言うことで、参加者のさらなるアイデアを引き出せる可能性が高くなる。リーダーは、議論の終わりに発言して結論を出すのが義務と考える方も多いが、自分に結論があってチームに従って欲しいなら、会議をする必要はそもそもない。会議は、議論を交わす場であって、リーダーの考える結論も検討対象のアイデアの一つでしかないのである。
3. 自分のアイデアを披露して周囲を納得させたいというエゴを捨てる
以前、会議での私の態度を見ていたメンターに、こうアドバイスされたことがある。「ドム。キミは問題の解決法を考えるのが、すごく好きなようだね。でも、本当に大切なのは、問題を解決することじゃない。その問題をキミの考える方法で解決することで、顧客の喜びを最大化できるかどうかだ。もっと顧客の喜びのほうに情熱を傾けるべきだね」
このアドバイスは、自分のアイデアとともに「アイデアを披露して参加者を納得させたい」という自分の“エゴ”を会議の場に持ち込んでしまう、私の悪しき習慣を改めるきっかけになった。
もちろん、アイデアは会議室に持ち込むべきものである。ただし、自分のエゴは会議の場に持ち込んではならず、会議室の扉の外に置いておくべきなのである。
実際、アトラシアンには「ドムのエゴを守ってあげよう!」などという、ナンセンスな標語は存在しない。代りにあるのは「Don’t f&@k the customer(顧客をないがしろにしてはならない)」というモットーである。もし、“顧客ために問題を解決する”という一点に情熱を注ぎ続ければ、顧客の幸せは自分の幸せに直結するのである。
4. 他者の知恵で自分のアイデアを改善する
周囲が自分のアイデアに従うだけであれば、自分の能力以上のことをチームに期待できなくなる。つまり、自分の発想力の限界がそのままチームの発想力の限界になるのである。
ただし、自分のチームに異質な視点を持ち込むことで、集団の知性によってアイデアに磨きがかけられるようになる。例えば、会議の中で以下を試していただきたい。
アイデアが40%程度しか固まっていない段階で、そのアイデアに対する意見や改善のポイントについて、自分たちとは異なる視点・価値観を持った外部の人間に求める。
こうすることで、同じ視点を持ったチームのメンバーだけでアイデアの残り60%を練り上げるよりも、はるかに優れたアイデアが効率よく生まれるはずである。そして、そのアイデアは自分たちの発想の限界を超えているものの、自分たちが創出したアイデアとして、愛着が芽生えてくるのである。
5. 反対でもコミットはする
企業におけるチームリーダーは、チームとしての意思決定を下しているわけではなく、コンセンサスを確立しているに過ぎない。ただし、チームリーダーはリーダーとしての意思決定を下し続ける必要がある。
私の場合、“反対でもコミットはする”というアプローチを採用している。これは、すべての意見に耳を傾けながら自らは意思決定を下さず、代りにチームで決めたすべてのことに(それに賛成か、反対かにかかわらず)最終責任を背負うということである。大切なのは、自分がコミットした意思決定については、情熱を持ってその成功をバックアップすることである。