批判への拒否反応は自然の摂理
自分の仕事に対する批判は、受け入れがたいものだ。多くの時間と労力を注ぎ込んだ結果が、一瞬にして切り裂かれる──。そんな経験は誰だってしたくない。
それでも、「痛みなくして得るものなし」と人は言う。しかしながら、私は生来「痛み」が嫌いである。本音を言えば、「痛みを感じなくて済むなら、それに越したことはない」といつも考えている。
ところが、仕事をしていると、ときおり、辛辣なフィードバックがやってくる。そのようなフィードバックを受けるたびに、落ち込んだり、恐怖を感じたり、不安になったりする。
「自分は、ダメだと思われているのかもしれない」
「自分の知性が疑われるようなメールを出してしまったのだろうか!?」
「中学1年生の時、歴史のテストでパスしなかったことがバレてしまったか!?」
もっとも、このように感じるからと言って、悩む必要はない。人ならば、それが当たり前だからである。例えば、トークスペース社のソーシャルワーカー、キンバリー・ライチ氏によれば、特に上司からのフィードバックは、ビジネスパーソンのストレス反応のトリガーであるという。周囲からの批判やフィードバックに身体が反応してしまうのは、自然の摂理であり、防衛本能のなせるわざと言えるのである。となると、問題は、そうした自然の摂理にどう打ち勝つかということになる。
実のところ、この問題を解決するのは難しい。ただし、不可能ではない。例えば、以下に示す5つの対処法を実践することで、あなたは、心のバリアを打ち壊し、あらゆるフィードバックを、両手を広げて受け入れられるようになるはずである。
対処法 1: 自分が完璧だとは思わない
ある日、あなたの家のドアのベルが「ピンポーン」と鳴る。
「誰だい?フィードバックかな?」と、あなたが答える。
「やあ、そうだよ!」と、フィードバックの声が聞こえる。
このように、あらかじめフィードバックがやってくることを知っているケースがある。それは、定期的に行われるパフォーマンスレビューかもしれないし、はたまたブロードウェイに出るようなことがあればパフォーマンスに対する批評かもしれない。ただし、それが何であろうと、少なくともフィードバックが来ることは、事前に承知しているわけである。
ゆえに、まずは気を落ち着けて、心の準備をすることが肝心である。
このとき、非常に大切なことは、あらゆるタイプのフィードバックがくる覚悟をしておくことだ。というのも、世の中には完璧な人間は存在せず、ときには批判にさらされることが必ずあるからである。また、完璧ではないのが人間なので、完璧ではなく、批判されたとしてもダメ人間であるとは限らない。ゆえに、それほど落ち込む必要もない。
さらに、オープンなマインドセットを持って、何事も前向きにとらえることも重要だ。フィードバックをしてくる相手は、多くの場合、あなたと一緒に働くチームのメンバーか、チームのリーダーであるはずである。彼らは大抵、あなたを手助けする最高の方法を見つけ出し、あなたの仕事をもっとよくしたいと望んでいる。仮に、彼らが厳しい言葉を投げかけてきたとしても、それは、あなたに可能性を感じ、もっと輝いて欲しいと願っているためと言える。
もちろん、ときには、そうではない場合があるかもしれないが、大抵は、チームでのフィードバックは、前向きな意図が根底にある。したがって、フィードバックを受け入れ、批判的なフィードバックを受け取ったとしても、それを自分の仕事を新しい角度、あるいは新しい側面から見つめ直し、改善できるチャンスととらえるべきである。
対処方法 2: ストップ、深呼吸、そして考える
人は批判されると誰でもネガティブになる。気が滅入り、ストレスを感じ、自分を守ろうとする。そんなときは、まずは深く息を吸い込み、吐き出して、批判に対する自分の初動にストップをかけるのが賢明だ。深呼吸のプロセスは数秒程度で済む。それだけで、批判に対する自分の防衛本能を抑え込み、冷静になれる。
また、相手のフィードバックに耳を傾けているときは、あなた自身ではなく、フィードバックで指摘を受けている問題点に集中することも大切である。
そして、自分も含めて、すべての人間が完璧ではないこと、そして、完璧ではない人間(つまり、あなた)の仕事には常に改善の余地があるということを忘れないでいただきたい。そのうえで、自分のフォーカスポイントを仕事という一点に絞ることで、批判に対する自分のネガティブな反応がコントロールできる。
それは、フィードバックで指摘されている問題点が、あなた自身のパフォーマンスだったとしても同じである。このときは、いったん自分自身から、問題にされている自分のスキルや特性を切り離してみる。すると、フィードバックが自分の一部分を問題にしているだけであって、自分の全人格を否定しているわけではないことが見えてくる。
この習慣を身につけるのは難しく、それは習得するのに努力を要するスキルとも言える。だが、とにかく、批判への条件反射としてネガティブな言葉を発してしまう前に、いったん立ち止まって深呼吸をし、そして考える──。それが大切である。
対処方法 3: フィードバックの中身を理解する
深呼吸をして冷静になり、積極的に相手の言葉に耳を傾ける──。こうしてフィードバックへの反射的な初動にストップをかけたのちは、「理解」の段階に進むことになる。これは、何を指摘されたのかを理解し、改善すべきポイントを特定するプロセスと言える。
このプロセスにおいては、フィードバックセッション後に散歩に出かけたり、小さなブレークを入れたりして、上司や同僚から言われたこと──つまりは、フィードバックの内容を理解する時間を作るのが賢明である。
その結果として、もし、指摘されたことのすべてに納得がゆかなければ、相手に聞くべきことを明確にしたうえで、質問を投じ、理解に齟齬(そご)がないようする。ここでのカギは、フィードバックについて論争を繰り広げたり、アドバイスを無暗に切り捨てたりするのではなく、そのフィードバックが本当に役に立つことを証明するような、具体的な例や提案を相手に求めることである。
ときとして、自分とは異なる意見・見解を仕事に取り入れることが、きわめて有効な場合がある。したがって、あなたの仕事に対する新しい見方には常にオープンであることが大切だ。実際、そうすることで、これらのプロジェクトに役に立つ、より多くの情報とより優れた手法、さらには新しいアプローチを手にできるチャンスが広がるのである。
対処方法 4: フィードバックに感謝する
何らかのフィードバックを受け取ったときに、もう一つ、忘れてはならないことがある。それは「感謝」だ。
このように言うと、「自分への評価なら感謝する気になれるが、批判だったら感謝する気分には到底なれない」と感じるかもしれない。そう、確かに、批判に対して感謝するというのは防衛本能とは真逆の取り組みと言える。とりわけ、あなたの仕事をズタズタに切り裂いた張本人が、まったく尊敬に値しない人物だったとしたら、とても感謝する気持ちにはなれないだろう。
ただし、逆にそうではなかったらどうだろうか。
例えば、その人はあなたの仕事やチームの評価に多くの時間を割いていて、あなたのチームが成功することを心底願っているとする。その場合には、あなたへのフィードバックの根底には、それが批判であったとしても、必ず前向きな意図がある。だとすれば、そのフィードバックを肯定的に受け止める必要があるのではないだろうか。
また、あなたのチームの成功を願っている人たちは、あなたの仕事のパフォーマンスをどうすれば改善できるのかについても、常日頃から考えているだろう。要するに、あなたを支えたい、助けたいと願っているのである。しかも、彼らは、大抵の場合、あなたとは異なる世界観を持ち、違う視点を持っている。それは、あなたの仕事に必要なこと、つまりは、継続的な成長と、それを下支えするフィードバックをもたらすものと言えるのである。
対処方法 5: 実装とフォローアップに力を注ぐ
優れたフィードバックは、自分の仕事に実装すること(つまりは、実際に取り入れること)によって初めて意味を成す。
実装の仕方は、取り組む仕事の長さや対象範囲(スコープ)によって多少異なるだろうが、一般的には、フィードバックをプロジェクトに取り込み、評価を求め、フィードバックの要求に沿った改善が行われているかどうかを確認することになる。
もちろん、フィードバックの内容をすべて取り込む必要はない。最終的にそれはあなたの仕事で、改善につながらないと思ったものを外す権利はあなたにある。ただし、妥当な線としては、取り込まないフィードバックを全体の10%程度に抑えないと、なぜフィードバックを活用しなかったかの論理的な理由を探す必要がでてくるはずである。
なお、ときおり、まったく役に立たないフィードバックをもらうことがある。そうしたフィードバックは、大抵の場合、ネガティブな意図を持つ人か、あるいは、単純に問題点が見えていない人から送られてくる。そして最悪なのは、こうしたフィードバックは、人を傷つけやすいということである。
残念ながら、この手のフィードバックに対抗するために確立された心理的な対処法はない。ただし、次の3つの方法が役立つ場合があるので参考にされたい。
- 役に立たないフィードバックや批判は無視する。
- プロフェッショナルに、受けたフィードバックについて上司と話す。
- 自分を助ける意志がないと感じた人からのフィードバックは、自分に届かないようにする。
とにかく、常に意識を高く保ち、自分の仕事に集中することが大切である。建設的ではないフィードバックは人を傷つけるだけで、仕事にはまったく役に立たない。そのようなフィードバックは可能なかぎりすみやかに忘れてしまうほうがいい。
感情的にならず、いつも冷静に
以上の記述からもお分かりいただけると思うが、フィードバックを処理するときに最も大切なことは、感情的にならないことである。
それは決して簡単なことではない。だが、フィードバックをどう処理するかを計画しておけば、どのようなフィードバックがきても、あまり痛みを感じることなく、冷静にそれらを処理することができる。ということで、ここまで述べてきた方法について改めて以下にまとめておきたい。
- フィードバックに対してオープンマインドで臨み、異なる視点・見方を取り入れて自分の仕事をどう改善するかにフォーカスする。
- フィードバックに即座に反応しようとは考えず、数秒の間隔を置いて、処理に取りかかる。それによって感情を抑えて、理性的、かつ論理的にフィードバックに対処できる。
- フィードバックの内容を確実に理解する。それができない場合は質問を投じる。フィードバックの出し手は、自分の投げかけたポイントについて深い議論ができることに喜びを感じ、あなたの仕事の改善方法をより明確にする手助けをしてくれる。
- フィードバックの出し手に対し、自分の仕事の改善と成功に向けて時間を割いてくれたことへの感謝を伝える。
- 建設的な批判に対しては耳を傾け、そうでないものはすべて切り捨てる。そのうえで、建設的なフィードバックを仕事に実装して、フォローアップを行う。
以上を参考に、フィードバックを有効にご活用いただきたい。