企業は今やガラス張り
今日の企業はまさにガラス張りの状態である。
例えば、「私たちは、より良い世界の実現に向けて日々努力している」、「社員を大切にしているので、優れた人材しかいない」といった言葉で自社を飾り立てたところで、内実が伴わなければ、会社に不満を持つ従業員の声が、インターネットという世界最強のメディアを通じて社外に放出され、会社の本当の姿が広く世間に知れわたる。結果として、社会的に大きなダメージを被り、優秀な人材を雇用するためのリクルーティングの努力のすべてが無駄になる恐れも強まる。
同様に、企業に対する顧客の不満は、ソーシャルネットワークを通じて猛スピードで伝搬していく。その破壊力は、過去のいかなるTV CMをも上回ると言っていい。
CSRの取り組みと業績はリンクする
ここ数年来、CRM(顧客管理)/SFA(営業支援)ツールのリーディングベンダーであるセールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフCEO(最高経営責任者) は、ことあるごとに、従業員、顧客、そして自社が運営するコミュニティといったステークホルダーに貢献することの重要性を唱えている。
ところが一方で、米国における多くの経営者たちは、CSR(企業の社会的責任)への取り組みがビジネス上のメリットを生むことや、企業に直接的な利益をもたらす従業員、顧客、コミュニティを、株主と同じように尊重することの大切さを実感として理解できないでいる。
ただし、例えば、CSRへの取り組みが企業の業績向上に有効なことは、何年も前に証明されたことだ。全米経済研究所とハーバード・ビジネス・レビュー誌が2011年に発行した報告書によると、企業の株価とCSRへの取り組みとの間には、“正比例”の相関が認められたという。また、長期的な視点に立って、自主的に環境問題や社会課題の解決に取り組む企業は、そうではない企業に比べて圧倒的に業績が良いとしている。
従業員を大切にすることのビジネス効果
ミレニアル世代を相手にビジネスを展開しているかどうかにかかわらず、ミレニアル世代は企業にとって重要な存在だ。とりわけ、米国の場合は、ミレニアル世代が労働人口のマジョリティであり、彼らはCSRに対する姿勢を企業の評価基準にする傾向がある。
米国のミレニアル世代は、とかく「自己中心型」と非難されるが、そんな批評とは裏腹に、彼らは社会的道義・正義に敏感で、社会的責任を果たそうとする意識も高い。2015年と2016年にそれぞれ発表されたある調査によれば、ミレニアル世代の80%は何らかのチャリティ団体に属し、70%は最低でも年1回の頻度でボランティア活動に参加、37%は年間10時間以上をボランティア活動に費やしているという。
ただし、ミレニアル世代は「気まぐれで、飽きっぽい」という評判には根拠がある。2016年の調査では、社外にチャンスがあると4人に1人が1年以内に会社を辞めてしまうという結果だったが、2年の間にその割合は2人に1人と増えている。
そうした中、企業側は、すべてのエネルギーを仕事に傾けてくれるようなミレニアル世代を探しあて、雇用し、より優れた意思決定ができる人材へと育て、かつ、彼らが有給でボランティア活動に参加できるようにする体制を築くことが大切である。その点で、米国企業の25%が従業員のボランティア活動のために有給時間制度を敷いていることは評価できる。こうした制度は、何もミレニアル世代にとっての企業の魅力を高めるだけの施策ではない。従業員のボランティア主義は、企業の評判を高め、業績を押し上げる上でも有効な手段と言えるのである。
「#DeleteUber」キャンペーンの教訓に学ぶべきこと
「#DeleteUber」キャンペーン(※1)の教訓が示すとおり、今日の消費者は、社会課題に対する企業の姿勢にきわめて敏感であり、企業が、社会的な道義・正義に反するような行動をとることを許さない。
※1 #deleteuberキャンペーン:米国ドナルド・トランプ大統領が、イスラム教国7カ国とシリア難民受け入れ停止の大統領令を発したことにニューヨーク市民が反発し、ジョン・f.ケネディ国際空港で数千人規模の抗議集会が行われた際に、ウーバー社が同空港付近の割増料金停止をツイート。ウーバーに乗って帰ろう、という集会の解散を促すメッセージだと誤解を受けてしまい、次々とユーザーがアカウントを削除する事態に発展した。
その逆に、社会課題の解決に積極的で、株主のみならず、従業員や顧客を大切にしようとする企業の姿勢や取り組みは高く評価し、好感を持つ。それゆえに、そうした企業は業績を高調に推移させ、将来的にも強さを発揮すると目されているのである。
実際、そのことを証明している企業が3社ある。それは、先に触れたセールスフォース・ドットコムであり、ドミノであり、コストコである。彼らはいずれも、株主のみならず、従業員やコミュニティ、さらにはCSRを重視する姿勢を貫いており、業績を大幅に伸ばしているのである。