『異文化理解力 ~相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』

画像: 【BOOKレビュー】チームの強化に役立ちそうな本──勝手にレビュー #008 異文化理解力 ~相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養

著者   :エリン・メイヤー (著)、田岡恵 (監修), 樋口武志 (翻訳)
出版社  :英治出版
出版年月日:2015/8/22

各国ビジネスパーソンの“カルチャーマップ”

「会議をしても相手の真意がわからない」
「言葉でいくら説明しても、なぜか意図が伝わらない」
「よかれと思って言ったことが裏目に出て、不快感を示される」
「指示どおりにやったつもりなのに、ダメ出しを受ける」
「指示どおりに、なかなか動いてくれない」──etc.
海外の人材とともに働いていると、その人の文化的なバックグランドを理解するまで、意思疎通がうまく図れず、モノごとに対する見方、とらえ方、感じ方の違いに戸惑うことがある。

こうしたビジネスコミュニケーション上の問題が起きるのは、「言葉」の問題と思われがちだが、実はそうではなく、異文化に対する理解が足りていないからだという。本書は、そうした異文化理解を支援してくれる一冊だ。ビジネスパーソンの文化的背景を描く“カルチャーマップ(文化の見取り図)”を基にしながら、異文化(海外)の人材と、いかに意思疎通を円滑に図り、チームとして働いていくべきかの方法論が、実例を交えながら紹介されている。海外の人材とともに働く機会の多い人にとっては、必読の一冊と言えるかもしれない。また、海外の人材と働く中で、感覚値として会得してきた“付き合い方”を体系立てて見直すうえでも本書の記述は有効だろう。

著者のエリン・メイヤー氏は、フランスとシンガポールに拠点を置くビジネススクール、INSEADの客員教授で「異文化マネジメントに焦点を当てた組織行動学の専門家」。生まれは、海外文化に触れる機会がほとんどない米国ミネソタ州トゥーハーバーズ郊外で、育ちはミネアポリス。そうした生まれ育ちの反動からか、大人になって「世界の見方が(自分とは)劇的に違う人々に囲まれて生きる興奮を心底愛するようになった」という。人生の半分近くを、米国以外の諸外国を転々としながら生き抜いてきた筆者。その経験に裏打ちされた異文化理解のフレームワークはかなり実践的で、世界的にも注目されているという。

カルチャーマップの7つの指標

本書で紹介されているカルチャーマップは、以下の7つの指標に基づいている。

  1. コミュニケーション:ローコンテキスト vs. ハイコンテキスト
  2. 評価:直接的なネガティブ・フィードバック vs. 間接的なネガティブ・フィードバック
  3. リード:平等主義 vs. 階層主義
  4. 決断:合意志向 vs. トップダウン式
  5. 信頼:タスクベース vs. 関係ベース
  6. 見解の相違:対立型 vs. 対立回避型
  7. スケジューリング:直線的な時間 vs. 柔軟な時間

本書では、この7つの指標に基づいて、米国、カナダ、イギリス、欧州各国、日本、中国、韓国、サウジアラビア、イラン、インド、シンガポール、インドネシア、ブラジル、アルゼンチンなど、かなり広範な国の人の文化的特性が示され、それぞれの国の人同士が、ともに仕事をするうえでの課題や課題解決の方向性が示されている。

例えば、上記7指標のうち「①コミュニケーション」の「ローコンテキスト」と「ハイコンテキスト」とは、前者が「すべてのことを率直に言葉に出して、意思疎通を図る」タイプのコミュニケーション文化を指し、後者がその真逆──つまりは、「場の空気・文脈を共有しながら、遠回しな表現によって意思疎通を図ろうとする」タイプのコミュニケーション文化を指している。要は、ハイコンテキスト文化とは「言わずもがな文化」といえ、本書の中では、その文化的な特性を持つ国民の代表例として、日本、韓国、中国、インド、中東諸国の人が挙げられている。それに対して、ローコンテキスト文化の典型例として挙げられているのは、米国、カナダ、イギリスなどのビジネスパーソンだ。

この分類は、とりたてて目新しいものとは言えないが、本書の実践的なところは、ローコンテキスト文化の国民同士、ローコンテキスト文化とハイコンテキスト文化の国民同士、ハイコンテキスト文化の国民同士のビジネスコミュニケーションで起こりうる問題や、解決手法にまで踏み込んでいる点だ。

ちなみに、ビジネスコミュニケーション上の問題が最も起きやすいのは、ハイコンテキストの文化を持った、異なる国の人同士の対話であり、ローコンテキスト文化人とハイコンテキスト文化人とのビジネスコミュニケーションのほうが、起こる問題は軽微で解決は図りやすいという。

一つの指標では文化的特性はつかめない

海外の人とビジネスを進めるうえでは、上述したコミュニケーション文化の特性のみを頼りに、意思疎通を図ろうとすることが間々ある。「欧米の人たちと対話するときには、婉曲的な表現は避け、必ず率直に意見を述べないと理解してもらえないし、評価されない」といった具合である。

ところが、同じローコンテキスト文化でも、国よって違いがあり、ときと場合によって、率直な意見に拒絶反応を示す国民もあれば、そうではない国民もあるらしい。

例えば、本書の中では、フランス人のマネジャーが、米国人の部下たちのマネジメントに苦労を強いられた例が出てくる。米国人の文化的特性を、単純に、率直に物事を伝えることを是とする文化だと思い込んでいたことが苦労の原因であったという。実際には、米国人に対しては、率直かつ直線的に物事を伝えていい場合と悪い場合があり、このフランス人マネジャーはそれを理解していなかったのである。

この例に限らず、本書にはカルチャーマップに基づいたかたちで、ビジネスコミュニケーションの事例がさまざまに登場し、それぞれについてあるべき方向性が示されている。日本のビジネスパーソンにとっては、東南アジア諸国のビジネスパーソンの文化的特性に対する記述が少なく、もの足りなさを感じる可能性はあるが、少なくとも欧米各国のビジネスパーソンの行動や発言の背後にある意図や、彼らとのコミュニケーションのとり方については、具体性を持ってつかむことができる。それだけでも一読の価値はあるといえそうだ。

また、7つの指標に基づきながら、自ら、ともに働く海外人材の類型化を行うことで、海外の同僚とのビジネスコミュニケーションのあり方を見直すきっかけになるかもしれない。


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