アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのエイミー・リグビー(Amy Rigby)が「シックスハット法(6つの帽子思考法)」について説く。

本稿の要約を10秒で

  • 「シックスハット法(6つの帽子思考法)」とは、色の異なる帽子を使いながら、物事を「事実(情報)」「直感・感情」「創造性」によってとらえたり、「リスク」「ベネフィット」の側面からとらえたりして、思考を押し広げていく手法である。
  • 6つの帽子思考法では、視点、ないしは思考を切り替えるツールとして5つ(5色)の帽子を使用する(もう1つの帽子はモデレーターがかぶる)。
  • (モデレーターを除く)ディスカッションの参加者全員が、同じ色の帽子をかぶり、同じ方向から物事をとらえることで、思考が自然に広がり、バランスの取れた意思決定が行われるようになる

「6つの帽子思考法」とは何か

「6つの帽子思考法」は、医師であり、心理学者であり、作家でもあるエドワード・デ・ボノ(Edward de Bono)氏が考案したものだ。色の異なる6つの帽子を使い、ディスカッションに参加している全員が思考の方向を同時に切り替えながら単一のテーマについて検討していく。ボノ氏によれば、この思考法には2つの主な目的があるという。

  1. 潜在的なリスクやベネフィットなど、一度に1つの側面から物事をとらえることで混乱を防ぐ
  2. リスクだけに目を向けたり、ベネフィットだけに目を向けたりすることがないように、より広範な思考を促す

ボノ氏によると、西洋人の思考は、ある人が発言し、別の人がそれに異を唱える議論システムにもとづいているという。6つの帽子思考法は、その議論システムに対して「パラレルシンキング」という代替案を提示するものでもある。

パラレルシンキングとは、どんな瞬間でも、ディスカッションに参加している全員が同じ方向を向いて思考することを意味している。また、ディスカッションは通常「そこにある物事」に焦点を当てるが、パラレルシンキングでは「ありうる物事」に目を向けることになる。

このようにディスカッションに参加者が同じ方向に目を向けながら思考することで、全員が互いに協力しながら、同一のテーマ(例えば、仕事上の特定の課題と課題解決の施策など)に対する考えを広げ、深めていくことができる。結果として、よりバランスの取れた意思決定が可能になる。

6つの帽子思考法はどう機能するのか

ボノ氏は、6つの帽子思考法のテクニックをさまざまな場面で使うことを奨励している。例えば、職場における日常の会話でも、特定の切り口からの思考を要求する帽子を使うことができる。ただし、構造化された正式な6つの帽子思考法(その作法については後述)は、以下のような場面で使うのが適切とされている。

  • 複雑で重要な意思決定を行う場合
  • 意思決定に向けた話し合いを複数人で行う場合
  • 会議の場で1人だけが話していたり、何人かが発言するのをためらっていたりする場合
  • ブレーンストーミングを通じて物事の可能性を徹底的にカバーする必要がある場合
  • 選択肢やアイデアをより総合的に検討し、全員の考えや感情を包含したい場合

6つの帽子思考法の実践ステップ

では、6つの帽子思考法を実践するには、どのようなステップを踏む必要があるだろうか。以下、そのステップについて提示しておきたい。

ステップ①ディスカッションするテーマを明確にする
6つの帽子思考法を使うに際しては、解決すべき課題や決定すべき事柄に焦点を絞るべきである。

ステップ②「青い帽子」を1人に割り当てる
6つの帽子の1つである「青い帽子」は、ディスカッションをリードするモデレーターを象徴するものだ。青い帽子をかぶった人は、ディスカッションの開始と終了をコントロールする。また、参加者に対し、かぶる帽子を変えるタイミングを告げるのも、モデレーターの役割となる。

ステップ③参加者は同じタイミングでかぶる帽子を変える
6つの帽子思考法では、ディスカッションの参加者全員が同色の帽子を1つずつかぶり、自分の意見を述べていくことになる。ボノ氏は参加者1人につき1分ずつ発言することを推奨しており、モデレーター以外に5人がディスカッションしている場合、特定の帽子のもとで参加者全員が発言する時間は合計5分となる。もちろん、発言の時間が足りないようであれば延長も可能だが、ボノ氏は帽子ごとのセッションは可能な限り簡潔に、かつ集中的に行うことを勧めている。

ステップ④成果を明確にする
6つの帽子思考法によるディスカッションは、具体的な成果を生むものでなければならない。ちなみに、6つの帽子思考法を使ったディスカッションが終わるころには、チームは何らかの決定を下し、次のステップで何をするかを決めることができるはずだ。

6つの帽子の定義と活用法

ここからは、6つの帽子思考法についてより詳しく見ていくことにする。また併せて、6つの帽子思考法の使用例も、以下の仮想的な問題を使いながら示すことにする。

例題
2021年にハイブリッドワークを採用して以来、オフィススペースの利用率は下がり続け、一方で、オフィスの賃料は上昇を続けている。その中で、ハイブリッドワークにこだわるのか、完全リモートワーク体制を敷くのか、それとももっと良い選択肢があるのか。

以下、上で提起した問題への解決策を6つの帽子思考法によってどのように考えていくかについて紹介する。


青い帽子:ディスカッションをモデレートする

先に触れたとおり、青い帽子はディスカッションのモデレーターを示すシンボルである。この帽子をかぶった人は「人に思考させることに考えを巡らせる」ことになる。

6つの帽子思考法によるディスカッションでは、モデレーターの役割を担う1人が青い帽子をかぶり続ける。また、参加者全員で2つの「青い帽子セッション」を行う。1つはディスカッションを始める前に対話の枠組みを作るためのセッションだ。もう1つは、ディスカッションの最後に結果と次のステップを明確にするためのセッションである。

青い帽子をかぶったモデレーターは、ディスカッションの進行に責任を持つ中立的な司会者であり、以下の事柄を遂行することになる。

  • 会議の開始と終了
  • 趣旨の説明と議題の設定
  • 参加者がかぶる帽子の切り替え
  • 質問の投げかけ
  • ディスカッションルールの徹底
  • 話し合いの結果の確認
検討すべき事項発言例
このディスカッションで何について考えるべきか。「あらかじめ定義した議論の範囲から外れてしまったように感じます。改めてディスカッションの焦点をハイブリッドワークとそれに代わる選択肢に絞って進めましょう。」
ここまでのディスカッションは生産的か。「ここで一旦立ち止まって、これまでの議論の要点をまとめましょう。」
これが問題へと答えとなっているのか。他に探るべきことはないのか。「モデレーターとしての私の考えは、問題の本質はオフィススペースの利用率の低さや賃料の上昇ではありません。真の問題は、従業員のつながりの欠如ではないでしょうか。」

白い帽子:物事を「事実(情報)」でとらえる

「白い帽子」は「ファクトとしての情報」のみに関心を持つことを示すシンボルだ。白い帽子をかぶったら中立を保ち、入手可能な情報だけに目を向け、その情報に自分なりの解釈を加えることはしない。白い帽子のもとでも、自分の考えを述べることもできるが、それは情報の信憑性に確信が持てない場合に限られる。また、情報の信憑性が疑わしい場合には、のちに事実確認をしても構わない。

検討すべき事項発言例
自分たちは何を知っているのか。「最新の社内調査で、社員の76%が毎日在宅勤務することを希望していることがわかりました。」
「最低でも週に1回はオフィスに出社したほうが、チームのつながりが深まるとの調査結果を読んだことがあります。」
「社内調査を見ると、過去1年間で社員の25%が少なくとも週に1回はオフィスに出勤しているようです。」
何を調べる必要があるのか 。
不足している情報はどうすれば得られるのか。

赤い帽子:物事を「直感」「感情」でとらえる

「赤い帽子」をかぶったら、ディスカッションの参加者は自由に自分の「感情」や「直感」を口にすることができる。ただし、自分の発言内容に説明を加えたり、正当化することはない。

また、赤い帽子のもとでのディスカッションは、意思決定プロセスにおいて無視されがちな人の感情や直感を正当に評価し、意思決定プロセスに取り込むためのフェーズでもある。

注意:赤い帽子のもとでのディスカッションは可能な限り短くするべきである。ここで必要とされるのは参加者の直感的、あるいは感情的な反応のみであり、どうしてそう感じているかの説明は必要ではない。よって、仮に赤い帽子をかぶった人が5人であれば、全員の感情を共有するのに必要な時間は1分程度が妥当である。

検討すべき事項発言例
このアイデアをどう感じるか。「オフィスを利用している人たちは、義務感からそうしているような気がします」
この件に対する直感的な反応は?「直感的にはハイブリッドワークモデルは良くないと感じます」
何か、予感はあるか。「メンバー同士が直接会う機会がないとチームの士気が下がるように思えます」

黒い帽子:物事のリスクをとらえる

「黒い帽子」は、物事の潜在的な「リスク」をとらえるためのものだ。この帽子は、物事に要する「コスト」や「時間」といったリスクを洗い出すときに使うものだが、最終的には、それらのリスクを低減するアイデアが生み出されることになる。ゆえにボノ氏は、黒い帽子はすべての帽子の中で最も価値があり、最も使われていると指摘している。

検討すべき事項発言例
この選択肢で進めるべきか。「経済が不安定で、オフィスの賃料や物価が上昇傾向にあるので、オフィススペースを保持するのは危険だと思います。」
この選択肢の欠点は何か。「従業員に出勤を義務づけると、優秀な人材を逃してしまうリスクが大きくなるのではないでしょうか。」
この選択肢を選んだ場合、将来的に何か上手くいかないことが予測されるか。「フルリモートワークを採用するなら、非同期型のコラボレーションを優先する必要があります。さもないと、チームメンバーが時差のある地域にいる場合、不規則な時間に働く必要がでてしまい、生産性にも影響を与える可能性があります。」

黄色の帽子:物事の「ベネフィット」をとらえる

「黄色い帽子」では、物事のベネフィットだけをとらえる。黄色い帽子をかぶったときは、ディスカッションで提案されたアイデアの利点や価値を見極めて、それを実行に移す方法を考える。

もっとも、ボノ氏は、黄色い帽子による思考は黒い帽子のそれよりも難しいと指摘している。だからこそ黄色い帽子は重要であり、この帽子による思考によって、私たちはアイデアの価値を認識し、それを実行に移すモチベーションを高めることができる。

注意:黄色い帽子で思考する際は、物事のベネフィットを裏付ける事実、ないしは根拠が必要とされる。仮に、直感的にベネフィットを感じるだけであれば、それは単なるポジティブな感情であり、赤い帽子の思考となる。

検討すべき事項発言の組み立て
どうすればこのアイデアを実現できるか。「最高のシナリオは…」と切り出し、特定のアイデアがどの程度優れているかを表現する。もし、最高のシナリオを想定しても、それほどのベネフィットが創出できなさそうな場合、そのアイデア自体があまり良いものでない可能性が高い。
「私のビジョンは…」と切り出し、 特定のアイデアについて、わくわくするような可能性を示し、周囲の全員を惹きつけて行動を起こさせるようにする。
この選択肢の長所は何か。
この選択肢を選んだ場合、将来的にどんなベネフィットがもたらされるか。

緑の帽子:「創造性」をもって物事をとらえる

ある決断を迫られたとき、私たちは選択の幅を狭くしがちだ。つまり「A」「B」「C」「D」という4つの選択肢が存在するにもかかわらず、「A」と「B」の選択肢しか見ようとしない傾向が強くあるのである。「緑の帽子」は、そんな思考の偏りを正すためのものだ。この帽子は、あらゆる物事を、創造性をもってとらえ、新たな選択肢、あるいは課題解決に向けた新たなアイデアを生み出すことを人に求める。また、黒い帽子のもとで提示された課題に対する解決策を考え出すのも、緑の帽子の役割である。

検討すべき事項発言例
このアイデアのどこが興味深いのか。「オフィススペースを完全になくすのではなく、縮小するのはどうでしょう。」
このアイデアによって何が起こるのか。「現在のオフィスをコワーキングスペースに切り替えることで、コストを削減できませんか?」
ほかに代替案はないのか。「かつてのようにオフィス勤務のみに戻るという選択肢はどうでしょう。この点については、まだ検討していなかったと思います。」

【6つの帽子を共通言語にする】

6つの帽子思考法は、上述したような構造化された作法に従って使うだけではなく、職場のさまざまな場面でフレキシブルに使うこともできる。例えば、同僚が商談をまとめようとしているときに「悪い予感」を感じたら、このように質問してみると良い。

「赤い帽子をかぶった場合、その商談についてどう考えるだろう」

このように「6つの帽子」の役割を共通言語化(あるいは、共有概念化)することで、職場では難しい感情表現を自由にすることができる。言い換えれば、6つの帽子思考法は、あなたとあなたのチームが、より効果的にコミュニケーションをとり、思考の方向づけを行ううえで有用なツールとなりうるのである。

6つの帽子思考法を使った意思決定の実践

6つの帽子思考法を使ったディスカッションを終えたころには、あなたのチームは、旧来型の議論システムではできないことを成し遂げているはずである。実際、6つの帽子思考法のテクニックを使うことで、問題のあらゆる側面について、チームのメンバー全員が一緒に考えることができる。これにより、着想にバランスと公平性が保たれ、思考の偏りが小さくなるのである。

先に触れたとおり、6つの帽子思考法を使ったディスカッションを締めくくりは、青い帽子をかぶったモデレーターが担い、モデレーターが参加者全員にディカッションの結論を尋ねることになる。そうしたロールプレイングを通じて、あなたのチームは、バランスの取れたディスカッションと思考、そして新たな洞察が得ることが可能となる。結果として、自然な形で必要な意思決定を下し、次のステップですべきことを定義できるようになるのだ。

もちろん、6つの帽子思考法を使ったディスカッションが膠着状態に陥ることもある。そのような場合には直感に従うべきであるとボノ氏は述べている。要するに、すべての決断は赤い帽子で行うことになるというわけだ。

6つの帽子思考法によって、私たちは、さまざまな角度から物事をとらえ思考できますが、最終的な決断は自分たちの感情や直感に委ねられるのです。

This article is a sponsored article by
''.