周囲から信頼を得るための行動のリスト
チームリーダーが成すべき最も重要な仕事の1つは、メンバーからの信頼を得るための行動を日常的にとることだ。その行動をうまくイメージできないのであれば、以下に示す行動を、あなたの日々の行動へとうまく置き換えていただきたい。
行動①苦労を分かち合う
仮にあなたが、ビジネスの最前線で働くチームのリーダーであるとしよう。その場合、現場の課題に自ら取り組むことで、チームがいまどのような状況に置かれているかを肌身で理解し、共感することができる。また、チームが苦しい状況にあるときに、自ら袖をまくって現場仕事に参加することは、チームのケアに常に心を砕いていることを伝えるうえでも有効だ。
一方、チームの働く場所から遠く離れたところで働くリーダーや、メンバーがリモートに広く分散し、互いに時差のある分散型チームをマネージしているリーダーは、通常の勤務時間外のミーティングへの参加をメンバーに要請しなければならないことが時折ある。それ自体は悪いことではないものの、2回に1回程度はリーダー自身も同様の調整を行うことをすすめる。
行動②模範を示す
リーダーの振る舞いはチームの文化に多大な影響を及ぼす。したがって、チームにおいて非生産的な行動や、チームのミッションに反するような行動を見かけたら、「自分もこのような行動をとっていないか」と自問していただきたい。それと同様に、チーム内で賞賛に値するようなポジティブな行動を見かけた際には、そうした行動をあなた自身が模範として示せているかどうかを確認することも大切である。
こうした取り組み展開するうえでチームミーティングは格好の場だ。実際、ミーティングの場で目前の話題に熱中していると、私たちは人との対話のマナーを忘れてチームメイトの話を遮ってしまうことがある。そんなときに、リーダーが話を遮られた人に再度の発言を促すことで、ミーティングの場でどう振る舞うべきかの模範を示し、参加者全員にミーティング時のマナーを思い出してもらうことができる。話を遮られた当人に再度の発言を促し、かつ、その人の話に集中して耳を傾けるだけで良いのである。
行動③フィードバックを積極的に出す/求める
自分のチームのメンバーや同僚に対するフィードバックは、正直に、かつ頻繁に、そしてタイムリーに行うべきである。
特に、チームの誰かに批判的なフィードバックを伝えたい場合には、すぐに実行に移すことが大切だ。年次の業績評価のタイミングまで批判的なフィードバックを出すのを控えるようことはしてはならない。
ちなみに、キム・スコット氏は自身の著書「Radical Candor」の中で、フィードバックのあり方について次のように述べている。
フィードバックを伝えるうえで大切なのは、勇気をもって本人に直接伝えることと、その人に対するケアを忘れないようにすることです。加えて重要なのは、フィードバックは個人の性格的な特性ではなく『行動』だけにフォーカスを絞って論を組み立てることです。そして可能であれば、フィードバックの受け手に対し、実行可能な、とるべき行動の具体例を示すと良いでしょう。
また、フィードバックはチームリーダーからメンバーへの片方向であってはならない。実際、メンバーからのフィードバックがなければ、チームリーダーは自身を成長させることが非常に難しくなる。
理想的なシナリオは、チームの全員がリーダーを十分に信頼し、正直で率直な意見をリーダーに直接伝えたり、建設的な方法でリーダーの決定に異を問えたりできることだ。そんな理想的な環境を築くためにも、チームリーダーは、自分が受け取りたいかたちでフィードバックをメンバーに伝え、模範を示すことが大切である。さらに、自分に対するフィードバックを積極的に集めて、たとえ、批判的なフィードバックであっても(それが建設的なものであれば)、それに対する感謝の意を必ず示すようにする。それも、理想的なフィードバックの環境づくりや、メンバーによるリーダーへの信頼につながっていくのである。
行動④導き育てる
リーダーシップについて学べば学ぶほど、リーダーシップとは「人に指示を与えること」ではなく「人を導き育てること」であるとの理解が深まっていく。
言うまでもなく、チームリーダーによる「指示」は、メンバーに対する「命令」である。そうした命令は、ビジネス現場での経験の浅い(あるいは、経験のない)新入に何をどうすればよいかの基礎を学んでもらううえでは有効だ。
また、オペレーション業務に携わるチームには、実行すべき事柄をリストした「ランブック(作業指示書・作業手順書)」や「チェックリスト」があるかもしれない。
とはいえ、何をどうすべきかを命令されるだけでは、チームのメンバーは働くことに何の刺激も感じられない。また、自分が信頼されていると感じることもできないはずである。
一方、「導き育てる」とは、リーダーがトップダウンで命令を下すのではなく、チームのメンバー各人が何を目指して仕事をしているかを理解したうえで、その目標を達するすための支援を提供することを意味している。より具体的には、メンバーがどのような方向で自身のキャリアを伸ばしたいかを知り、そこに到達するための機会を見い出して提供することが、導き育てるアプローチと言える。
また、メンバーに対して、適切であり、かつチャレンジングなプロジェクトを担わせてみるのも良いだろう。そうすることで、そのメンバーはリーダーに期待され、信頼されていると感じられるほか、リーダーが自分の成長に投資しようとしていることを知り、働く意欲を高めるはずである。
行動⑤人に力を与える
私たちは日々の仕事を進める中で、ITサービスやインフラ、他のチームなど、さまざまなものに依存している。ゆえに、自分たちの仕事のあらゆる側面を完全にコントロールすることはできない。そんな中でリーダーとして成すべきことの1つは、他者と連携しながら、自分の能力を最大限に発揮するための行動をメンバーに身につけてもらうことだ。
そのためには、メンバー各人がチーム外に影響を及ぼすことができる分野を探し当てる作業を手助けする必要がある。また、仕事だけを与えるのではなく、仕事とともに数々の権限も委譲する。そのうえで、メンバーが思い切った行動をとっても、メンバーを信頼して受け入れ、見守り続けることが大切である。そうすることでメンバーは、自分の思い通りに仕事が遂行できる力が与えられたと感じることができる。その意識は大きな力へと変わっていくのである。
チームへの信頼からすべてが始まる
繰り返すようだが、チームを率いるうえで最も重要なことは、メンバーとの信頼関係を築くことだ。こうすることでリーダーもメンバーたちを1人の人間として知ることができ、彼らがチームにどのように貢献できるかも把握できる。さらに、メンバーたちは仕事上の失敗をリーダーから隠す必要を感じなくなり、代わりに、失敗から多くを学ぶ機会を与えられていると感じるようになる。
新たにチームリーダーのポジションに就いた人にとって、メンバーとの信頼関係の構築は文字通り「ゼロからのスタート」となる。ただし幸いなことに、人への信頼は、人からの信頼を育むという好循環を生む。したがって、まずはチームのメンバーに信頼を置くことから始めていただきたい。それによって一定の時間が経てば、チームはリーダーの信頼にこたえてくれるようになる。
なお、チームのリーダーがメンバーとの信頼関係を築き、メンバー各人が効果的に仕事ができるようにするための方法については、アトラシアンの「Team Playbook」も併せて参照されたい。