アトラシアンが2022年11月17日に催したプライベートイベント「Atlassian TEAM TOUR Tokyo 2022」では「プロダクトマネジメント」にフォーカスを当てたパネルディスカッションが行われた。演題は「見えない未来の舵を取る – ITと社会が融合する時代のプロダクトリーダーシップ」。現役のプロダクトマネージャーが自身の体験に基づきながらプロダクトマネジメントの要点について語ってくれた。

プロダクトマネジメントの本質

本パネルディスカッションでは、パネリストとして三重県CDO(Chief Digital Officer)の田中淳一氏とEventHub社の葛巻真一氏という2人の現役プロダクトマネージャーが登壇し、モデレーターはElasticsearch社の鈴木章太郎氏が務めた。鈴木氏も、デジタル庁でプロジェクトマネージャーの任に当たっている。

画像: 株式会社EventHub プロダクトチーム マネージャー 葛巻真一氏

株式会社EventHub
プロダクトチーム マネージャー
葛巻真一氏

画像: 三重県 最高デジタル責任者(CDO:Chief Digital Officer) 田中淳一氏

三重県
最高デジタル責任者(CDO:Chief Digital Officer)
田中淳一氏

画像: Elasticsearch株式会社 テクニカルプロダクトマーケティングマネージャー/エバンジェリスト 鈴木章太郎氏

Elasticsearch株式会社
テクニカルプロダクトマーケティングマネージャー/エバンジェリスト
鈴木章太郎氏

その鈴木氏は、ディスカッションの冒頭、プロダクトマネジメントに必要な要素として「主体性をもって取り組むこと」と「ミッション、ビジョンをメンバーと共有すること」「ユーザーの求めているものにフォーカスすること」の3点を挙げ、プロダクトマネジメントに対する共通理解を次のようにオーディエンスに求めた。

「プロダクトは『製品』を意味する言葉ですが、プロダクトマネジメントにおける『プロダクト』は、物事が提供する価値といえます。そう考えれば、かなり広範な領域でプロダクトマネジメントやプロダクトリーダーシップが必要とされることが理解できるはずです」(鈴木氏)

こうした観点のもとで展開された田中氏、葛巻氏、そして鈴木氏によるディスカッションはプロダクトマネージャーが果たすべき役割から、役割を担っていくうえでの課題や課題解決の方策に至るまで多岐に及んだ。以下、ディスカッションのエッセンスを紹介する。

地域住民とともに取り組むプロダクトづくり

鈴木氏(以下、敬称略):まずは、パネリストのお二人にプロダクトマネージャーとしての現在の職務についてお聞きしたいと考えます。田中さんからお話しいただけますでしょうか。

画像: 田中氏は、デジタル技術の活用を通じて「誰もが住みたい場所に住み続けられる三重県」のマネージに取り組む

田中氏は、デジタル技術の活用を通じて「誰もが住みたい場所に住み続けられる三重県」のマネージに取り組む

田中氏(以下、敬称略):三重県では、現在私が務めるCDOと、50名で組織されたデジタル社会推進局を2021年に設置し、デジタル社会の形成に取り組んでいます。組織やサービスにおける「行政のDX」から、機運醸成やデジタルデバイド(情報格差)の解消といった「社会のDX」、さらには空飛ぶ車の実現やスタートアップの支援・創出に至るまで、デジタル社会の形成を全方位で進めており、施策のビジョンとして「あったかいDX」を掲げています。これは、生産性の向上や業務の効率化だけでなく、みんなの想いを実現することを目指しており、デジタル技術の活用を通じて「誰もが住みたい場所に住み続けられる三重県」を創る取り組みです。

鈴木氏:そのビジョンやコンセプトはどのようにして描いているのですか。

田中:県民の皆さんと共同で描いています。行政の施策は行政側が一方的に策定してしまうのが一般的でしたが、先ほど申し上げたとおり、私たちのDXのビジョンは「あったかいDX」の実現であり、みんなの想いを叶えるデジタル社会の形成です。ですので、デジタル社会の理想像、あるいはビジョンについても、県民との対話を通して策定し、それをDXの推進計画に落とし込むという方針をとっています。

鈴木:デジタル社会の方向性に関して、多くの県民と対話し、同意を得るのは簡単ではないように思えます。その対話を円滑にするために、どういった工夫を凝らしているのでしょうか。

田中:例えば、デジタル社会とはどのようなもので、デジタル技術の活用が近い将来深刻化しうる社会課題の解決にどう貢献しうるかを説明する動画「みえDX未来動画 2050」を作成して見てもらうようにするなど、県民の皆さんと共通の言葉を持ち、目線を合わせてから対話、相談に臨むといった方式をとっています。

ビジョン、コンセプトの共有に重きを置く意義

鈴木:葛巻さんはいかでしょうか。自治体におけるプロダクトマネジメントと、営利企業のそれとでは異なる部分があると考えますが。

画像: 「プロダクトのビジョン、コンセプトはトップダウン方式で決めるよりも、関係者全員で議論を尽くして決めたほうが、結果的に物事の進行がスピーディになります」と、葛巻氏は語る。

「プロダクトのビジョン、コンセプトはトップダウン方式で決めるよりも、関係者全員で議論を尽くして決めたほうが、結果的に物事の進行がスピーディになります」と、葛巻氏は語る。

葛巻氏(以下、敬称略):当社(EventHub)はイベントマーケティングの価値を最大化し、イベントを効率的に行うことを支援するプラットフォームを提供しています。私はこのプラットフォームのプロダクトマネジメントに携わっているのですが、職務をこなすうえでは、なぜ、そのプロダクトをつくるのか、それによってどのような価値を提供するかの「WHY(なぜ)」、ないしはビジョン、パーパスを明確化し、プロダクトづくりをともに進めるメンバー全員と共有することを大切にしています。

鈴木:なるほど、葛巻さんがマネージしているプロダクトと田中さんのそれとではタイプが異なりますが、プロダクトづくりにかかわるメンバー全員とのビジョンの共有を重視している点は同じといえますね。そこで気になるのですが、EventHubではプロダクトのビジョンをどのように決めているのでしょうか。

葛巻:ケース・バイ・ケースですが、プロダクトづくりに関わるメンバー全員でビジョンやパーパス、コンセプトを描いていくのが良いと感じています。というのも、そうするほうが、メンバー全員の理解と合意がスピーディに確立できるからです。実のところ、マネジメント側で決めたビジョンやパーパス、さらにはコンセプトを細かいニュアンスまでメンバー全員に伝えて理解してもらい、合意を得るまでには相当の手間と時間を要するのが通常です。ですので、メンバー全員で納得するまで議論し、ビジョンやパーパス、コンセプトを決めていったほうが、結果的には物事がスムーズに、かつスピーディに進められるのです。

鈴木:そのようにしてメンバー全員とビジョン、パーパス、コンセプトを共有することの価値を、どのように感じていますか。

葛巻:プロダクトづくりや、改革、改善に取り組んでいると、当初はメンバー全員が同じ方向を向いていたにもかかわらず、いつの間にか、各人の向いている方向がバラバラになることがよくあります。理由は、自分に課せられた目標の達成だけにとらわれるようになるためです。

そのようなときに大切になるのが、すべてのメンバーに大元のビジョン、パーパス、コンセプトに立ち戻ってもらい、自分たちが本来目指すべきものは何か、自分がしていることは当初定めたビジョンやパーパス、コンセプトと合致しているのかを確認してもらうことです。そのためにも、ビジョン、パーパス、コンセプトの共有と共通理解の確立は不可欠といえます。

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