職場で感情的知性を育む方策
若い世代を中心にテクノロジーの利用が活発化してきたのは、上記4カ国に限った話ではない。日本や中国、韓国をはじめとするアジア諸国でも、2000年以降(特に、スマートフォンの登場以降)、若い世代を中心にインターネットの利用が急速に進み、テクノロジーを通じたコミュニケーション/交流(ゲームなどの遊びも含む)が当たり前のように行われるようになった。
そしてもし、上記の仮説どおり、テクノロジーを使った人とのコミュニケーション/交流が、若者たちのEQの発育を鈍らせているとするならば、こうした国々も西洋社会と同様に「若い世代のEQの低下」という問題と直面していることになる。
組織・チームのリーダーがこの問題を解決する手だては、若い世代の従業員に対して、EQを磨く機会を可能な限り多く提供することとなる。また、その機会とは対面を通じて人と交流したり、関係を築いたりする場といえる。
ただし、ハイブリッドワーク、ないしはリモートワーク中心の働き方を採用しているチーム・組織(=リモートファーストのチーム・組織)の場合、対面でのコミュニケーション/交流の場を多く設けることは難しいはずである。
そこで私がお勧めしたい方法の一つは、従業員のEQを高めるトレーニング(講習)サービスを活用することだ。欧米ではすでにEQの講習サービスが数多く提供されているので、インターネットで調べればすぐに採用の候補は見つかるはずである。ただし、できれば受講者のEQの変化(=講習の成果)を定量的に示す附帯サービスが提供されているものを選び、活用するべきである。
また、リモートファーストのスタンスを維持するとしても、組織内・チーム内の全員がお互いに顔を合わせて、つながれる手段と機会をより積極的に、そして意図的に提供したほうが良いだろう。そうした手段としては、特定のテーマに沿った「ソーシャルグループ(ないしは、ネットワーキンググループ)」をオンライン上で組織するという方法があるが、理想を言えば、物理空間にチーム・組織の全員が集まる機会を設けたほうが、メンバーのEQを育むうえでは有効といえる。
求められる対面式イベントの戦略性
ある調査によると、組織・チームは結成されたばかりのころが、メンバー同士のつながりを最も深めやすいという。したがって、メンバーの結束力やEQを高める目的で組織・チームの全員を1つの場所に集める機会を探しているならば、「チームが初めて結成されたとき」や「新メンバーが加わったとき」、さらには「新しいプロジェクトが始まったとき」などを戦略的に選ぶことが必要とされる。
また、そうすることで、組織・チーム内の人と人との結束やつながりをより効率的に深めることが可能になる。
また、組織・チームのメンバーで、ボランティア活動や新しいスキルの学習をともに行わせるようにするのも、メンバー同士のつながりを深める良策といえる。アトラシアンの調査によると、ボランティア活動をチームの目標としてコミットすることで、チームに新しい活力が生まれ、コラボレーションがより効果的になり、会社に対するメンバーの貢献意欲も高められるという。
EQを高める個人の戦略
EQを高めることは、個人を利する取り組みでもある。したがって、組織・チームのメンバーは、チームメイトと直接会って個人的な交流を深める機会をより積極的につくるべきだろう。
また、一人暮らしの人は、地域のコミュニティに参加して地域の人たちとの交流を持つことも大切だ。これにより、自分のEQを磨き、かつ、プライベートライフを充実させることができるからである。
例えば私は、在宅勤務を始めてすぐに自宅近くのジムに入会した。私はスポーツが得意ではなく、身体を鍛えることに熱心ではないが、ジムで素晴らしいトレーナーと出会い、友人関係を結ぶことができた。そのつながりのおかげで、在宅勤務特有の孤独感や仕事上のストレスを感じずに日々を送り、EQも落とさずに済んだと感じている。
EQ減退への対策により多くの投資を
以上に示したようなEQの維持・向上に向けた取り組みは、コロナ後のチーム・組織においてはより重要になるはずである。
ご存じのとおり、コロナ禍の影響によって、人々のコミュニケーションにおけるテクノロジーへの依存度は飛躍的に高まった。ある調査によれば、コロナの流行により、ネットワークを行き交うテキストメッセージはコロナ前に比べて43%増加し、SNSの使用頻度は35%増加したという。この変化によって、若い世代のみならず、きわめて多くのビジネスパーソンがEQを低下させているおそれがある。そのリスクをしっかりと認識し、自身と組織・チームのEQを高めることに積極的に取り組むこと、あるいは、投資することが必要とされるのである。