ドイツに本社がある世界的なテクノロジー企業で、自動車部品サプライヤー大手のロバート・ボッシュは、2021年に業績を大きく伸ばした。グループの売上高は788億ユーロ(約10兆2440億円 *1ユーロ130円で計算)を誇る。

21年にはソフトウェアとエレクトロニクスを集約した事業部のクロスドメイン・コンピューティング・ソリューションを新たに立ち上げ、1万7000人のエンジニアが車載エレクトロニクスやソフトウェアを開発。自動車の自動化、電動化といった業界の変化に対応している。

画像: ボッシュ株式会社は、横浜市に3億ユーロ(約390億円)を投資して、新研究開発施設と横浜市都筑区の区民文化センターを建設している(以下クラウス・メーダー社長と新研究開発施設の写真は©ボッシュ株式会社)

ボッシュ株式会社は、横浜市に3億ユーロ(約390億円)を投資して、新研究開発施設と横浜市都筑区の区民文化センターを建設している(以下クラウス・メーダー社長と新研究開発施設の写真は©ボッシュ株式会社)

その一方で、日本法人のボッシュ株式会社も、横浜市に3億ユーロ(約390億円)を投資して、新研究開発施設と横浜市都筑区の区民文化センターを建設している。24年に完成後は東京都渋谷区の本社を移転し、東京横浜エリアの8拠点を2カ所に集約する計画だ。

ボッシュが日本に進出したのは1911年で、今年で111年を迎える。ロバート・ボッシュは実に創業136年になる。

自動車産業の伝統的な企業でありながら、時代の変化に対応して業績を伸ばす組織作りについて、ボッシュのクラウス・メーダー社長にインタビューした。

画像: クラウス・メーダー ボッシュ株式会社社長。1987年にドイツのロバート・ボッシュに入社。96年にボッシュ・エレクトロニクス(日本)の技術・製造部門長、2001年にロバート・ボッシュのシャシーシステム事業部の部門長、12年に同オートモーティブ・エレクトロニクス事業部の事業部長。17年7月から現職

クラウス・メーダー

ボッシュ株式会社社長。1987年にドイツのロバート・ボッシュに入社。96年にボッシュ・エレクトロニクス(日本)の技術・製造部門長、2001年にロバート・ボッシュのシャシーシステム事業部の部門長、12年に同オートモーティブ・エレクトロニクス事業部の事業部長。17年7月から現職

自動車はスマホのようになっていく

画像: 自動車業界は大きな変革の時代を迎えている

自動車業界は大きな変革の時代を迎えている

自動車業界は大きな変革の時代を迎えている。その大きなトレンドは、SPACEという言葉で表現される。Sはソフトウェア。Pはパーソナライズ化。Aはオートメーション、自動化を指す。Cはコネクティビティで、ネットワーク化のこと。そして、Eは電動化。条件付き自動運転や完全自動運転の実現に向けて、それぞれのトレンドの進化をソフトウェアがけん引している。

そのソフトウェアなどを開発しているのが、世界的なテクノロジー企業で、自動車部品サプライヤー大手のロバート・ボッシュだ。グループの世界全体の売上高は788億ユーロ、日本円で約10兆2440億円を誇る。

自動車業界のトレンドであるSPACEのあらゆる分野に必要な技術を持つボッシュグループは、全世界の従業員40万1300人のうち、ソフトウェアエンジニアが約3万8000人を占める。しかも、エンジニアは毎年10%増員している。その先に見ている自動車の未来を、日本法人ボッシュのクラウス・メーダー社長は次のように表現する。

「自動車はスマートフォンのようになっていくと思います。スマートフォンにはOSがありますよね。OSは共通ですが、一人ひとりが使っているアプリは異なります。そしてOSやアプリは新しいものにアップデートできます。これからの自動車も同じイメージです。

私たちは共通のOSと、OSとアプリケーションの機能を補佐する共通のミドルウェアを複数の自動車メーカーに提供します。それぞれのメーカーは、その上に個別の機能を載せることで差別化してユーザーに提供します。アップデートによって、販売した車に後から改善を加えられるので、リコールなどを避けることも可能になります。

またユーザーも、アップデートにより新たな機能を得られることで、その車の価値を長く継続できます。車を売りたいと思ったときにも、最新のプログラムが搭載されていれば、高く買い取ってもらえる可能性が高まります。このような状況を可能にすることが私たちの目標です」

領域横断的な新組織と子会社の再編

自動車には、エンジンなど多様な機能を電子制御する「ECU」と呼ばれるコントロールユニットが搭載されている。これまでの自動車の進化は、新たな機能を持ったECUを次々と追加することで実現してきた。しかし、ECUの数が膨大になってきたことで、新たなアーキテクチャが必要な段階にきている。

そこでロバート・ボッシュが21年に立ち上げたのが、新組織のクロスドメイン・コンピューティング・ソリューションだ。約1万7000人のエンジニアを擁するこの組織は、車両の複雑な電子システムを領域横断的に開発できるように、自動運転と運転支援、カーマルチメディア、ボディエレクトロニクスの各分野のソフトウェアエンジニアと電気・電子系エンジニアを集約したものだ。

画像: 【市場変化に対応できる組織作り】
創業136年のボッシュが、「テクノロジー先進企業」として業績を伸ばし続ける理由

「ハイエンドの高級車などでは、100以上ものECUが搭載されています。しかし、その都度機能を追加していく方法ではいずれ限界がきます。そこで、仮に100以上ものECUを5つくらいのユニットに集約できれば、サイズが小さくなり、重量も軽くなります。ECUをつなぐケーブルも少なくなりますし、使用する半導体も減らせるでしょう。

このような新しいソリューションを生み出すことが、クロスドメイン・コンピューティング・ソリューションの目的です。いろいろな分野の専門家が一カ所に集まり、ともに仕事をすることによって、自動化やネットワーク化の技術を革新させていきたいと考えています」

ロバート・ボッシュでは社内の再編も進めている。スマートフォンのOSやミドルウェアに該当するソフトウェアのプラットフォームの開発は、子会社のイータスに集約した。約2300人のエンジニアが業務にあたっている。

積極的にソフトウェアエンジニアを増員し、柔軟に組織を再編したり集約したりするのは、ロバート・ボッシュの重要な戦略の一つだ。これまでのように役割別の組織を置くのではなく、市場の変化に応じて各部署の専門分野を集約し、チームの中でコラボレーションをする。開発者だけでなく、ユーザーの視点なども交えたコミュニケーションをとりながら開発していく。いわゆるスクラム開発にも似た手法で、自動車業界の変化にスピーディーに対応しようとしている。こうした柔軟な組織作りが、業績を伸ばす元になっていることは確かだろう。

横浜市に新研究開発施設を建設

グローバルな動きに呼応して、日本というローカルに合わせた日本法人ならではの施策も始めている。ボッシュは24年9月の完成を目指して、横浜市都筑区に新研究開発施設を建設。建物は地上7階、地下2階建てで、横浜市営地下鉄のセンター北駅から徒歩5分の場所に位置する。完成後は現在東京都渋谷区にある本社機能をこの施設に移転するとともに、東京都と神奈川県の8カ所にある拠点を2カ所に集約。約2000人の従業員が勤務する予定だ。

ロバート・ボッシュの創業は1886年と古い。日本に進出したのは1911年で、今年で111年になる。新研究開発施設への設備投資額は、長い歴史の中でも最大となる約3億ユーロ(約390億円)にのぼる。巨額の投資で施設を集約する狙いを、メーダー社長は次のように説明する。

「ボッシュの日本におけるビジネスは、90%が自動車産業です。日本の自動車メーカーは世界の乗用車の30%を生産する非常に大きなグループです。日本のお客さまによりよい製品とサービスを提供する拠点にするのが目的の一つです。

もう一つの目的は、世界的にも最新の設備を作ることです。太陽光エネルギーを使用した省エネの建物で、アジア太平洋地域のグループ拠点では初めて定置用燃料電池システム(SOFC)も導入します。仕事がしやすく、インスピレーションが沸くような環境を整えていきます。

新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言下では、オフィスで勤務していたのは5%から10%で、他の従業員はリモートワークでした。リモートワークでは期待以上の成果が上がりましたが、やはり一カ所に集まることによって、エネルギーが生まれ、イマジネーションやクリエイティブが鼓舞されるのではないでしょうか。新しい研究開発施設によって、さらに優れたアイデア出しやコラボレーションが可能になると考えています」 

画像: 敷地内に横浜市都筑区の区民文化センターを建設する

敷地内に横浜市都筑区の区民文化センターを建設する

新研究開発拠点には、もう一つの特徴がある。それは、敷地内に横浜市都筑区の区民文化センターを建設することだ。公民連携のプロジェクトは、ボッシュグループではグローバルでも初めてのことだという。区民文化センターは地下1階、地上4階建てで、地域の文化芸術活動の拠点として活用される。

「地域の賑わい創出にも大きく貢献したいと考えて、当事業に参加しました。また、研究開発施設の1階には、『cafe 1886 at Bosch』も併設予定です。コーヒーやケーキ、ワインなどを楽しんでもらうとともに、ドイツの文化や製品に関する展示を通して、私たちのことを地域の方に知ってもらいたいですね」

同社は自社の新施設を建設することによって組織のアイデア出しを活発化し、よりコラボレーションを生み出しやすい風土を形成しようとしている。その動きは自社だけにとどまらない。自治体や地域住民とも交流することによって、広い意味でのコミュニティー作りに参画しようとしている。閉じた組織ではなく、地域にも開かれた存在になろうとしている企業姿勢の表れだろう。

研究開発施設を世界のモデルケースに

メーダー社長は、日本に関わるようになって30年が経(た)つ。1996年に日本のボッシュ・エレクトロニクスの技術・製造部門長として初来日した。ボッシュの社長には2017年7月に就任。長年ビジネスを展開するなかで感じてきた日本の変化を、次のように語った。

「この30年の間に日本の組織は、他の国に比べても大きく変化したと感じています。日本にはかつて、長時間労働が当たり前とか、上司よりも早くオフィスを出てはいけないといった、管理職的な文化があったと思います。それがコロナ禍の2年間で、パフォーマンスを重視する文化に随分と変わってきたのではないでしょうか。

コロナ禍で日本が非常に優れていると感じているのは、デジタル化の側面です。4Gや5Gのネットワークは高速で、質も高いです。2年前にリモートワークを始めたときにも、スピードや帯域幅に何も問題がなかったことで、どこにいても仕事ができる状況を作ることができました」

世界の自動車産業は今、速いスピードで変化しようとしている。メーダー社長は、日本も遅れてはいないと強調する。

「日本の自動車産業は他の産業に比べてグローバル化が進んでいます。お客さまの企業もパフォーマンスが重視され、英語力もあり、多様性もあります。日本で整備する新たな研究開発施設は、ボッシュの拠点として世界のモデルケースになっていくでしょう」

ボッシュは自動車業界の製品開発に複合的な技術が求められるなかで、開発部門や研究施設をあえて集約し、多くの組織とのコラボレーションによって、スピード感のある開発を進めようとしている。長い伝統を持つ企業であるボッシュの組織作りや、時代の変化に対応する企業文化は、日本の多くの企業も参考にできるのではないだろうか。

画像: ボッシュは自動車業界の製品開発に複合的な技術が求められるなかで、開発部門や研究施設をあえて集約。多くの組織とのコラボレーションによって、スピード感のある開発を進めようとしている

ボッシュは自動車業界の製品開発に複合的な技術が求められるなかで、開発部門や研究施設をあえて集約。多くの組織とのコラボレーションによって、スピード感のある開発を進めようとしている

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