本稿の要約を10秒で
- ある研究結果によると、DXは人間的・文化的側面に焦点を当てることで、成功確率が高まるという。
- どのような考え方を持ってDXに臨むかによって、他者とどうコラボレーションし、良好な関係を維持するかが決まる。
- DXを推進するうえでは、チームにおける相互の信頼関係と失敗から学ぶ姿勢、完璧さよりも進歩を重視する姿勢が重要になる。
成功を信じるマインドが成功を呼び込む
私は小学生のとき「“できる”と信じたことは、必ず実現できる」という原理を、ある歌を通じて教えられた。この原理は、ことを成すうえでは、スキルや頭の良さよりもマインドセットのほうが重要であることを示している。
米国マサチューセッツ工科大学(MIT)の教授であり、DXの専門家であるブレイド・コートリー氏によると、この原理はDXの取り組みについても当てはまり、成功を信じるマインドが強ければ強いほど、DXで成功する確率は高くなるという。
また、マッキンゼーの調査によると、DXの成否を左右する最大の要因は組織の文化であるようだ。例えば、DXに取り組む組織を対象とした2018年の調査では、DXの推進に際して組織文化の変革にフォーカスした企業は、そうでない企業に比べDXによる財務上のプラス効果が約5倍も大きかったという。
このようにDXを成功へと導く組織文化の醸成は、個々人のマインドセットを形成することから始まる。その点を踏まえながら、以下ではDXの成功に必要とされる4つのマインドセットと、これを育むための方法を紹介する。
1. 成長型マインドセット(Growth mindset)
【特徴】
- 障害に直面したときに粘り強く対応する
- 曖昧さの中でも前進することを是とする行動へのバイアスを持つ
- 失敗を厭わず、失敗から学ぼうとする姿勢がある
【なぜ大切なのか】
DXは長い道のりであり、障害や遅れがつきものである。ゆえに、DXを推進するには相当の忍耐力と決断力が必要だ。ただし、「忍耐」が「麻痺」に変容してしまうのは避けなければならない。「未知のもの」がすべて「既知のもの」に変化するまで、あるいは、あらゆる条件が整うまでDX戦略の遂行を待っているのでは、DXはいつまでたってもスタートしない。
そうした中で、情報が不確かでも、とにかく行動に移すことを是とするバイアスは、組織に勢いを生み、不完全な情報でも前に進む勇気を周囲に与える。
また、コートリー教授によれば、DXの不確実性を減らすうえでは、小さな賭けや小さなリスクを取る勇気が必要であるという。なかでも、試みが失敗しても簡単に元に戻せるような意思決定については、試行錯誤のアプローチをとることを教授は勧めている。
DXを推進するうえでは、健康的な好奇心とオープンマインドもチームに求められる。この点について、アトラシアンのITアプリケーション責任者であるプラナフ・シャヒ(Pranav Shahi)は次のように話す。
テクノロジーは猛烈な勢いで進化し、変化するので、DXに取り組むチームには、多才で従来とは異なる視点を持ち、好奇心に溢れ、特定のテクノロジーに過度に集中しないオープンマインドのメンバーが必要とされます。そのうえで、メンバーに対し、想定リスクを取ることや未知のテクノロジーの活用に挑むことを容認する姿勢を示せば、彼らの学習機会を増やし、最新のテクノロジーに対する彼らの知見を深めていくことが可能になります。
【成長型マインドセットを育む方法】
- DXを推進するチームに対して、定期的に振り返りの時間を設けさせ、これまでの取り組みで得られた教訓を今後の計画に反映させる。数週間に一度、コアチームのメンバーと30分程度の確認ミーティングを行うのが適切である。
- チームを束ねるリーダーは、プロジェクトのステップに関して細かい指示を与えるのではなく、メンバー各人に、どうすれば自分たちの目標に到達できるかを考えさせるようにする。それによってメンバーは創造的に思考し、自分がこれから成すべきことをより明確にとらえられるようになる。
- 失敗を祝うべきものとして扱う。この点についてプラナフは次のように語る。
「失敗は学びの絶好の機会で、失敗した時点でチームのメンバーはすでに何かを学び、成長しています。その原理原則をチームに浸透させるには、リーダーが率先して自分の失敗や学んだことをオープンにするのが一番です」 - 失敗をシステム的な問題としてとらえる。DXプロジェクトにおける失敗は、一人の人間のせいであることは稀であり、ほとんどの場合、組織の技術的な能力やロジスティクスなどに関係している。その意味でも、あらゆる失敗はオープンな場での学びの材料にすべきと言える。
2. ヒト・ファースト型マインドセット(People-first mindset)
【特徴】
- DX後の組織に自分の居場所があるかどうかわからない人に共感できる
- 顧客中心で物事を考える
【なぜ大切なのか】
繰り返すようだが、DXを巡る問題は、テクノロジーの問題ではなく人の問題である。ゆえに、チームのリーダーは、自分のリーダーシップに依存している一人一人の成功を心から気にかけなければならない。また、コートリー教授はこうも言う。
DXを推進するチームに不可欠な要素は3つです。それは、イノベーションを引き起こすスキルと、そのスキルを実際に使うための自信、そして心理的な安全性です。
さらに、DXに取り組むうえでは“顧客”のことも考えなければならない。要するに、数100万ドルの費用をかけて、膨大な時間を要するDX戦略を遂行する前に、顧客ニーズの徹底的な理解が必要であるということだ。
【ヒト・ファースト型マインドセットを育む方法】
- 顧客へのインタビューを含む事実確認のプロセスに投資をする。DXに取り組むチームが顧客から直接“悩みごと”や“嗜好”を聞くことで、顧客がチームの「北極星」となる。
- 社内においては、関係するコアチームと対話し、DXの推進で誰の仕事が影響を受けるのかを把握して当事者たちから直接、懸念を聞き出すようにする。その懸念を払拭するアイデアはすぐには思いつかないかもしれないが、少なくとも何を解決すべきかについては理解を深めることができる。
- 顧客の要望と従業員の要望との間に緊張関係があることを認識しておく。双方と率直に話し合わない限り、この問題の解決策が見つけられる可能性は低いと言える。
よくある誤解は、自動化によって人の仕事がなくなるというものです。ただし、例えば、アトラシアンのITサービス管理製品『Jira Service Management』を活用することで、IT・人事・法務などのチームは、対応済みと未対応のサービスリクエストの比率変動をつぶさにとらえ、即座に適切な対応をとることが可能になります。また、リクエストの自動振り分けの設定を適正化して各担当者の仕事量を大幅に減らすことも可能ですし、チームの状況に対するリーダーの理解を深めて、今後の改善策について建設的に話し合えるようになります。
── ソニー・ミュージック・パブリッシング グローバル・コピーライト&アドミニストレーション・ディレクター アリソン・ウッド氏