アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』から新着コラム。メインライターのサラ・ゴフ・デュポン(Sarah Goff-Dupont)が、チームマネジメントの“達人”とも言えるアトラシアンのベテランマネージャーたちの知見を借りながら、チームワークを巡る課題の解決法を紹介する。

本稿の要約を10秒で

  • すべての企業にとって、社内のチームワークは常に良好であることが望ましいが、崩壊してしまうことが間々ある。
  • チームの仕事とその目的を明確にすることで、チームワークを巡る問題の発生を抑制したり、対処したりすることが可能になる。
  • チームのマネージャーがメンバーの希望や懸念に耳を傾けることで問題の解決がより容易になる。

チームワークの課題と向き合ってきたベテランたちに聞く

アトラシアンには、チームワークを巡る課題とどう向き合い、対処すべきかを深く知るベテランマネージャーがいる。彼らは自身の経験にもとづく知見を広く共有したいと望んでいる。加えて、市場にはチームワークの維持・向上に役立つ情報が豊富にある。

そこで今回は、チームマネジメントの“達人”であり、“知恵袋”とも言えるアトラシアンのベテランマネージャーへのヒアリング結果や有識者の知見、そして筆者の経験にもとづきながら、チームワークを瓦解させかねない以下の6つの課題について、それぞれの対処法をひも解いていく。

  1. エンゲージメントの低下
  2. 相互信頼の欠如
  3. 情報のサイロ化
  4. 長期的な視点・思考の欠如
  5. 仕事の目的・目標設定の曖昧さ
  6. 性格の不一致

課題1:エンゲージメントの低下

チームに対するメンバーの自発的な貢献意欲──すなわち、メンバーのエンゲージメントはチームのパフォーマンスに大きな影響を与えるものである。メンバーのエンゲージメントが高いチームは、問題解決の能力が総じて高く、予定どおりに目標を達成する確率も高い。

とはいえ、エンゲージメントを高く保つことは簡単ではない。実際、新型コロナウイルス感染症が流行する以前の調査でも、労働者の53%が自分の組織に対するエンゲージメントを失っていた。おそらくこの数値は、コロナ禍の影響によって同僚や上司が1個所に集まって仕事をする機会が減少している今日では、さらに高くなっているはずである。

エンゲージメント低下のシグナル

アトラシアンにおけるタレントマネジメントの責任者であるサラ・ラーソン(Sarah Larson)は、エンゲージメント低下のシグナルについて次のように話す。

「シグナルの1つは、チームのチャットチャンネルへの投稿数(発言数)が激減し、メンバー各人のタスクの進捗がチェックしづらくなることです。あなたのチームでこの現象が見られたなら、メンバーのエンゲージメントレベルが低下している可能性が高いと言えます」

また、「変化に対するメンバーの抵抗」「仕事の質や適時性の低下」「自己満足的な仕事の増加」なども、エンゲージメントが下がっている兆候であるようだ。

さらに、以前は積極的に話しかけてきたメンバーの態度が急によそよそしくなり、必要最低限の仕事しかしなくなったら、何かが起きていると考えたほうが無難であるという。

エンゲージメントを向上させる方策

メンバーのエンゲージメントを向上させ、チームに活気を取り戻すための手段として、サラは2つの方法を提案する。

1つ目の方法は、メンバーとの1 on 1ミーティングを定期的に行い、各人との交流を深めることだ。このミーティングでは仕事の進捗を確認するようなことはせず、メンバーが「自分の仕事に対してどう感じているか」「どのような支援を欲しているか」を聞き出すことに力を注ぐべきとサラは指摘する。加えて、メンバーの成果やチームへの貢献を褒め称えたり、感謝したりすることも忘れてはならないようだ。

「感謝のしるしは、コーヒーをご馳走したり、チャットで感謝を伝えたりといった小さなことで構いません。それだけでメンバーの貢献意欲は高まり、素晴らしい仕事をしてくれる可能性が大きくなるのです」(サラ)。

一方、2つ目の方法は、会社全体の目標達成に自分たちの仕事がどれほど貢献しうるかをメンバー各自に理解させることである。

「ポイントは、メンバーが携わるタスク、プロジェクトと会社の大目標との関係性を明確に、かつ具体的に示すことです。それができない場合は、メンバーのタスクそのものの必要性を再考すべきです」(サラ)。

また、自分たちの仕事の影響力をメンバーに理解してもらううえでは、チームの仕事に対する顧客の評価やサクセスストーリーをチームで共有したり、クロスファンクショナルなプロジェクトを立ち上げて、自分たちの仕事がビジネス上の“パズル”のどこに当てはまるかを知ってもらったりすることも有効であるとサラは付け加える。

エンゲージメントの低下を防ぐ方法

チームのエンゲージメントレベルを高く保つうえで最も有効なのは、メンバーのモチベーションレベルを定期的にチェックすることである。そのための具体的な方法としては、四半期ごとに全社的なアンケートを実施したり、1 on 1ミーティングの際にさりげなくメンバーのエンゲージメントレベルを点検したりするといった方法がある。

また、チームメンバーのモチベーションを維持する方法を知りたければ、ベストセラー作家であるダニエル・ピンク(Dan Pink)氏の書籍「Drive: The Surprising Truth About What Motivates Us」/邦訳版「モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか」(講談社)も役に立つ。

本書によれば、働く人の内発的モチベーション(自発的に働こうとする動機づけ)は「目的意識」と「習熟」、そして「自律性」によって支えられるという。ここで言う「習熟」とは(自分の目的達成に向けた)技術の習得機会があることを指し、「自律性」とは自分の仕事に関する日々の意思決定を自己裁量で下せることを意味している。そして、内発的モチベーションを発揚することは「棒にぶら下げたニンジン」を使うよりも、はるかに効果的であるようだ

Control leads to compliance, autonomy leads to engagement
制御はコンプライアンスにつながり、自律性はエンゲージメントにつながる
── ダニエル・ピンク著「Drive: The Surprising Truth About What Motivates Us」より

課題2:相互信頼の欠如

新しいチームに参加したばかりの段階、あるいは、新しいチームが組織されたばかりの段階では、チームに対する人の信頼レベルは「高く」もなければ「低く」もない“フラット”な状態にある。そして言うまでもなく、その信頼レベルが上向くか下向くかは、チーム内での体験によって決まることになる。

この点について、アトラシアンのワークフューチャリスト、ドム・プライス(Dom Price)は「チームに対するメンバーの信頼レベルが上向くか、下向くかはひとえにマネージャーによる環境づくりにかかっています」と言い切る。

相互信頼の欠如を示すシグナル

チーム内での相互信頼のレベルが低いことのサイン、あるいは信頼低下の兆候は目に見えるものではない。ゆえに、直感的にとらえることは難しく、ゆえに、相互信頼の問題はマネージャーにとって非常に厄介な事柄と言える。実際、チームのメンバー間で「笑顔でハイタッチ」が頻繁に行われているとしても、それで相互信頼が確立されている証明にはならない。むしろ、ハイタッチの連発は、仲が良いふうを装うための演技に過ぎない可能性のほうが高い。

では、どうすれば相互信頼が足りていないことをとらえられるのだろうか──。その問いかけにドムはこう答える。

「まずは、チームの働きぶりに極端な傾向があるかないかを確認してください。例えば、チームの全員が常に笑顔で働いているとすればおそらくそれは演技です。仕事中に“ありのままの自分”を出せていない現れと言えるでしょう。その逆に、チームの全員が沈み込んでいて、何かを諦めているふうであり、単に流れ作業をこなしているだけならば、それも悪い兆候です」

相互信頼のレベルを高める方策

チームにおける相互信頼のレベルを高めたいのであれば、マネージャーがメンバーに対して「共感」と「信頼」、そして「自分の弱さ」を示すべきである。ただし、それによってチームに対するメンバーの信頼を醸成するのには相応のときを要する。ゆえに人によっては、より即効性の高い方策を知りたいと考えるはずである。

そうした方策について、ドムは次のように説く。

「チームにおけるメンバー間の信頼関係は、互いの役割を明確に認識することから始まります。その意味で大切なのは、チームのメンバー全員に対して『チームのミッションは何なのか』『そのミッションの遂行に自分はどのように貢献できるのか(あるいは、貢献すべきなのか)』『自分はチームから何を期待されているのか』を理解してもらい、責任を持たせることです。これは一種の“社会契約”と言え、メンバーによる契約からの逸脱が少なければ少ないほど、チーム内での相互信頼のレベルは高まっていきます」

TIPS
「Atlassian Team Playbook」にある無償コンテンツ「役割と責任」 を活用することで、1時間程度の演習でチームメンバーの役割と責任を明確にすることができる。また、同じく演習コンテンツ(英語版)の「作業合意」を併せて用いることで、自分のチームの文化とメンバーに対する期待をより深く掘り下げることができる。お試しいただきたい。

相互信頼の低下を防ぐ方策

チームにおける相互信頼のレベルが低下してしまうのを防いだり、相互信頼が欠如した状況を打破したりするためには、チームに対するメンバーの帰属意識を高めることが大切であり、そのための環境づくりがカギとなる。

「この環境づくりで大切になるのが時間です。チームのメンバーが互いの人間性を知り、理解する時間をしっかりと設けることで、チームの結束力とメンバー同士の個人的な“絆(きずな)”は強まります。たとえ、そのための時間が会議を始める前の数分間であったとしても、です」(ドム)。

また、ドムによれば、アトラシアンが開発した「ヘルスモニター」を使うことで、チーム全員の“健康状態”を把握することができ、相互不信に起因した問題の発生を未然に防ぐことが可能になるという。

課題3:情報のサイロ化

ビジネスパーソンの中には、同僚よりも優位に立つことを目的に仕事に関する情報を自分の中に閉じようとする人がいる。

ただし、このようなビジネスパーソンはあくまでも少数派だ。ビジネスパーソンが情報を共有しない理由は、大抵の場合、日々の業務に忙殺され、単にそうすることを忘れていたり、怠っていたりするだけのことである。実際、私は過去20数年にわたる社会人生活の中で、忙しさを理由にチーム内、あるいは部門内での情報共有が疎かにされる場面を幾度も目撃してきたのである。

とはいえ、仕事に関する情報がサイロの状態に置かれることは、チームワークの効率性や効果を低下させる原因となる。ゆえに、チームのマネージャーは、情報のオープン化を促進しなければならない。

情報サイロ化のシグナル

チーム内に緊張感や内紛がある場合、情報のサイロ化が水面下で進行してしまうことがよくある。その結果として、チーム内の他の同僚が「いま何をしようとしているのか」「過去に何を試したのか」が把握できなくなり、しばしば「車輪の再発明」に類する無駄な作業を発生させてしまうことになる。

情報のオープン化を促進する方策

チームにおける情報のオープン化を推し進めるうえは、チームマネージャーは少なくとも3つの役割を担わなければならない。

1つ目の役割は、自らオープン化の規範となる行動をとることである。その一例としては、自分の仕事に対するフィードバック(意見)を周囲に求めて、その内容をアトラシアンのデジタルワークスペース「Confluence」などを通じてオープンにし、社内の誰からも簡単に検索・参照ができるようにする行動が挙げられる。また、カレンダーを介して自分のスケジュールをチーム全員に共有させ「自分が、いつ、どこで、何をするか」をすべて見えるようにするのも効果的である。

2つ目の役割は、オープンなコラボレーションに取り組むメンバーたちの応援団となり、情報共有による成功をもたらしたメンバーを褒め称え、“ヒーロー”にすることだ。

例えば、メンバーの誰かが見つけ出した情報によって、その情報を探し当てる他のメンバーの手間が大きく削減されたとする。マネージャーは、そうしたサクセスストーリーを探し当て、その成功を生んだメンバーを賞賛するのである。これによって、自分の知りえた情報をオープン化・共有しようとするメンバーの意欲が高められることになる。

残る3つ目の役割は、情報のサイロ化を進行させている要因を突き止めて、それを取り除くことだ。仮に、その要因がチームの内紛やメンバー同士の反目であったとすれば、その調停役を担う必要がある。

情報のサイロ化を防ぐ方策

私の経験から言わせてもらえば、情報のオープン化に消極的な人は、チームにおける自分の役割にそれほどの価値を見出せていないという傾向がある。

その逆に、チームにおける自分の居場所がしっかりと確保されていて、自分の価値に自信を持つ人ほど、情報をオープンにすることに何の抵抗感も抱かないようだ。その理由として考えられるのは、そうした人はチームへの貢献意欲が高く、かつ、どのような情報をチームに向けて発信しても、周囲から非難されたり、居場所を失ったりするようなことはないという安心感があることである。

ゆえに、情報のサイロ化を防ぎたいのであれば、チームの全員に対してそれぞれの役割と価値を明確にし、認識してもらうことが重要となる。

また、情報を社内で共有する意思はあっても、その作業に相当の手間がかかるのでは、人はなかなか動こうとしない。ゆえに、情報の発信や発信した情報の検索・参照が簡単に行えるデジタルツールが必要とされるのである。

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