アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』から新着コラム。メインライターのサラ・ゴフ・デュポン(Sarah Goff-Dupont)が、チームマネジメントの“達人”とも言えるアトラシアンのベテランマネージャーたちの知見を借りながら、チームワークを巡る課題の解決法を紹介する。

課題4:長期的な視点・思考の欠如

今日のように変化の激しい時代では、市場における競争相手との戦い方(すなわち、戦術)を臨機応変に変化させていくことが求められている。ただし、ここで留意すべきことがある。それは、変化への対応を目的に短期的な戦術を策定・遂行するのは良いとしても、それによってチームの本来的なミッションや長期的な大目標を見失ってはならないということだ。

チームにとって最も大切なのは、長期的な大目標を達成し、光り輝く未来を切り開くことである。すべての戦術はそのためにあると言って良い。それは、プロのサッカーチームが試合のたびに臨機応変に戦い方を変化させているとしても、常に見据えているのはリーグで優勝し、自分たちとファンを幸せにするという大目標であるのと同じ理屈である。

ところが、ビジネスの世界で日々さまざまな課題と対峙していると、目先の問題を解決することがすべてとなり、物事のとらえ方がどうしても近視眼的になる。結果として、すべての戦術が対象療法的になり、思い描いた“輝く未来”になかなかたどり着けなくなることが間々ある。

しかも、企業(特に上場企業)の場合、四半期ごとに計画された“結果(業績)”を出すことがステークホルダーから強く求められ、チームにも四半期という短サイクルで結果を出す(数値目標を達成する)ことが要求される。それゆえに、短期的な数値目標を達成することばかりに気をとられ、大目標の達成へとつながる道から外れてしまうこともあるのである。

長期的な視点・思考欠如のシグナル

アトラシアンのビジネス戦略とオペレーションの責任者であるデビッド・ターンクイスト(David Turnquist)は、長期的戦略を何よりも重視するマネージャーの一人だ。彼によると、チームの健康状態(健全性)が良好であれば、長期的な視点と思考で物事をとらえることができ、自分たちにとっての「北極星」を見失うことはないという。

「例えば、あなたのチームが新しいプロジェクトを始めようとしているとき、その理由を聞いてみてください。プロジェクトの目的・目標が、チームや会社の長期的な戦略や目標に結びついているならば、そのチームは健全であり、長期的な視点を有していると見なせます」(デビッド)。

もう1つ、市場の変化に対してチームがどのように動くかを観察することも大切であると、デビッドは指摘する。

「長期的に物事をとらえることのできないチームは、市場で起きた変化が自分たちの今後にどう影響するかを予測することができません。そのため、変化への対応策をほとんど何も講じようとしないはずです」(デビッド)。

長期的視点・思考を育む方策

チームにおける長期的な視点・思考力を維持するうえでは、機会があるたびにチームの長期的な目標を思い起こさせることが大切である。こうすることで、長期的な視点・思考にもとづいて物事をとらえ、戦術を練る習慣を根づかせることが可能になるからである。

「例えば、アトラシアンでは以前、顧客が使うアトラシアン製品をすべてクラウド製品へと移行させるという大目標を打ち出しました。その際には、あらゆるオフィスにテレビ画面を設置し、移行の進捗を示す統計データとスローガンを流していました。加えて、アトラシアンの共同CEOの2人が全社員会議のたびにクラウド製品への移行の重要性を訴えたのです」(デビッド)。

さらに、チームのメンバーが新しいプロジェクトアイデアを提案したいと言ってきたときには、マネージャーは、そのアイデアを必ずチームの大目標や会社の事業戦略、ミッションなどとリンクさせるようリードしなければならないとデビッドは付け加える。

長期的視点・思考の喪失を防ぐ方策

上述した方策は、チームから長期的な視点、思考が失われるのを防ぐ手だてでもある。

またもう1つ、メンバーが携わる仕事やプロジェクトに関して、チームの長期的な目標と照らし合わせながら「なぜ、それを遂行する必要があるのか」を追求することも、長期的視点・思考が失われるのを防ぐ有効な手だてと言える。

こうした観点から、デビッドと彼のチームは推進中のすべてのプロジェクトについて、チームの長期的な目標と照らし合わせながら、定期的な見直しを行っているという。

「プロジェクトは、その推進過程で目標が変容し、本来進むべき道筋から外れてしまうことがあります。その軌道修正を適切に行うためには、長期的な視点でプロジェクトを適宜見直す必要があります」(デビッド)。

デビッドはまた、チームが目前の問題だけにとらわれないよう、メンバーたちが自分の脳をリラックスさせながら、将来の“ビッグピクチャー”を自由に描く機会を設けたほうが良いとも指摘する。

「日々の仕事に追われてばかりいると、人の脳は対処療法的な問題解決の施策や短期的な戦術ばかりを考えるようになります。そのような状態から抜け出すためには、将来の大きな夢を、リラックスして描く時間を意図的に設ける必要があります」(デビッド)。

課題5:仕事の目的・目標設定の曖昧さ

アトラシアンのシニアプログラムマネージャーであるロン・ロメイン(Ron Romain)によると、アトラシアンの上層部は、社内における全チームの仕事の約60%をチームや会社の“ビッグピクチャー”の実現につなげたいと考えているという。残る40%の仕事はどうなるのかが気になるところだが、チームの仕事の過半数が将来の夢の実現に向けられるというのは良いことではないだろうか。

ともあれ、仕事の目的・目標は、その仕事を担う働き手のモチベーションに大きな影響を与える要素である。ゆえに、それが曖昧であることは基本的にあってはならない。また、ともに働く人の目的・目標に食い違いや矛盾があると、コラボレーションが機能不全に陥りかねない。したがって、組織・チームのマネジメント層は、コラボレートするチームやメンバーの目的・目標に共通性を持たせることが不可欠となる。

目的・目標設定の曖昧さを示すシグナル

ロンによれば、仕事の目的・目標設定の曖昧さが引き起こす現象の1つとして、次々に担当するプロジェクトを変えていくチームの行動があるという。

「例えば、プロダクト開発のプロジェクトの場合、その本来的な目的はプロダクトを使う顧客のベネフィットを生むことにあります。ところが、その本来目的が達成されたかどうかを見届けることなく、次々に新たなプロジェクトを担おうとするチームを、さまざまな企業で見かけます。これは、そのチームが『なぜその仕事をしているのか』という本来目的が明確にされていないこと、そして、与えられた作業をスケジュールどおりにこなすことが目的化してしまっていることの現れと言えます」(ロン)。

先に触れたように、目的・目標設定を巡るもう1つの問題として、コラボレートする複数のチーム、あるいは個人の間で共通の目的が設定されていない点が挙げられる。この問題は、クロスファンクショナルなプロジェクトチームにおいてよく見受けられるものだ。

例えば、マーケティングキャンペーンのコピーを作成する際、私のようなライターは分かりやすく読みやすい文章をつくることに重きを置こうとするが、キャンペーン戦略をリードするスタッフは、文章の読みやすさよりも、プロダクトのポジショニングを明確にすることやメッセージ性を重視しがちである。

そうした両者の間でキャンペーンの目的・目標が共有されていないと、コピーに対する意見の食い違いが平行線をたどり、プロジェクトの進捗が滞るだけではなく、両者間の感情的なもつれや人間関係の悪化へとつながっていくことになる。

目的・目標設定の曖昧さを正す方策

仮に、あなたがマネージするチームに、上述したような現象が見られたなら、いったん仕事を中断させて、それぞれの仕事の目的・目標についての確認をとるべきである。

「大抵のマネージャーは、物事のペースをスローダウンさせることを嫌います。ただし、チームのメンバーたちが自分の仕事の目的をよく理解しておらず、間違った目標を目指して日々の作業をこなしていると、のちに取り返しのつかない事態に陥るリスクがあります。ですので、チームの仕事やコラボレーションのあり方に違和感を覚えたのなら、半日程度の時間をかけて仕事の目的や目標についての確認・調整会議を催すことが大切です」(ロン)。

また、チームが何らかのプロジェクトに携わっているならば、プロジェクトにおいて何を優先すべきかを『トレードオフスライダー』を使って決定する習慣を(演習を通じて)、メンバー各人に身に付けてもらうことも大切である。こうすることで、プロジェクトの目的、目標が曖昧なまま物事が決まり、プロジェクトが間違った方向へと進むリスクを低減することが可能になる。

目的・目標設定から曖昧さを排除する方策

仕事上の目的・目標設定から曖昧さを排除するうえでは、構造化された目標設定のフレームワークを使うのが効果的である。アトラシアンでは、そうしたフレームワークとして「OKR(Objectives and Key Results)」を活用しているが、そのほかにもKPIやBHAG(Big Hairy Audacious Goals)、SMART (Specific、Measurable、Achievable、Relevant、Time-based)」などのフレームワークもOKRと同じように有効であるとロンは指摘する。そのうえで彼は次のように説く。

「とにかく大切なのは、チームメンバーの仕事の目的と目標を明確に定めることと、それに対して彼らに責任を持ってもらうことです。これによって、チームの仕事がチームの目標からそれていくことを未然に防ぐことが可能になります」

課題6:性格の不一致

性格の不一致に起因したメンバー間の対立ほど、チームの活力を失わせるものはない。ゆえに、チームのマネージャーにとって、こうした対立に適切に対応・対処することは極めて重要と言える。

性格不一致のシグナル

チームメンバー間の性格の不一致は「チームにおける緊張感」「メンバー間での議論のヒートアップ」「メンバーによる欠勤の増大」「メンバーによるミーティングへの参加拒否」といったさまざまな事象となって顕在化する。

また、メンバー間の性格の不一致は、少しの観察ですぐに察知できると、アトラシアンのERM(Employee Relationship Management:従業員関係管理)担当マネージャーであるスーザン・ケルバウ(Susan Kelbaugh)は言う。

「人を嫌う人の感情は表に出やすく、例えば、チーム会議の場でも、特定のメンバー同士が嫌味な口調で意見を交わしたり、相手の発言を無視するような態度を互いにとり合ったりと、性格の不一致が非常に分かりやすいかたちで表出化します。だからこそ、メンバー間の性格の不一致は、チーム全体の活気に悪影響を及ぼしやすい問題であると言え、マネージャーによる早急なる解決が望まれるわけです」

性格不一致への対処法

上記のとおり、メンバー間の性格の不一致を察知するのは簡単だが、その問題の解決は、相当の忍耐と誠実さが要求される、難しい取り組みと言える。

それを踏まえたうえでスーザンは、チームのマネージャーに対して次のようにアドバイスする。

「まず成すべきは、いがみ合う当事者たちと真正面から向き合い、問題の根本原因がどこにあるかをヒアリングして突き止め、当事者の心情を理解し、そのうえで事態の改善案を一緒に考えることです。また、この取り組みを始めるに際しては、あなたの意図が誰かを悪者にすることではなく、チームコラボレーションの改善にある点を理解してもらうことも大切です。そうすることで、いがみ合う当事者たちも、チームの文化や構造、プロセスの観点から、自分たちのいたらなかった部分を素直に認め、改善に向けたアドバイスを受け入れやすくなります。それによって引き起こされる彼らの小さな変化が、チーム調和への道を切り開くことになります」

性格の不一致を回避する方策

性格の不一致によるメンバー間の確執を防ぐ良策は、チームでの人材採用のプロセスに現メンバーを参加させることだ。これにより、既存のチームメンバーと性格的に衝突しそうな新人がチームに入ってくる確率を低く抑えることが可能になる。

また、スーザンによれば、社内から新しいメンバーを迎え入れる際も、社外から新人を採用する場合と同じオンボーディングプログラム(=新人が入社してからチームで働き始めるまでの研修・教育などのプログラム)を適用したほうが良いという。そうすることで、新しいメンバーは、これからともに働くことになるメンバーと個人的なレベルで早期につながりやすくなるほか、他のメンバーの立場をより深く理解することも可能になるからである。

もっとも、人材採用のプロセスにおいて、チームに対する性格の適合性だけにこだわり過ぎると、似た性格の人間のみでチームが作られてしまい、ダイバーシティの確保という面で問題が発生する可能性がある。実際、人の性格には生まれ育ってきた環境が多分に影響を与えているはずである。とすれば、似た性格の人間だけでチームを作ると、メンバー全員の生まれ育ちも似たものとなり、結果として、チームとしての物事のとらえ方、見方が画一的になるリスクがある。

そこで必要になるのが、性格の一致ではなく価値観の一致に最も重きを置いて人材を集め、組織を形成することとなる。そうすることで、仕事やコラボレーションに対する基本的な考え方を共有しつつ、多様なバックグラウンド、スキル、視点を持ったチームを形成することが可能になる。

もちろん、価値観の一致を最優先させてチームを構成すると、メンバー間の性格の不一致によって確執が生じるリスクを排除することは難しくなる。とはいえ、仕事のチームは仲良しクラブではない。性格の一致よりも、仕事に関する価値観の一致のほうを優先するのは当然のことと言える。また、仕事に関して同じ価値観を共有するチームであれば、性格の不一致に起因した問題もそれほど深刻なものにはならないはずである。したがって、採用プロセスにおける少しの工夫と個人的関係の構築・強化に投資するだけで乗り越えられる可能性は大きい。

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