本稿の要約を10秒で
- 「週4日制」が世界中で話題になっている。
- 欧州を中心に、いくつかの企業・政党・労働組合が週4日制の導入に乗り出している。
- 国を挙げてアイスランドが行った「週4日制」実験は、大注目に反して小さな成果だった。
「週4日制」を巡る世界の動向 ── 労働時間が短くなるのは良いこと?悪いこと?
新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の影響で働き方を見直さなければならなくなったとき、多くの評論家や研究者が「週4日制」の導入を提唱し始めた。それが契機となり、欧州・アジア太平洋地域を中心に世界各国で「週4日制」、ないしは「週休3日制」が話題の的になっている。
では実際に、世界の国々は「週4日制」、あるいは労働時間の短縮に対し、どのような対応を示しているのだろうか。以下、週4日制、あるいは労働時間短縮に向けた主要各国の動きを追いながら、各国の政府、企業、そして労働者たちが週4日をどうとらえているかについて明らかにする。
留意点
「週4日制」は必ずしも「週休3日制」と同義ではない。本稿で「週4日制」と称される取り組みは、ほとんどの場合、「毎週の労働時間を短縮する取り組み」で「週休3日」につながるわけではないので、留意されたい。
オーストラリア ── 現在平均値:週休2日・週36時間労働
■現状
オーストラリアでは、いくつかの企業が「週4日制」の導入に踏み切る、ないしは「週休2日制」を維持しつつ短時間労働制へと移行しているという。また、この移行によって従業員の給与が減額されることもある。
さらに、オーストラリア首都特別地域(ACT)政府は、週4日制の実現可能性について調査し、このテーマに関する論文を公募し、学界、労働組合、ビジネス界からの意見を求めている。そうしたなか、オーストラリアの公共政策の研究機関であるThe Australia InstituteのCentre for Future WorkとAustralian Industry Groupは、最終的に雇用喪失の懸念があることを理由に賃金を下げずに勤務時間を短縮することに反対している。
■支持派の動き
シドニー大学に関係する学者・学生・ジャーナリストのグループであるProgress in Political Economyは、オーストラリア全体で週4日制を導入すべきと主張する論文を発表した。しかし、それを実現しようとする協調的な動きは見られていない。
イングランド、北アイルランド、ウェールズ ── 現在平均値:週休2日・週36.5時間労働
■現状
イギリスの労働党は、ジョン・マクドネル氏が影の首相だった数年前、経済的平等の推進と環境問題の解決を主目的に労働時間の短縮を公約として掲げていた。しかし、労働党は現在の政権与党ではないうえに労働時間短縮への反対意見も根強く、公約の実現には至っていない。
また、英国で最も強力なビジネスロビー団体であるConfederation of British Industryは、週4日制は「間違った方向に進む」と主張している。さらに、中道右派の経済学者の中には、週4日制は生活水準の低下を招くと主張する向きもある。
しかしそれでも、週休4日制への移行を独自に進めて成功を収めている企業がいくつかある。Elektra Lighting社やThink Productive社、Portcullis Legals社などがそうである。
■支持派の動き
労働党は週4日制を支持しているが、積極的に推進しようという姿勢は見られていない。一方で、Trades Union Congress(労働組合会議)は「すべての人に公正な賃金を」との主張のもと、週4日制の導入を産業界に求めている。
ドイツ ── 現在平均値:週休2日・週34.5時間労働
欧州の政治家で組織された連合体は2020年末、各政府首脳に向けて賃金を下げずに週4日制を導入することを求める書簡を送った。その政治家の中にはドイツ左翼党のカトヤ・キッピング(Katja Kipping)議長も含まれており、彼女は書簡のコピーをアンゲラ・メルケル首相の机に置いたという。
ドイツの労働大臣はこの案に前向きだが、メルケル首相は任期が終わりに近づいている。また、そもそもドイツの平均労働時間は34.5時間とEU諸国の中でも最も短い。そのため、ドイツにおける労働力の約70%を雇用しているドイツ経営者連盟は断固として週4日制に反対している。彼らは、週4日制は経済状況を悪化させるだけで、それに見合った賃金の引き下げがなければ導入すべきではないと主張している。
■支持派の動き
左翼党以外では、ドイツ最大の労働組合であるIGメタル(IG Metall)が、組合員に週4日制の導入を提案している。彼らの目的は、コロナの流行によって経済情勢が悪化し、労働者の雇用喪失のリスクが高まる中で、そのリスクを可能な限り軽減することにあるという。この提案が、週4日制の導入で失われる毎週1日分の労働力を、他の労働者で埋めるというワークシェアリングの発想に基づくものなのか、それとも、週4日制の導入と併せて労働者の賃金を引き下げ、それによって雇用を守ろうとしているのかについては明らかにされていない。