組織の幸福を阻害する古い発想

以上のようにHEROを育む訓練は簡単であるものの、HEROを育むための組織文化を醸成したり、マネジメントの在り方を変えたりするのはそれほど簡単なことではなく、旧来方式のマネジメントがHERO育成・開発の阻害要因になることもあると矢野氏は指摘する。

「例えば、過去の実績に基づいて計画を立てて予算を組んで管理したり、業務を標準化して効率化を図ったり、管理したりする旧来方式のマネジメントは企業にとって大切な営みですし、ルール順守も重要ですが、それにこだわるあまり、HEROのマインドセットを圧殺してしまうおそれが多分にあります。仮に、そうなれば組織は不幸せになり、生産性は間違いなく低下します」と、矢野氏は説き、こう続ける。

画像2: 不確実な時代に本当に必要なデータ活用は、「社員の幸福度の可視化と改善」にあり

「何事も不確実な今の時代は、過去のデータを分析しても未来は見えず、前例に従っても成功は約束されず、データに基づくPDCAサイクルが無意味化したり、全ての事業計画が見直しを迫られたりすることがいつでも起こりえます。その前提に立って、現場で働く人たちが自分の直感に従って行動できたり、これまでの社内の常識や前例から外れたようなアイデアでも、声を大にして自由に公言できたりするようなチーム・職場・働き方を実現することが大切です」

矢野氏によれば、人の価値観の多様化やテクノロジーの発達によって、企業のビジネスを取り巻く環境は大きく変化してきたにもかかわらず、多くの日本企業の仕組みは大量生産・大量消費時代の20世紀型からなかなか抜け出せず、世の中の変化に対応できずにきたという。

背景には、企業の仕組みは他のさまざまな仕組みと相互依存の関係にあり、何か1つを変えることが難しかったからだと矢野氏は指摘する。それがコロナ禍の影響により、ほぼ全ての企業が自分たちの存在理由は何なのかという原点に立ち戻り、あらゆる仕組みをリセットして再構築する必要に迫られているという。結果として、新しいことに挑戦するHEROのマインドセットを受け入れる素地が企業全体を通じて出来上がりつつあると、矢野氏は付け加える。

幸せな組織のコミュニケーションパターン“FINE”

一方、HEROのマインドセットを持つ人の中にも、組織を不幸せにする「悪いHERO」がいるという。これは実際に、組織によく見受けられることがデータに出ており、自分の幸せのために人を犠牲にするのを厭(いと)わず、自分の考えや信念を押し通して、自分だけが幸せでいようとする種類の人間だという。

その逆に「良いHERO」は自分の周囲もHEROにし、幸福にする、ないしは、そのための環境を整えようとするタイプであり、このタイプの人が多い組織は共通してコミュニケーションのパターンに「FINE(ファイン)」の特性が見られるという。

ここで言うFINEとは「Flat(フラット)」「Improvised(即興的)」「Non-verbal(非言語的)」「Equal(平等)」の4つの特性を持ったコミュニケーションを指し、それぞれの特性については表に示す通りだ。

画像: 表:FINEなコミュニケーションを成す4つの特性

表:FINEなコミュニケーションを成す4つの特性

これらの特性をまとめると、組織を構成する全員が上司・部下の関係を超えてフラットにつながり、相互の対話が自由・活発に行われ、相互信頼・共感に基づくかたちで非言語の意思疎通が有効に機能し、かつ、誰もが平等な発言権を持ち、誰に対しても安心して自分のアイデアや意見が言えるコミュニケーションとなる。

「こうしたFINEなコミュニケーションは、“悪いHERO”が支配するような不幸な組織では起こり得ないものです。つまり、コミュニケーションがFINEであるかどうかは、その組織が幸福で生産的であるかどうかを測る有効な指標であり、組織を不幸で非生産的にしたくなければ、コミュニケーションをFINEにする努力が必要になるということです」(矢野氏)。

組織の健全性へ一層の投資を

ハピネスプラネットが開発・提供しているHappiness Planetは、組織における上述したFINEやHEROの状態を、人の無意識な身体の動きから計測する仕組みだ。その計測には、組織の従業員が所持するスマートフォンの加速度センサーが使われている。

Happiness Planetの仕組みは、組織の幸せの状態を「レントゲン写真」のようにデータで可視化する装置といえ、その結果に基づいて改善の療法を適用することで、普遍的な変化を組織にもたらすことが可能になると矢野氏は説明する。また、Happiness Planetでは、個々人の計測結果から改善の療法を個別化して提案・提供する機能も備えている。 Happiness Planetを市場に投入した理由について、矢野氏は次のように述べる。

「これまで国も企業も人の身体的な健康の維持には力を注ぎ、国は国費の多くを医療に費やしています。その一方で、集団・組織の心の状態を健全に保つための投資はほとんど行われていない状況で、その健康状態を測る手法も、状態を改善する手法も実にアナログで科学とは程遠いものでした。Happiness Planetはそうした状況を打開する一手として世に送りだしたものです」

さらに同氏は、集団・組織の心の健全性を保つことの大切さについて、あらためてこう指摘し、話を次のように締めくくる。

「社会的な成果を生み出すのは個人ではなく集団・組織であり、集団・組織のマインドが健全な状態にあるかどうかで、個人の心と身体の健全性が大きく左右されると言えます。ゆえに、集団・組織の健全性をどう保つかの問題を脇に置いたまま、個人の身体の健康だけを守ろうとする投資は非常に偏ったもので、人と組織の未来のためには集団・組織の健全性の確保にも大きく投資すべきだと考えています」

このように考えるのは、もちろん矢野氏ばかりではない。多くの日本企業の経営層が矢野氏と同様の考えの下で動き始めており、結果としてHappiness Planetの引き合いも増え続けているという。Happiness Planetの動静には今後も目が離せそうにない。

矢野氏が今回語った内容の多くは、同氏が記した書籍『予測不能の時代:データが明かす新たな生き方、企業、そして幸せ』(発行・発売:草思社)で詳細に語られている。人・組織の幸せづくりに活用できる一冊だ

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