アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』から新着コラム。アトラシアンのリサーチ&インサイト部門長であるレイサ・ライヒェルトが、アトラシアンの調査に基づきながら、リモートワーク(テレワーク)がチームに及ぼす深刻な影響と、その影響を最小限に抑え込むための方法について、前・後編の2回に分けて紹介する。
チームのメンバーがフルリモートで分散して働いていると、チーム内に必ずいくつかの問題──つまりは、バグが発生する。それを除去する方策としてお読みいただきたい。

4カ月間にわたる調査で見えてきたこと

私は、チームワークに関するリサーチャーとしての興味関心を満たすことと、リモートワークを推進している全てのチームリーダーに有益な情報をお届けするという2つの目的の下、2020年4月から4カ月間にわたり、「突然のリモートワークへの移行が、個人やチームにどのような影響を及ぼしているか」を調査してきた。この調査により、チームのメンバーがフルリモートで分散して働いていると、チーム内にいくつかの深刻な問題──つまりは、深刻なバグが発生する事実も明らかにされた。以下では、調査の結果と問題解決の方法を併せて紹介する。

本調査の全容にご興味のある方は下記よりダウンロードされたい(英語版)。

また、日本語の一部抜粋抄訳版が下記ページからダウンロードできる。

調査結果1: チームメンバーのリモート分散化は「イノベーション力の減退」につながる可能性あり

チームのメンバーがリモートに分散していると、自然発生的なコラボレーションの機会が減り、意図的なコラボレーション、あるいは事前に計画されたコラボレーションが増えていく。結果として、インプットの幅が狭められ、それに対する懸念を示す人が多いという事実が調査によって明らかになった。以下がその報告内容だ。

リモートワーク中の人は共通して、物理的な“隔絶”による負の影響を受けているようです。負の影響の一つは“偶発的な気づき”を得る機会の減少です。例えば、リモートワークによって、同僚のデスクの壁にピン止めされたアイデアのメモ書きや、机の上に置かれた書類を偶然目にすることがなくなり、進行中の業務へのフィードバックを得る機会が失われます。このようにインプットが狭められることで、結果的に品質や創造性が低下してしまうのではないかと懸念する人が多く見受けられました。

今回の調査では、この他にも、リモートワークによってチームのイノベーション力が減退する可能性が示唆されている。

例えば、リモートワークの問題点としてよく「廊下での偶然の出会いがなくなる」「ウォータークーラー(冷水機)前での雑談・議論がなくなる」といった点が指摘されるが、今回の調査でも同様の指摘があった。これは取るに足らない問題のように思えるかもしれないが、オフィスでの偶然の出会いや雑談・議論からイノベーティブな着想が生まれることは往々にしてある。

加えて今回の調査により、リモートで仕事をする場合、「人は決まった日常的なタスクを好む傾向が強まる」という事実も明らかになった(特に、リモートワークに慣れていない人は、その傾向がより強まるようだ)。要するに、リモートワーク中の多くの人が「リモートワーク(在宅勤務)は、単純でコラボレーションの必要性が低い、流れ作業的なタスクに向いている」と感じているようなのである。

しかも、2020年3月以降のリモートワークはパンデミック(コロナ禍)の影響下にあり、感染症に対する不安が常につきまとう。このような場合、人はどうしてもストレスの少ない単純労働に逃げ込みたくなる。そうした欲求も、テレワークにおける“単純作業志向”につながっているようだ。

ただし、言うまでもなく、イノベーションは複雑で非定型のコラボレーションによって、もたらされることが多い。よって、そうした作業を回避し続けると、個人、ないしはチームとしてイノベーションを引き起こす能力が減退してしまうリスクがある。

また、調査報告によると、リモートワーク下のコミュニケーションやコラボレーションに関して「焦点を絞り込み過ぎていて包括的ではなく、ゆとりもない」という点に対して懸念を示す向きも多くいたようだ。例えば、リモートワーク時のWeb会議では、進行のしやすさと効率性を優先させ、会議の参加者を関係者だけに限定するのはもとより、少人数で会話が進む傾向にある。

もちろん、会議に参加しなかった人も、録画を視聴したり、議事録を読んだりすることでキャッチアップすることは可能だ。だが、ミーティングの参加者を絞り込むということは、ディスカッションにおける意見の多様性の低下につながる。それも、イノベーションの減少させる可能性がある。

【問題解決のヒント】

上述したような“バグ”を駆除するための方策の一つは、「非同期型コレボレーション」のプラクティスが繰り返せるよう、仕事の進め方自体を変えてしまうことだ。

例えば、私のチームでは、前もって準備したビデオをアトラシアンの社内Wiki型情報共有ツール「Confluence」を介して共有し、フィードバックを必ず求めるようにした。これにより、一つのテーマに対する見解の多様性を維持することに成功している。

また、リモートワークの体制下では、チーム内での「タスク」をより目立たせることも大切だ。とりわけチーム内での進行中のタスクについては、メンバー各人の日々の進捗状況やアウトプットを簡単に確認できるようにしておく。これにより、オフィス内で同僚のデスクのそばを通ったときと同じ気づきや情報をインプットすることが可能になる。

このときに便利に使えるツールが、ConfluenceやGoogle Docs、タスク管理ツールの「Trello」、デジタルホワイトボードツールの「Miro」や「Mural」などである。これらのツールを使うことで特定のタスクに直接かかわっていないメンバーに対しても、そのタスクの内容を目立たせ、気づきを与えることが簡単になるほか、タスクに関するメンバー間でのアイデアの交換も活発になる。

また、デジタルツールを使った情報の共有を推し進めることで、オフィスでチーム全員が働いているとき以上の効果も期待できる。それは、仕事に関する互いの情報をすべてオープンに共有しようとする意識の高まりである。

実のところ、人には仕掛かり中の仕事を他者にはあまり見せたくないという意識があるほか、自分の作成したドキュメントや仕事に関係するコンテンツへのアクセスに制限をかけたいという誘惑にもかられる。

そのため、オフィスでチームの全員が働いていると「誰かに情報の提供を要求されれば、すぐにそうできる」「何かを聞かれればすぐに答えられる」といったことを“言い訳”にして、仕掛かり中の仕事の情報や自分の仕事に関係するドキュメント/コンテンツをなかなかオープンにしようとしないことがあるのではないか。

ところが、リモートワーク体制下では、そのような言い訳は通用しない。その意味で、リモートワークは、情報の“壁”を作ろうとするチームのメンバーに対して、それがいかに無意味な行動かを気づかせ、情報をオープンに共有し合うメリットの大きさを認識させる好機とも言えるのである。

チームリーダーはその好機を活用して、上述したデジタルツールを使いながら、仕事の情報のオープン化と共有を推し進めればよい。それにより、メンバー各人は、デジタル空間を通じて同僚たちが何を考え、何をしようとしているかをつぶさにとらえられるようになり、「廊下での立ち話」や「ウォータークーラー前での雑談・議論」よりも、はるかに多くの発見を日常的に得ることが可能になる。

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