本稿は、そうしたチームのハピネスを向上させる方策に焦点を当てた3回連載の1回目だ。連載では、ハピネス度向上の指南役として、チーム開発のプロフェッショナルであり、株式会社環(KAN)のCHO(チーフハピネスオフィサー)でもある椎野磨美氏に協力を仰ぐ。その初回である今回は、チーム内ハピネスの基礎を支える「コミュニケーション」のあり方について椎野氏に伺った。
コミュケーションスキルで人生も変えられる
コミュケーションが科学であり、スキルが技術であるということは、その能力には再現性があり、かつ、誰にでも習得が可能であるということでもある。ときとして、コミュニケーション力は、生まれ持った才能や性格と同じで、変えられないととらえられることが多いが、それは間違いであると椎野氏は指摘する。
また今日では、コミュニケーション力を含めて、ビジネスパーソンの対人関係構築能力を測る指標として「エモーショナルインテリジェンス(感情知能:EQまたはEI)(*1)」が注目を集め、成功を収めた経営者は総じてEQが高いとされている。椎野氏によれば、このEQもコミュニケーションスキルと同様に学習やトレーニングによって高めることができるという。
「なかには、天才的にEQが高い人がいて、カリスマ的な経営者の多くがそうなのです。EQは学術として研究されているもので、科学であり、学問です。ゆえに学習・トレーニングによって誰でもEQが高められます。言い換えれば、学習・トレーニング次第で、人は誰でもカリスマ経営者と同レベルのEQ──つまりは、高いコミュニケーション力や人心掌握の能力を手に入れられる可能性があるということです」(椎野氏)。
*1 エモーショナルインテリジェンス:自分や他者の感情を理解して、自分の思考・行動に活用する能力を指す。
実際、椎野氏自身、今ではチーム構築のプロとしてコミュニケーションのあり方やリーダーシップのとり方、さらにはチームのハピネスを育む文化の醸成法などを指導する立場にあるが、そうした素養がもとから備わっていたわけではないという。
むしろ、社会人になりたてのころは、対人関係を築くことが苦手で感情をマネジメントすることができない「ビジネスパーソンとしても一人の大人としても残念な人」(椎野氏)だったという。それが、新卒で入社した会社がすばらしく、コミュニケーションスキルを含めてビジネスパーソンとして学ぶべきこと、あるいは学びたいことがすべて学べる環境があり、それを通じたトレーニングの積み重ねによって、今の自分があるとする。
また、椎野氏が請われてメンター(*2)を務めた、あるビジネスパーソンは、十数年間、会社の“お荷物的な存在(メンティ本人談)”だったのが、椎野氏の5年にわたるコーチングによってコミュニケーションスタイルやビジネスに対する意識の持ち方・向き合い方を変化させた結果、会社の次世代タレント人材に選出されるまでになったという。
*2 椎野氏はボランティアとしてメンターとしての活動を展開している。
「このような事例は他にも多くありますが、それらが意味しているのは、どのような人でもトレーニングによってコミュニケーション能力やEQを磨くことができるということ、そして、自分がなりたい自分になれたり、率いるチームのハピネスやモチベーションを高めて、パフォーマンスを向上させたりすることが可能になるということです。私がコーチングした方で、コミュニケーションスキルによって離婚の危機を乗り越えた人もいます。コミュニケーションスキルやEQの獲得・向上には相応のトレーニングが必要ですが、それに見合うだけの効果が十分に期待できるということです」(椎野氏)。
ちなみに、椎野氏が働くKANでは現在、社員全員に対して、社員同士の相互理解を深めてウェルビーイングでいられるためのトレーニングを、椎野氏指導の下、毎日30分間行っているという。その全体は思考・感情のトレーニングやIT・ビジネスススキル(コミュニケーションスキルを含む)向上のトレーニングなどで構成されている。これにより、社員全員がコロナ禍対策でリモートワークを実施している中でも、コミュニケーションによる相互理解が以前よりも深まっていると感じているようだ。
コロナ禍の影響により、これから時代は厳しさを増す。その中で、チームを活気づけたい、ハピネスにしたい考えるリーダーにとって、コミュニケーションスキル/EQ(EI)は獲得・向上は成功に不可欠な取り組みであるようだ。
椎野磨美(しいの・まみ)
新卒でNECに入社。NECで、人材育成コンサルティング、人材育成プログラムの開発など、人材育成・研修業務に約21年間従事。入社3年目より、パラレルキャリアとして技術書を執筆。現在までに執筆した技術書籍は14冊を数える。2011年、楽しくITやビジネスを学べるコミュニティー「Windows女子部」を創設。セミナーやワークショップを各地で提供する傍ら、企業とのコラボレーションイベントなどを企画・運営中。フリーランスを経て12年より、日本マイクロソフトにて、シニアソリューションスペシャリストとして従事。16年よりJBSにて社員が働きやすい環境づくりを推進、「2017年働き方改革成功企業ランキング」初登場22位の原動力となる。20年5月に環(KAN)のCHO(チーフハピネスオフィサー)に就任。一般社団法人 ITビジネスコミュニケーション協会理事