新型コロナウイルスの影響により、リモートワークを導入する企業が増えている。リモートでのチームビルディングや、組織のマネジメントに試行錯誤している企業も少なくないのではないだろうか。

ソフトウェア開発の現場でフルリモートによる働き方を実現している会社がある。「納品のない受託開発」を掲げて、業界に革新を起こしてきたソニックガーデンだ。下請けとして受注して納品するのではなく、月額の顧問契約を結び、新規事業や基幹システムの改修などをアジャイル開発で手掛けている。社員は仮想オフィスでつながりながら業務にあたり、2016年にはオフィス自体をなくしてしまった。

ソニックガーデンがフルリモートでも開発チームを構築できる背景には、リモートだからこそコミュニケーションを重視している点がある。ソニックガーデンの倉貫義人社長に、リモートで開発チームをマネジメントするヒントを聞いた。

倉貫義人(くらぬき・よしひと)

1974年京都生まれ。株式会社ソニックガーデン代表取締役。1999年立命館大学大学院を卒業し、TIS(旧・東洋情報システム)に入社。エンジニアとしてキャリアを積みつつ、「アジャイル開発」を日本に広める活動を続ける。2011年、自ら立ち上げた社内ベンチャーをMBOによって買収、株式会社ソニックガーデンを創業する。「納品のない受託開発」というITサービスの新しいビジネスモデルを確立し、業界に旋風を巻き起こす。著書『「納品」をなくせばうまくいく』『リモートチームでうまくいく』(ともに日本実業出版社)、『ザッソウ 結果を出すチームの習慣 ホウレンソウに代わる「雑談+相談」』(日本能率協会マネジメントセンター)、『管理ゼロで成果はあがる』(技術評論社)(以下、写真はソニックガーデン提供)

アジャイル開発では普段からのコミュニケーションが重要

オフィスを持たないソニックガーデンの社員は、仮想オフィスの「Remotty」に「出社」する。「Remotty」は自社で開発したリモートチームプレースだ。ログインして「おはようございます」と書き込むと仕事開始。同僚とあいさつや雑談をしながら業務を進めていく。

約50人の社員は住んでいるところもさまざまで、20都道府県以上に分散している。会社を設立した11年に、在宅勤務を希望する社員が入社したことによってリモートワークを始めた。その後も地方の社員が増えたことから、オフィスとリモートの2種類のコミュニケーションパスをリモートに統一。16年にオフィスを廃止した。

ソニックガーデンは企業の新規事業や、基幹システムの改修・運用、中小企業の業務改善などを手掛けている。倉貫社長は大手SIerで受託開発を経験する中で、納品ありきのシステム開発では良いものができず、顧客にとっても使い始めてから直したいところが出てくるなど、さまざまな問題点を感じていた。

そこで問題を解決し、顧客と開発会社双方にとっての最良なビジネスモデルとして「納品のない受託開発」を発想。弁護士や税理士のように「顧問」の形によって定額で契約し、アジャイル開発によってIT支援をするサービスを提供している。倉貫社長は、アジャイル開発ではより一層エンジニア同士のコミュニケーションが重要になると話す。

「エンジニア同士はあまりコミュニケーションを取らずに仕事ができるというイメージがあるかもしれませんが、私たちはむしろ逆で、普段からのコミュニケーションが重要になります。アジャイル開発では仕事を工程ごとに分業するのではなく、お客さまとの相談から設計、開発、実装、運営まで同じ社員がチームを組んで進めます。コミュニケーションを取りやすい環境づくりを意識しています」

フルリモートワークで円滑なコミュニケーションを取るために導入したのが、前述の仮想オフィスだ。まだ世の中に仮想オフィスがない時期に開発し、現在はサービスとして外部にも提供している。倉貫社長は仮想オフィスを導入した理由を、次のように説明する。

「オフィスでどのような仕事をしているのかを整理すると、オフィスの機能を大きく3つに分類できました。自分の席があること、会議室があること、それに書類を置いていることです。この3つについては、自分の席は在宅に、会議室はテレビ会議に、書類はクラウド化することで、全てデジタルで解決するかのように思えます。

でも実は、オフィスには第4の機能があることに気付きました。それが、ちょっとした相談ができる場所です。ちょっと困ったことがあれば、オフィスでは頻繁に隣の席の人や先輩に声をかけて相談していました。この『ちょっといいですか』と相談できることが、オフィスの良さでした。

リモートワークでオフィスの第4の機能を再現するにはどうすればいいかを考えて、たどり着いたのが仮想オフィスです。オフィスと同じように、気軽に相談ができる環境をつくっています」

画像: 仮想オフィスの「Remotty」

仮想オフィスの「Remotty」

仮想オフィスだからできるコミュニケーション

仮想オフィスの運用には、特に難しい点はないという。自分の仕事を進めながら、独り言を呟いたり、出社してきた人に声をかけたりしている。社員の姿が画面に映っているので、様子を見ながら相談できそうな時に声をかける。

コミュニケーションツールにはチャットなどもある。倉貫社長によると、チャットと比較した仮想オフィスの利点は、言語化できていない内容でも相談できる点にあるという。

「チャットでは質問をきちんと書かなければ、相談になりづらいです。相手の様子が見えない状態で『ちょっといいですか』と声をかけても、返事が来るかどうかも分かりません。言語化できていないことを相談するには、話しかけるのが一番早いですよね。声をかける仕組みが、仮想オフィスの利点です」

リモートワークだと社員を管理するのが難しいと考えて、顔が見える仮想オフィスの導入を検討する企業もあるかもしれない。しかし、仮想オフィスは監視するためのものではなく、あくまでコミュニケーションを取りやすくするものだと倉貫社長は強調する。

「監視するために見えるようにしているのではありません。オフィスに社員を出社させるのは、監視するためではないですよね。お互いに顔が見えた方が、コミュニケーションがしやすいから出社していたはずです。

リモートワークだと管理できるかどうか不安だと考えている人は、これまで仕事を適切にマネジメントできていなかったのではないでしょうか。席に座っていれば仕事をしていると思っていたのであれば、それは大きな間違いです。

仕事というのは座っていることではなく、成果を出すことです。成果を出すようにマネジメントする必要がありますし、逆に言えば成果を出すマネジメントをしていれば、監視する必要はありません。ソフトウェア開発チームをマネジメントするには、この考え方は重要だと思います」

This article is a sponsored article by
''.