改めて高まるワークライフバランスへの関心
新型コロナウイルス感染症の影響でテレワークが増えたせいなのかもしれないが、いま、「ワークライフバランス」に対するビジネスパーソンの関心が改めて、そして世界的に高まっている。
私がさまざまなSEOツールで調べたところ、検索キーワードとして「ワークライフバランス」という用語が使われる回数は、米国だけで月間2万2,000回以上、インドで同9,900回、オーストラリアで同3,600回、ドイツで同1万8,100回に及ぶ。また、メディアは、こうした流行に敏感に反応するので、インターネット上では、毎月およそ450本のベースで、ワークライフバランス関連の新たな記事がアップされている。
ここで問題なのは、ワークライフバランスを適切に保ちたいという個人の意識の高まりはわかっても、会社組織におけるチームリーダーやマネージャーが、部下のワークライフバランスを適正化するための良策がなかなか見つけられない点だ。そこで本稿では、その方策を示すことにしたい。
“ワークライフ・インテグレーター”と“ワークライフ・セグメンター”
チームメンバーのワークライフバランスを考えるうえで、大きく2つのタイプがいることを理解しておく必要がある。それは「ワークライフ・インテグレーター」と「ワークライフ・セグメンター」の2タイプである。
このうち、ワークライフ・セグメンターとは、日々の生活の中で仕事とプライベートを厳格に分けようとする人を指す。それに対してワークライフ・インテグレーターとは、仕事とプライベートとを厳格に分けようとせず、1日の中で仕事とプライベートとの切り替えを自由に行うような人を指している。
このワークライフ・インテグレーターとワークライフ・セグメンターの両者をよくよく観察していると、それぞれは全く異質の存在ではなく、一つの線上にいることがわかる。ただし、人は大抵の場合、その線上の両極のどちらか一方に引き寄せられていく。ちなみに、ワークライフ・インテグレーターとワークライフ・セグメンターの特徴を簡単に説明すると以下のようになる。
- ワークライフ・インテグレーターの特徴
- 仕事とプライベートとの間を自由に行き来する。
- 業務時間後であってもメールやチャットに対応することに抵抗がない。なぜならば、彼らは日中の仕事の合間を縫ってジムに行くこともあるからである。
- 業務外であっても仕事の話をしたり、同僚たちとプライベートな対話を楽しむ。
- ワークライフ・セグメンターの特徴
- 仕事をする時間とプライベートの時間をきっちりと分ける。業務時間外に仕事をしない。
- プライベートの用事は必ず勤務時間外に済ませる。
- 『ファミリーデイ(家族を職場に招く日)』などの会社の催事には参加しない。また、自分のデスクの上に家族や友人の写真を置いたりもしない。
自分の率いるチームの各メンバーが、ワークライフ・インテグレーター的な働き方を志向しているのか、ワークライフ・セグメンター的な働き方を志向しているのかは、すぐに判断できるはずである。仮にわからなければ、本人に直接尋ねるのが、最も手っ取り早い。
では、ワークライフ・インテグレーターとワークライフ・セグメンターは、自分のワークライフバランスを保つために、上司であるマネージャーに対して何を望んでいるだろうか。次に、その疑問への答えを示したい。
ワークライフ・インテグレーターが上司に求めること
まずは、ワークライフ・インテグレーターが上司に求めていることについて明らかにしたい。それは以下のとおりである。
柔軟性と信頼:
ワークライフ・インテグレーターにとっての適切なワークライフとは、仕事途中でもプライベートの用事で外出したり、子どもの出迎えに早い時間に退社したりが自由に行えることを指している。ゆえに彼らが欲しているのは、そうした行動をとっても自分に課せられた仕事はしっかりとこなすことに対するマネージャーの信用であり、信頼だ。また、マネージャーが彼らに業務時間として対応してほしい時間帯について、常にオープンにコミュニケーションを取ってもらいたいと望んでいる。
チームのイベント:
ワークライフ・インテグレーターは、会社の同僚たちとプライベートでも交流を持ち、友人関係を築きたいと願っている。ゆえに、彼らはチームでの催しごとをとても好む。そのため、チームでの催しごとを開く際に彼らに時間と予算を与えると、喜んでイベンドづくりに力を注ぎ、チーム内での輪の形成に大きく貢献してくれる可能性がある。
成功を測る物差し:
これまで標準的な就業時間とされてきた9時5時のタイムフレームの中で、ワークライフ・インテグレーターの働きぶりを観察していても、彼らがチームのために懸命になって働いているとは思えず、良い評価は下せない。そのことは彼らも知っており、ゆえに自分たちの働きやパフォーマンスを正しく評価するための明確で、計測可能な目標を与えて欲しいと望んでいる。
ワークライフ・セグメンターが上司に求めること
一方、ワークライフ・セグメンターが上司に求めていることは以下のとおりである。
安定性:
ワークライフ・セグメンターは、仕事終わりの決まった時間での自己トレーニングや歯医者の予約、さらには家族に対する義務を果たすこと、あるいは世話をすることをとても大切にする。ゆえに、仕事のスケジュールには安定性を強く求め、そんな彼らに臨時での仕事時間の変更を要請するとストレスを与えることになる。
オンオフに対する尊重:
ワークライフ・セグメンターは、自身の勤務時間帯について交わした会社(ないしは上司)との決まりは常に尊重して欲しいと望んでいる。したがって勤務時間が16:30までとなっている場合、チームの会議を17:00に設定したりするようなことは避けなければならない。また、勤務時間後に彼らに仕事のメールやチャットのメッセージを送る際には、(よほどの急用ではない限り)メッセージへの返答は明日で構わない旨を明記しておくことが大切である。
相談の窓口:
ワークライフ・セグメンターは、友人や家族に対して仕事上の悩みや問題を打ち明けようとはしない。したがって、ワークライフ・セグメンターの部下たちは、仕事上の問題や悩みを、気兼ねなく上司に打ち明けられる環境を欲しており、彼らが何らかの問題に突き当たった際に、上司がいつでも相談に乗ってくれることを望んでいる。
Google社の社内調査(英語)によると、ワークライフ・セグメンターは、ワークライフ・インテグレーターと比較して幸福感が高めであるという(ライフハッカー[日本語版]による参考資料)。また、ワークライフ・インテグレーターのように振る舞う人の多くが、実はワークライフ・セグメンター志向で、単に「常時オン」でいなければならないという考え方にとらわれているだけであるようだ。そのようなタイプのメンバーをチーム内で見つけた際には、1日の仕事を終えたときには、手持ちのスマートフォンに対するチャットのプッシュ通知を全てブロックするか、仕事用のアプリを個人のスマートフォンから全て削除してしまうよう勧めたほうが良い。
両方のタイプをサポートするための6つの方策
以上に示したとおり、ワークライフ・インテグレーターとワークライフ・セグメンターとでは、働き方も上司に求めることも異なる。そして大抵のチームは、この2つのタイプが混在している状況にあるはずである。ゆえに、上司であるマネージャーは、それぞれのタイプのワークライフをサポートしながら、チームとしてのパフォーマンスを高めていかなければならない。以下では、そのための方策を6つ紹介したい。
方策1:成果ベースでパフォーマンスを評価する
周知のとおり、ナレッジワーカー(ホワイトカラー)が上げる成果と働く時間の長短は無関係である。そのため、ナレッジワーカーのチームや組織への貢献度を、勤務時間に基づいて評価するのはナンセンスである。
ところが、会社組織で働くマネージャーの多くが、いまだに勤務時間の長短をナレッジワーカーの評価の尺度にしてしまうという誤った考え方から脱し切れていない。そのようなことでは、部下がワークライフ・インテグレーターか、ワークライフ・セグメンターかによらず、各人の働きを正しく評価することができず、それぞれのライフワークバランスにも負の影響を与えかねない。したがって、チームの各メンバーに対して明確な目標を設定し、それぞれの目標達成度──つまりは、成果によって個々人のパフォーマンスを評価することが重要であり、必要不可欠と言える。
方策2:コアタイムを設定する
今日では、非常に多くの企業がフレックスタイム制を敷いているが、この制度を巡っては、コアタイムを設定するか、それとも完全なフレックスにすべきかの議論がさまざまに行われてきた。ただし、チームで働くという観点から言えば、コアタイム(一般的には10:00〜15:00)を設定したほうが、メンバー全員による共同作業や会議の時間調整をとる手間が省けて効率的と言える。また、コアタイムを設定することで、ワークライフ・セグメンターは働くスケジュールに一貫性を持たせることが容易になる。ワークライフ・インテグレーターにしても、全ての時間を自由に使うことはできなくなるものの、コアタイム以外は時間を自由に使えるので、それほど大きな不満にはならないはずである。
方策3:フィードバックと振り返りを促す
チームのメンバーが、自分のワークライフのスタイルをどうしたいかによらず、メンバー全員参加の「振り返り」の会議を定期的に持つことは、チームの能力を高める有効な手段だ。この会議は、直近のチームでの仕事を振り返りながら、メンバー全員で「何がうまく機能していて、何が機能していないのか」を話し合ったり、仕事上の問題点を提起したり、その解決策を見出したりするための場だ。上司であるマネージャーも、この場を使い自分のマネジメントに対する部下たちからのフィードバックが得られる。また、マネージャーは、1on1(ワンオンワン)ミーティングのような、よりプライベートな場で、部下の一人一人から仕事に対する意見を求めたり、ワークライフの現状を尋ねたりして、同僚の前では言いにくいことを聞き出すこともできる。
方策4:チームで楽しむ
チームでの催しごとを開き、全員でリラックスして充電し、お互いをよりよく理解するための時間を設けることは大切である。上述したとおり、こうした仕事と遊び、そしてプライベートとの融合は、ワークライフ・インテグレーターが非常に好むことである。また、チームでの遊びの時間を勤務時間内で行うことで、勤務時間外に催される会社のパーティを避けているワークライフ・セグメンターに対しても、会社やチームで楽しむ機会を提供することができる。
方策5:お互いの働き方を知る
ある部下は、その日に来た仕事のメールを夜中にまとめ返すことを好み、ある部下は、勤務時間後に来たメールについては、翌朝にならないとチェックしない──。人の働き方は実にさまざまである。ゆえに、チームのメンバー全員が、それぞれが好む働き方を互いに認識しながら、チームの文化的規範、あるいは働き方の共通のルールを確立していかなければならない。
方策6:ツールをうまく活用する
ワークライフ・インテグレーターとセグメンターの双方が、仕事とプライベートとの境界をうまく確立できるようなツールを選び、使うようにする。例えば、ユーザーがメッセージの着信通知の設定を自由に変更できるようなツールを選ぶことは大切だ。また、個人のスマートフォンに仕事用のアプリをインストールしているビジネスパーソンは多いが、チームのメンバー全員がそうする必要があるかどうかも検討すべきである。ワークライフ・インテグレーターは、ジムに居ながらスマートフォンを介して、いつでも仕事で使っているSlackにアクセスできる便利さを好むが、セグメンターは自分のスマートフォンで会社のSlackを使おうとはしない。