“オープンさ”の重要性をデータで説く
本書は、企業組織の「OPENNESS(オープネス)」を高めることの大切さと、そのためのハウツーを説いた一冊である。メインテーマである「オープネス」とは、組織の「オープンさ」を意味するもので、経営陣を含めた組織の全員が、どこまでオープンに情報や体験を共有し、相互信頼の関係を構築・維持できるかを表している。
今日、米国の有力企業・成長企業の多くが、こうしたオープネスの維持・向上を、組織戦略の中心に据えている。本書は、そうすることがなぜ重要なのか、また、オープネスを高めるためには、何をどうすればよいのかを知るための参考書でもある。
著者の北野 唯我氏は、博報堂の経営企画局・経理財務局を経て、米国に留学、ボストンコンサルティングでキャリアを積み、現在は、組織戦略の専門家として活躍中の人だ。2016年に入社した人材会社キャリアワンでは、執行役員 最高戦略責任者の任に当たっている。
こうした著者の職務経験(経理財務部門での経験やコンサルタントとしての経験)からか、本書での主張には、データや事例の裏付けがしっかりと用意されている。
例えば、本書の第1章は、オープネスの重要性を読者に理解させるための導入部だが、「オープネスが重要」という結論に至るまでに、データを使った論が順序立てて展開されている。具体的にはまず、「職場の空気」が良好で、従業員満足度が高い会社ほど業績が良いという事実を、データの裏付けをもって説明している。そのうえで、変化の激しい時代では、事業戦略以上に組織戦略が重要になると論じ、のちに、従業員満足度を高める手段として、「社内の風通しを良くすること」(≒オープネスを高めること)と「社員の士気を高めること」の2点が有効であると、データを引用しながら唱えている。
データの裏付けがあるので、こうした主張には説得力がある。とはいえ、オープネスが重要との認識のある方にとっては、第1章の記述は多少回りくどく感じるかもしれない。また、「社内の空気」や「社員の士気」など、企業における職場環境の状況を示すデータとして、本書では、社員・元社員の口コミ情報サイト「オープンワーク」のデータを使用している。オープンワークは、著者がマーケティング戦略をサポートしている組織だ。その意味で、オープンワークを宣伝したいという著者の意図も多少見え隠れしている。
オープネスの阻害要因は組織のリーダー
上述したとおり、本書の第1章はあくまでも導入部だ。本論は、第2章の「オープネスとは何か」から始まり、それに続けてオープネスを高めるための方法(第3章)やオープネスの活かし方(第4章)へと話が転じていく。
本書では、オープネスの高低は、「経営開放性」「情報開放性」「自己開示性」という3つの要素によって決定づけられると定義している。
このうち、経営開放性が意味するのは、経営陣と従業員との間でどれだけオープンな関係が築けているかである。また、情報開放性は、現場での意思決定に必要な情報に、いかに簡単にアクセスできるかを表している。さらに、自己開示性とは、従業員たちが、自分のパーソナリティや考え方、アイデア、意見、あるいは失敗を、精神的なプレッシャーを受けずに、どの程度まで開示できるかを表している。
本書によると、日本の企業は総じてオープネスが低く、それが成長・発展を妨げてきたという。また、そうした現状を打破するためには、組織のオープネスを阻害する「ダブルバインド」「トーション オブ ストラテジー」「オーバーサクセスシェア」という3つの問題を解決する必要があると本書では訴える。
「ダブルバインド」とは、組織のリーダーの「言行不一致」によって、部下が二重拘束に苦しめられる状態を指している。
例えば、「私の考えに何か意見があれば遠慮なく聞かせて欲しい」と言っておきながら、いざ部下から意見を言われると、あからさまに不快な表情を浮かべ、部下の考えを真っ向から否定しようとするリーダーがいる。そうしたリーダーは、部下をダブルバインドで苦しめるという。そして部下たちは、どう行動していいかが分からなくなり、結果的に、リーダーへの信頼を失い、自分の考えをオープンに発言する意欲も、組織への貢献意欲も低下させていくという。同様に、「君たちにすべて任せた」と言いつつ、現場が動き始めると細かな指示をやたらと出し、マイクロマネジメントを行おうとするリーダーも、部下をダブルバインドで苦しめることになる。
一方、トーション オブ ストラテジーとは、思い込みの激しいミドルマネージャー(本書では、「戦略わかったふりおじさん」と呼んでいる)が、経営者の打ち出した戦略を勝手に捻じ曲げて部下たちに伝えることを意味している。これにより、経営と現場との戦略上のつながり寸断されてしまい、相互理解の関係が確立できなくなるという。
残るオーバーサクセスシェアとは、成功体験・成功事例ばかりに光を当てて過度に共有しながら、失敗体験・失敗事例については一切共有しようとしないことを指している。このような偏った情報共有を行っていると、失敗は罪悪であるという意識が組織内で高まり、成功だけではなく失敗もオープンに共有し、そこから多くを学ぶという考え方が生まれにくくなるようだ。
本書によれば、これら3つの問題は、どれも日本企業にありがちな問題であるという。だとすれば、読者諸氏の会社にも、ダブルバインドやトーション オブ ストラテジー、あるいはオーバーサクセスシェアに類する問題がある可能性がある。仮に、そうした問題に心当たりがあるのであれば、本書を読み、問題解決のすべを仕入れたほうがよいかもしれない。
また、本書では、経営開放性、情報開放性、自己開示性をそれぞれ高めるために、組織のリーダーが何をすべきかについても、具体的にまとめられている。それらも参考になるに違いない。
さらにもう一つ、本書で特徴的なのは、オープネスの活かし方が示されていることである。オープネスを提唱する記述は数多く目にするが、オープネスを実現したのちの活かし方まで解説している情報はあまりない。また、本書で紹介されている活かし方も、なかなかユニークなので、ご興味のある方は一読されることをお勧めする。
もっとも、オープネスの活かし方を記した第4章の記述には、オープネスとはあまり関係のない組織戦略の話も多分に含まれている。その話自体は興味深いが、オープネスのみに関心のある方にとっては、情報過多に思えるかもしれない。その点は、留意されたい。